2023年10月26日

テクノロジー / 特集

技術・研究開発

パナソニックグループの最新技術が創出する「未来へのインパクト」~Panasonic Corporate R&D Technology Forum

パナソニック ホールディングス株式会社の技術部門(以下、PHD技術部門)は、「Panasonic Corporate R&D Technology Forum」(以下、PCTF)を2023年9月13日と14日の2日間にわたり大阪府門真市の同社拠点で開催し、最新の研究開発・事業創出の取り組みを公開した。本記事では、その開催概要と、パナソニックグループの長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」(以下、PGI)に基づいた「地球環境問題の解決」を軸に、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブに大きく貢献する可能性を示した3つの技術を紹介する。

グループ横断の研究開発で、「私たちがいなければ生まれなかった世界をつくる」

PHD技術部門は、「私たちがいなければ生まれなかった世界をつくる」をミッションに掲げ、グループ傘下の各事業会社技術部門と一体となり、既存事業の深化と新たな事業機会の創出に取り組んでいる。今回のPCTFでは、特に事業機会の創出を意識して、グループの目指す姿とその戦略を軸に、「地球環境問題の解決」と「一人ひとりの健康・安全・快適」の実現に向けた取り組みを26の技術テーマで訴求。さまざまなステークホルダーや共創パートナーと共に描く未来から社会変化の仮説を立てる「未来洞察」の手法を活用し、未来においてお客様や社会へ提供する新たな価値を創出していることを示した。

「地球環境問題の解決」に貢献するテクノロジー

パナソニックグループでは現在、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」(以下、PGI)の下、CO2排出量を2050年までに3億トン(現在の世界の総排出量の約1% ※)以上削減することを目標とし、グループ全体で、その実現のための取り組みを推進している。

※2020年の数値:https://holdings.panasonic/jp/corporate/panasonic-green-impact/challenge.html

PGIの実践において重要な役割を担うのが、PHD技術部門だ。各事業会社の手の及ばない領域や、それぞれの競争力強化の後押しをグループ横断で推進することをミッションとし、多種多様な科学分野にわたり、環境に配慮した新技術やビジネスモデルの開発に精力的に取り組んでいる。

今回の展示においても、地球環境問題の解決を軸に、PHD技術部門がこれまで注力してきたカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーに加え、生物多様性の回復への仕込みとして3つ目の領域「ネイチャーポジティブ」に先行着手することを発表し、未来に焦点を置いたさまざまなイノベーションを紹介した。

国連のビジョンへの共鳴――「より環境にやさしいくらし」の実現を目指して

ネイチャーポジティブとは、2022年の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で掲げられた国際目標で、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるという考え方だ。(※)PCTFの基調講演で、パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員でグループCTOの小川 立夫(おがわ たつお)は、PHD技術部門がネイチャーポジティブに貢献する技術に先行着手することを発表した。小川は、子どもの頃に帰省した母親の実家がある田舎で、持続可能性や循環性への意識が芽生えたと語り、ネイチャーポジティブのビジョンへの明確な共感を表明した。

※出典:https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/j-gbf/about/naturepositive/

写真:小川 立夫

PCTFで基調講演を行うパナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCTOの小川 立夫(おがわ たつお)。技術革新を通じて「物と心が共に豊かな理想の社会」を実現するというパナソニックグループのビジョンについて語った ※全編動画はこちらから

PHD技術部門の研究開発活動は、GX(グリーントランスフォーメーション)とCPS(サイバーフィジカルシステム)の2領域にわたっている。GXは日本政府が主導する取り組みで、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換に重点を置いている。一方、CPSは、パナソニックグループ独自のコンセプトで、フィジカル(現実)の領域と、デジタルデータドリブンのサイバーの領域とを融合することで、人々の「より良いくらし」を実現するというものだ。小川は、この2領域への投資比率を2024年度にかけて70%にまで引き上げるという計画を発表した。

PCTFの展示コーナーでは、PHD技術部門で研究開発を担う技術者らが各技術について解説。

自然の力を利用して農作物の収穫量を増やす「バイオCO2変換」

写真:児島 征司

バイオCO2変換について解説する、テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 主幹研究員 児島 征司(こじま せいじ)。バイオ CO2変換は植物の成長を加速させる生化学プロセスの特許技術で、CO2の活用により世界の食糧需要増加への対処を可能にする

