2023年6月13日

企業・経営 / 特集

企業・経営

グループCEO楠見が語る 競争力強化の2年間を経た進化 「成長に向けたギアチェンジ」の真意

グループCEOの楠見は、2023年5月に行われた「パナソニックグループ戦略説明会」で、中長期でグループが目指す姿やその戦略を発信した。2021年、社長就任に先立ち「全ての事業で競争力強化に集中する」と位置付けた2年間が終了し、その振り返りと、今後グループ全体で注力していく方向性を示した楠見。今回の発信へ込めた思いを改めて聞いた。

競争力強化2年間の振り返り

⸺発表では、まず「競争力強化 2年間の振り返り」と、今後グループとして目指していく姿について言及されました。改めて今回の発信に込めた思いをお聞かせください

私が「2年間は競争力強化に集中する」と発信したのは、現在の事業会社制がスタートする前、2021年5月のCEO就任後初めて、グループが向かう方向性を発信したときのことでした。創業者・松下幸之助が目指した「物心一如の繁栄」、すなわち「物と心が共に豊かな理想の社会」を目指すパナソニックグループの使命達成のためには、まだまだ業界で劣後している事業がある中、一時的な利益ではなく中長期の成長のための基礎体力づくりに集中する期間を設ける必要があると考えたのです。5月に公表した2022年度決算でもお伝えした内容のとおり、結果的に、この期間において財務指標に明確な成果を残すことは残念ながらできませんでした。ただし、会社の体制を変え、グループを挙げて「誰にも負けない競争力の獲得」を目指して試行錯誤しながら進む中で、変化は確実に見えてきました

今回の発表の中でも、一事例としてパナソニック オートモーティブシステムズ(株)の敦賀工場の例を紹介しました。2021年10月比で生産リードタイム 50%短縮、安全在庫半減と、目覚ましい成果を上げています。このように成果が表れている拠点が事業会社ごとに1拠点から数拠点出てきており、間違いなく素地は整ってきたと言えるでしょう。あとはいかにこうした取り組みを全拠点に展開できるか。また、デジタルの力で働き方やビジネスのやり方を変え、経営のスピードと質を向上させるPXの取り組みも進んでいます。まだまだ既存の業務プロセスや組織風土、古い情報システム基盤など「負の遺産」もありますが、事業部横断でのデータ利用やクラウド化で、オペレーション力の強化は進展を見せています。

競争力の強化に終わりはなく、この2年間で培った手法をさらに研ぎ澄まさねばなりません。また、他社も当然進化していることを考えれば、それ以上に進化のスピードも上げていかなくてはいけません。このようなことがグループ全体の共通理解となり、成長をさらに加速するための基盤はできたと考えているのです。

最近は社外から「パナソニックグループが変わってきている」と声を掛けられることが多くなった実感もあります。具体的な内容はさまざまですが、印象的なのは、お客様から「自分たちのことをよく考えてくれるようになった」と言われることです。また、社内SNSなどを通して、ネガティブなものも含めてダイレクトに意見が届くようになってきています。まだまだ隅々まで風土改革が行きわたっているとは言えないものの、風通しが良くなってきている感覚はあります。

グループ全体が長期視点でものを考える意識へ徐々に変わりつつあるとも感じていますし、社外の方が変化に気付かれているのは、社外と接する前線の社員も変化していることにほかなりません。また、今回新たに経営基本方針を行動指針として落とし込んだ「Panasonic Leadership Principles」を策定し、社内に発信しましたが、その検討には、多くの有志の従業員が手を挙げて参画してくれました。こうした動きもポジティブに感じています。

今回、これからグループが目指していく姿として示したのは、「2030年に向けて、全ての事業が『地球環境問題の解決』と『お客様一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適』の領域でお役立ちを果たせるように変革を加速していく」ことです。

