
2026年7月13日
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パナソニックグループは、2026年6月10日から12日まで、幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2026」に出展。工場やビル、再生可能エネルギー(以下、再エネ)施設、AIデータセンターなど、社会を支える多様な現場の安定稼働を実現する技術やソリューションを紹介した。
ネットワークやデータ活用の進展に伴い、社会の利便性や効率性は飛躍的に向上している。その一方で、サイバー攻撃やシステム障害、データの信頼性確保といった課題への対応は、これまで以上に重要になっている。AIの活用が急速に広がる今、社会のオペレーションを止めることなく支え続けるには、どのような仕組みや技術が求められるのか。本記事では、Interop Tokyo 2026で展示された技術やソリューションを通じて、AI時代の社会基盤を支えるパナソニックグループの取り組みを紹介する。
「工場やビル、再エネ施設などの現場では、稼働を止めること自体が大きな損失につながりかねません」
そう語るのは、パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニックHD) サイバーセキュリティ統括室 セキュリティ技術統括部 部長の松島 秀樹だ。ITの社会実装が進む中、工場やビル、再エネ施設などの設備や機器を監視・制御するOT(Operational Technology)領域でも、IoT化やクラウド活用が急速に広がっている。一方で、機器や設備がネットワークにつながることで、サイバー攻撃のリスクは一段と高まっている。
こうした環境変化を受け、パナソニックグループはOTセキュリティの強化に取り組んでいる。その基盤となるのが、AV機器や記録メディア向けの暗号・認証技術を起点に、約40年にわたり培ってきたセキュリティ技術だ。2024年にはサイバーセキュリティ関連技術における2620件の特許について、特許の質・影響力まで含めて評価するパテントリザルト社調査で国内首位を獲得。こうした強みを生かし、社会インフラを支える多様な現場の安全な運用を支えている。
松島:「極端に言えば、ウイルス感染が発生したとしても、直ちにオペレーションを止めるのではなく、現場への影響を見極めながら対応を判断するケースもあります。稼働を止めることなく被害の拡大を防ぎ、影響を最小限に抑えるためには、サイバー攻撃に関する知識だけでなく、現場のオペレーションや設備の構成、運用方法までを深く理解し、安全性や事業継続性を踏まえて最適な判断を行うことが求められます」
パナソニック ホールディングス株式会社 サイバーセキュリティ統括室 セキュリティ技術統括部 部長 松島 秀樹(まつしま ひでき)
IT領域では、標準的な通信方式であるTCP/IP(※1)を前提としたサイバー攻撃への対策が主流である。一方、OT領域では、工場、ビル、再エネ施設などの現場ごとに異なる通信プロトコルや制御の仕組みが用いられており、サイバー攻撃もそうした固有の仕組みを標的とするケースがある。モノづくり企業として数多くの設備やシステムを手がけてきたパナソニックグループは、こうした現場特有のプロトコルや機器構造に関する深い知見を有しており、それがOTセキュリティにおける強みとなっている。
※1 TCP/IP :Transmission Control Protocol/Internet Protocolの略。インターネットを含むコンピュータネットワークで世界標準的に利用されている通信プロトコル。
松島:「パナソニックグループではグローバルで200を超える自社工場のセキュリティ監視に取り組んできました。SOC(※2)も世界各地に複数の拠点を構え、24時間365日体制でサイバー脅威の監視を行っています。こうした取り組みを通じて蓄積してきた知見やノウハウ、技術は、グループの大きな強みになっています。今後は自社で培ったソリューションを外部顧客へも展開し、社会インフラを支える多様な現場の安全・安定稼働を支援していきます」
※2 SOC:Security Operation Centerの略。企業や組織でサイバー攻撃の監視や防御を行う専門組織・部署。
設備の特性や運用環境、直面する課題は現場ごとに異なる。そのためパナソニックグループは、一律のソリューションを提供するのではなく、それぞれの現場に最適化したサービスを提案している。
