パナソニックグループコミュニケーションマガジン
幸せの、チカラに。

2025.04.25
パナソニックグループのひと
ノモの国 展示エリア「大地」を知る

自然に戻る植物由来の成形材料「セルロースファイバー kinari」

パナソニックグループが大阪・関西万博に出展するパビリオン「ノモの国」で、子どもたちの内なる力を解き放つ “Unlockエリア”と対をなすのが、五つのユニークな技術展示を行う“大地エリア”。パナソニックのサステナブル素材「kinari」を用いた大型の「リーフオブジェ*」の制作にかかわったメンバーに話を聞きました。

*リーフオブジェは、パビリオンの中でも「Unlockエリア」Zone 2で数多く展示されています、ぜひ会場でご覧ください

山本 英郎

山本 英郎

パナソニックホールディングス株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
成形技術開発センター 研究管理部

大日方 伸 氏

大日方 伸 氏

株式会社積彩 代表

則武 里恵

則武 里恵

100BANCH
オーガナイザー

「この先が見てみたい」。そのワクワクが、コラボのきっかけに。

則武:今回のコラボレーションは、「kinariという素材と、積彩の3Dプリントを組み合わせたら、どんなものができるんだろう?見てみたい!」という好奇心がきっかけです。積彩は、パナソニックが主催する100BANCHのGARAGE Programで2020年に採択されたチームです。当時はまだみんな学生だったのですが、美しい作品を3Dプリントで生み出しており、100BANCHで使用するコップをkinariで作れないかと依頼しました。

山本:イベントで大量の紙コップやプラカップが全てゴミになってしまうのをなんとかしたいと。でもイベントまでに1カ月くらいしかなくて(笑)。

則武:タイトなスケジュールでしたが、イベントに間に合わせていただき、サステナブルなイベントを目指していこうという私たちの願いも叶えてくださいました。それと同時に、kinariはプラスチックのように扱えるのに木のような風合いや質感がある。最初はサステナブルな素材としてしか認識していなかったのですが、使ってこそわかる発見でした。

山本:kinariは、最大85%まで植物繊維を混ぜることができるのが特長です。石油由来のプラスチックの使用を大幅に削減できるため、環境性能が高い素材だと言われています。セルロース繊維が入ることで強度が上がり、リサイクル性が高く再利用しても劣化しにくいという特長もあります。

則武:環境負荷が低くて長く使えるのは、まさにサステナブル素材の理想形。そこに木を感じる面白い風合いもあるなら、もっと大きなものにも使えたり、新しい可能性が広がるんじゃないかな?と思って、積彩とのコラボレーションの話につながっていきました。

ZONE2でも生分解性のkinariを使ったリーフオブジェが空間を演出

未知の面白さ。だからこそ、つきることなくアイデアが生まれる

大日方:声をかけていただいたのが、2022年の終わり頃。私たちのミッションは3Dプリントの可能性をもっと生活や社会にひらいていくこと。この2年間はリーフオブジェに至るまでにも、kinariを使っていろいろな実験や表現にトライすることができました。kinariは、見た目も感触も“木”なのに、曲線も複雑形状も自由自在です。

山本:3Dプリントで作ったプロトタイプを初めて見せてもらった時、とてもワクワクしました。1年目にパーティションと椅子をつくってもらいましたが、空間スケールのものは、型に流してつくる従来の射出成形では考えられなかった展開でした。積彩は、さまざまな材料・デザインを用いて3Dプリントの可能性を広げている会社ですが、木材を主原料としたkinariを扱ってみてどうでしたか?

大日方:私たちにとっても未知な材料でしたので、最初は苦労しました。kinariならではの癖みたいなものがあり、仮説検証を繰り返して、今ではかなり正確に扱えるようになってきました。その過程でkinariチームの皆さんにもたくさん相談させていただきました。

山本:自分でわからないものはkinariチーム内のチャットで相談していたのですが、3Dプリントという新しいチャレンジに対してメンバーも前向きに考えてくれました。「なぜだろう?」と技術者ならではの探究心で考えて見解を送ってきてくれる。まさに「衆知を集める」でした。未知のプロジェクトが「おもしろい」と感じたからこそ、こういうムードが生まれていくのだと思っています。

大日方:3Dプリントの過程で困ったことがあった時にも、お互いがアイデアを自由に、フラットに出し合える関係性を築けていました。大変ではありましたが、どの課題もみんなで解決しようという機運がありました。

