
2025.04.25
パナソニックグループのひと
ノモの国 展示エリア「大地」を知る
デジタルが描く自然の癒やし「センサリードーム(空間デザイン)」
シリーズ:
パナソニックグループが大阪・関西万博に出展するパビリオン「ノモの国」で、子どもたちの内なる力を解き放つ “Unlockエリア”と対をなすのが、五つのユニークな技術展示を行う“大地エリア”。 光や風、霧、温度などによる感覚刺激を用いて、「センサリードーム」内部に自然の心地よさを再現しようとしたチームに話を聞きました。

三浦 美賀子
パナソニック株式会社
エレクトリックワークス社
ソリューション開発本部

原 吉輝
パナソニック
ホールディングス株式会社
2025年大阪・関西万博推進委員会

岩谷 成晃 氏
株式会社anno lab

林田 一穂 氏
株式会社anno lab

井原 正裕 氏
株式会社anno lab

共創が生みだしたのは、「ちょっと背伸びした挑戦心」
原:anno labのみなさんとのコラボは今回が2回目。最初は「バイオフィリック*」をテーマとした展示でした。
*バイオフィリック:「自然とつながりを持つこと、調和することを大切にする」という考え方。
三浦:バイオフィリックと大地のコンセプトである「720°の循環」は、強いつながりを持つテーマ。だからこそセンサリードームにおいても、ぜひanno labさんの力を借りたいと思いました。
井原:当社は普段、博物館や科学館で展示されるデジタルコンテンツの制作を行っています。今回のような展示は得意分野ではあるものの、「デジタルの力を生かして、自然を再現する」という抽象的なテーマに、難易度の高さを感じました。
原:テーマの広さと深さ。まさにそこが、この展示の難しいところでした。大地エリアの他の展示は「この技術を用いて、720°の循環をどのように表現しようか?」というお題に向き合っています。一方でセンサリードームのコンテンツに関しては、「この技術を使わないといけない」というしばりがありませんでした。


三浦:観葉植物などダイレクトな自然を取り入れるのではなく、あえてデジタルに自然を再現する。そのためなら、あらゆる手段を使っていい。可能性が無限に広がっているからこそ、着地点を見つけるまでに長い時間がかかりました。
林田:ある程度形が見えてきた段階で「もっとこうしたら」というさらに難易度の高い意見をいただきました。こうした意見が出てくるのは、本気で展示と向き合っている証拠。私たちも本気で応えなくては、というエネルギーをもらっていました。
岩谷:コンテンツづくりに慣れている私たちには、実現可能性の高低が、良くも悪くもアイデア段階で見えてしまう。だからこそ、anno labだけの挑戦であれば、ここまでチャレンジングな展示は生まれませんでした。パナソニック様が引っ張ってくれて、展示が進化していく。そんな可能性の広がりに、共創の意義を感じましたね。
原:みんなが、ちょっとずつ背伸びをしたというか。自分の実力を超えたところに、挑みました。だからこそ、想像以上の展示に仕上がったのだと思います。
霧や木漏れ日、呼吸、ぬくもりをデジタルの力で再現
井原:数えきれないほどの議論を重ね、時には失敗もしながらたどり着いたのが、現在制作を進めている霧と気流、光と呼吸をテーマにしたコンテンツの形でした。
林田:ミストを使った展示は、私が装置の制作を担当しました。水盤のような装置からミストを発生させ、そこに照明を当てる。これによって、朝靄のような、雲海のような「霧のゆらぎ」を楽しめるコンテンツを生み出しました。
三浦:目で見るだけでなく、ミストの中に手を入れてかき混ぜたり、息を吹きかけたりと、いろんな遊び方があるものに仕上がりました。装置の制作、調整にあたっては、どんなところが特に大変でしたか?
林田:ふわふわとして捉え所がないミストだからこそ、思い通りに動いてくれない点が大変でした。特に苦労したのが滞留と拡散のバランス。風が弱すぎるとミストが動かず「しーん」とした感じになってしまうし、逆に強すぎるとうるさく動きすぎてしまう。ミストが装置の中にうまく留まりつつも、ゆらゆら動き続ける。そんなバランスに到達するまでに、すごく時間がかかりました。