200を超える自社工場で積み重ねてきた運用実績を基に、現場に適した工場向けセキュリティ監視サービス「WisShield™」を提供。国内外7拠点の専門スタッフが24時間365日体制で監視を行い、異常検知時には詳細な分析を実施。現場の稼働への影響を最小限に抑えながら、「防御」「検知」「対応」の三つの独自ガイドラインで被害拡大の防止を支援する。さらに、ビルや再エネ施設など多様な現場にも柔軟に対応している。
平常時からダッシュボードで通信状況を監視することで、通常と異なる通信を検知できる。アラート発生時には、IPアドレスや通信内容を分析し、攻撃か誤検知かを見極めて現場に通知するなど、「現場を止めない」運用を支えている。
工場向けセキュリティ監視サービス「WisShield™」(「Interop Tokyo 2026」パナソニックグループブース)
松島:「現場ごとに設備構成やネットワーク環境が異なり、発生するインシデントも一様ではありません。パナソニックグループは、カスタマーゼロ(※3)の考え方の下、200を超える自社工場を実証の場としてセキュリティ監視に取り組んできました。そこで蓄積した多様な現場の知見やノウハウが、WisShield™の大きな強みとなっています」
※3 カスタマーゼロ:新製品や新技術を社内で試験導入し、自ら効果や課題を検証する取り組み。
2026年5月には、Trellix®プロフェッショナルサービスと連携した「WisShield 工場セキュリティコンサルティングサービス with Trellix」の提供を開始。リスクアセスメントからセキュリティガイドラインの策定、対策の実装・運用までを一気通貫で支援し、経営リスクの低減と継続的なセキュリティ運用を支えている。
電力設備は、サイバー攻撃による停止だけでなく、誤検知による不要な停止も、停電や電力供給を含む社会インフラの安定運用に影響を及ぼす可能性がある。そのため、セキュリティ監視には、高い検知精度と運用への深い理解が求められる。パナソニックグループは、系統蓄電所や太陽光発電所などの再エネ施設向けに独自のセキュリティ監視サービスを提供。エネルギー設備の遠隔制御に用いられるModbusをはじめとする電力制御通信プロトコルに特化した攻撃検知エンジンを開発し、電力設備特有の通信を監視。リスクアセスメントから検知・分析・対応までを一貫して担うことで、サイバー脅威への対応と安定運用の両立を支援している。
再生可能エネルギー施設向けセキュリティ監視サービス(「Interop Best of Show Award」ファイナリスト選出)(「Interop Tokyo 2026」パナソニックグループブース)
また、系統蓄電所はサイバー攻撃を受けた場合に電力需給バランスの乱れや配電系統の運用への影響を引き起こすなど、社会インフラ全体へ波及するリスクを抱えている。こうした課題に対応するため、パナソニックグループは伊藤忠商事株式会社と連携し、国内の系統蓄電所の実運用を想定した環境を対象にサイバーセキュリティ監視の実証実験を実施している。実運用を想定した系統蓄電所向けのセキュリティ監視の取り組みは世界初となる。
松島:「エネルギー設備は遠隔制御されるため、サイバー攻撃を受けた場合の影響が施設内にとどまらず、地域の電力網へ波及する可能性があります。実際に、エネルギーインフラを標的としたサイバー攻撃やセキュリティ事案も国内外で報告されています。パナソニックグループは、こうした脅威に対応するため、日本の草津、イギリスのカーディフ、ドイツのミュンヘンにある自社拠点の再エネ設備にセキュリティ監視システムを導入し、知見を蓄積してきました。さらに、グローバルに展開する工場向けSOCと連携することで、深夜帯を含む24時間365日の監視体制を構築し、エネルギー設備の安全かつ安定した運用を支えています」
また、パナソニックHDはドイツを拠点とする欧州最大級の応用研究機関であるFraunhofer-Gesellschaftと共同で、再エネシステムに対するサイバー攻撃の影響を分析可能な公開データセット「Data4Cyber」を開発・公開。実運用に近い実験環境で収集したデータを活用することで、リスク分析の高度化や、検知・監視技術の研究開発を支援している。
ビル設備では、中央監視や照明制御、空調制御などのシステムが個別に稼働している。パナソニックグループは、これらの設備データをビルOS「Facibble(ファシブル)」で横断的に連携させることで、設備の最適運用や高度なデータ活用を実現。さらに、設備統合ネットワーク連動型SOCサービス「SGNIS(スグニス)」と組み合わせることで、安全・安心なスマートビルの運営を支えている。
