2024年4月26日

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【Aim Higher】バレーボール日本代表 西田有志選手~唯一無二の存在へ 今の自分を超えていく

元バレーボール日本代表の福澤 達哉が、挑戦を続ける人にインタビューを行うシリーズ「Aim Higher(エイム・ハイヤー)」。今回は、高い跳躍力と最速120キロを超える攻撃的なサーブを武器にエースとして活躍し、バレーボール日本代表の躍進をけん引する西田 有志選手にインタビュー。アタッカーとしては、世界を基準に見れば圧倒的に小さい186cmという身長ながら、どうやって世界のトッププレーヤーにまで上り詰めたのか。結果を出すためのマインドセットや困難に対する向き合い方、メダル獲得が期待されるパリ2024オリンピックに懸ける思いに迫る。

Profile

写真:西田 有志(にしだ ゆうじ)

西田 有志(にしだ ゆうじ)

2000年1月30日生まれ。三重県出身。2018年に高卒内定選手としてVリーグのジェイテクトSTINGSに入団。2019–20シーズンに最高殊勲選手賞、得点王、サーブ賞を獲得し、チームを初優勝に導く。その後、イタリア・セリエAでキャリアを積み、2023年からパナソニック パンサーズ所属。また、バレーボール日本代表の主軸として活躍し、ワールドカップバレー2019で「ベストオポジット」「ベストサーバー」を受賞。東京2020オリンピックでは決勝トーナメント進出に貢献。パリ2024オリンピックで52年ぶりのメダル獲得を目指す。

やるべきことを明確に その日のベストを尽くす

福澤:初めてお会いしたのは西田選手が日本代表にデビューした2018年。高校を卒業されたばかりで、チーム最年少と最年長の関係で世界を相手に共に戦ってきました。年齢差が13あるので、息子のような感覚すらありますが……今日は仕事なので、敬語でインタビューさせていただきます(笑)。

西田:なんか不思議な感じですね(笑)。

福澤:今シーズンからパナソニック パンサーズに加入し、中心選手として活躍されています。プロとしてのキャリアを考えると、契約金額や練習環境、優勝を狙えるかなど、チームに求める条件は非常に重要だと思いますが、決め手は何だったのでしょうか。

西田:プロなので金額面も大事ですが、それと同じくらい、練習の質を求めています。毎日いい練習ができるからこそ試合に勝てるし、成長もできるので、監督やコーチ、選手を含め、練習環境は重要です。チーム方針と自分の求める条件が一致したのが、パナソニック パンサーズでした。

写真:福澤 達哉(写真左)、西田 有志選手

福澤:バレーボール選手としてのキャリアをスタートしてから、たった5、6年で世界からも注目されるトッププレーヤーに。周囲が期待する以上のスピードで成長してこられましたが、結果を出すために大事にしていることはありますか。

西田:日々の準備や練習の質にこだわり、その時に自分ができる100%を出し続けることを心がけています。この6年間でオリンピックに出たり、世界大会でメダルを獲得したり、一見すると順風満帆なキャリアに見えますが、毎年のようにケガにも悩まされてきました。そうした時でも、その日の自分のベストを尽くし続ければ、必ず良くなっていくはずだという考えでやっています。

福澤:口で言うのは簡単ですが、努力し続けることが一番難しいと感じる人も多いと思います。

西田:私はそこに対してのストレスとか、キツいと感じることがあまりないんですよね。ただひたすら昨日の自分を超えるために、やるべきことを明確にし、努力を重ねてきました

写真:試合中の西田 有志選手

誰かのまねではなく 自分のスタイルを追求する

福澤:海外に挑戦する日本人選手も年々増えてきていますが、こうした傾向についてはどう思いますか。

西田:海外でプレーする選手が増えるのは、日本のバレーボール界にとっても良いことです。ただ、何を求めて挑戦するのかは明確にした方がいい。私は、自分の技やフィジカルが世界最高峰のリーグでも通用するのかを確かめるために、1シーズン、イタリアでプレーしました。この経験を通して、どんな相手でもパワーで対等に勝負できるという自信がつきましたし、海外の方が性に合うと感じる部分もありました。ですが同時に、これを続けていたら選手寿命が短くなりそうだという危機感を覚えました。

福澤:あまり聞いたことがない視点ですね。どういった危機感でしょうか。

西田:力と力で勝負する海外のプレースタイルに対応する中で、無意識のうちに高さとパワーで押し切るプレーヤーになってしまっていると感じたんです。バレーボール選手の中では身長が低いので、それだけだとどこかで必ず壁にぶつかる。その壁を乗り越えるために、自分に必要なものは何かと考えると、「技術」や「うまさ」じゃないかと。であれば、細かいスキルのクオリティが高い日本でプレーした方がいいと考えました。

写真:試合中の西田 有志選手とチームメイト

福澤:海外に行けば、大きくステップアップできるかもしれないという期待もある中で、西田選手のように冷静に判断し、自分に最適な場所を選択するというのは、簡単そうで意外とできない。自己分析がしっかりできていますね。プロとして描く理想の選手像はありますか。

西田:一番点数を取るオポジットというポジションにおいて、この身長で世界のトップまで上り詰めた選手はいません。そこに挑むことが重要で、誰かのまねをするのではなく、唯一無二の選手になりたいと思っています。誰よりもうまくなりたい、強くなりたいという気持ちでストイックにやっていきたいですね。

