2024年10月30日
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元バレーボール日本代表の福澤 達哉が、挑戦を続ける人にインタビューを行うシリーズ「Aim Higher(エイム・ハイヤー)」。今回は、世界トップの女子競泳選手であるオリンピアンのケイティ・レデッキー選手にインタビュー。現在26歳の彼女は、15歳でロンドンオリンピックの金メダルを獲得して以来、トップアスリートとして第一線で活躍し続けている。また、教育者の一面も持ち、パナソニックグループとのパートナーシップの下、若い世代を対象としたSTEM教育の独自プログラムを展開中だ。彼女がこれまで大切にしてきたことや競技に懸ける思い、若きアスリートや未来を担う世代へのメッセージを聞いた。
Katie Ledecky(ケイティ・レデッキー)
米国代表の競泳選手。6歳から水泳を始める。ロンドン2012オリンピック、リオ2016オリンピック、東京2020オリンピックに出場し、合計7個の金メダルを獲得。世界水泳選手権では、史上最多となる16個の個人種目金メダルを含む計21個の金メダルを獲得している。
トップアスリートとして活躍する一方で、若者を対象とした教育にも高い関心を持ち、パナソニックグループと共にSTEM教育の取り組みを展開。2021年にスタンフォード大学で心理学の学士号を取得している。
福澤 達哉(ふくざわ たつや)
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 コーポレート広報センター
元バレーボール日本代表。2008年に北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団し、国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。2015~2016年にブラジル、2019~2021年にフランスリーグでプレーするなど海外にも活躍の場を広げる。2021年8月、現役引退。現在パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株)で広報を担当。
福澤:ようこそ日本へ。そして世界水泳選手権2023福岡大会でのメダル獲得(金メダル2個、銀メダル2個)、おめでとうございます。
レデッキー選手:ありがとうございます。世界選手権では、たくさんの熱狂的な声援を頂き、素晴らしい結果をつかむことができました。私は日本が大好きです。日本に来るのは3回目。2018年のパンパシフィック水泳選手権、2021年の東京2020オリンピック、そして今年、2023年の世界水泳選手権です。 その中でも、おそらく今回が一番、日本の文化を体験し、いろいろな人に出会うことができたと思っています。2021年はコロナ禍の影響でこうした経験はできなかったのですが、今回はできる限り東京を巡り、その全てを満喫しています。とても美しい場所で、見るべきものがたくさんあり、人々も親切で、フレンドリー。日本に来るたびに楽しい思い出ができるので、また来たいですね。
福澤:私もバレーボール選手として長年勝負の世界にいましたが、ケイティさんは厳しい競争をどう勝ち抜いてきたのでしょうか。
レデッキー選手:私はトレーニングが大好きで、競技のためなら努力を惜しみません。だからこそ自信を持ってスターティングブロックに立つことができるし、水中に飛び込んで世界トップレベルの選手と競っている間も、自分が一生懸命練習してきたことを発揮できます。
競技大会そのものも好きですし、米国と応援してくれる皆さんを代表して競えることも大好きです。皆さんの応援があるからこそ、世界水準で泳ぎ続け、常にベストを尽くそうという気持ちになれます。
福澤:オリンピックや世界選手権で、これまで数多くのメダルを獲得されてきました。アスリートにとって金メダルは一つのゴールだと思いますが、最高の結果を手にした後でも、高いモチベーションを維持し続ける秘訣(ひけつ)はありますか。
レデッキー選手:小さな目標ではなく、大きな目標を掲げることで、モチベーションを高めています。そして、その目標を達成するために何に取り組むべきかを考えます。目標到達に必要なステップを考えずに、ただ目標を決めることはしません。コーチともそういった会話をよくします。
本当に素晴らしいチームメイトが周囲にいて、日々、私の背中を押してくれます。そのおかげで今のレベルに到達し、メダルを獲得するなどの大きな目標を達成できています。
福澤:最初に大きなゴールをセットし、それを達成するために、目の前のステップを一つずつクリアしてきたのですね。
