
2026年7月1日
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パナソニックグループは、2025年度のグループ経営改革を経て、2026年度から成長フェーズへと歩みを進める。5月12日に発表したグループ成長戦略では、2032年に向けて「エネルギーの有効活用」と「現場労働力不足の解消」という課題解決を目指し、AIインフラと社会オペレーションを支えることでお役立ちを果たしていく方向性を示した。その実現の鍵となる重要な経営の考え方が「人的資本経営」である。中でも重要なアクションとして、グループ横断で推進しているのが「組織カルチャー変革」だ。社員一人ひとりのポテンシャルをUNLOCK(解放)し、最大限発揮して、成長できる環境をどうつくるのか。パナソニックグループが大切にしてきた「人を活かす経営」を、現代においてどう体現していくのか。グループCHRO(Chief Human Resources Officer)の木下達夫に、グループ成長戦略の実現に向けた人的資本経営の考え方と、組織カルチャー変革の進捗を聞いた。
――まず、パナソニックグループの人的資本経営を進める上で、大切にしていることを教えてください。
木下:私たちが最も大切にしているのは、経営基本方針です。パナソニックグループには、「物をつくる前に人をつくる」「事業は人なり」という考え方があり、人を育て、人を活かすことを経営の中心に据えてきました。人的資本経営や、現在進めている組織カルチャー変革も、決して新たな概念や考え方を掲げているものではありません。創業以来大切にしてきた考え方を、現代の事業環境や組織運営に合わせて改めて体現していくための取り組みです。
私は複数の外資系企業の人事部門でキャリアを積み、日本企業でのCHROも経験した後、2024年7月にパナソニックグループに入社しました。入社して強く感じたのは、社員一人ひとりが心から社会やお客様のお役に立ちたいという思いを持っていることです。経営基本方針は、単に掲げられているだけのものではなく、日々の会話や意思決定の中に深く根づいている――これは、パナソニックグループの大きな強みだと感じています。
一方で、組織の拡大と歴史の積み重ねにより、前例やルールが増え、環境変化に応じた柔軟な意思決定が難しくなってきた面もあります。本来、ルールや仕組みは、社員一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出すためのものです。グループCEOの楠見と議論を重ねているのは、「ルールベースからプリンシプル(原理原則)ベースへ」と転換していく必要があるという点です。何のために行うのか。それが、お客様や社会へのお役立ちにつながっているのか。こうしたことの判断の拠り所として、パナソニックグループには、100年以上受け継がれてきた経営基本方針があります。既存のルールやプロセスが、挑戦や意思決定のスピードを妨げているのであれば、改めて原点に立ち返り、一人ひとりが主体的に判断し行動できる組織へと変えていくことが重要だと考えています。
――パナソニックグループの人的資本経営における「UNLOCK」とは、どのような考え方・取り組みなのでしょうか。
UNLOCKとは、組織カルチャー変革の取り組みの総称であり、社員一人ひとりのポテンシャルの発揮を妨げる阻害要因を取り除き、その力を最大限に引き出し、成長を後押しする全社的な取り組みです。「これまでLOCKされていたのか」「社員の能力が不足しているということか」といったネガティブな受け止めや、「無理な挑戦や業務負荷の増加を強いるものではないか」という誤解が生じることもありますが、決してそうしたものではありません。パナソニックグループの社員が本来持っているポテンシャルを解放し、その発揮を支える環境を整えることで、さらなる高みを目指していく取り組みです。
人は「適切なレベルの挑戦」と「能力発揮を阻害する要因がない状態」がそろうことで、能力を最大限に発揮しやすくなります。この状態は心理学でいう「フロー」に近いものであり、アスリートが極限まで集中し、最高のパフォーマンスを発揮する姿をイメージすると分かりやすいかもしれません。最近はコーポレートアスリートという考え方もありますが、仕事においても、こうした状態を実感できる人を増やしていきたいと考えています。創業者・松下幸之助もかつて、「仕事にはまりこみ、時間も忘れ、疲れも知らず熱中する」「ただ働くことが愉快でたまらない」——こうした状態を提供することこそが、社員への「最上の贈り物」だと語っています。UNLOCKは、この考えを源流とする、いわば原点回帰の取り組みなのです。
