2024.06.26
Meet The Athletes
「障がい者」とひとくくりにしない、それぞれが持つ強みを最大限に生かす
パナソニックグループの社員がパナソニックアスリートに直撃インタビューする本企画。今回は、これまでに7個のパラリンピック金メダルと16個の世界選手権金メダルに輝いている車いす陸上女子英国代表のHannah Cockroft(ハナ・コックロフト)選手。パラアスリートのマインドセットや競技との向き合い方、DEI(※)で大切なことなど、パナソニック インダストリー株式会社所属で、自身もパラアスリートとして活躍する保田 明日美(やすだ あすみ)さんが迫る。
※「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称
Hannah Cockroft(ハナ・コックロフト)
1992年7月30日、英国・ヨークシャー生まれ。車いす陸上女子英国代表。12歳でパラ陸上を始め、過去3度のパラリンピックに出場し、7個の金メダルを獲得。2017年にパラアスリートとして初めて英国年間最優秀スポーツウーマン賞を受賞。パラアスリート代表として、さまざまなイベントで講演する機会も多い。
2023年からサステナビリティとインクルージョンのアンバサダーとしてTeam Panasonic(※)に加わり、パナソニックグループと共にサステナブルな地球環境の推進に取り組む。
※Team Panasonicは、パナソニックとアスリートが互いに理念を共有、共感して認め合い、切磋琢磨しながらオリンピック・パラリンピックムーブメントの醸成や社会貢献活動に取り組むチーム
保田 明日美(やすだ あすみ)
パナソニック インダストリー株式会社 電子材料人事・総務部
2019年入社。電子材料事業部 四日市工場の人事として、事業場人事業務全般に従事。
2018年にパラ陸上と出会い、2022年に女子400メートル(義足T63)で世界新記録を樹立。2023年からパラトライアスロンにも挑戦し、翌年のアジア選手権では初出場ながら2位入賞を果たす。現在は、陸上(100メートル・走幅跳)とトライアスロンの二刀流でパラリンピック出場を目指す。
保田
5月に開催された世界パラ陸上での金メダル獲得、おめでとうございます。レースを見に行きましたが、すごくパワフルな走りで圧勝している姿に感動しました。私も義足のパラ陸上選手として活動しているのですが、レースに挑む上で大切にしていることや、勝つための秘訣はありますか。
Hannah
結果を出すためには、ハードワークがすごく大切です。でも、それと同じくらい「楽しんでやる」ということを心がけています。私は車いすに乗るのが本当に大好きなので、練習で自分を追い込むことも、どれだけ速く押せるかに挑戦することも楽しくて仕方がありません。苦しさの中にも楽しさを見いだすことができれば、必ず成功できると信じています。
保田
とても共感します。辛いだけでは続けられないですよね。大きな困難や挫折に直面した時はどう乗り越えていますか。
Hannah
私はチームをすごく信頼しています。仮にうまくいかないことがあっても、コーチや心理学者、チームスタッフなど、多くの仲間が自分に足りない部分や良かった点などを率直に伝えてくれます。そうした意見は非常に大切で、自分が何をすべきかを思い出させてくれます。チーム全員が同じ夢と目標を持ち、互いに足りない部分を補いながら強い気持ちで向かっていけることが私たちの強さであり、それが結果にもつながっていると思います。
保田
Hannah選手が情熱を持って挑戦しているからこそ、その思いに共感する仲間が自然と集まってくるんだと思います。
Hannah
そうかもしれません。周囲の期待や大きなプレッシャーも感じますが、信頼できる仲間と一緒に挑戦できるのはすごく幸せなことだと感じています。
保田
世界パラ陸上が初めて日本で開催されましたが、大会の盛り上がりはいかがでしたか。
Hannah
もともと2019年に開催される予定がずっと延期になっていたので、ようやく来日できました。大会の盛り上がりも素晴らしく、期間中に約6,000人の子どもたちが観戦に来てくれたそうですが、イギリスでもなかなかないことなので、とても感動しました。
保田
2012年のロンドン大会はパラリンピックへの注目度が非常に高く、オリンピックに引けを取らない盛り上がりで、「史上最高」の大会とも言われています。なぜそこまで盛り上がったのでしょうか。
Hannah
イギリスはパラリンピック発祥の地ということもあり、自国での開催を盛り上げるために、国を挙げてさまざまな施策を打ち出しました。教育プログラムの導入やテレビCM、メディアの報道などによって障がい者に対する見方が大きく変わり、多くの人々の関心を集めてパラリンピック史上最多となる約280万枚の観戦チケットが完売しました。メインスタジアムで行われた陸上競技では、予選・決勝共に毎日8万人の観客が詰めかけ、英国代表選手が登場すると会場が揺れるほどの歓声が上がるなど、当時20歳で初めてパラリンピックに出場した私にとっても、すごくエキサイティングで最高の舞台だったのを覚えています。
保田
