
2026年3月17日
- 技術・研究開発
- プレスリリース
- 空質・空調

量産のための設備開発、その基盤となる要素技術の高度化、品質保証――量産ラインの立ち上げに関わるこれらの領域は生産技術と呼ばれ、モノづくりの根幹を担うと同時に、メーカーの競争力の源泉でもある。パナソニックグループにおいて、この生産技術の領域を一手に担うのが、パナソニック ホールディングス(以下、PHD)技術部門MI本部だ。
今春、技術部門は大阪府門真市に研究・開発の中核拠点「Technology CUBE」を設立、重点取り組みとしてグループ内連携や外部との共創を本格的に進めていく方針だ。技術部門全体が目指す方向性とともに、これまでグループ内の生産技術開発を中心に手掛けてきたMI本部も、その貢献領域を拡大しつつある。その取り組みの変遷と、今後狙う方向性についてMI本部のキーパーソンに聞いた。
パナソニックグループの生産技術開発の歴史は、70年以上前にさかのぼる。1953年に中央研究所内に機械部門(※1)が発足し、当時は機械加工や実装といったモノづくりの源泉に関わる技術の開発が中心で、白黒テレビなどの量産を支える「封止排気マシン(※2)」や、乾電池の品質を均一化する「電池選別機」などが開発・投入された。その後、1963年に、国内民間企業として初となる生産技術専門の研究所が設立され、単体設備にとどまらず、ライン化・システム化までを手掛けるようになった。
※1 中央研究所内機械部門:創業者・松下幸之助が独自の機械の考案製作を行う部門として設立。
※2 封止排気マシン:製造現場において、製品内部の空気を真空排気し、同時にその開口部を密閉(封止)する装置のこと。
1970年代には、生産技術本部が発足し、重点商品の新たなプロセス技術や生産設備、生産材の開発・導入を担ってきた。
「技術革新が起きてから生産設備の更新が必要となるまでには通常5年ほどかかるが、その間、事業部門だけで設備開発を続けるのは難しい。そこで、生産技術開発に特化した組織として、生産技術本部が設立されました」そう説明するのは、PHD技術部門 MI本部 本部長の松本 敏宏だ。
パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門 MI本部 松本 敏宏(まつもと としひろ)
松本は1998年から2010年ごろまで、生産技術本部で燃料電池プロジェクトに従事。燃料電池スタック(※3)の構造開発から量産設備の開発までを手掛け、2005年には大規模実証向け1号機を完成させた。その後、コスト削減を重ね、2009年には世界初の家庭用燃料電池「エネファーム」の市場展開に結実した。
※3 燃料電池スタック:電気をつくる「燃料電池セル」を何枚も重ねて一つの装置にしたもの。
松本:「1号機の頃は材料だけで1千万円を超えるコストがかかっていました。それを量産化に向けて大幅に抑えるのには、本当に苦労しました。一方で、製品や市場を取り巻く環境が変化する中、重点商品に注力する従来の生産技術本部の方針は、次第に見直しの局面を迎えていました。潮目が変わったのは、2010年ごろ。製品の小型化・薄型化・軽量化を進めるだけでは競争優位が保てなくなり、モノづくりにおいて何に取り組めば他社に勝てるのか、明確なゴールを描きにくくなっていきました」
こうした環境認識の下、2018年にマニュファクチャリングイノベーション本部が発足。生産性・効率化に注力してきた生産技術本部を、イノベーション創出を主目的とした組織へと発展的に改組した。その後、現場力(Manufacturing)と革新力(Innovation)の両立を掲げ、MI本部へと改称。PHD 技術部門が掲げる「技術未来ビジョン(※4)」に基づき、モノづくりの在り方そのものを社会視点で捉え直し、刷新していく方向へと舵を切った。
※4 技術未来ビジョン:PHD技術部門が2024年に策定した、2040年の未来社会のありたい姿とその実現に向けた研究開発の方向性。
現在のMI本部は、生産技術に精通した技術者集団として、グループ内事業の競争力強化を支援するとともに、外部向けの新規商材となる生産設備ソリューションの開発に取り組み、社会に新たな価値を創出することを目指している。
価値創出の基盤となるのが、生産技術プラットフォームだ。材料(無機・有機)をはじめ、成膜、精密加工、計測・検査、実装、資源循環、AI・データ解析、シミュレーション・CAE(※5)、成形、メカトロニクス、バイオモノづくりなど、幅広い技術を有する。これらの技術を単体で完結させるのではなく、掛け合わせることで、新たな生産設備ソリューションの創出につなげている。
※5 CAE:Computer Aided Engineeringの略称。コンピュータ上で製品の強度、熱、流体などの物理現象をシミュレーション・解析する技術。
商材化に成功したソリューションの一つが、有機EL(OLED)ディスプレイの製造を自動化する「産業用インクジェット装置」だ。MI本部が持つ成膜とメカトロニクス技術を掛け合わせることで実現したもので、今後は次世代太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池への応用も見込まれている。
さらに、MI本部が現在開発に注力しているのが、「治療細胞分化培養装置」だ。バイオモノづくりをはじめ、AI・データアナリシス、シミュレーション・CAE、メカトロニクス、計測・検査といった生産技術を掛け合わせて、iPS細胞の樹立からT細胞への分化誘導までを自動化。治療用細胞の高品質・低コスト・安定製造を可能にし、一人ひとりに適した再生医療普及への貢献を目指している。
松本:「長年培った生産技術と知見を生かし、医療・バイオテクノロジー領域での貢献にも挑戦すべく、プロトタイプの開発に取り組んでいます」