レデッキー選手:そうです。特にオリンピックを目指す選手にとっては、大会が何年も先になるかもしれないため、自分の成長を確認し、自信を得るためのベンチマークが必要です。ですから、今回の世界選手権は、私にとってパリ2024オリンピックへの素晴らしい足掛かりとなりました。
福澤:世界選手権やオリンピックをはじめ、数多くの挑戦をされてきたと思いますが、挑戦の一番の原動力は何ですか。
レデッキー選手:自分ができる「ベスト」を目指すことです。私は常に成長していたいし、日々成長を確認しながら、自身を改善しようと努めています。テクニックやタイム、トレーニング方法、戦い方など、肉体と精神のあらゆる側面を改善することが重要です。改善できる要素は常にあるので、チームメイトと協力してそれを探すことにモチベーションを感じます。特に私が泳ぐ長距離種目では、10分の1秒や100分の1秒の小さな改善が、大きな違いにつながります。
福澤:金メダルという一つの結果にコミットするというよりは、挑戦する過程で、自身の改善点を発見し、常に改善のための努力を重ね、突き詰めてきたということですね。
レデッキー選手:そうですね。正直、メダルのことはあまり考えず、目の前のことに集中しています。水泳の練習やトレーニングを日々改善し、積み重ねることにより、年々良くなっていくと信じています。その結果、素晴らしいシーズン、素晴らしい一年、そして運が良ければ素晴らしいオリンピックにつながる。日々の挑戦が最終的に大きな目標達成の足掛かりになるのです。
福澤:トップアスリートであり続けるために一番大切にしていることは何ですか。
レデッキー選手:私は水泳が大好きです。これこそが一番大切なことだと思います。泳ぐことに喜びを感じますし、多くの人が避ける長距離種目も楽しみながら泳いでいます。日々の練習にも良い状態で臨み、チームメイトを励ますようにしています。そうすることで場の雰囲気が良くなりますし、自分ももっと頑張ろうという気持ちになれます。
また、常に向上心を持ち、毎シーズン最高の成果を残せるよう、競技だけでなくトレーニングにも力を入れています。休みはほとんど取りません。私にとって水泳は年間を通して行うスポーツであり、多くのコミットメントと決意が必要ですが、それができると確信しています。
私は15歳で初めてオリンピックに出場し、金メダルを獲得しました。以来、オリンピックに対する気持ちはより一層強くなり、一つの結果に満足することなく、次の世界選手権やオリンピックに出場するために毎年懸命に努力を重ねてきました。その結果、世界選手権には6回、オリンピックには3回出場しました。もちろん、4回目となるパリ2024オリンピックにも出場したいと思っています。
福澤:「水泳が好き」という気持ちが、全てのチカラになっているのですね。長らくトップアスリートとして活躍する中で、後進の選手、若い世代とはどのような思いで向き合っていますか。
レデッキー選手:私は、若い水泳選手や、水泳を始めたばかりの子どもたちと話をするのが大好きです。みんなに伝えたいのは、モチベーションを高められる目標を持つことの大切さ。大きな目標を掲げ、それを達成するために懸命に努力すること――スポーツや水泳に限らず、学生時代や将来の目標を追い求めるときなど、さまざまな場面に適用できる、とても貴重な教訓だと思います。
もう一つは、とにかく楽しむことです。何をするにも一番大事なことで、私が水泳を始めた理由でもあります。楽しむこと、新しい人と出会うこと、新しい友人をつくること。それがスポーツの全てだと思います。私は水泳を通じて世界中を旅することができ、今では多くの国に友人がいます。彼女らと競うのはいつもスリリングですし、それぞれの人柄を知り、文化についても学ぶことができました。
また、スポーツを通じて学んだ多くのことを、友人や家族と共有することも大切だと思います。私の家族は私が出場する世界各地の大会を数多く見に来てくれて、一緒にその国の文化を体験することができました。
私にとって、全てが貴重な学びの機会になっています。水泳を始めたばかりの6歳の私には想像もできなかったことです。これからも大きな目標を掲げ続け、その時々の瞬間を心から楽しみたいと思います。
福澤:ケイティさんは若い世代を対象としたSTEM教育(※)の普及とキャリア形成に熱心に取り組まれており、パナソニックグループと共に独自プログラムを展開されています。STEM教育に取り組むようになったきっかけを教えてください。
※STEM教育:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する教育のこと。
レデッキー選手:私の人生で、教育は非常に大事な優先事項です。多くの人は私を水泳選手だと認識していると思いますが、一方で私は人生の大半を学生として過ごし、スタンフォード大学で学位を取得しました。現在は学生ではありませんが、日々学ぼうと努力しています。若い世代に伝えたいのは、スポーツだけでなく勉強に真剣に取り組むことも非常に大切だということです。私は家庭でそのように教わってきたし、世界中の多くの家庭も、そうあってほしいと願っています。