大変な数ですね。パラスポーツの熱狂が人々の意識や社会を変えたというのが素晴らしいです。
Hannah
でも最近は、そうした盛り上がりやムーブメントもロンドン大会前の状態に戻ってきているような気がし、残念に感じています。パリ2024大会はイギリスにも近いので、このチャンスを生かして再び盛り上げていけるように頑張ります。
保田
車いすの移動や手段など、障がいのある人へのサポート環境について、日本の印象はいかがでしょうか。
Hannah
まず、世界パラ陸上の広告を至る所で目にしたのは驚きでした。日本の方々はとても協力的で、スーパーマーケットでも声を掛けてもらえたりと、私たちパラリンピックチームが歓迎されているのを感じることができ、とてもうれしかったです。移動に関してもすごく快適で、地下鉄などの電車も利用しましたが、改札は広く、車内も十分なスペースが確保されています。スロープやエレベーターへのアクセスもスムーズで、母国のイギリスよりも日本の方が良いと感じました。
保田
イギリスをはじめ欧州はDEIが進んでいる印象があったので、意外です。
Hannah
イギリスは遺産登録されている古い建物や石畳の道が多いので、障がい者にやさしい環境へすぐに整備することが難しいのも大きな課題です。車いすだと大変に感じることもあります。
保田
インフラ整備だけでなく、周りの理解や協力も必要不可欠だと感じます。例えば、階段で荷物を運んでいる時に手伝ってくれたり、電車で席を譲ってくれたり、日常のほんのちょっとしたサポートがあるだけで、すごく助かりますよね。
Hannah
とても大事なポイントだと思います。
保田
障がいのある方が職場やスポーツの世界で成功するためには、どのような支援が必要だと思いますか。
Hannah
企業や職場では「障がい者」としてひとくくりにしてしまいがちですが、それぞれに個性があり、その個性や特徴をきちんと理解して正しい行動をする必要があります。そのためには、どんな支援が必要かを率直に聞くなど、コミュニケーションの機会を多く持つことが大事ですね。
保田
相手にただ理解してもらうだけではなく、障がい者側からもコミュニケーションを図り、相互理解を深めることがすごく大事だと、私も日々感じています。
Hannah
私もそう思います。パラスポーツなどの機会もうまく利用して積極的に発信し、興味関心を持ってもらうことで、一人ひとりの行動変容につながればいいなと思います。
保田
今日はパナソニックミュージアムを見学されましたが、パナソニックグループの印象はいかがですか。
Hannah
創業の歴史やその背景にある価値観、人を大切にする姿勢に大きな感銘を受けましたし、自分のやりたいことや可能性を信じてチームで金メダルを目指している私たちとも通じる部分があると感じました。Team Panasonicアスリートとして歴史あるパナソニックグループの一員になれ、本当に光栄です。
保田
創業者・松下幸之助の「物をつくる前に人をつくる」という言葉にもあるように、パナソニックグループは人を大切にする会社。それを感じてもらえてすごくうれしいです。もう一つ「全ての人に天分が与えられている。この天分を生かすこと、そこに人間としての成功がある」という言葉もありますが、これは現在のDEIにも通じる点があると感じています。
Hannah
いい言葉ですね。私たちはみんな違う能力を持っているので、必ずその人だからこそできることがあり、それを最大限に生かしていくことがすごく大事だと思います。
保田
今年はパリ2024大会が開催されます。パラアスリートとしての目標や夢は何でしょうか。
Hannah
私の夢は、いつだって金メダルを取ることです。パリ2024大会では、100mと800mで金メダルを取ることはもちろん、チャンスがあればユニバーサルリレー(※)のメンバーにもなりたい。そのために自分ができることは何でもやる覚悟ができています。
※視覚障害、義足または機能障害、脳性まひ、車いすの順に男女2人ずつ計4人で走る混合リレー。パラ陸上オリジナル競技。
保田
パラスポーツがもっと盛り上がり、一人でも多くの人に魅力や価値が伝わるとうれしいです。
Hannah
今は残念ながら、パラスポーツが注目されて盛り上がるのは4年に1度のパラリンピックの時のみです。ほぼ毎日テレビで見ることができるサッカーのように、もっとパラスポーツを楽しむ機会を増やすことができれば、その魅力はきっと伝わり、障がいに対する意識や価値観も変わるはず。パラアスリートとして結果を出すことはもちろん、人々の関心を引きつける発信をし、広くいろんな人に知ってもらうことで、共生社会の実現につなげる努力をしていきたいと思います。
保田
私も頑張ります。ありがとうございました。
Interviewer’s Voice
Hannah選手はとてもフレンドリーで、終始笑顔を絶やさない活力あふれる方でした。
インタビューでは長年トップを走り続けるアスリートのマインドを知ることができ、同じパラアスリートとしても刺激をいただきました。いよいよ8月に開幕するパリパラリンピック。全力で応援しています!(保田)
記事の内容は公開時のものです。
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