ミストの量と気流を制御し、幻想的なゆらぎを生み出す装置

生き物のようなやわらかさ、温かさをもった呼吸玉
原:元々ミストの量だけ制御する予定が、気流の制御も必要になってしまった。難しいお題に応えていただいたおかげで、自然でありつつも見る人を楽しませるコンテンツに仕上がったと思います。もう一つのドームに展示されている「呼吸玉」は、井原さんが担当されました。
井原:「自然の心地よさ」をいろんな角度から考え、木漏れ日の下で眠っている子どもの寝息」というコンセプトをつくりました。すやすやと眠る子どもの胸が上下に動く様子や、ぽかぽかとした陽の光のぬくもりをどうにか表現できないかと試行錯誤した結果、生まれたのが呼吸玉です。
三浦:呼吸玉はやわらかな質感の大きなボール。触ってみるとほんのり温かくて、膨らんだり縮んだりしています。生き物に触れたような、木漏れ日の中に寝転がっているような、なんだか不思議ですよね。
井原:制作にあたっては、前例も正解もないものづくりのむずかしさを実感しました。人が見た時に「自然だ」「心地いい」と思えるという、数値化できないゴール。それをデジタルの力でつくりあげるために、あらゆることを試しました。
原:とりあえずやってみる精神でいくつもの可能性を試す。それをチームメンバーが感性でジャッジする。そうすることで、「これはいけそうだ」という道筋を見つけていく、という作業でしたよね。
岩谷:井原さんや林田さん、チームに関わるメンバーが感性で見つけてくれた、「人が心地よいと感じる状態」を、数値に変換してデジタル上で再現可能にすることが私のミッション。「心地いいパラメーター」を設定し、装置やプログラムの制御を行う部分を担当しました。
井原:ドームに使う照明のコントロールも、岩谷さんが担ってくれました。
岩谷:今回用いているのは「マイクロLED」という、パナソニック様の新しい照明技術です。通常一方向にしか進まない光をコントロールして、一つの光源で多方向を照らしたり、動的な照明演出を行ったりできるのがこの技術の特徴。市場に出ていない製品なので、開発者の方とディスカッションを何度も行って、効果的な用い方を見いだしていきました。
三浦:「自然の心地よさ」を、人の感性というアナログな手法で探っていく。ヒントを見つけたら、それをデジタルに還元して再現し、また感性を用いて観察していく。アナログとデジタルを行き来しながら、地道に展示の形を模索する日々でした。
井原:「これを実現すればいい」という、明確なゴールを持って進んだというよりも、まさに試行錯誤の中で「たどり着いた」のが、現在の展示だと思います。
どう遊び、何を感じるか。答えは子どもたちに委ねてみる
原:人の感性、感覚にどう響くかを考え抜いてつくってきたからこそ、「こう感じてほしい」「こういう体験をしてね」という思惑みたいなものがないのも特徴です。
三浦:もちろん基本的には人が「心地いい」「快適だ」と感じる感覚刺激を用意していますが、極端な話、この場所で得られる感覚を「好きじゃない」と思う子がいてもいい。快だけでなく、少しの不快も含めて、自分の感覚と向き合ってもらうことが大事だなと。
原:センサリードームを見学したとき、私は呼吸玉を触って笑顔になっている三浦さんの姿を見ることで「心地よさ」を感じました。自分が呼吸玉やミストに触れるだけでなく、それを楽しんでいる人の姿からも、「多感覚刺激」を受け取ることができるという新たな発見がありました。
三浦:センサリードームでは、ルールや順序にとらわれることなく、「自由探求」をしてもらいたいと思っています。千差万別の楽しみ方があって、受け取るものも一人ひとり違う。そんな体験を届けていきたいですね。
井原:私はセンサリードームを、公園の「砂場」のようだと感じていて。お城を作ってもいいし、川を掘ってもいいし、ただ砂の音に耳を傾けてもいい。そんな自由な場所になればうれしいですね。ただ自由すぎると「なにをすればいいんだろう?」と感じてしまう人もいるかもしれません。だからこそ、最低限「ミストをかき混ぜてみよう」「呼吸玉を触ってみよう」という、探究心を刺激する仕掛けは、用意しておきたいと考えました。
岩谷:展示や体験、遊びを通して「こういうものを受け取ってほしい」と思うのは、大人ならではの考え。子どもたち自身は、楽しくて新しい体験をしたからといって、得られた成果や感じた成長を、いちいち言語化したりはしませんよね?だからこそ、子どもたちには、子どもたちらしく遊んでもらいたい。ただ、欲を言えば「自然と思えるこれらの体験を、人がつくっている」ということを感じてもらいたいとは思っています。木漏れ日やたき火に私たちは癒やされたり、心地いいと感じたりする。でもそれら「自然」の裏には、木を植えた人、火をつけた人の作為がある。そんなことをぼんやりとでも理解してもらえたらいいな、と個人的には思います。

林田:小さな子どもたちだけでなく、中学生や高校生ぐらい方にも響く展示になるとうれしいですね。「きれい」「心地いい」という感覚だけでなく、「デジタルの力で、自然が再現されているなんて」という驚きや、「どうやっているんだろう?」「誰がつくったんだろう?」という疑問まで。感性だけでなく知性も刺激され、工学やものづくりの分野に進むきっかけになったりするといいなと思っています。
原:答えがないこの空間を、どう楽しんでもらえるか。子どもたちの反応を見るのがとても楽しみです。
*本記事は、2025年3月10日に「パナソニック ソウゾウノート」に掲載された記事を、本媒体での発信にあわせて、再編集した内容となります。
(転載元:https://youth-note.jpn.panasonic.com/n/nfca62b287953)
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