MI本部の挑戦は、グループ横断の取り組みへと広がりつつある。その象徴的な事例が、将来的な市場投入を見据え、パナソニック コネクト株式会社(以下、パナソニック コネクト)と共同で開発を進めている「AI半導体製造装置」だ。
AI半導体製造装置(イメージ)
生成AIの普及に伴い、半導体の高性能化が進む一方で、電力効率の向上や信頼性の確保が課題となっている。こうした中で近年注目されているのが、半導体チップ同士を高密度で接合する先端パッケージング技術だ。
なかでも、チップを従来のように横方向に接合するのではなく、縦方向に積み上げる3D積層技術は、チップ間の配線を短くし、電力ロスを抑える点で注目されている。しかし、3D積層の実現には、銅配線と絶縁膜を同一工程で高精度に直接接合するハイブリッドボンディングなど、高度な技術が求められ、量産化のハードルは高い。
これに対しMI本部は、自らが保有する生産設備とパナソニック コネクトのハイブリッドボンディング技術を組み合わせることで、装置の実用化に向けためどを早期に立てることができた。
AI半導体製造装置の特長は、ハイブリッドボンディングによる接合工程にとどまらず、その前工程から後工程までを一体でカバーするトータルソリューションを提供できる点にある。
松本:「通常、半導体製造では、前工程と後工程で異なるメーカーの設備が使われますが、MI本部はその両方の設備を保有していたため、その強みを生かすことで、トータルソリューションの実現が可能になりました」
こうした取り組みを通じて、MI本部が目指しているのは、環境への配慮や人々の心身の健康と、経済的価値の創出を両立させる社会の仕組みづくりだ。
松本:「環境配慮を重視する社会においては、『環境に良いが不便で高価格』といったトレードオフを迫られる場面も少なくないと思います。しかし環境に配慮した選択に経済的価値が伴うようになれば、一人ひとりが能動的な選択を通じて自己効力感や創造的な感性を育めるようになると私はみています」
MI本部は、目指す社会の実現に向け、モノづくりの在り方そのものの変革も推進していく。その変革のポイントは三つある。第一に、人材や資源を消費して終わらせるのではなく、再利用などを通じて価値を再生・増幅させること。第二に、自社内で完結するウォーターフォール型から脱却し、外部との協業やコンカレント(同時並行)な進め方を取り入れることで、環境やニーズの変化に柔軟に対応できるプロセスへ移行すること。第三に、均質なモノを大量に供給するという発想から転換し、用途や現場に合わせて最適化されたソリューションを提供することだ。
松本:「これら三つのモノづくり変革を通じて、MI本部は、人材や資源が持つポテンシャルを最大限に引き出し、個々に変化するニーズにバリューチェーン全体で呼応するモノづくりを目指しています」
その目指す社会の具体像の一つとしてMI本部が構想しているのが、個人、コミュニティ、地域、広域がへと広がる各レイヤーが、それぞれの役割を担いながらモノの創生や再生を循環させていくサーキュラーエコノミーの仕組みだ。
松本:「大量生産・販売から転換し、モノの再生を人々が協力しながら担っていく社会が、インダストリー4.0(※6)とともに訪れるはず。いわば、参加型モノづくり社会です。その社会において、われわれMI本部は、モノの創生と再生を支える設計、R&D、情報基盤を担っていきます」
※6 インダストリー4.0:2011年にドイツ政府が提唱した、IoT、AI、ビッグデータなどのデジタル技術を活用し、製造業の全プロセスを自律化・最適化することで、第4次産業革命を実現しようとする産業政策。
また松本は、現場の働きがいという観点から、フィジカルAI(※7)と、それを搭載したヒューマノイドロボットにも注目している。ヒューマノイドの本格的な投入には、なお時間を要する一方で、生産設備で使う専用ロボットであれば、フィジカルAIの部分適用は着実に進むとみている。
松本:「ロジックを組んだ従来型の制御が不要になり、設備の立ち上げや変更が容易になる。フィジカルAIを部分適用し、一度構築した設備を別の用途に転用する取り組みのトライアルを進めていきます」
※7 フィジカルAI:センサーで環境を認識し、ロボットの行動を学習・制御するAI。
モノづくりのオープン化・コンカレント化を実現する新たな研究開発拠点として、今春大阪府門真市に本格稼働するのが、研究・開発の中核拠点「Technology CUBE」だ。
MI本部を含むPHD 技術部門傘下組織が集結し、研究・開発・試作・量産化設計までの距離を大きく短縮、企画初期から生産技術が関与することで、手戻りの削減・実装の質向上を図り、研究・開発の「実装力」と「スピード」を同時に高める体制を構築する。
2026年春に本格稼働する、Technology CUBEの「イノベーション・共創フロア」
だが、新拠点の役割はそれだけにとどまらない。“共創の場”として、社外との共同実験やプロトタイプ開発、研究会、ワークショップ、実証イベントなどを通じたオープンイノベーションを推進していく。
松本:「生産技術をグループ内に囲い込むのではなく、新拠点での共創の取り組みを通じて、新たな価値創出を加速していきたい。同時に、生産技術をオープンにすることで、生産設備ソリューションの早期需要創出や市場形成も仕掛けていきます」
ほんの十年ほど前まで、生産技術の領域は社内に閉じられた“ブラックボックス”だった。しかし、製品や市場の変化が加速するいま、外部とつながり、共創によってモノづくりの在り方そのものを変革していくための起点となりつつある。閉じて守る生産技術から、開いて共創する生産技術へ――MI本部の挑戦は続く。
記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更などにより、最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。