2022年4月に事業会社制に移行したパナソニックグループ。各事業会社がそれぞれの成長領域において事業競争力強化に注力する中、グループの中長期での持続的な成長に貢献する技術開発の方向性や注力領域をどのように捉えるのか。パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCTOの小川 立夫(おがわ たつお)が、技術部門のビジョンを語った。
- パナソニック ホールディングス(株) 技術部門の役割
- サステナビリティとウェルビーイング領域への貢献
- サステナビリティ技術の開発:Panasonic GREEN IMPACTの実現に向けて
- 「くらし」と「しごと」のウェルビーイングに貢献
- イノベーションの加速
・「GHG大気放出ゼロ」に貢献するコア技術
・「廃棄物ゼロ」に貢献するコア技術
・4つのコア領域と支える技術
・コア技術プラットフォームとグループCTOプロジェクト
・ベンチャーキャピタル(VC)とのパートナーシップ
パナソニック ホールディングス(株) 技術部門の役割
4月から事業会社制となり、事業会社それぞれが成長領域での挑戦を続けるパナソニックグループ。パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門(以下、ホールディングス 技術部門)では、長年培ってきた知見を生かして、グループを横断する柔軟なスタイルにより、各事業会社の競争力強化を後押し。さらに個々の事業会社の手の及ばない領域におけるイノベーション創出も推進している。
「技術部門のミッションは『私たちがいなければ生まれなかった世界をつくる』ことです。ホールディングス 技術部門が、各事業会社の技術部門と一体となって、既存事業の深化と新たな事業機会の創出に取り組んでいます」と小川は語る。
グループ全体の未来を俯瞰した上での、将来を見据えた技術の強み構築、全体技術マネジメント、現場力強化――こうした軸から組織横断型のサポートを行うことで、ホールディングス 技術部門はグループにとっての「技術のダム」となり、お客様のお役立ちにつなげることを目指している。
サステナビリティとウェルビーイング領域への貢献
事業会社制への移行に先駆け、ホールディングス 技術部門では2021年10月の時点で、環境関連やソフトウェアのプラットフォームを担当するプラットフォーム本部を創設。組織の垣根を越えた連携体制の構築に努めてきた。そして、中長期の注力領域を「サステナビリティとウェルビーイング」とし、2024年度に向けた研究開発投資の強化を決めた。投資比率を2022年度の63.9%から、2024年度には82.5%へと高めていく。
「地球全体の課題であるサステナブルな地球環境の実現はもちろん、お客様の『くらし』と『しごと』におけるウェルビーイングの実現にも貢献していきたい。これらに対応するための技術は、従来ホールディングス 技術部門で蓄積してきたノウハウを生かしながら開発を進め、併せて各事業会社との連携によるコア技術の磨き上げと、新たな事業機会の創出による競争力強化を推進します」。
サステナビリティ技術の開発:Panasonic GREEN IMPACTの実現に向けて
パナソニックグループは2050年に向けて打ち出した長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」において、現時点の全世界のCO2総排出量の約1%にあたる、3億トン以上の削減インパクトを目指している。
「CO2排出削減インパクトには、自社バリューチェーンにおけるもの(図版①)、既存事業を通じて社会に与えるもの(図版②)などもありますが、私たちホールディングス 技術部門が最も責任を負うのが、『新技術・新事業による社会への排出削減貢献インパクト』――FUTURE IMPACT(図版③)です。この領域は、社会が将来的にクリーンエネルギーへの変革を加速するための鍵を握っており、我々はこの領域に貢献する技術基盤構築に対して戦略投資をしていきます。具体的には、『GHG(※1)大気放出ゼロ』、そして『廃棄物ゼロ』を実現するための技術開発です」。
※1 GHG (Greenhouse Gas):温室効果ガス。削減対象になっているのは、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)の計7種。ホールディングス 技術部門としては、CO2を含む温室効果ガス全体を削減対象としている。
「GHG大気放出ゼロ」に貢献するコア技術
工場や商品の省エネにおいて業界トップクラスの実績を実現していくと共に、創エネにも取り組んでいく。クリーンエネルギーを「創る、貯める・運ぶ、使う」各シーンでの技術開発を強化。3~5年後の各事業会社の商品・サービスづくりへの貢献を目指す。
コア技術:
- 再エネ活用:ペロブスカイト太陽電池(※2)、水電解によるグリーン水素生成(※3)、水素燃料電池
- 需給バランス調整:蓄電池、EVソリューション