SGNISのビルSOCサービスは、BACnet/IPをはじめとするビル設備制御通信を理解した異常検知が強みだ。ウイルスに感染した保守端末がビルネットワークに接続された段階や、マルウェア(※4)による不審な通信が発生した段階で異常を検知し、アラートを発報する。空調や照明などの設備が不正に操作された場合、利用者の安全やビル運営に大きな影響を及ぼす恐れがある。そのため、異常の早期発見と迅速な対応が不可欠であり、設備停止や被害拡大に至る前に現場が適切な対応を取れるよう支援することで、「ビルを止めない」セキュリティ運用を実現している。
※4 マルウェア:コンピューターや機器に不正な動作をさせるソフトウェア。
AI社会を支えるためには、データセンターの安定稼働が欠かせない。パナソニックグループはその実現に向け、デバイスとサービスの両面から取り組みを進めている。
「止まらないデータセンター」の実現の鍵となるのが、パナソニック インダストリー株式会社(以下、パナソニック インダストリー)のデバイス技術だ。
AIサーバーでは、GPUをはじめとする高性能半導体に大量の電力を安定供給するとともに、瞬間的な負荷変動への対応や非常時の電力バックアップが求められる。パナソニックグループは、AIサーバーラックや電源ラックに搭載される各種電源ユニット向けに、車載分野などで培ってきた高信頼・安全・大電流対応のデバイス技術を提供。データセンターの安定稼働を足元から支えている。
※5 GPU:Graphics Processing Unitの略。AIの大規模演算を担う半導体。
パナソニック インダストリーのデバイス群を搭載したAIサーバーの展示模型(「Interop Tokyo 2026」パナソニックグループブース)
通常時の電力供給を担うPSU(Power Supply Unit)向けには、高容量AC向けHE-Sリレーを提案。小型ながら最大40Aの通電に対応し、複数の電源系統を備え異常時に切り替える冗長電源構成や、高信頼な電源構成を可能にする。さらに、停電やトラブル発生時にバックアップ電力を供給するBBU(Battery Backup Unit)向けには、PhotoMOS®リレーと基板対FPCコネクタ「CFシリーズ」を提案。PhotoMOS®リレーは、バッテリーと機器の外装部間の接続や、BMS(Battery Management System)における絶縁劣化検知に活用される。一方、CFシリーズは、組立工程の自動化や高信頼な接続、省配線化に貢献するとともに、基板レイアウトの自由度向上やモジュールの小型化を実現する。こうした高信頼デバイスを通じ、AIサーバーの安定動作を支える。
パナソニック インダストリーのデバイス群(「Interop Tokyo 2026」パナソニックグループブース)
Interop Tokyo 2026で特に注目を集めた展示の一つが、スーパーキャパシタ(※6)の一種であるAIサーバー向け電気二重層キャパシタだ。これは、電力需要が急変した際に秒単位で電力を補完するCBU(Capacitor Backup Unit)(※7)向けのデバイスである。AIサーバーでは、GPUの処理負荷が瞬間的に大きく変動することで、消費電力も急激に増減する。電気二重層キャパシタは、こうした変動に即応し、ピーク電力や余剰エネルギーの吸収によって、AIサーバーで発生する瞬時の電力変動を平準化し、安定稼働に貢献している。これまで自動車向けを中心に展開してきたが、2026年度末をめどに北海道千歳市の工場にラインを増設してAIデータセンター向けとして量産を開始する予定。AIデータセンター向けスーパーキャパシタは、同種製品と比較して抵抗値が3分の1と低く(※8)、大電流用途にも対応できるのが特徴だ。
※6 スーパーキャパシタ:短時間での急速な充放電と長寿命を特長とする大容量蓄電デバイスの総称。
※7 本記事では、業界標準であるOCP(Open Compute Project)が正式名称として定義する「Capacitor Backup Unit」と表記しています。
※8 パナソニック インダストリー株式会社調べ
電気二重層キャパシタをモジュール化したCBUソリューション(「Interop Tokyo 2026」パナソニックグループブース) ※写真内のCBUは「Capacitor Backup Unit」に該当するもの