グループ共通の戦略として、この2つを軸としながら、競争力強化の2年間で成果が出た先進事例をトップスピードで横展開し、変革を加速していかねばなりません。今年度は、競争力強化に徹するステージから成長フェーズに向けてギアを上げ、お客様を起点にグループの総合力を結集して推進していきます。

Panasonic GREEN IMPACTの進捗

⸺グループ共通の戦略として取り組む「地球環境問題の解決」に向け、具体的なアクションを着実に積み重ねていること、特に「削減貢献量」という新たな指標の確立のために業界で議論をリードしていることについても発信されました

およそ90年前、松下幸之助は目指す「理想の社会」の実現に向け、25年を1節とし、それを10節かけて実現していく「250年計画」を発信しました。今から約160年後にその最終年を迎えますが、そのとき私たちの子孫は、果たして幸せに暮らすことができる環境にあるか――その危機感から、2050年を目標に「現在の世界のCO2総排出量の約1%」にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指す長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(以下、PGI)」の構想を昨年4月に発信したのです。その後、昨年7月には、2030年度に向けた具体的な数値目標としての「全事業会社のCO2排出量実質ゼロ」と「約1億トンのCO2削減貢献」、2024年度までの3カ年の具体的な環境行動計画を定めた「GREEN IMPACT PLAN 2024」を策定・発信しました。足元では、例えば、CO2ゼロ工場の拠点数は、2024年度に37拠点の目標に対して既に28拠点に達するなど着実に進捗しています。

事業活動におけるCO2排出の削減は企業の責務として取り組んでいることですが、同時に経営指標としての重要性が年々高まっていることも非常に重要なポイントです。特に、B2Bのお客様からの取引条件になりつつあることもあり、今後は効率的なCO2排出削減が競争力の一つの要素となり得ると確信しています。この流れを加速していく上で今必要なのは、企業がCO2排出削減にどれだけ貢献しているかを、客観的に判断できる指標の確立です。

現在、WBCSDでは、既存の製品やサービスを使い続けた際に排出されるCO2と、新たにCO2削減に貢献する製品やサービスを導入した場合とのCO2排出量の差分を、「CO2削減貢献量」として定義しています。しかし、この定義は国際的に統一されておらず、また業界によっては明確には測れないものもあり、企業の指標として広く活用できるものにはなっていません。

そこで、われわれは一企業の立場から、WBCSDやGXリーグなどの先行する国際組織や政府施策とも歩調を合わせながら、削減貢献量を企業における指標とすることの重要性を訴え、議論をリードしてきました。また、電機業界としてIECにおける標準化にも取り組んでいます。削減貢献量が客観的かつ明確に、地球環境に貢献していることが測れる指標となれば、資本市場なども含めた社会全体で、重要な経営指標として後押しされていくはずです。逆に、投資先として削減貢献量に注目していただけるようにならなければ、地球レベルでのCO2削減は加速しません。

COP27の日本パビリオンでは、経済産業省主催のパネルディスカッションにおいて「CO2削減貢献量の指標化、国際標準化が、経済発展と脱炭素社会の両立に重要である」との合意を得て、今年3月にはWBCSDやGXリーグで削減貢献量のガイダンスが定められました。そして、5月のG7広島サミットでは「脱炭素ソリューションを通じ他の事業者の排出削減に貢献するイノベーションを促すための民間事業者の取り組みを奨励・促進」と成果文書に明記されました。これは一つ大きな成果です。

こうした活動は、私たちパナソニックグループだけでなく、グローバルで多様な業界や企業が、地球環境問題の解決を主体的に加速していくために必要なことです。単に一企業の利益のためにやっていることでは断じてありません。今後もこうした国や業界の枠組みを超えて「CO2削減貢献量」の認知拡大に努め、目指す姿に向けてその貢献拡大を続けてまいります。

投資領域の考え方

⸺事業活動では「車載電池」「空質空調」「サプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェア」の3つの投資領域、中でも「車載電池」については「重点投資領域」と定めて戦略を発表されました

