社外取締役対談:グループ成長戦略を策定した取締役会の姿 松井しのぶ氏 × 瀬戸潤子氏

2026年9月11日

企業・経営 / Stories

社外取締役対談:グループ成長戦略を策定した取締役会の姿 松井しのぶ氏 × 瀬戸潤子氏

シリーズ:

経営改革を経て、2026年5月には新たにグループ成長戦略を発表したパナソニックグループ。その実現には、社内・社外取締役が立場を超えて本質的な議論を重ねる取締役会の存在が欠かせない。グループ全体で変革が進む中、社外取締役が過半数を占める取締役会ではどのような議論が交わされ、執行側とどう向き合ってきたのか。成長戦略策定の舞台裏や、持続的な企業価値向上に向けた監督の在り方について、社外取締役の松井 しのぶ氏と瀬戸 潤子氏が語る。

オリジナル記事:「パナソニックグループ統合報告書 2026」より一部編集して掲載しています。全文は パナソニックグループ統合報告書 2026 よりご覧ください。

松井 しのぶ

松井 しのぶ

社外取締役

大手監査法人の公認会計士を経て、株式会社ユーザベースで取締役などの要職を歴任(現・上席執行役員 CHRO)。2021年6月から当社社外取締役を務め、2025年6月に指名諮問委員会委員長および報酬諮問委員会委員長に就任。

瀬戸 潤子

瀬戸 潤子

社外取締役

外資系企業などで要職を歴任後、アサヒグループジャパン株式会社の常務執行役員 CFOを務め(対談当時)、現在は株式会社ヨーク・ホールディングスの執行役員 CFO。2025年6月に当社社外取締役に就任。

あえて議論の余地を残した議案を上程。執行側とともに本質を徹底議論

――2025年6月に、社外取締役として初めて澤田氏が取締役会議長に就任され、また、社外取締役が取締役の過半数を占める体制となりました。取締役会での監督内容や実効性の面でどのような変化を感じられていますか。

松井:私は当社の社外取締役に就任して5年たちますが、就任当初から発言しやすい雰囲気があり、当時から開かれた取締役会だと感じていました。ただ、取締役会での議論は活発でしたが、社内取締役の発言は少なく、大半が社外取締役の意見という状況でした。取締役会は、執行側が事前に十分に議論を重ね、上程した議案に対して「社外取締役の意見を伺う場」という位置付けになっていたことが、その背景にあると考えています。そのため2025年2月に発表したグループ経営改革以前は、執行側で議論し尽くして中身がほぼ固まった状態の議案が取締役会に上程されることが多く、本質的な課題にまで踏み込みにくいという課題意識を、社外取締役を中心に持っていました。取締役会で議論するのではなく、決裁を取るために上程している感じがありましたので、「最終局面で取締役会に上程し、意見を求められても困る。生煮えの状態でいいから持ってきてもらいたい」という要望を取締役会で伝え、改善していきました。特に、社外取締役の澤田さんが取締役会議長に就任されて以降は、執行側での結論が出る前に取締役会に上程される議案も出てきています。真面目な社風の当社としては、そのような状況で取締役会に上程することに対し、最初は抵抗感があったようにも思いますが、社内取締役・社外取締役問わず、活発に議論するケースが格段に増えており、取締役会の実効性は確実に向上している実感があります。

瀬戸:私は2025年6月に当社の社外取締役に就任しましたので、取締役会が変化した後の姿しか経験していません。外資系企業での経験が長い私の目線でも、当社の取締役会での議論は想像以上に活発であり、就任当時、驚いたことを今でも覚えています。松井さんが言われるように、時には意見が割れたところから取締役会の議論が始まることもあり、既定路線があるわけではありません。例えば、2026年5月に発信したグループ成長戦略策定の際には、最初は執行側の意見が割れている状態で上程されましたが、意見が割れているからこそ見えてくる本質的な課題もあり、質の高い議論を重ねることができました。当社の取締役会では、グループの方向性を左右するような重い議案に対し、社内取締役・社外取締役双方から、賛否含めてさまざまな意見が飛び交います。そのような取締役会でも、議長の澤田さんのファシリテーションによって、論点が整理されながら、質の高い議論がなされ、実効性につながっていると思います。

