ペロブスカイト太陽電池は液体材料を用いて、ガラス上に印刷工法で作製できるという特徴を持つ。高層ビルの多くの垂直面はガラスで構成されており、その面積は屋上で太陽光を捕捉できる面積よりもはるかに大きい。ペロブスカイト太陽電池を窓や壁に組み込むことができれば、都市部で生み出すエネルギーを劇的に増やすことができる。
日本が2050年の脱炭素化目標を達成するためには、毎年東京ドーム1300個分面積相当のメガソーラーを建設しなければならない。「窓や壁に太陽電池を組み込むことで、広い土地は不要となります」と金子氏は語る。
2009年以降、高効率化を目指したペロブスカイト太陽電池の開発が飛躍的に進歩している。ドイツ機械工業産業協会(VDMA)の最近の報告書では、ペロブスカイトは2025年までに商用太陽電池に使われるだろうと予測されている。
この実用化開発の最前線に立っているのは、オックスフォード大学(英国)の物理学教授ヘンリー・スネイス氏によって設立されたオックスフォードPV社や、2020年に804cm²という大型で世界最高の変換効率を樹立し、ガラスを基板としたペロブスカイト太陽電池を開発するパナソニックである。
オックスフォードPV社は、シリコン太陽電池上にペロブスカイトの層を積層することで変換効率を30%近くにまで向上させたが、この方法では、依然として旧来のシリコン太陽電池の制限が残る。
一方、パナソニックは、独自のインクジェット印刷技術とペロブスカイト太陽電池材料に磨きをかけることで、世界最高クラスの変換効率を持つガラスを基板としたペロブスカイト太陽電池の開発に成功している。パナソニックは、ガラスにペロブスカイトを塗布する際の結晶成長を最適化し、基板内で厚さを均一にすることにより、現在市販されている結晶シリコン太陽電池モジュール同等の変換効率を目指している。
学術論文上ではペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率は26%以上と報告されているが、こうした記録は大面積モジュールではなく、1cm²以下の太陽電池セルで達成されたものである。
金子氏によると、パナソニックは、ペロブスカイト太陽電池の大型化に注力しているという。「一般的に、太陽電池のエネルギー変換効率はサイズが大きくなるにつれて低下します。パナソニックは2020年に、804cm²のペロブスカイト太陽電池モジュールにおいて17.9%のエネルギー変換効率を達成し、そのサイズのペロブスカイト太陽電池の世界記録として米国国立再生可能エネルギー研究所のチャート(NRELチャート)に記載されました」と金子氏は言う。パナソニックは現在、メートル規模の太陽電池の開発へと移行している。
ペロブスカイト太陽電池技術のもう1つの特徴は、製造過程で必要な温度が100℃〜200℃程度と低温であるため、製造時に消費されるエネルギーが少ないことである。現在の結晶シリコン太陽電池の製造過程では、太陽電池用の高純度シリコンを製造する工程等が1000℃以上で行われるため、製造時に使用するエネルギーが多いと金子氏は指摘する。
太陽電池を塗布で製造できることで、さらなる利点もある。「インクジェット印刷の手法を採用することで、どのような基板サイズにも印刷することが可能です」と金子氏は言う。そうした柔軟さが、パナソニックが想定する用途では重要となる。
「建築における窓や壁のサイズは様々です」と金子氏。さらに、レーザースクライビングにより透過度を調整できるため、窓など透過度が必要な個所に適用可能である。一方、壁には透過度のないペロブスカイト太陽電池を適用することができる。しかし、実用化に向けては、ペロブスカイト太陽電池の信頼性向上が課題だと金子氏は言う。ペロブスカイトは特に湿気に弱い。パナソニックは、ガラスにペロブスカイト太陽電池をインクジェット印刷した後、別のガラス板で挟み、湿気を透過させない2枚のガラスの間にペロブスカイトを封じ込めるという手法をとる。また、パナソニックは太陽電池の熱安定性を向上させるため、ペロブスカイト材料に添加剤としてルビジウムやセシウムを使用するなど、材料面でも高信頼性技術の開発を進めている¹。
パナソニックは、2025年に大規模な実証に取り組み、5年以内にペロブスカイト太陽電池を市場に投入したいと考えている。