こうした取り組みを通じてありたい姿の実現を目指し、従業員意識調査における「会社や上司によって挑戦意欲が高まるか」「挑戦への阻害要因がないか」という二つの設問に対する肯定回答率を「UNLOCK指標」と位置付けています。この指標で課題を可視化し、組織全体で知恵と意識を向けながら、継続的な改善につなげています。
――2025年度は、グループ経営改革という大きな変革の年でした。社員や組織には、どのような影響や変化が見られたのでしょうか。
2025年度は、不安や負担を伴う大規模な経営改革に、強い意思で取り組んだ1年でした。こうした変革期には一般的に、社員の意欲や会社への信頼感が低下する傾向にあります。ところが蓋(ふた)を開けてみると、経営改革の渦中にあっても、BU(Business Unit)やSBU(Strategic Business Unit ※1)などの事業単位では約半数の組織でUNLOCK指標が良化していました。さらに、良化した組織では、「組織の壁を越えて協力しやすくなった」「以前より成果を出しやすい体制になった」と感じる人が7割を超えています。
※1 BU内の特定の事業領域を担う組織単位
ここは、今回のグループ経営改革の大きな狙いの一つでした。人員の適正化にとどまらず、事業を通じてお客様へのお役立ちを一層高める体制への転換を目指しました。そのために、階層削減による組織のフラット化、内部調整負荷の軽減、権限委譲による意思決定の迅速化を進め、現場の挑戦を加速させてきました。こうした変革を各組織で進めてきた結果、社員がそれをポジティブな変化として実感し始めていることが、数字にも表れています。この点は、非常に大きな意味を持つと受け止めています。
一方で、想定以上に人員が減少した組織もあります。だからこそ、これまでのやり方をそのまま踏襲するのではなく、仕事の進め方を抜本的に見直す必要があります。AI活用を核に経営基盤の変革を進める「Panasonic Transformation (PX)」とも連動しながら、新たなプロセス構築への挑戦を加速していく――まさに、少数精鋭で成果を出せる組織へと転換していく局面にあると捉えています。
――今回発表したグループ成長戦略の実現に向け、人事としてどのような取り組みを進めていくのでしょうか。
どれだけ優れた成長戦略を描いても、それを実行するのは人です。事業の成果は、一人ひとりの行動と組織カルチャーに大きく左右されます。だからこそ当社グループでは、人的資本経営を成長戦略の実行そのものに直結する重要な経営アジェンダと位置付けています。その上で、私たちは5つの変革アクションに取り組んでいます。
1つ目は「人材ポートフォリオ変革」です。経営改革で強化した収益体質を維持しながら、成長戦略に必要な人材の獲得・育成を進めていきます。 さらに、デバイス領域、ソリューション領域、スマートライフ領域のそれぞれで求められる人材像やスキル・能力を明確化し、全社一律ではなく、各領域に応じた人材戦略を計画的に実行していきます。
2つ目は「未来を創る変革型リーダーの開発・登用」です。多様な価値観や知見を持ち、未来から逆算して変革をリードできる人材を早期に見いだし、計画的に育成・登用していきます。そして、そうした人材が積極的に意思決定に関わる体制を構築します。
3つ目は「組織カルチャー変革」です。事業戦略の実現と成果創出を支える組織カルチャーを意図的にデザインし、進化させていきます。社員一人ひとりのポテンシャルを引き出すことで、事業成長と社会貢献の実現を目指すとともに、各組織に適したカルチャーを形成し、環境変化に応じて進化させ続けます。
4つ目は「DEI(※2)推進」です。性別・年齢・国籍などにかかわらず、多様な人材が活躍できる環境を整備します。違いを強みとして活かすことは、グループが大切にしてきた「衆知を集めた全員経営」そのものです。多様な視点を意思決定に取り込むことで、組織力を高めていきます。
※2 Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)
