パナソニックグループCEO楠見が語る グループ経営改革の真意

2025年3月31日

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パナソニックグループCEO楠見が語る グループ経営改革の真意

パナソニック ホールディングス(以下、PHD)は2025年2月4日、2024年度第3四半期(以下、3Q)決算の発表と併せ、今後取り組むグループ経営改革について説明した。社会の大きな変化へ柔軟に対応しながら、将来にわたってより良いくらしと社会へのお役立ちを果たし続けるため、組織構造とコスト構造の抜本的な再構築を宣言したグループCEOの楠見。改めて今回の発表に至った思いを聞いた。

――このたびの発表について、改めてその概要と背景を教えてください。

今回、2022年からの3年間で注力してきた現中期戦略の振り返りを踏まえ、改めてパナソニックグループの目指す姿を示すとともに、現在解決すべき課題と早急に取り組まなければならない改革の内容について、社内外へご説明しました。

お伝えしたのは大きく二つ。グループの構造的・本質的課題を解決するために「リーン(※1)な本社・間接部門に向けた固定費構造改革・収益改善」「課題事業(※2)の撲滅」「ソリューション領域への注力」を軸とした抜本的なグループ経営改革に踏み切り、その先に収益目標として2028年度にROE(※3)10%以上、調整後営業利益率10%以上を目指すこと。またグループとして、グローバル競争力を持つ「ソリューション領域」を“注力する領域”、家電を中心とした「スマートライフ領域」と「デバイス領域」を“収益基盤となる領域”と定め、これら三つの領域で、地球上の限りある資源やエネルギーを無駄なく活用する社会とくらしの持続的な発展に貢献していく姿を目指すことです。

※1 「無駄のない状態」の意味
※2 ROIC(投下資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を下回る事業を課題事業と定義
※3 「Return On Equity(自己資本利益率)」の略。投資家が出資した資本に対し、企業がどれだけの利益を上げているかを表す指標

報道やSNS上で、発信内容が部分的に誤解や曲解を含む形で拡散される状況となったことについては、ご関係の皆様にお詫び申し上げるとともに、事実でない情報の拡散が見受けられた点については、改めて当社グループとしての見解を発信(※4)しています。

※4 トピックス発信:本日の一部報道について(2025年2月4日)、一部報道について(2025年2月5日)

現中期戦略(2022~24年度)の最終年度がまだ終わっていないタイミングでの発表、さらに同日公表した3Q決算の内容は、非連結となったオートモーティブ事業を除くベースで(※5)増収増益と比較的順調との見方が多い中、踏み込んだ経営改革の発表に驚きの声も多く頂戴しました。しかし、当社の経営状況は決して満足してよいものではなく、むしろ私は強い危機感を持っています

※5 パナソニック オートモーティブシステムズ(株)の株式譲渡により、同社は2024年12月よりPHDの持分法適用会社Star Japan Acquisition株式会社の子会社となったため、連結対象から除外

現中期戦略で掲げた中期経営指標の目標のうち、スタート当時から最も重視してきた累積営業キャッシュフローについては、3Q時点で目標の2兆円を達成しました。ただし、ROEと累積営業利益の目標は未達の見通しです。現中期戦略を推進する中で、成果や改善が見えた事業もありますが、それ以上に喫緊に解決すべき課題が浮き彫りになってきました。

私がグループCEOに就任した当初からお話ししてきたことですが、当社グループは、過去30年間、売上高・利益ともに成長できていない。営業利益率も5%前後を繰り返し、株主の皆様にご満足いただける水準には全く達しておらず、1984年以来40年間も最高益を更新できていません。これは、社員一人ひとりはすごく頑張っているが、その頑張りが結果に反映される経営になっていないということです。私自身、その責任を重く受け止めていますし、大変申し訳なく思っています。そして、この状態はグループの存続に関わる危機的な状況であり、私をはじめグループ経営陣は、より大きな決意と覚悟を持った経営の舵取りが必要との考えに至った、というのが今回の発表の背景です。

「一定の収益が出ているのに、なぜ今、雇用にまで手をつける改革をするのか」という見方もあるかもしれません。確かに従来、当社は赤字になった時に非常手段として雇用に手をつけてきた経緯があります。しかし、私自身の経験からしても、赤字の経営状況の中で行おうとすると、社員に十分寄り添った対応ができません。それ以上に、余剰の人員を抱えている状況は、効率化のための思い切った創意工夫も生まれず、社員の成長を阻害する状況でもあり、社会からお預かりした貴重な人財を生かせない。これは企業として罪悪であり、したがって、当社グループとしては未経験の改革ではあるけれども、覚悟をもってやりきらねばならないと考えています。

図版:経営改革の五原則

今回の経営改革に当たり、判断を一貫して正しく行うために定めた五原則

――課題が浮き彫りになっているとのお話がありましたが、注視しているポイントを教えてください。

今中期戦略では、車載電池・空質空調(欧州A2W(※6))・SCM(※7)ソフトウェアの3事業を重点投資領域に定め、成長を目指してきました。しかし欧州A2Wは大きな市況の変化の中にあり、車載電池は3年前の中期戦略策定時とは事業環境が大きく変わりました。ただ、EV市場は、鈍化こそすれ今後も成長は続くと見ており、カーメーカー様の需要にあわせ、合意した範囲での投資を行っていきます。そして、SCMソフトウェアは大きな投資が一段落して、今年後半からは攻勢をかけるフェーズとなります。