今回、車載電池事業をあえて「重点投資領域」として説明しましたが、これはグループの成長牽引を見込んで、パナソニック ホールディングス(株)(以下、PHD)として行う投資の規模が大きいからです。

発表の中でも触れましたが、必要な資金は事業からのキャッシュフローでまかなうことが基本です。空質空調事業に関しては、管轄するパナソニック(株)内で、またサプライチェーンマネジメント領域を担うBlue Yonderへのボルトオン投資(※)についても、パナソニック コネクト(株)(以下、コネクト)として資金調達などの検討を進めています。ただ、車載電池事業で必要な投資額は事業会社単体でまかなえる範囲を大きく超えており、グループ全体のCO2削減貢献量の6割を占めるのが車載電池事業であるとのPGIの観点も含め、グループの成長に欠かせない要素であるとしてPHDによる投資の判断を行ったのです。

※ボルトオン投資:事業拡充を目的とした投資

車載電池領域では特に、特定のお客様からどんな電池が求められるのか、私たちが複数のお客様からのご要望にどれだけ応えていけるか、技術的な進化や費用面が続くかなど、常に大きく変化する状況の中で見通しを持ちながら対応しています。その中で、まさに今が投資をかけるタイミングだと考えています。社内でもパナソニック エナジー(株)のメンバーと密にコミュニケーションをしており、成長に向けて、業界の中でも打ち勝っていくことのできるポテンシャルがしっかり見えてきました

競争激化が予想される領域ではありますが、基本的に電池は高容量化が進んでも中身のケミカルの進化で対応できます。例えば、画面サイズが変わると次々と新たな工場設備への投資を必要とするディスプレイパネルのようなスケールビジネスとは、性質が異なると考えています。さらに、当社が注力している円筒形車載電池は、高いエネルギー密度と安全性、低コスト、レアメタルレスといった30年にわたり業界をリードする強みに加え、形状の特性上、急速充電時の冷却に適している面もあり、今後さらなる需要拡大を見込んでいます。

生産における競争優位性の観点からも、当社が有する米国ネバダ州の工場では作業者の入れ替わりの多い環境の中にあっても、高いオペレーション力を培っています。今後さらなる能力増も射程に入る中、新たにカンザス州で予定している工場の建設に当たっては、税制優遇や人材確保など、当局からも絶大な支援を頂いています。加えて、昨年度にはLucid社の高級EVやHexagon Purus社の商用車向けの供給も契約締結を果たしたところですが、新たな引き合いも頂いています。生産能力増強に向けた準備も整った今こそ、車載電池事業は本格的成長フェーズへと移行していく時との判断に至ったのです。

空質空調領域では、環境トップランナーである欧州において、競争優位性を持った商品・技術が実を結んでいます。まず、急激に脱ガスが進む社会情勢を背景に、CO2排出削減に寄与するAir-to-Waterの需要が加速しており、地産地消の体制の立ち上げや生産拠点の増設で、グローバル100万台の生産体制へと拡充していきます。欧州冷媒規制に対しても、実は日系メーカーとして初めて自然冷媒の製品を投入しており、将来にわたって競争優位性を構築していくべく、先行メリットを生かしてノウハウを蓄積しているところです。またスウェーデンのSystemair社を買収しており、強みであるチラーと当社の販売プラットフォームとを掛け合わせたライトコマーシャル領域での市場拡大で、欧州でのお役立ち拡大を見込んでいます。

サプライチェーンマネジメントソフトウェアの領域については、3,000社を超える強固な顧客基盤を持ち、豊富なソリューションパッケージや全体最適解を導出する技術を有するBlue Yonderの強みを生かすことが、お役立ちの拡大と環境負荷軽減に直結します。ダンカンCEOが就任以降新たにスタートしているサプライチェーンマネジメントソフトウェアの基盤強化や、コネクトの強みである現場のエッジデバイスから得られるさまざまなデータとの連携による自律化ソリューションによって、さらなる貢献を見込んでいます。

