AI時代のモノづくり人財を育成~国立高専機構とパナソニックの挑戦

2026年9月1日

企業・経営 / Stories

AI時代のモノづくり人財を育成~国立高専機構とパナソニックの挑戦

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ハードウェア中心だったモノづくりの現場も、近年はAIに代表されるソフトウェア技術との融合を避けては通れない。そして社会の急速な変化に伴い、グローバル競争を勝ち抜くために、未来のモノづくりを担う人財へのニーズは一層高まっている。こうした動きの中、独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、高専機構)とパナソニック ホールディングス株式会社は、2025年11月に、新たな人財育成を目的とした包括連携協定を締結。日本のモノづくり人財教育の高度化を目指し、新カリキュラムの共同開発に取り組む。中長期視点での相互の人財育成を目的とした、高専機構と民間企業によるカリキュラム開発は初の試みとなる。今回は、そのパイロット校である奈良高専で、高専機構本部 本間 哲雄(ほんま てつお) 学務参事と、パナソニックグループでモノづくり人材の育成を担当する秋山 光(あきやま ひかる)に、取り組みの意義や今後への期待を聞いた。

AI時代が求めるモノづくり人財とは

パナソニックグループは「物をつくる前に人をつくる」という考え方の下、人を育て、人を活かすことを経営の中心に据えてきた。現在は、社員一人ひとりが自らの可能性を「UNLOCK」し、持てる力を最大限に発揮しながら挑戦し続けることを目指す取り組みを推進中だ。今回の高専機構との連携も、この考え方の下、学生が高専での学びを通じて自らの可能性を引き出し、将来、社会のさまざまな場面で活躍できる力を育むことを目指す

高専機構が設置する全国51の高等専門学校(以下、高専)は、社会が必要とする技術者の育成を目的とした、日本独自のユニークな教育機関だ。中学校卒業後の15歳から入学できる5年制の高等教育機関で、2022年に創設60周年を迎えた。この高専制度は、卒業時に大学と同程度以上の知識・技術が身に付けられるカリキュラムが特長となる。現在高専では、社会の最新動向を反映し、AIやサイバーセキュリティ、ロボット、半導体、蓄電池などのDX・GX分野において、産業界や行政機関などと連携した教育の高度化にも積極的に取り組んでいる。

「モノづくりの現場は、ハードウェア中心から、AIを含むソフトウェアとの融合によるソリューション型へと急速に変化しています。この変化に柔軟に対応できる次世代の人財育成は、決して一企業だけにとどまらず、日本社会全体で取り組むべき重要な課題だと言えます。高専では、早期から実践・実習を重視した専門的な技術学習が組まれており、学生の皆さんには物事に素直に向き合い、課題を解決していく力が培われていると感じています。まさにこれからのAI時代を担う人財として、大きな可能性を秘めています」と語るのは、パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社の秋山だ。

秋山 光

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 人事部門 モノづくり研修所 モノづくり人材企画部 秋山 光(あきやま ひかる)

高専機構本部で本連携を推進する本間学務参事(以下、本間氏)は次のように述べる。

「高専と民間企業のコラボレーションとしては、過去にもさまざまな取り組みがあり、蓄電池などをテーマとしたカリキュラムづくりではパナソニック エナジー株式会社に協力いただいたこともありました。しかし、今回のような企業グループ全体との大規模な連携は初めての試みです。高専では、実験など何か挑戦する際に『失敗しても構わないから、その失敗から解決につながる策を導き出そう』というスタンスで指導しています。そのため、学生には自ら課題に向き合い、主体的に取り組む姿勢が身に付きます。こうした経験の積み重ねによって、自分の力でソリューションを生み出せる人財が育ち、モノづくりの現場において高い評価をいただいています」

本間 哲雄氏

独立行政法人 国立高等専門学校機構 本部事務局 学務参事 教授 博士(工学) 本間 哲雄(ほんま てつお)氏

これからのAI時代に求められるのは、ただソフトウェアや生成AIを使いこなすスキルだけではない。世の中の変化を恐れず社会や現場の課題に一つ一つ向き合い、多様な知見を組み合わせながら新たな価値を生み出せる力だ。「高専生の皆さんにはそのポテンシャルが十分に備わっている」と秋山は強調する。

「物をつくる前に人をつくる」の実践の輪を広げる――高専連携がもたらす学びと経験

今回の包括連携協定では、次世代のモノづくり人財育成に向けて「実践的な教育の共創」「教育・研究の高度化に向けた支援」「人財交流」を三つの柱として掲げている。これらを通じて、高専機構とパナソニックグループは、新たな学びの場づくりを進めていく。