福澤:注目されるようになっても「西田らしさ」を貫いているように見えるのは、そうした考えがベースにあるからなんですね。初めて会った時に、誰に対しても物おじせず、自分の世界をしっかり持っている姿を見て、「西田はそのままいけよ!」って言ったのを思い出しました(笑)。

西田:懐かしい! めっちゃ言ってくれていましたね。ありのままの自分をさらけ出し、それを認めてもらえる選手になりたいと思っています。

写真:試合中の西田 有志選手

福澤:競技をする上でのモチベーションや原動力は何ですか。

西田:夢を実現していく姿を見せることで、周りの人にも夢や勇気を届けることができるのは大きなモチベーションになっています。例えば、車が大好きなので、すごい高級車に乗り、バレーボール選手って稼げるという一面を見せていきたい。ベタかもしれませんが、分かりやすく選手としての価値を上げていくことも必要だと思っています。派手に見える分、それに見合う結果を出さなければ非難されるかもしれませんが、それが結果を貪欲に求める原動力になっていく。海外だと当たり前にあるハングリー精神が、日本のバレーボール界にはまだまだ足りないと感じています。

福澤:確かに、私もブラジルでプレーしていた時に同様のことを感じました。彼らは自分の人生や目の前の生活を懸けてバレーボールをやっていました。

西田:昭和の考え方が好きで、その時代にカッコいいと言われていた男性像に憧れるんですよね。

福澤:何年生まれだった?

西田:平成12年生まれのゆとり世代です(笑)。

写真:福澤 達哉(写真左)、西田 有志選手

最高の舞台を「楽しむ」ことで、世界の頂点へ

福澤:原因不明の体調不良で長期離脱を余儀なくされ、思うようなプレーができない時期もありましたが、困難をどう乗り越えたのでしょうか。

西田:試合に出たくても体が言うことを聞かず、どうすることもできない状況で、オリンピック最終予選も正直諦めていました。ちょうどその時期に闘病していた藤井さん(※)とよく電話していました。自分よりも辛い思いをしているのに、いつも励ましてくれ、大きな支えとなっていました。また、何でもいいから体にいいことをしようと、日光浴から始まり、食事の見直しや睡眠の質を上げる寝具の購入など、健康への意識が高まり、丁寧なくらしを心がけるようになりました。

※藤井 直伸(享年31歳)、東京オリンピック代表セッター。躍進する男子バレーの礎を築く。

福澤:大きな目標を掲げるのではなく、目の前のできることを一つ一つクリアすることに注力したんですね。

西田:そこから精神的に楽になりましたね。結局、気持ちって自分次第なんだなと気付きました。だから、うまくいかないときは無理して追い込まない方がいい

福澤:時に引く勇気も必要だと。

西田:そのさじ加減は難しいですけどね。でも、この経験がきっかけでより自分の体を大事にするようになったし、アスリートとしての幅が広がったと感じています。

写真:福澤 達哉

福澤:今年はいよいよパリ2024オリンピックが開催されます。

西田:ここからは結果が全て。本戦までの短期間で、気持ちを高めて追い込めるかどうかがすごく大切になってきます。うまくいかない時期もあるかもしれませんが、そういう時の乗り越え方や運も味方に付けないといけません。

福澤:1972年のミュンヘンオリンピック以来、52年ぶりのメダル獲得という大きな目標に、全員がリアリティを感じられるかどうかも大きなポイントになってきそうです。

西田:昨年、世界大会で46年ぶりの銅メダルを獲得するなど、チームとして着実に目標に近づいていると感じています。でも、どの国の選手も人生を懸けて100%以上の力でぶつかってきます。そこで勝つことは決して簡単ではないという認識と覚悟は持たないといけません。一方、挑戦できる楽しさも感じています。

写真:西田 有志選手

福澤:日本代表を見ていても、選手が感じるワクワク感というのはすごく伝わってきます。

西田:オリンピックで勝つためには実力以上の「何か」が必要だというのは、東京オリンピックで経験しました。パリオリンピックはその何かをつかんだ状態で挑みたいですね。

福澤:何が一番大事だと思いますか。

西田:「楽しむ」ことでしょうか。東京オリンピックでフランス代表が金メダルを獲得した時も、全員が心の底からバレーボールを楽しんでいるように見えました。パリオリンピック最終予選でも味わった、不安やプレッシャーで押しつぶされそうな極限状態でさえ楽しむことができるかどうか。日本代表もそういう感覚はつかみ始めています。

福澤:西田選手にとって二度目の挑戦、どんなオリンピックにしたいですか。

西田:人生を懸けてやってきたからこそ、ただ勝つだけではなく、バレーボールを最高に楽しむ場にしたい。その上で、絶対にメダルを取りにいきます。簡単な道ではないからこそやりがいがあるし、日々自分を更新する努力をし続けることができる。自分が信じて進んできた道がオリンピックにどうつながるのか、ワクワクしかないですね。

写真:西田 有志選手(写真左)、福澤 達哉

Interviewer & Writer

福澤 達哉(ふくざわ たつや)

元バレーボール日本代表。2008年に北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団。国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。2015~2016年にブラジル、2019~2021年にフランスリーグでプレーするなど海外にも活躍の場を広げる。2021年8月、現役引退。現在、パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株)で広報を担当している。

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