2024年10月11日
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パナソニック ホールディングス株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部、パナソニック プロダクションエンジニアリング株式会社(以下、パナソニックグループ)は、京都府福知山市との公民連携により、地元森林の間伐材を原材料として活用した学校給食用の食器を共同開発した。この食器はパナソニックグループが独自開発した植物由来の高濃度セルロースファイバー成形材料「kinari」(キナリ)を用いたもので、2023年9月から福知山市立小中学校(全23校)で約6,700セットの使用が開始されている。従来のプラスチックの代替としてほぼ遜色なく使用ができる性質を持ちながら、半分以上が植物繊維(セルロースファイバー)で構成されているという、サステナブルなバイオプラスチック素材。学校で子どもたちが日常的に使用する給食食器として初めて「kinari」を導入した今回のプロジェクトについて、開発メンバーに実現に至るまでの道のりや思いを聞いた。
パナソニックでは、持続可能な未来に向けた長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の取り組みとして、石油由来樹脂の使用量削減による環境負荷低減を目指し、天然由来のセルロースファイバーを活用した材料開発を進めている。「kinari」はパナソニックグループが2015年から研究開発を続けてきた独自技術で、植物由来のセルロースファイバーを55%以上(最大85%)の高濃度で樹脂に混ぜ込んだ成形材料だ。2021年からはパナソニック ホールディングス株式会社の登録商標として市場でのブランド展開を進めている。
石油由来材料の削減に貢献する新たな素材として注目されているkinari。
生産においてはバージン材ではなく、間伐材、廃紙、コーヒーかすなど、これまで捨てられていたさまざまな植物廃材を原料として活用できることから、先進のエコマテリアルとして評価されている。開発が進む中で、原料の風合いを生かすだけでなく、自由に着色できるようになったことも強みの一つだ。
2018年にはパナソニックのコードレススティック掃除機の構造部品として採用、その後も複数の企業とのコラボレーションを推進してきた。タンブラーやボタン、ハンガーなどさまざまな姿となって世に送り出されている。
kinariの成分比率については、2019年には植物由来成分であるセルロースファイバーを55%濃度で樹脂に混ぜ込む複合加工技術を開発、現在はそこから最大85%の濃度にまで高めることが可能となっている。将来的には「つなぎ樹脂」も含めて100%植物由来、生分解性とするべく、さらなる開発を進めている。
今回、パナソニックグループがkinariの技術を用いて福知山市と共同開発したのは、全23校の同市立小中学校の子どもたちが使う学校給食食器。地元の植物由来の原材料として、森林間伐材(ヒノキ間伐材)が使用されている。公民連携の「学校給食の共創プロジェクト」としては全国初の取り組みだ。
福知山市からの依頼を受け、2022年6月、共創プロジェクト「『人と環境に優しい』環境配慮型学校給食食器開発」がスタート。さまざまな課題を乗り越えながら開発を進め、2023年9月4日から各校での使用が開始された。
kinari開発メンバーの石田 卓輝(いしだ たくき)と西川 剛史(にしかわ たけし)は、この日、福知山市立惇明(じゅんめい)小学校で行われた記念セレモニーに参加。実際に子どもたちが新たな学校給食食器を「おしゃれ」「いい感じ」とうれしそうに手に取るのを目の当たりにし、「この日を心待ちにしていた」と、これまでの取り組みを振り返った。
石田:私は元々、精密機器や掃除機などの樹脂成形金型の開発に携わっており、2022年からはkinariのプロジェクトメンバーとして、ハンガーの開発なども主導しました。
初めてkinariの存在を知ったときは、まずパナソニックで材料開発に取り組んでいるということに驚きました。環境に優しい素材でありながら、プラスチックと同様のモノづくりが可能で、強度も担保できるという特長に新しい可能性を感じました。
kinariはすでに多くの企業さんとコラボレーションしており、原材料に竹、草、植物の実の皮を使うなどの実績がありましたが、今回は学校給食食器の開発ということで、食器のカーブの角度や強度など、これまで経験のなかった課題に取り組ませてもらいました。