  • 実践的な教育の共創

    生成AIやデータ活用を含むパナソニックグループのモノづくり技術・知見を生かし、カリキュラムの共同開発などを実施。現場課題の解決力や新たな価値を創出するスキルの体系的な習得を目指す。

  • 教育・研究の高度化に向けた支援

    講演や教材の提供、専門人財の派遣などの支援を通じて、全国の国立高等専門学校における教育・研究の高度化や教育の質向上を図る。

  • 人財交流

    前述の二つを効果的に推進するためのワーキンググループを組成。主にパナソニックグループの技術者と高専機構の教員との交流を深めていく。さらに、技術者が教育現場に、教員が企業の事業活動に参画するクロスアポイントメント制度を活用し、連携体制の強化を図る。

人財交流の面では、すでに具体的な取り組みが進んでいる。2025年度には、奈良高専と阿南高専(徳島県)をパイロット校として選定し、2026年1月に、両高専の教職員が大阪府枚方市にあるパナソニックグループの「モノづくり研修所」を訪問。今後の連携についてのディスカッションなどを行った

本間氏:「この訪問では、教職員が実際にモノづくりの現場に触れることで、教育現場だけでは得られない学びや気付きを得ることができ、それが意識改革にもつながったと感じています」

参加メンバーからは「研修内容が実際の現場や行動と緊密に結びついている点が印象的だった」「モノづくりの現場では、基礎や安全に関する深い理解が極めて重要であるという気付きを改めて得た」との感想が出たほか、見学後の振り返りでは、それぞれのパイロット校ごとに行ったグループワークにおいて「教育機関以外での職務経験がない教員が増えており、外との接点が成長機会になる」「モノづくりの現場で機材がどのように使われているのかなど、企業の方々から実際の業務の様子を伺えることもキャリア教育のヒントになる」などの声が集まった。

本間氏(写真左)と秋山
高専教職員の「モノづくり研修所」見学の様子

高専教職員の「モノづくり研修所」見学の様子

秋山:「2026年2月には、パナソニックグループ社員が講師として奈良高専を訪問し、キャリア教育プログラムを実施しました。将来の進路選択が現実味を帯び始める段階の学生に自らのキャリアの築き方について考えてもらう構成で、講師と学生による双方向の意見交換も組み込み、双方から前向きな評価をいただきました。この時の意見などを基に、2026年度は、教員向けプログラムと学生向けプログラムを重点取り組みとして位置付け、より多くの交流・学びの機会を創出していきたいと考えています」

本間氏:「教員向けプログラムについては、研修、コンテンツ内容の構築、実証の具体化に向け議論を進めています。今後も教員とパナソニックグループ社員との相互訪問や意見交換といった接点を設け、自走的な連携関係を深めることを目指します」

秋山:「学生向けキャリア教育プログラムについては、6月に香川高専でも実施しました。今後は別の高専でも実施予定です。また、工場見学についても、2026年7月時点で4校の受け入れが決まっています。こうした機会を通じて実績を積み重ねながらプログラムの内容を磨き上げ、対象人数および対象校の拡大・パッケージ化に向けた調整を進めます」

2026年6月、香川高専での学生向けキャリア教育プログラムの様子

2026年6月、香川高専での学生向けキャリア教育プログラムの様子

本間氏(写真左)と秋山

中長期を見据えた取り組み――日本のモノづくり基盤を支える人財育成

今回両者が担うのは、単発の取り組みによる成果創出ではなく、日本全体における持続的なモノづくり人財育成に向けた先導役だ

秋山:「今後の目標としては、この流れをパナソニックグループだけの閉じた活動に終わらせず、さまざまな企業に参画いただくプログラムへと発展させていくことです。そして、日本のモノづくり基盤を足元から支え、維持・強化につながるエコシステムを構築していければと考えています

本間氏:「国立高専は全国に51校あります。一方で、パナソニックグループの拠点・工場も全国各地にあることから、各高専にとっても比較的スムーズに見学・学びの機会を設けやすく、『面でつながれる』というメリットがあります。こうした取り組みは、各校が自走しながら知見を横展開していく姿が理想だと思っていますので、それに近い形で推進していけるよう、高専機構内の各方面に働きかけています。また、このような交流を通じて企業のスピード感に触れ、我々教職員も大変良い刺激をいただいています。引き続き相互の知見を出し合い、中長期的な視点でより高度な人財育成を目指します