今回言及したネイチャーポジティブの領域に貢献する技術でもある「バイオCO2変換」は、植物の成長を促進し、CO2の活用と持続可能な食糧生産への貢献を可能にする生化学プロセス技術だ。

PHD技術部門では、バイオCO2変換の実証実験を全国各地の農地で実施しており、ホウレンソウの場合には収穫量が40.9%増加することを実証した。バイオCO2変換のプロセスは、光合成に基づく2つの段階から成る。
まず、光合成微生物の一種であるシアノバクテリアの光合成によって大気中のCO2から植物の成長を促進する生体分子が生成される。その後、その生体分子を希釈して葉面に散布すると、作物の光合成に関わる代謝が刺激され、収穫量が増加する。地球環境から無償かつ無限に供給されるCO2をプロセスの核とするため、バイオCO2変換によって食糧コストの増大を相殺することが可能だ。
バイオCO2変換は複雑なプロセスを必要とせず、単純な反応容器で行うことができる。通常の温度と圧力条件の下、空気中で16ワットの光(自然光でも可)を当てると、遺伝子操作したシアノバクテリアが、光合成で生成される生体分子を分泌する。農家側からすると、新たな装置やインフラへの投資なしで作物の成長を促進できる上、生体分子が耐病性を向上する働きを持つので、何重にもメリットがあると言える。

写真:Novitek(ノビテク)

植物の成長を促進する「Novitek(ノビテク)」。1,000倍に希釈した生体分子を含んでおり、作物の葉の部分にそのまま散布して使用する

児島は、開発当初の思いを次のように振り返る。「CO2由来の生体分子がホウレンソウの成長を促進する効果を研究所で最初に目にしたとき、大気中のCO2を使って食糧生産量を増加させるという大きなビジョンがすぐに思い浮かびました。ただ、この効果が実際の農業環境でも有効なのか、また、生体分子の生成規模を、経済的に可能な方法で商用レベルにまで拡大できるのかという点が問題でした」

写真:Novitekを1回散布したホウレンソウ(写真左)と、散布なしのホウレンソウ(写真右)

Novitekを1回散布したホウレンソウ(写真左)。散布なしのホウレンソウ(写真右)と比較して、収穫量が40%以上増加し、同技術の有効性が証明された

児島「これは、研究開発チームだけで解決できる問題ではありませんでした。しかし、パナソニックグループの特色でもある、顧客との接点およびビジネスチャネルを多数持つグループの事業会社の協力を得て、実地試験を通じて収穫量の増加を証明し、商用化に向けた製造システムを構築することができました」

バイオCO2変換技術は、生体分子スプレーとして、「Novitek(ノビテク)」というブランド名で2024年をめどに商用化、国内での販売開始を予定している。

高効率で景観に調和する「ペロブスカイト太陽電池」

カーボンニュートラル、脱炭素社会の重要な側面を担っているのが、再生可能エネルギーおよびエネルギー需給バランス関連技術。その代表的なものが、建物の窓や壁面などに目立たない形で組み込むことができる次世代型ソーラーパネル・ペロブスカイト太陽電池。都市の景観を損なうことなく、むしろその一部となれる新たな太陽電池であり、現在のソーラーパネルに置き換わる可能性も秘めている。

写真:金子 幸広

ペロブスカイト太陽電池について説明する、パナソニック ホールディングス株式会社 テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 金子 幸広(かねこ ゆきひろ)。ペロブスカイト太陽電池は高効率で、建築物のデザインに調和し、従来のソーラーパネルを設置できなかった構造にも組み込むことが可能だ

ペロブスカイト太陽電池は、将来のカーボンニュートラルに大きく貢献できる技術だ。パナソニック ホールディングス株式会社 テクノロジー本部 マテリアル応用技術センターの金子 幸広(かねこ ゆきひろ)は次のように語る。「北海道の美しく豊かな自然に囲まれて育つ中で、環境を守るために何ができるだろうと考えてきましたが、ペロブスカイト太陽電池を通してその思いを形にすることができました」