松井:取締役会で意見が割れた際は、「楠見さんはどうしたいのか」と、執行のトップであるグループCEOの楠見さんの意思を問う投げかけをたびたび行い、トップの考えを尊重しながら取締役会は監督機能を果たしています。また、澤田さんが議長に就任されてからは、議案の内容や上程時期に客観的な目線が入るようになりました。澤田さんと楠見さんとの間には、いい意味での緊張関係があると感じています。

成長戦略の議論を経て、グループとしての一体感が醸成

――2025年度はグループ経営改革を実行し、グループ成長戦略を策定された1年でした。執行側の変化をどのように見られていますか。

松井:長期間に及ぶ低成長や株価低迷などへの強い危機感から、3カ月という期間を区切り、待ったなしの議論で策定されたグループ経営改革でしたので、強い覚悟の下で2025年度に完遂されました。取締役会ではその過程を含めてしっかりと監督し、収益基盤の構築につなげました。グループ成長戦略に関する取締役会での議論は、従来であればホールディングス側のみで実施していたと思いますが、今回は事業会社社長も同席し、グループ全体で議論を重ね、策定しています。これまでは、ホールディングスと事業会社の間、また、事業会社と事業会社の間にも自主責任経営の負の側面なのか、セクショナリズムが生じていた面があるようにも感じていましたが、グループ成長戦略の議論が進むにつれ、その壁は取り払われていったように思います。

瀬戸:例えば、ソリューション領域を議論する過程において、取締役会で、ソリューション領域の事業会社社長3人に、各事業の取り組みを説明していただいたのですが、その中で、これまで個別に見えていたソリューションの取り組みにも共通点があり、実際には相互に結び付いていることを認識しました。3人の事業会社社長はお互いの話を聞いて、大きな気付きと得るものがあったのではないでしょうか。おのおのが、自身の事業会社だけではなく、ソリューション領域のトップであるという当事者意識を持って、当社グループのあるべきソリューションの姿を考えられるようになったと感じています。

松井:これまで事業会社には、グループ全体のことを考えるのはホールディングスの役割で、事業会社は自身の事業に専念すればいいという考えが多少なりともあったように思います。グループ成長戦略を皆で議論し、策定した現在は、グループの未来を自分たちも当事者として構築していく意識に変わったように感じています。

松井 しのぶ

瀬戸:パナソニックグループの将来は、執行のトップである楠見さんだけが考えるのではなく、執行チーム全体で考えるようになったと明確に感じます。グループ経営改革は「危機意識」が発端となり策定・実行したものですが、グループ成長戦略では自分の事業だけではなく、パナソニックグループ全体としての「当事者意識」が戦略実現のカギになると考えています

過去からの学びを生かす。案件ごとの性質に応じた監督が必要

――2026年度は取締役会でどのように監督機能を発揮するお考えですか。

瀬戸:私はファイナンス出身ですので、儲けの構造やキャピタルアロケーションから考える傾向にあります。2026年度は、グループ成長戦略で発信されたAIインフラ事業への5,000億円の戦略投資に対する判断が非常に重要であり、取締役会でもしっかりと議論を重ね、執行側を監督していくべきと考えています。仮に、市場の潮目が変わった際にいかに柔軟に対応するかというリスクマネジメント、また反対に、加速度的な需要増によって計画した供給能力を上回る局面で、いかにチャンスを最大化するかという戦略的レベニューマネジメント、この両面からの議論を積極的に重ねていかなければなりません。過去の戦略投資においても、事前に決めたKPIや通過点としてのマイルストーンが達成されているかどうかを検証し続けることが重要です。取締役会では、キャピタルアロケーション以外にも、事業ポートフォリオについて、重点的に議論しています。2025年度は、過去の投資についての清算案件の上程が目立ちました。日本企業全般に言えることですが、日本企業は同質的で、同じ場所に集まり、同じ考え方で進めるのが得意であり、「欧米の企業文化」や「飛び地」に対応することは苦手なように思います。当社も例外ではなく、その傾向にあることを強く認識しました。そういった点も含めて、過去のM&A案件や戦略投資案件については、執行側にその構図を改めて課題を含め深掘りしていただいた上、取締役会でも議論しています。過去からの学びを踏まえ、案件ごとの性質に応じたやり方で、取締役会として監督していくことが重要です。また、グループ成長戦略の実現には、ソリューション領域でビジネスモデルを変革しなければなりません。ソリューションに求められるケイパビリティと、これまでハード売り切り型のビジネスモデルで培ってきた当社のケイパビリティには、一定のギャップがあります。このギャップを埋め、変革を完遂できるように継続して適切なKPIを設定して、モニタリングしていきます。