則武:フラットに同じ目標を目指せる関係をつくることはコーディネーターとして一番意識していたことでした。上下関係に陥ってしまうと、新しいもの、おもしろいものは生まれません。お互いが自分たちの専門性にプライドを持ちながら、力を合わせていいものをつくることに向き合った結果、課題の中からアイデアが生まれ、新たな価値につながっていく瞬間が何度もあったと思います。

素材の背景にある“人の想い”も含めて、循環させていく

山本:リーフオブジェはものすごくすてきに仕上がりましたね。今回の取り組みでkinariという素材が3Dプリント可能だとわかったことも大きな前進でしたが、それ以上に素材の背景にある「価値の再定義」が大事で、意味のあることだと感じました。素材が持っているストーリーに気づいてもらえるきっかけになってほしいですね。

則武:kinariに出合うまで、樹脂、いわゆるプラスチックはどれも同じだと思っていました。でもkinariは見た目も触った感じも、あたたかみがあり、愛着が持てるというか。こういった感覚が得られるのも、植物由来の素材だからなんじゃないかと思っています。

大日方:あたたかみや植物由来ゆえの不完全は、今だからこそ必要な気がします。工業化が進んだ現代社会には、エラーを嫌って不完全なものを排除しようとする風潮があります。その結果として、身の回りのものや建築、街並みが均質・均一化され、土着性や愛着を持つためのぬくもりが失われてしまっていると思います。そんな現状に疑問符を投げかけ、不完全さをおもしろがってみる姿勢を、展示をきっかけに広げられたらと思います。

則武:kinariで椅子をつくってみた時、素材が植物なので不純物が混ざってしまうという問題が持ち上がりました。初めはみんなで、その異物をどう排除するかを議論していました。しかし出来上がった椅子を見ると、異物が木材の節のような風合いを出していて。最終的に「この不完全性を魅力として捉えよう」ということになりました。

山本:技術的には不純物や汚れを無くしてしまうことも不可能ではない。でもkinariではそれをしたくないと思っています。自然から受け取ったものを、いかに使いこなすかを考えるのが私たちの役割かなと。

大日方:そう。今の世の中は、均質であること、エラーがないことが求められすぎている。でも、素材の“ゆらぎ”とか“むら”みたいなものに、豊かさが宿ると思います。kinariは、そういう問いを投げかけてくれる素材ですよね。植物ならではの表情もそうですが、材料になった植物が生まれ育った土地のこと、目の前にあるオブジェクトが形づくられるまでの背景も愛せるプロダクト、オブジェクトを作っていきたいです。

山本:自分たちの街で育った木や竹が、「こんな形になるんだ、こんな風に使えるんだ」。そんなバックストーリー、素材を私たちに託してくださった方々の想いも含めて、kinariで形にしてく。物質的な循環だけでなく、その過程にある人の想いまで循環させていくことこそが、万博で示すべき720°の循環なのかな、と個人的には思っています。

大地エリアに浮かぶリーフオブジェ(左)、細かく柔らかいパーツは自然にも戻りやすい(右)

則武:これまで廃棄物として処理されてきたような素材や、林業現場で余った小枝や端材、あるいは竹のように増えすぎて手に負えない素材。これまで邪魔者のように思われていたものが、すごく価値のあるものになることは、とても大事なメッセージだと思います。無だったわけでもマイナスだったわけでもなく、“ある”ものだって思えることはとても幸せだと思うから。

リーフオブジェのプロトタイプ

大日方:子どもたちもよく見慣れた「わかっている」ものじゃなくて、わからないものをたくさん万博で見ることになると思います。そんな時に、「これはなんだ?」とザワザワするような気持ちを想起させる体験がつくれたら、面白いなと思います。私たちが持つ万博への想いを乗せた上で、万博後には展示物をリサイクルして次のものにつないでいく。それができて初めて、このプロジェクトを成功と呼べるのかもしれません。「実はこれ大阪・関西万博の展示物を材料にして作られているんですよ」。そんなセリフが、数十年後に再び日本で行われる万博で聞けたらいいですね。

山本:最高ですね。そういう未来につながる、ひとつの“種”としてkinariが根づいたらいいなと思っています。

本記事は、2025年3月31日に「パナソニック ソウゾウノート」に掲載された記事を、本媒体での発信にあわせて、再編集した内容となります。
(転載元:https://youth-note.jpn.panasonic.com/n/n975ad7344111

記事の内容は公開時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更などにより、最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。

Share:

  • Facebook
  • X
  • LinkedIn

More from this series

Recommended articles