パナソニック ホールディングスが開発するペロブスカイト太陽電池は、従来の結晶シリコン系の太陽電池と同等の発電効率を有し、実用サイズ(>800 cm2)のモジュールとして世界最高レベルの発電効率(17.9%、第三者測定機関による認証効率)を達成している。同電池は、ガラス基板上に発電層を直接インクジェット塗布することで実現。標準的なソーラーパネルよりも製造工程が単純なため、設計自由度が高く、さまざまな建築物への利用が期待されている

2023年8月には、パナソニック ホールディングスは神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下、Fujisawa SST)内のモデルハウスにガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を設置し、技術検証を含めた長期実証実験を開始したことを発表した。パナソニックグループがプロジェクトの代表幹事を務めるFujisawa SSTは、世界でも数少ないスマートシティの一つとして、サステナブルな未来のくらしの実践を発信している。

地球全体の「ネイチャーループ」を見据えたサーキュラーエコノミー

パナソニック ホールディングスでのサーキュラーエコノミー実現へのアプローチは、3つのループによるプロセスをイメージしている。原料の採取、製品の設計・製造、リサイクルに関わる「マニュファクチュアリングループ」と、製品シェアリングの導入やリペア・リファービッシュなど、顧客領域での活動に関わる「サービスループ」の2つのループが、地球そのものの「ネイチャーループ」のさまざまな利害と関わっているという考え方だ。ネイチャーループは、パナソニック ホールディングスのネイチャーポジティブのビジョンを具体化するために、従来型のサーキュラーエコノミーのモデルに新たに加えられた3つ目のループである。

生産・製造・サービス開発から成るサーキュラーエコノミーのモデルに、新たにネイチャーループを加えることで、ネイチャーポジティブに踏み出す研究開発のビジョンを打ち出している

今回、サステナブルなバイオプラスチック素材として展示された「kinari」(キナリ)は、成型の自由度が高く、サーキュラーエコノミーにおける主力と成り得る素材として注目が高まっている。kinariでは、従来のプラスチックに使用される石油由来樹脂が可能な限り植物由来のセルロースに置き換えられる。植物由来のセルロースとして、コーヒーかす、間伐材など、さまざまな廃材から抽出したものを活用できる点も先進的だ。kinariは、「本物」のプラスチックよりも丈夫かつ軽量に成形することが可能で、仕上がりの自由度も極めて高く、なめらかな触り心地や、本物の木材と見紛うほどにナチュラルな質感の実現も可能だ。

写真:kinariを用いて成形された京都府福知山市の学校給食食器

kinariを用いて成形された京都府福知山市の学校給食食器。原材料には地元森林の間伐材が活用された

kinariは、製品寿命の後、元の素材に生まれ変わらせるマテリアル・リサイクルの手法と、微生物分解によって環境に悪影響を与えることなく土に還(かえ)すバイオロジカル・リサイクルの手法の2パターンでの循環モデルの開発が進んでいる

ローカルからグローバルにまで及ぶ「ネイチャーポジティブ」には企業間の連携が不可欠

小川は、「個々の地域において、その地域の生物多様性やライフスタイルに沿った取り組みが行われ、それらが呼応し合うことで、より大規模なソリューションが生まれます」と語る。こうした考え方は、パナソニックグループが京都府福知山市と連携して、地元森林の間伐材を使用したkinariで学校給食食器を開発し、同市立の小中学校に提供した取り組みにも表われている。人類が地球規模で直面する環境問題・社会課題についてはグローバルレベルでの理解が必要な一方、サーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブといった目標に対する個々の貢献は、ローカル(地域)レベルで達成すべきであるという考えだ。地域ごとに資源や自然環境は異なるため、地域に適した環境貢献の取り組みが重要であり、多くの地域での取り組みが、結果的に地球規模での問題解決につながっていく

小川はネイチャーポジティブについて次のように語る。「『人間も、自然の一部として自然界に存在している』という、私自身の原体験にどうやって再び近づいていけるか――その視点が、私にとって一つの大きな物差しになっています」

PGIが目指す目標、そしてパナソニック ホールディングスがこれから展開していくネイチャーポジティブは、一つの企業だけでは達成できないほど壮大な目標だ。今回のPCTFを機に、PHD技術部門では、志を同じくするパートナー・ステークホルダーと共に、未来においてより大きな価値を提供していくべく取り組んでいく

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