
2026年6月11日
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歴史資料にまつわる創業者・松下幸之助のエピソードを紹介する「歴史ものがたり」。
今回は、幸之助が社員に繰り返し訴えた「社員稼業」について紹介します。
1933年7月、松下電器が創業の地・大開町を離れ、本拠を移した大阪・門真の拠点。本社や新工場、社員養成所、社員寮が整備された
1932年5月に「真の使命」を掲げ、松下電器(※1)の針路を示した幸之助は、翌年5月、38歳で事業部制を導入しました。
組織を製品分野別に三つの事業部に分け、開発から生産、販売、収支に至るまで一貫して責任を持つ新体制を敷いたのです。
第一事業部はラジオ、第二事業部はランプ・乾電池、第三事業部は電熱器・配線器具を担当しました。当時、こうした組織形態を採る企業は珍しく、極めて先進的な機構改革であったといいます。
後年、幸之助は次のように振り返っています。
「1927年の電熱部設立に際し、経営幹部の一人に“君やってくれ”と伝え、事業の最高責任者にした。早く言えば、全てを任せたのである。これが松下電器の事業部制の始まりである」
1927年に電熱部が開発したスーパーアイロン。手頃な価格で品質の良い製品を提供するための努力が実を結び、一般家庭に普及した
それから5年余りを経た1933年に、事業部制を制度として明確に打ち出したのです。その狙いは「自主責任経営の徹底と経営者の育成にあった」と幸之助は述べています。
この機構改革は、事業部長に限らず、社員一人ひとりが経営者意識を持って仕事に取り組む企業風土を醸成し、松下電器の人づくりの土台となっていきました。
若き起業家の幸之助は、事業と人づくりの在り方に思いを巡らせた(写真は1925年)
事業部制は程なく軌道に乗り、幸之助はこの制度に一つの確信を抱くようになります。
「事業部制とは、どんな仕事にも経営者意識を持って取り組める人材を育てるための制度である」
1934年の元旦には、社員への“お年玉”として、「経営のコツここなりと、気付いた価値は百万両」という標語を贈り、その真意を次のように伝えました。
「与えられた仕事を忠実にこなすだけでは、十分ではない。どんな仕事にも、必ず経営者意識を働かせなければならない。いかなる仕事も一つの経営と捉えれば、そこに改善の余地が見いだされ、適切な工夫や新たな発見が生まれる。そうした積み重ねによって経営の神髄を悟れば、十万、百万の富を得ることも決して難しくはない」
そこには「経営は経営者だけのものではない。一人ひとりが創意工夫によって価値を生み出す存在であるべきだ。自分は社長という心意気で仕事に取り組んでもらいたい」との思いが込められていました。
後年「事業は人なりといわれるが、全くその通りである。いかに組織を整えても、それを生かすのは人だ。経営の良しあしは人次第である」と述べた言葉にも、幸之助の揺るぎない経営観が表れています。
1933年、第一事業部を任された井植歳男(後の三洋電機創業者)の下、当社製ラジオ第一号「R-31(1931年発売/左)」を改良した「R-48(右)」が大ヒットを記録した。さらに、部品の内製化や樹脂ケースの採用により品質を高めつつ、小型化し、価格を約半分に抑えた「R-11(中央)」が爆発的な人気に。市場シェアは首位に躍進し、「ラジオはナショナル(当時の商標)」といわれるまでになった
京都・東山の別邸(現・松下真々庵)にたたずむ68歳の幸之助
事業部制における自主責任経営の本質を、個人の仕事に当てはめた考え方が「社員稼業」です。
1963年1月の経営方針発表会で、68歳の幸之助は次のように呼びかけました。
「与えられた仕事に終始してはならない。もう一歩踏み込んで考えてほしい。松下電器という一つの社会の中で、自分は“社員という稼業の主人公”である。この仕事は自らの事業であるという考えに徹すれば、想像を超える偉大な力が生まれるに違いない」
その背景には、15歳で入社した大阪電燈(※2)での体験がありました。熱心に働いて頭角を現し、最年少で憧れの検査員に昇格した喜びを「自由の天地が開けるような気がした」と振り返っています。
この体験を通じて幸之助は「与えられた仕事をこなすだけではなく、自ら創意工夫を凝らしてこそ、やりがいが生まれ、それが生きがいにもなる」と確信しました。後年、同じ思いを松下電器の社員にも感じてほしいと考えたのです。
幸之助は常々「全てを任せるが、放り出すのではない。任せて任せずであり、組織の最終責任は、課は課長、部は部長、会社は社長一人にある」と説いていました。一方で、その責任の最小単位は社員一人ひとりにあると考えていました。
だからこそ、全ての社員に経営者意識を求め、社員稼業に徹する大切さを繰り返し訴えたのです。
※1:現在のパナソニック ホールディングス。
※2:関西電力の前身の一つ。
記事の内容は発表時のものです。
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