5つ目は「人事機能変革」です。人事の仕組みや制度を進化させるため、AIをはじめとするテクノロジーの活用により人事機能と働き方を変革し、組織全体の生産性と価値創出を高めていきます。
――組織カルチャー変革を進める上で、経営責任者や組織責任者はどのような点を意識すべきでしょうか。
組織カルチャー変革は、「働きやすさ」や「風通しのよさ」といった職場環境の改善にとどまるものではありません。重要なのは、事業の戦略と成果にどう結びつけるかです。戦略が適切でも、組織カルチャーが整合していなければ、成果は生まれません。そのため、自然に形成されるのを待つのではなく、経営責任者や組織責任者が経営の意思として主体的に設計・構築していく必要があります。
その指針となるフレームワークが「組織デザイン:6つの原則」です。「評価・報酬」「意思決定」「情報共有・学びのプロセス」「採用・トレーニング・リーダー選抜」「仕事デザイン」「組織構造・配置」の6つの要素から成ります。重要なのは、どれか一つを変えればよいのではなく、それぞれが相互に整合していることです。
これらはあくまでグループ共通の「原則」です。100の組織があれば100通りの組織デザインがあるように、各組織の戦略や課題に応じて最適に設計していくことが求められます。また、これは経営責任者、組織責任者一人で実現できるものではありません。各事業の経営陣がいかにチームを巻き込めるかが鍵となります。上意下達ではなく、共創によって推進していくことが重要です。そのためには、コミュニケーションの在り方そのものを大きく進化させる必要があります。実際に変革が進んでいる組織では、リーダーを起点にさまざまな取り組みが実践されています。
――具体的に、現場ではどのような取り組みを通じて変革を進めているのでしょうか。
例えば、パナソニック株式会社 IHクッキングヒーターSBUでは、部門長の直下に「部長付きポジション」を設け、意思決定と実行のスピードを高めています。有能なトップの隣には必ず優秀な「番頭」がいるという考え方の下、両者が一体となって機能することで、組織全体の実行力を高めています。このポジションには将来のリーダー候補を配置し、大きな権限を委ねることで、変革を主体的に推進する人材の育成につなげています。また、役割に見合った報酬が得られる仕組みも整備しています。さらに、拠点のワンフロア化や日常的なミニ経営会議を通じて現場の課題を迅速に共有し、その場で意思決定できる体制を構築しています。加えて、公募による課長ポストの総選抜や経営情報のオープン化を進め、メンバーが同じ方を向いて行動できる環境を整え、一人ひとりの主体的な挑戦を後押ししています。
パナソニック コネクト株式会社 アビオニクスBUでは、タイムリーかつ共感を重視した戦略発信として、メンバー全員との対話の場である「All Hands Meeting」を毎月開催しています。トップが一方的に語るのではなく、毎回5、6人の社員が登壇し、戦略を具現化する各自の取り組みを自らの言葉で共有しています。また、社内コミュニケーション基盤上にBU長のチャネルを設け、日常的な発信と対話を通じて経営陣とメンバーの距離を縮め、双方向のコミュニケーションを促進しています。加えて、海外駐在やBU長アシスタントとしての経営参画など、メンバー自らの「発芽・開花」を促す手挙げ制の育成プログラムにより主体的な挑戦を後押しするとともに、部門横断の1on1や、現場の推進リーダーによるDEI推進の取り組みを通じ、組織の枠を越えて対話し協働できるカルチャーを醸成しています。
パナソニック株式会社 IHクッキングヒーターSBU
パナソニック コネクト株式会社 アビオニクスBU
こうした取り組みに加え、パナソニック インダストリー株式会社 メカトロニクス事業部では、年齢制限を設けずに課長や係長など約570のポストを公募し、約2割が入れ替わることで組織の活性化を促しました。また、パナソニック エレクトリックワークス株式会社 配線システムコミュニケーションBU では、TOC(※3)(制約理論)に基づき、サプライチェーンマネジメント改革、品質・設計強化、組織横断の連携強化に段階的に取り組み、3年計画でボトルネックの解消を実現しています。このように、思い切った改革を通じて顧客価値の創出に貢献できる組織力を高め、組織成長につながる事例がグループ内で着実に広がりつつあります。