加えて、パナソニックグループが提案するのが、データセンター向けセキュリティ監視サービスだ。データセンターのサイバー攻撃対策には、受変電設備や蓄電池、冷却設備などのエネルギー制御技術に加え、空調や設備管理を担うビルシステムの技術が不可欠となる。パナソニックグループは、再エネ設備向けの電力制御通信監視や、ビル向け設備監視で培った知見を生かし、AIによる検知とSOCの専門的な判断を組み合わせて異常の兆候を検知・分析。現場が迅速に対応できる情報として提供することで、データセンターの基盤となる電力設備や空調・冷却設備の安定稼働を目指している。
社会オペレーションを支える上では、設備やシステムの安定稼働だけでなく、企業や社会が共有するデータの信頼性を確保することも重要となる。パナソニックHDは、サーキュラーエコノミーの実現を支える技術として、製品のリユース・リファービッシュ・リサイクルなど、循環プロセスの各工程で発生するデータを改ざん困難な形で記録し、その履歴を追跡可能にするブロックチェーン基盤型トレーサビリティ・プラットフォーム「Tracephere™(トレースフィア)」の開発を進めている。
Tracephere™の操作画面を表示したモニタ。左はリユースによるCO2削減量のデータ入力画面、右はリユースによるCO2排出総量を示す画面。
Tracephere™は、各工程で発生するデータを改ざん困難な形で記録・管理するとともに、そのデータを基にCO2排出量を算出し、施策ごとのCO2排出削減効果と根拠データの可視化を可能にする。照明器具の循環リサイクル実証(※9)などを通じて実用性を検証し、事業化を目指している。
※9 令和7年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(二次公募)」に採択。https://www.env.go.jp/press/press_00897.html , https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cpttv_funds/pdf/db/324.pdf
今後はアクティア株式会社との戦略的パートナーシップの下で事業化を推進。同社が持つ事業企画、DX、サービス運営に至る一貫した実行力と、パナソニックHDが長年培ってきた技術資産・実証実績を掛け合わせることで、Tracephere™を実用性と持続性を備えたビジネスへと発展させていく予定だ。
松島:「ブロックチェーンは、『改ざんされていないことを証明する技術』として有望だと考えています。こうした特性を生かすことで、家電リサイクルや照明器具をはじめとする製品・資材のトレーサビリティ確保に活用できます。今後は、個別施策の組み合わせの最適化や、データ登録手法の高度化に向けた検討を進めていきます」
機器やシステムがネットワークを介してやりとりするデータは、暗号技術によって守られている。しかし、量子コンピューター(従来のコンピューターでは困難な計算を高速に実行できる次世代計算機)の実用化が進めば、現在広く利用されている公開鍵暗号が将来的に解読される可能性が指摘されており、新たなセキュリティ対策の必要性が高まっている。
松島:「量子コンピューターによる攻撃にも耐えられるPQC(Post-Quantum Cryptography:耐量子計算機暗号)への移行が、2035年までに求められています。こうした動きに対応するため、パナソニックグループは、小型組み込み機器や半導体チップへのPQC実装に向けた独自ソフトウェアの開発・改良を進めています。機器ごとに最適化した設計を行うことで、メモリ使用量を抑えながら高速な処理性能を実現。暗号化アルゴリズムについても、既存のソフトウェア実装と比べて約8分の1のメモリ使用量を実現しており、従来のオープンソース実装では搭載が難しかった小型チップへの適用も可能としています。
さらに、30年以上にわたり培ってきた組み込み機器向け暗号実装のノウハウを生かし、既存の機器やシステムで使われている暗号方式の洗い出しから、移行計画の策定、実装・検証までを一貫してサポートするPQC移行支援サービスの提供も進めていきます」
通信技術やデジタル技術の進化に伴い、現場が直面するリスクや課題も複雑化・多様化している。パナソニックグループは、多数の現場を有するモノづくり企業としての強みを生かし、グループ各社の技術や知見を結集。サービス、ソフトウェア、ハードウェアの各領域で最適なソリューションを提供することで、社会を支える現場を止めないオペレーションの実現に貢献していく。
「Interop Tokyo 2026」パナソニックグループ出展ブース
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