その中でもSTEM教育とキャリア形成は非常に重要です。なぜなら現在、世界にはさまざまな課題や問題があり、未来を担う若い世代がそれらを解決し、社会に貢献できるようになる必要があるからです。ですから、パナソニックグループとのパートナーシップの下、長年にわたってSTEM教育のプログラムを継続できていることは、本当に素晴らしいことだと思います。
パナソニックグループには素晴らしい価値観があり、その一つに社会貢献(CSR)の取り組みがあります。私自身、社会貢献を重視しているので、パナソニックグループの姿勢には大いに共感しています。共にSTEM教育のプログラムを発展させ続け、米国だけでなく、日本や世界中のたくさんの若い学生が先生や仲間たちと共に科学・技術・工学・数学を学び、熱中できるようにサポートしたいと考えています。また、パナソニックグループの取り組みや活動が、実社会でどのように役立っているかについても、楽しく、ワクワクするような方法で紹介しようとしています。
プログラムを通して、これらの授業をたくさんの生徒たちに届けることで、将来あるいは今すぐにでも偉大なことができるようになるのではと期待しています。
福澤:未来の子どもたちに向けてのSTEM教育を通じて、どんな幸せ、あるいは理想の社会を実現したいですか。
レデッキー選手:STEM教育を通じて、一人でも多くの子どもが、科学や技術に関わるキャリアに進んだり、興味を持ったりするきっかけをつくることができれば、私にとってそれ以上にうれしいことはありません。子どもたちが何かを学んだときに見せる、あのパッと輝く表情や、興奮する姿は本当に素晴らしいものです。
子どもたちが一生懸命に楽しみながら勉強し、先生から、パナソニックグループから、そして私から、できる限り多くのことを学べるようにしたい。そして、学ぶことは日々たくさんあるということを伝えていきたい。
今日のほとんど全ての仕事に技術や科学が関わっており、私たちはそれらの素養を持つ必要があります。それをできるだけ多くの子どもたちに伝えることが、より良い未来を築くことにつながると信じています。
福澤:アスリートと教育者という二つの側面で活躍されていますが、そこにつながるきっかけやターニングポイントとなった出来事、価値観が変わった瞬間はありますか。
レデッキー選手:ターニングポイントがあったかは分かりませんが、私は良い教育を受けることや、学校の勉強やスポーツに一生懸命に取り組むことを常に大切にする家庭で育ちました。日々、学びを大切にする中で、素晴らしい先生との出会いもあり、科学や数学が好きになりました。特に水泳はタイムを競うスポーツですから、時計と数字について考えることが大好きでした。そのおかげで、STEM教育に真剣に取り組み、楽しみ、クリエイティブに考え、教室でもベストを尽くそうと思うようになったのだと思います。
福澤:教育を通じて学んだことのうち、競技にプラスになったことはありますか。
レデッキー選手:教室で学んだことの多くが、水泳選手としての生活に生きていると思います。一番はバランス。勉強と水泳を両立させることで、時間の管理方法や自己管理について学びました。宿題を終わらせ、早寝早起きして水泳の練習に臨むなど、両方で成功するために毎日のスケジュールをきちんと立てていました。人生の二つの側面を責任感を持って両立させることで、多くのことを学んだと思います。
福澤:最後に、ファンの皆さんと若い世代に向けてメッセージをお願いします。
レデッキー選手:若い学生やアスリートの皆さんには、自分が熱中できることを見つけるために努力を惜しまず、挑戦し続けてほしいです。それが科学であれ、技術であれ、教育であれ、水泳であれ、バスケットボールであれ、サッカーであれ、自分の好きなことであれば何でもいいのです。
最も重要なことは、その過程で大いに楽しむことです。家族や友人、クラスメートや先生と、クリエイティブに毎日できるだけ多くのことを学びながら、本当に好きなことを見つけて楽しんでください。
私自身、オリンピックに何度も出場し、メダルを獲得し、世界記録を塗り替えるなんて夢にも思いませんでした。でも、常に楽しみながら、懸命に努力し、少しずつ自信を積み重ねることで、毎年毎年、掲げた目標を達成してきました。
皆さんも、大きな目標を立てることを恐れないでください。そして、目標達成に向けて努力をし続け、楽しみながらそれぞれのゴールを目指してほしいと思います。
記事の内容は発表時のものです。
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