※3 TOC:Theory of Constraints。組織のプロセス全体で最も処理能力の低い「ボトルネック(制約条件)」を特定し、そこを集中的に改善することで全体のパフォーマンスを最大化する経営手法
もっとも、全てを一度に変えることはできません。今回紹介したような、未来をつくる変革型リーダーがアーリーアダプターとして先行し、成功事例を生み出し、それを横展開していくことがグループの強みになると考えています。 今後は、アーリーマジョリティ層への支援を強化し、組織変革への参加を後押しすることで、段階的に変革の輪を広げ、現場を動かす「うねり」へとつなげていきます。一定のマジョリティ層が変わることで、その変化は一気に全体へと波及していきます。今年度はここに注力し、キャズム(※4)を越えて変革をさらに加速させ、事業成果の創出につなげていきます。
※4 商品や考え方が浸透していく中で直面する「深い溝」「大きな壁」。アーリーアダプターに受け入れられても、マジョリティへの浸透が進まず、普及が停滞する現象。
――成長フェーズにおいて変革を加速するために、人事が果たすべき役割、注力すべきポイントをどのように考えていますか。
パナソニックグループ全体をUNLOCKするには、まず人事自らがUNLOCKしなければなりません。各グループ会社のCHROと力を合わせ、それぞれの強みを生かしながら、グループ全体の人事機能をどこまで高められるかが問われています。人事は制度をつくるだけではなく、経営責任者や組織責任者に伴走し、現場の変化を後押ししていかなければなりません。現場の課題に向き合い、どのような運用が行動変容につながるのかを考え、その実装までやり切ることが人事の役割です。
従来のルールベースのやり方や守りの発想にとどまっていては、これからの変革は進められません。AIを利活用した人事機能の変革を推進し、人事制度や業務プロセス、社員やマネージャーが使う基盤を含め、テクノロジーを取り入れながら進化させ続けています。AIの活用は、業務効率化にとどまらず、仕事の進め方そのものを変え、組織カルチャーの変革にもつながる可能性を持っています。これからの人事には、AIリテラシーの向上に加え、HR領域でトライアルを重ね、実装までやり切る力が求められます。社員一人ひとりがAIを使いこなして自らの仕事をより良くし、業務プロセスそのものを見直していくことが重要です。こうした取り組みを後押しするため、事業課題の解決につながる業務プロセス改善や生成AIの活用など、人事社員自らが実践した業務変革事例を社内公募・表彰する「HR UNLOCK AWARD」なども実施しています。
人事は「事業は人なり」を体現し、未来志向で事業の成果と社員の幸せの両立を追求していきます。
――最後に、グループCHROとしての決意のメッセージをお願いします。
パナソニックグループには、大きなポテンシャルがあります。経営基本方針という揺るぎない軸の下、社会やお客様のお役に立ちたいという思いを持つ社員が数多くいます。一方で、その力を十分に発揮するには、変えていくべきこともあります。過去のルールやプロセス、組織の壁、失敗への恐れが、挑戦を妨げている側面もあります。だからこそ、組織カルチャー変革を通じて、人と組織のポテンシャルをUNLOCKし、挑戦と能力発揮を後押しする環境をつくっていきます。
目指すのは、社員一人ひとりが大胆に高みを目指す、熱量の高い「燃える集団」です。個人にとっては、自らのポテンシャルを最大限に発揮し、働きがいを感じられること。組織にとっては、事業を成長させ、社会へのお役立ちを果たすこと。その両方を高いレベルで実現していきます。そうすることで、パナソニックグループの企業価値向上、ひいては「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現にもつながっていくと考えます。
「パナソニックが変われば、社会が変わる」。私はそう信じています。人の可能性を、事業の力へ。そして、より良い社会の実現へ。パナソニックグループ全体で、この変革を進めていきます。
記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更などにより、最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。