瀬戸 潤子

株主・投資家の皆さまと同じ船に乗り、持続的な企業価値向上を目指す

――2026年度は業績連動型株式報酬の導入や報酬構成比率の変更など、役員報酬制度が大きく改定されましたが、その背景や狙いについてお聞かせください。

松井:2025年6月に指名・報酬諮問委員会の体制が見直され、指名諮問委員会と報酬諮問委員会の2つに分かれました。私は、その両方の委員長を務めています。当社の株価は2026年に入り上昇基調にありますが、それまでは競合他社に劣後する状況が長期間続いていました。経営陣に資本市場の目線を取り入れて経営を行っていただくため、以前から、株式報酬比率を引き上げる考えはありました。当社には、2019年から譲渡制限付株式報酬制度が導入されていますが、業績に関わらず付与される株数は固定であり、インセンティブに欠ける面があると課題認識していました。そこで2026年度からは譲渡制限付株式報酬に加え、業績連動型株式報酬を新たに導入しました。その評価指標は相対TSR (株主総利回り) のみであり、TOPIXや競合他社を超えるパフォーマンスを発揮しなければ、付与株式数は増加しない設計です。また、報酬構成比率も大幅に見直しており、例えば楠見さんのケースでいうと、基本報酬を1とした場合の従来の株式報酬の割合は0.5でしたが、現在は2に引き上げています。一方で、2025年度にグループ経営改革を実行したことを踏まえ、役員報酬制度改定前後の標準額で見た場合、総報酬の水準は変えていません。それによって、基本報酬の金額を下げ、業績連動型報酬の割合を増やしています。

瀬戸:これまでも、当社グループの経営陣は業績・株価にコミットする姿勢を強く持っていましたが、今回の役員報酬制度の改定により、一層強化されるものと考えています。経営陣が株主・投資家の皆さまと同じ船に乗り、持続的な企業価値向上を目指して、一心同体で事業運営していくことが重要です

松井:従来、事業会社社長の短期業績連動報酬の評価指標は事業会社側だけの指標でしたが、今回は全社の調整後営業利益を組み込んでいます。これにより事業会社社長がグループ全体の視点を持ち、グループ成長戦略の実現への動機づけが向上します。2026年4月から各事業会社社長はホールディングスの執行役員に就任しましたが、報酬の側面からも全社視点に立つことができ、指名・報酬ガバナンスを利かせることができると考えています。

瀬戸:社外取締役の報酬の一部が譲渡制限付株式報酬の付与という形になった点も、大きな変化です。当社の社外取締役はパナソニックグループに対する熱量が非常に高く、この会社を何とかしたいという思いを強く持っています。この株式報酬の付与により、持続的な企業価値向上への強い思いを持って、執行側を監督することができると考えています。

※役員報酬の詳細については パナソニックグループ統合報告書 2026 49ページをご参照ください。

松井:現時点では、当社の取締役会は実効性が高く、強固なコーポレート・ガバナンスを構築できていると認識していますが、10年先も通用するかどうかは分かりません。時代とともに事業の在り方も、ガバナンスの在り方も変わっていくと思います。その動きを見据えながら、当社の取締役会では、今後も継続して、実効性あるガバナンスの形を追求していきます。

瀬戸:当社の取締役会には、「改善し続ける文化」が根付いていますので、今後もさまざまな変化に対応していくことができると考えています。また、グループ成長戦略の策定を経て、当社のやるべきことが明確になり、グループが実際に変わり始めている手応えや、意思決定のスピード感が高まっていることも強く感じています。今後の当社グループの変革に、引き続きご期待ください。

松井 しのぶ(写真左)と瀬戸 潤子

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パナソニック ホールディングス株式会社
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