西川:これまではスマホ部品やデバイスの材料開発に関わってきました。kinariでは主に営業として既存のお客様への対応から拡販活動も担っています。これまで培ってきた材料に対する知見や分析技術を生かして、お客様の要望を具体的なスペックに落とし込み、素早く受注につなげることがミッションです。今回のように材料の組成の選択やチューニングが必要な場合は、開発部隊とも連携して組成最適化や狙い通りの特性になっているかなどの分析・評価も行います。過去の業務と大きく違うのは、kinariの場合、作ったものをすぐにお客様の元に届けられる、直接手に取って身近な存在として使っていただける、ということですね。
今回の学校給食食器開発においては、洗浄などの従来の学校給食システムを変えることなく、過去の食器と同様に、汚れの落ちやすい形状と強度を確立することが課題でした。
開発に着手したメンバーは、まず学校給食食器としての安全性、利便性(使いやすさ・重さ)、耐久性についてのテストを繰り返していった。
西川:福知山市の学校給食センターさんにも足を運び、従来の食器がどのように洗浄されているのか、現場を直に見せてもらいました。
私たちが一番気を配ったのは、やはり強度面ですね。当然ですが、業務用途となる学校給食食器には、形状全てに意味があります。ご家庭で使っていただく食器とは違い、洗浄時に機械による強い力が加わるため、表面に傷が付かないかなど、何度も分析・改良を加える必要がありました。従来のkinari製品では使ったことのない加工を施すなど試作を重ねましたね。
石田:従来からさまざまな材料で製品化検証をしてきた知見は生かせたと思っています。以前タンブラーを2カ月で約1万個製造した実績がありましたが、今回の取り組みは新規の金型を開発した上で、約3カ月で5種類の食器を約4万枚製造する、というミッションとなりました。製造部門には、ちょっとした色味の違いも許されない、などのこだわるべきポイントをきちんと伝えて、共に品質確保に努めました。
最も苦労したのは、食器を載せるトレーですね。一見、シンプルな形なので簡単に見えるかもしれませんが、大きな面積を持つものを、強度と軽さを両立しながら高い品質で製造するというのは非常に大変でした。
福知山市では、今回のkinariの学校給食食器導入に合わせて、「森林環境学習」を実施。
大橋市長:kinariの存在を知り、地元の間伐材を使って学校給食食器を作れないかと福知山市からパナソニックさんに依頼させてもらいました。地元の木材が学校給食食器に生まれ変わることで、子どもたちにも環境問題をより身近なものとして捉え、SDGsについて考えるきっかけにしてもらえればと思います。
「シンプルな色でかわいい」
「これまでと手触りが違って新鮮」
「地球温暖化が進んでいる中で、環境に良い食器ができたので良かった」
「これまでの食器と比べても違和感がなく、いつも通り食べられた」
「間伐材で食器を作るのは環境に良いことだと初めて知りました。自分も環境を大事にしたい」
「食器に木をそんなに使って大丈夫なのかなと心配でしたが、間伐材を使うことで自然のために良いし、私たちにとっても良いこと。ありがたみを感じます」
石田:今回、児童の皆さんと一緒にkinariの食器で学校給食を食べる機会をいただけたのは本当にありがたかったです。新しい食器を見て、素直に驚いてくださっていました。皆さんの笑顔に直に触れることができ、もっと多くのお客様にkinariの良さを広げていきたいという気持ちが強くなりました。
西川:児童の皆さんが従来の食器と同様に使ってくださっている様子を直接見ることができて良かったです。軽い、おしゃれ、といった感想や、食器が変わったことでよりおいしく学校給食を食べられる、という声もいただき、安心しました。
今後は、納入した食器たちを長期的に運用していくための見極めをしていくフェーズとなります。長くお使いいただいた後に、たとえ食器としての役割を終えることになっても、リサイクルして新しい価値を生み出す、その運用方法の構築を進めていきます。
西川:今後の展開として、福知山市さんとは、学校給食食器以外でのkinari製品の開発についてもお話が進んでいます。
業務用の給食食器という視点では、全国の自治体さんにも展開していければ。今後もお客様のご要望に寄り添いながら、さまざまなニーズにお応えし、「kinari」の活躍の場を広げていきたいですね。
石田:今回、福知山市内の間伐材を活用したことで、地域の木材が含まれている食器として、お子さんたちにも愛着を持って使っていただけるようになったのではないかと思います。
農作物の廃材も原材料として活用できるので、他の自治体さんを含め、さまざまなご相談にお応えできると思います。
将来的には、各市町村の名産を利用したkinari製品を増やして、例えばふるさと納税の返礼品にしていただくなど、離れたところに暮らす人たちにもその地域の自然の風合いを感じられるようなモノづくりができればうれしいですね。
記事の内容は発表時のものです。
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