本間氏

秋山:「パナソニックグループは毎年、多くの高専生を採用しています。当グループの経営基本方針の一つである『お客様大事』という考えの下、お客様のお困りごとや、現場課題にとことん向き合う姿勢は、何事にも素直かつ真摯に取り組む高専生の皆さんと高い親和性があると考えています。実際に、高専出身者は配属先でも高い評価を受けており、そうした人財を育成する教育機関と協力体制を組めるようになったと知り、『うちの工場にもぜひ見学に来てほしい』という声がグループ各社から続々と寄せられています」

本間氏:「現在、9月の実施に向けて、高専機構が産業界および行政機関などと連携して推進しているCOMPASS 5.0事業(※1)における『サマースクール2026』の準備を進めています。その会場としてパナソニックグループの『モノづくり研修所』をお借りし、これまで教職員が訪問していた場に学生たちもお邪魔します。何より、学生たちが教科書だけでなく、実社会のモノづくり現場で培われてきた知見や考え方から学べる機会をいただけるのがありがたいですね。Society 5.0時代(※2)には、知識や技術を身に付けるだけでなく、それらを活用して社会課題の解決や新たな価値創造につなげることのできる人財が求められます。教室で学ぶ理論をいくら理解していても、実際の現場ではこうなっている、あえて違う方法も使われている、そんな気付きを得られることは学生たちにとっても新鮮な体験になると思います。未来につながる新たな学びや出会いが数多く生まれることを期待しています」

秋山:「インターンシップなどで当グループを訪れる学生からは、『社員の方が親切だった』『人の温かみを感じた』といった感想もいただきます。AI時代とは言っても、研修所で切磋琢磨する技術者たちの姿に触れて初めて分かるように、人が果たす役割の大切さはなくなりません。人から人へ知識や技術、経験を受け継いでいくことの大切さも意識しながら、引き続き取り組んでいきたいと思います」

本間氏(写真左)と秋山

※1 COMPASS 5.0事業(次世代基盤技術教育のカリキュラム化):Society 5.0により実現する未来技術をリードする高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業のプログラムの1つで、フィジカルAI、サイバーセキュリティ、ロボット、半導体、蓄電池および再生可能エネルギー(風力)の6分野を、これからの技術の高度化に関する羅針盤(COMPASS)と位置付け、産業界および行政機関等と連携して、産業界の最新動向を反映した教育のパッケージ化(カリキュラム設計、教材開発、教育実践、教員FD、学習成果の評価等)に取り組み、高専教育の特色化および高度化を推進する事業。

※2 Society 5.0: デジタル技術を活用し、経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心の社会として、日本政府が提唱する未来社会の姿。

物をつくる前に人をつくる~パナソニックグループの人的資本経営

木下 達夫

グループCHRO (Chief Human Resources Officer) 木下 達夫(きのした たつお)

創業者・松下幸之助が「物をつくる前に人をつくる」と語ったように、パナソニックグループは、人を育て、人を活かすことを大切にしてきました。高専機構との連携協定も、その考え方の延長線上にあるものです。AIやロボティクスの進展により、モノづくりに求められる人財像は大きく変化しています。ハードウェアとソフトウェア、さらにはAIを組み合わせながら新たな価値を創出できる人財の育成は、これからの社会においてますます重要になります。私たちは高専機構との共創を通じて、学生の皆さんが学んだ技術と社会とのつながりを実感し、自らの可能性を広げられる機会を提供するとともに、次世代のモノづくり人財の育成と教育の高度化に取り組んでいきます。次世代のモノづくり人財の育成は、一企業の競争力のためではなく、日本の産業競争力そのものを支える重要なテーマです。私たちは高専機構と共に、その基盤づくりに貢献していきたいと考えています。パナソニックが変われば、日本が変わる。そんな志を持って、未来のモノづくりを担う人財の育成に挑戦していきます。

独立行政法人国立高等専門学校機構

中学校からの卒業生を受け入れ、5年間一貫の技術者教育を行う高等教育機関として、カリキュラムは、実験・実習を重視した専門教育を早期段階から行う事により、20歳の卒業時には大学と同程度以上の知識・技術を身につけるものとなっています。その独自の教育方法と実践的かつ創造的な人財育成が、産業界などから高く評価されており、高度な現場力・実務力を基礎とした発想の柔軟性、創造力、主体性を持った高度な技術者を輩出しています。今日の科学技術の急速な進展と国際的な社会環境や産業構造の大きな変化に対応するために、新時代の担い手として時代の先を見据えて成長できる「変化できる力」を持った人財育成に努めています。その教育を通して、社会課題解決を目指し、社会実装を実現することができる「社会のお医者さん(Social Doctor)」を育成し、輝く未来社会の創造を先導します。

https://www.kosen-k.go.jp/

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