- 電化・省エネ:パワーエレクトロニクス
さらには新技術となる「分散型電源管理システム(DERMS)」の開発にも注力する。
DERMSは、再生可能エネルギーの出力が不安定にならないように需給バランスを束ねて管理・調整するシステムだ。EVが普及し、充電のために大量の電気が必要になると、系統電力の安定的な供給が課題となってくる。これを見据えパナソニックグループでは、北米の電力会社に充電ステーション向けのDERMSを提供し、実証実験を進めていく。
「カーボンニュートラルを目指すには多くの克服すべき技術課題があります。困難な技術ではありますが、だからこそ新しいイノベーションが起こりうる分野とも言える。ここにチャレンジしていくことで、社会全体の再生可能エネルギー活用への展開を一日も早く実現し、カーボンニュートラルに近づけるインパクトを担いたいと考えています」。
※2 ペロブスカイト太陽電池:インクジェットでの大面積塗布法を用いた次世代太陽電池。30センチメートル角のモジュールにおいて世界最高のエネルギー変換効率17.9%を達成。建物壁面や窓など、これまで設置できなかった場所にも設置していくことで、再エネ活用を推進する。
※3 水電解によるグリーン水素生成:燃料電池開発で培った技術により、希少金属を使用することなく実現した高性能な水電解デバイス。
「廃棄物ゼロ」に貢献するコア技術
LCA(ライフサイクルアセスメント)を基盤としたモノづくり、エコマテリアル開発、リファービッシュ(再生品の活用)などを進め、サーキュラーエコノミー型事業の創出を目指す。
「樹脂のリサイクル率を高めるほか、設計段階からリファービッシュを視野に入れたモノづくりを増やしていきます。また、セルロースファイバー成形材料などのエコマテリアルの技術をグループ全社に普及させる取り組みにも注力します」。
「くらし」と「しごと」のウェルビーイングに貢献
ウェルビーイングへの貢献としては、これまで家電や住宅分野で培ってきたお客様との接点を重視。家・まち・コミュニティ等の多様な人々が生活する空間において、一人ひとりの豊かなくらしを支えるべく、以下4つのコア領域での取り組みを推進。「からだ・こころ・環境に応じた最適な生活空間」と、「くらし・現場・オフィスの人々がいきいきと働ける社会」の実現を目指す。
4つのコア領域と支える技術
ひとの理解:ひと・くらし・空間の見える化、関係性の見える化
ひと、そしてそのひとを取り巻く環境のセンシングとデータ化、モデル化のサイクルをまわし、ひとに対する深い理解に基づいた価値提供/介入制御を行う。車室空間などにも幅広く展開。
アップデータブルUX:多様な価値観・くらしぶりに応じた継続的な「体験価値」の進化
PDPv2(Panasonic Digital Platform version 2)を核とし、製品・サービスの体験価値を創出するに留まらず、お客様の体験のタイムリーなアップデートを実現。
CPS(サイバーフィジカルシステム):サイバー空間の活用で「くらし」と「しごと」の最適解を高速に高度に実現
くらし、しごとの現場を丸ごとサイバー空間でシミュレーションしながら、可視化、最適化を行うことで、経営に直結する現場課題を解決。B2B顧客の事業経営改善に貢献する「最適オペレーションCPS(※4)」の開発と実装を推進。
人協調・人共存ロボティクス:モノのアクチュエーションでひとを時間と空間の制約から解放
ロボティクスを活用した搬送ソリューションを展開。マニピュレーションの知能化、遠隔運用システム、感性拡張アクチュエーションなどで人手不足などの社会課題解決に貢献。
※4 最適オペレーションCPS:人だけでなく、人を取り巻く環境をまるごとモデル化し、迅速にCPSのなかに取り込んで最適オペレーションを導き出す。オフィスや工場、物流現場などの現場が1日で可視化でき、稼働状況の最適化を導き出す。
イノベーションの加速
コア技術プラットフォームとグループCTOプロジェクト
ホールディングス 技術部門では、サステナビリティやウェルビーイングに関わるプロジェクトを加速するため、各事業会社のCTOと共に、全社共通で育てるコア技術を選定。投資・強化すべき領域の特定とその推進を行っている。
「『コア技術プラットフォーム』として事業会社ごとに関係性があるもの・関係性が強いものを認識した上で、各コア技術をグループ横断で継続的に磨き上げています」。
これらの成長テーマや、事業会社横断で推進する価値のあるテーマについては「グループCTOプロジェクト」として推進。2030年以降の成長領域への布石として、長期的に取り組む。
ベンチャーキャピタル(VC)とのパートナーシップ
ホールディングス 技術部門では、社外からの評価や、場合によっては資金も入れながら、新規事業の成長加速に取り組むべく、VCとも連携した事業創出スキームを新たに構築していく。ホールディングスからのカーブアウトや、ホールディングス外からのカーブインも含め、客観的な価値判断のもと、スピード感を持って取り組んでいく。