一方、競争力強化の視点では、各事業会社の成長投資を収益につなげている事業もありますが、多くの事業ではいまだに結果を出せていません。事業会社制への移行から3年がたち、詳細は後で述べますが、グループの固定費構造にも大きな課題が見えてきました。そこで、一刻も早く社員と共に改革の手を打っていかなければならない、との思いで、今年度の終了を待たず、抜本的な改革に着手していくことを社内外にお示ししたのです。

※6 Air To Water。ヒートポンプ給湯暖房機
※7 サプライチェーン・マネジメント

図版:解決すべき課題

従来の当社グループにおける中期戦略のローリングのやり方では、2025年度は次期中期戦略の初年度ですが、今回発表した経営改革に集中し、構造的・本質的課題を解決して基盤を固める年とし、先述した「リーンな本社・間接部門」「課題事業の撲滅」「ソリューションに注力」の三つを軸に、事業ポートフォリオマネジメント(PFM)を加速し、同時に固定費構造の改革による収益改善を図っていきます。

まず一つ目の「リーンな本社・間接部門」について。これは先述した固定費構造の課題そのものですが、PHDやPHDの間接機能を担うパナソニック オペレーショナルエクセレンス(PEX)をはじめ、各事業会社や分社の本社・間接部門コストを大幅に削減するということです。グループ全体で、本社・間接部門を中心に、本当に必要な仕事を見極め、人員を適正化していきます。

事業会社制に伴い、各事業会社が個別に間接機能を強化した結果、今、グループ全体で固定費の増加が利益を圧迫しています。最優先で手を打つべきは、特にこの間接機能における業務の集中・集約とモダナイゼーションです。この3年間のチャレンジで進んだところもありますが、今できていないところを徹底して修正します。2022年に事業会社制への移行を決断した時、私は自分自身が事業トップを務めた際の経験から、事業運営は現場の実態を良く知る事業トップに任せるのが最善と判断し、事業会社や事業部が主役となって競争力を磨く姿を目指してきました。「自主責任経営」に基づいて各事業会社が努力を重ね、経営改革は進展したものの、数字として結果を残せなかった点については、ガバナンスも含めて課題があったと認識しています。今後もグループ体制において事業会社が主役であることは変わりませんが、収益体質の改善に関してはPHDがこれまで以上にしっかり見届け、必要に応じてテコ入れしていきます。外資系企業では、自主責任経営であっても本社がヘッドカウントコントロールに関するガバナンスを効かせているといった例もあり、そのようなやり方も含めて検討しています。先ほども申し上げましたが、余剰に社員を抱え、その人たちがいきいきと仕事をしていない状況にある、あるいはそういう状況に人財を閉じ込めてしまっていることがあるとすれば、社会から人財をお預かりしている、また「人をつくり人を活かす」ことを経営基本方針とする企業として、正しいことをしているとは言えません。グループ内の経営責任者には、「社会から人とお金を預かっている以上、それらを生かしきるのが企業の役割」との意識を改めて強く持つよう伝えています。

二つ目に「課題事業の撲滅」ですが、現状で成長投資段階でもないのに低ROICの課題事業、競合に劣後して競争力の挽回メドが立たない事業、そもそも事業立地が悪い事業については、再建の可否を見極め、再建が見通せない事業は撤退やベストオーナーへの事業承継といった方向付けを加速し、待ったなしの改革を、期限を決めて進めていきます。

そして三つ目、「ソリューションに注力」に関しては、グループがこれから目指す姿として冒頭にお伝えした通りです。今中期戦略で重点投資領域としていた事業の位置づけを見直し、今後はソリューション領域に注力します。さらにデバイス領域とスマートライフ領域を収益基盤と位置付け、それぞれの領域において「注力」と「収益基盤」という役割を明確化します。

図版:グループの目指す姿

事業会社制の下で育ててきたグローバルで強いソリューション領域の事業。これらは創業以来の歴史の中で培われた技術やお客様との関係性によって、現在3.5兆円の規模があります。今後この領域は、製品やシステムの導入だけではなく、コンサルティングや運用、サービスまで一気通貫でお役立ちを果たし、長期での提案と課題の解決によって顧客価値を最大化する姿に進化していきます。1月のCESで発表した「Panasonic Go」というイニシアティブの下でソリューションを進化させ、さらに多様なお客様との接点をつなぎ合わせ、グループ全体でシナジーを創出しながら、グローバルで競争力の高い事業、特にエネルギーとSCMのソリューションで成長を図り、それぞれの事業で最終的には2桁の調整後営業利益率を目指します。