事業活動に関連してもう一つ、「環境」と並ぶグループ共通戦略として重要な軸である「健康・安全・快適」に向けた「くらし」領域での取り組みについてもお話しします。この領域は、パナソニックグループの祖業でもあり、ブランドを牽引していく極めて重要な事業が多く関わっています。私たちのグループは、ショウルームや販売店などのチャネル、商品やサービス、修理サポートなど、お客様との多様な接点を持っています。こうしたつながりと、デジタルの活用を掛け合わせ、お一人おひとりに合った価値を提案できる「くらしのソリューション・プロバイダー」となる、これがこの領域で目指している姿です。具体的な戦略については、明確なアクションプランを検討している最中ですが、デジタルの力を活用しながら「お客様のくらしを誰よりも理解する会社になる」ため、グループのシナジーを生むべく進めていきます。次世代ファミリーコンシェルジュサービスYohanaや次世代事業推進本部を担う執行役員の松岡は、AIやロボティクスのプロフェッショナルでもあり、グループとしてその知見を多いに生かし、データを価値に転じていけると期待しています。

事業ポートフォリオの考え方

⸺成長フェーズに向けては、事業ポートフォリオの見直しを視野に入れた経営を進めると発信されていました。改めてその考え方を教えてください

事業ポートフォリオの見直しや入れ替えはあくまで手段です。目的は株主様、お客様、お取引先様、従業員など、全てのステークホルダーの幸せ、グループの価値向上であることを強調しておきたいと思います。これまでのポートフォリオマネジメントは、いわば不採算事業のカーブアウトのような側面が目立っていたと思います。これからは「グループ共通戦略との適合性」「事業立地や競争力」の2つを軸に、長期視点で検討していきます。

グループの中で将来にわたってお役立ちを果たせる事業は、成長に向けてグループ内で引き続き競争力を高めていきます。一方、グループの外で競争力を獲得した方が成長のスピードを高められ、結果として全てのステークホルダーの幸せにつながる場合もある。そういった見極めのための判断軸を今後具体的に設定した上で、事業ポートフォリオの見直しを今年度中に方向付けし、順次実行していく予定です。

今回の発表で示した図のとおり、「地球環境問題の解決」に資する事業を拡大していくことが、グループ全体での大きな方向性です。もう一つの軸である「お客様一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」へのお役立ちと併せて、2030年度には、グループの売り上げを構成する全ての事業が、いずれかの領域でお役立ちを果たせるよう、事業ごとに社会やお客様への向かい合い方を変革していきます。

これは、現時点において「地球環境問題の解決」と「お客様一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」の領域にない事業を売却したり、終息したりするような話では決してありません。また、今回具体的な事業規模や比率などは示しませんでしたが、この意図としては、当社は数字を追うために事業を推進しているのではなく、競争力を持って「250年計画」の達成に貢献できるかを重視していることにあります。グループが持つ多様な事業の将来を見据え、短期的な課題があればしっかりと対処し、中長期の視点で戦略を見直していく。今後の当社の事業ポートフォリオマネジメントは、こうした視点で行っていきたいと考えています。

写真:グループCEO 楠見

発表の中でも繰り返し申し上げましたが、やはりこれからの10年は、「地球環境問題の解決」こそが最も重要な経営課題であると私自身確信しています。グループとしては、この解決に資する事業を、今後大きく拡大し、お役立ちを広げていくことを社会に向けてお約束した以上、しっかりと実践に移していく所存です。これまでの競争力強化の2年間、そして昨年の新体制移行後、着実に進めてきた活動を踏まえ、グループが目指す姿の解像度を上げて、今年度は成長ステージへとギアチェンジし、使命達成に向けて変革を加速していきます。

Related Videos

記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

シリーズ:
企業・経営
カテゴリ:

注目ニュース

同シリーズの記事