図版:ソリューション領域:顧客起点でワンストップの価値提供

――今回の改革では、事業会社の一つであるパナソニック株式会社(以下、PC)の解消も発表されました。その意図をお聞かせください。

今回、PCを発展的に解消することを発表しましたが、これも、ソリューション領域においてくらし事業の枠を超え、グループ全体でシナジーを創出することが狙いです

図版:くらし事業の枠を超えグループ全体でシナジー創出

当初、PCはくらし事業のシナジー創出を狙い、五つの分社を傘下に発足しました。しかし業界の変化は速く、お客様の課題は複雑・高度化し、くらし事業の範囲だけではお客様課題に向き合うことが難しくなっているのが現状です。現在、国内ではPCのエレクトリックワークス社とパナソニック コネクト株式会社の現場ソリューションの連携強化も進んでおり、さまざまな引き合いが出始めています。またパナソニック コネクトのBlue YonderとPCのコールドチェーンソリューションズ社の米国ハスマンには、共通の食品小売業のお客様がいるので、将来的にはフードサプライチェーンの視点での新たな価値創出にも期待できる。今後このようなグループシナジーを加速していくには、くらし事業の範囲をこえた顧客課題や社会課題にグループワイドで向き合う体制に変える必要があり、今回の解消の判断に至りました。空質空調社とコールドチェーンソリューションズ社は、技術のシナジーを図る観点から、一つの事業会社としてスタートする予定です。

新たに事業会社となるPC傘下の各社には、ソリューション領域のシナジー創出を含むグループ全体最適視点をこれまで以上に持ちながら、自主責任経営を徹底し、グループの成長加速に寄与させていきます。

また、家電事業は、海外のみならず国内でも競争が激化、相対的に競争力が低下傾向にあるため、これまで中国で磨いてきた技術力と設計力を使って、「ジャパンクオリティ」を世界で戦えるグローバル標準コストで実現し、収益力向上を図っていきます。まず、中国と日本の量産設計には重複があるため、中国のサプライチェーンを徹底的に活用した商品を各地域に展開してコスト競争力を高めるべく、日中連携のもとで日本の量産開発リソースの適正化を進めます。また、国内間接部門の業務効率化・スリム化とともに、国内マーケティング体制も徹底してお客様起点で正味付加価値を追求し、効率化とリソースの適正化を行います。

――かなり大きなインパクトを伴う経営改革だと思います。この改革の先に、グループとしてどのような姿を描いているのでしょうか。

2025年度は経営改革に集中して取り組み、第4四半期には新たな体制のバーチャル運用をスタートする予定です。先述した三つの取り組みを通して固定費構造改革および収益改善を図るとともに、事業ポートフォリオマネジメントを加速し、対2024年度比(※8)で、2026年度には1,500億円、2028年度には累計で3,000億円以上の収益改善効果を見込みます。収益の目標目線としては、2028年度には今度こそROE10%の必達、調整後営業利益で10%を目指します。

※8 2024年度 第3四半期時点の調整後営業利益の見込みに対して

この改革を完遂する上で欠かせないのが、データ・AIの利活用です。グループ全体の生産性を徹底して高めること、そしてソリューション領域で競争力の高いソリューションをお客様に提供し、ソフトウェア・AIソリューションによるビジネスを、2035年までにグループ全体の30%まで拡大を目指します。生成AIを的確に使いこなせば、業務によってはその効率や質が何倍にも上がり得る、このことに異を唱える人はもはやいないでしょう。この領域の技術は時々刻々進化しており、これから新たに社会人となる世代は生成AIネイティブと言えるほど、現代の社会に浸透してきています。本当の意味でデータやAIが使いこなせる組織や集団でなければ、これからの時代をリードしていく存在にはなり得ない。この目標の実現に向け、DXも包括した企業変革プロジェクトであるPX、そしてこれからその中核をなすPanasonic Goというイニシアティブの下、グループを挙げて収益構造やビジネスモデルの転換を図っていきます

そしてもう一つ、組織カルチャーも変えていきます。改善に改善を重ねて変化していくことの重要性は、これまでも重ねて申し上げてきたことですが、まだカルチャーとして根づいてはいない。いったん決めたら、その枠組みに従う風土が根強く残っています。業務の効率や質を上げるために、一人ひとりが主体的に変え続ける、変わり続ける組織にならなければならない。変化を美徳として捉えるくらいにならなければいけないと考えています。そのために、長年積み重なったしがらみに囚われず、多くの社員のポテンシャルが「UNLOCK」された状態へと変革することは、この戦略実現に当たっても非常に重要です。

写真:グループCEO 楠見

社会からお預かりした社員の皆さん一人ひとりの努力と挑戦が、世界中のお客様の幸せにつながり、社会から「なくてはならない存在」として評価いただく――それがこの改革によって実現したいグループの姿でもあります。この経営改革が達成した暁には、グループ社員全員が胸を張って「高収益な事業の集合体」「グローバルで競争力の高い事業の集合体」としてのパナソニックグループであると誇ることができるはず。「かつてない難局はかつてない発展の基礎」との創業者・松下幸之助の言葉があります。グループが次の世代につながる発展を果たすため、痛みも伴いますが、意義を理解いただきながら社員の皆さんと一丸となって、この経営改革を完遂に向け推進していきます。

記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更などにより、最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。

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