2024年11月15日
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スタジアムでスポーツ観戦をしながら、その競技やチーム、目の前で繰り広げられるプレーについて、より詳しい情報をリアルタイムに音声で得られる――。そんな新しいサービスが、パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニック ホールディングス)が開発した音声配信プラットフォームの「CHEERPHONE(チアホン)」だ。あえて音声のみの配信に絞り込むことで、ほぼ遅延なく情報を届けられる。チーム運営側、観客共に専用のハードウェアは不要。スマートフォンだけでストレスなく手軽につながれる、新しいクラウドベースの“ライブメディア”を実現している。現在、着実に実績を積み、今やスポーツの分野に留まらず、活動領域をグローバルに広げつつある。今回はこのCHEERPHONE開発メンバーの思いに迫った。
ラグビーワールドカップ2019、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会、そして2022 FIFAワールドカップ――コロナ禍の前後に開催された世界的なスポーツイベントは、人種、国籍、性別、世代を超えて感動・共感を生み出すスポーツの力を再認識させた。
スポーツのライブ動画は、今やテレビ、パソコン、スマートフォン(以下、スマホ)で、いつでもどこでも視聴できる。ファンはスポーツについてより多くの「情報」を得ることで、競技、チーム、選手へのエンゲージメントを深めていく時代になっている。
そんな中でも、スポーツの持つ本来の迫力、緊張、臨場感を楽しめるのがスタジアムでの観戦だ。
しかし、スタジアムでの観戦は、テレビ中継やライブ動画と異なり、プロフェッショナル視点での分かりやすい実況やルールの解説、選手紹介などの情報が不足する。たとえファンであっても、競技、チーム、選手の最新情報や、たった今展開されたプレーについて、即座に深く理解することは難しい。ましてやその競技にあまり詳しくない「ライトファン層」に当たる観客は、目の前で何が起きているのか理解できないまま、ということも起こり得る。
選手のバックグラウンドや、プレーに込めた思いなどについても同様だ。
「感動的なゴールでしたね。この選手は、彼のファンで、同世代の中では小さな体でサッカーに取り組んでいる男の子のために、今日は必ずゴールを決めると約束していたそうです」。「このピッチャーは、幼い頃から自分を応援してくれている田舎のおじいちゃん、おばあちゃんに喜んでもらうために、ケガを克服して今日の登板を迎えました」――試合を観戦しながら、そんな秘話を知ることができるとしたら、一つひとつのプレーがガラリと違って見えるだろう。
もちろん実況・解説や選手のストーリーを、スタジアムでライブ動画として配信することも可能だ。しかしそれは、運営側にとっては大きな設備投資やスタッフの確保など、多大なリソースを要する。ライブ動画の配信も、目の前で繰り広げられるプレーと比べると、どうしても遅延、時間差が生じてしまう。直に試合を観ることなく、スマホやタブレットの画面を必死で追うことになってしまうのも本末転倒だ。
スタジアム観戦の臨場感を存分に楽しみながら、競技や選手、プレーについてより多くの情報を得るための最適なメディアがあれば――。この課題に応えたのが、観戦しながら音声情報をリアルタイムに楽しめる新たな“ライブメディア”プラットフォーム、CHEERPHONE(チアホン)だ。
CHEERPHONEのサービスを利用するために必要となるのは、普段使っているスマホ(QRコードを読み込める端末)と、スマホ用のイヤホンのみ。当日現地で配布される配信者指定のQRコードにアクセスするだけで参加可能となる。専用アプリのダウンロードなどは不要だ。
配信コンテンツは音声のみとしたことで、遅延時間は約0.2~0.3秒となり、体感レベルではほぼリアルタイムでの配信が可能。スポーツ観戦やイベント会場ならではのライブ感を損なうことなく、情報を届けられる。
通信量は1時間あたり0.03GB程度。これは、一般的な動画共有サイトの高画質動画の30秒程度に相当する(※)。利用者が気にならない程度のデータ通信量を実現することで、参加する側の心理的なハードルも軽減できる。
※パナソニック ホールディングス試験環境での計測結果。
CHEERPHONEは、会場の一体感を高めるインタラクティブ性にも優れている。スマホを通じて、参加者から配信者へ「いいね」などのリアクションや、質問などのコメントを送信することもでき、一方通行の放送にはない、双方向のコミュニケーションが体感できる。これにより競技、チームへのファンのエンゲージメントを高めることに成功している。
スマホとマイクだけで配信ができるので、発信側のリソースを省略化できることも強みの一つ。1台のスマホからインターネットを通じて会場内の数百、数千人のスマホに音声を配信できる。大がかりな機器を介さずスマホから直接配信できるため、試合前に客席やスタジアムグルメのレポートをして回るなど、会場を移動しながらの配信も可能だ。特定のチームごとにオリジナルのUIが作成できたり、特定のファン層に向けた配信を複数のチャネルで同時に配信できたり、ターゲットに合わせたファンエンゲージメントの向上や、チームのブランディングに貢献するフレキシビリティも兼ね備える。
このCHEERPHONEは2019年に新規事業のアイデアとして企画・開発され、2021年9月からプロトタイプを活用した検証を行い、2022年4月に有償サービス開始となった。コロナ禍の中で仕様を研ぎ澄ませていった、比較的新しいサービスだ。
開発に取り組んだのは、パナソニック ホールディングス 事業開発室の持田 登尚雄(もちだ としお)と木村 文香(きむら あやか)の2人。CHEERPHONEのサービスデザイン・プロダクト開発・ビジネスモデル構築・セールスなどを兼任しながら、全国各地の試合・イベントを飛び回っている。
持田「2019年4月に開設されたプロジェクト『Aug Lab』の、一つのコンセプトアイデアとしてスタートしました。このプロジェクトでは、人はどのようなことにワクワクするのか、どのような状態になると『ウェルビーイング』と言えるのかを、工学以外の視点も加えて研究開発しています。ここで現在のCHEERPHONEの基礎となるアイデアが生まれました。
パナソニックグループは70年以上前から、数多くのスポーツチームを保有してきた歴史があります。現在はパナソニック スポーツ株式会社において、ガンバ大阪(サッカー)、埼玉パナソニックワイルドナイツ(ラグビー)、パナソニック パンサーズ(男子バレーボール)を事業化チームに指定。またコーポレートスポーツとしては、パナソニック野球部、パナソニック女子陸上競技部のチームの強化と運営を行っています。まずはこうしたスポーツ市場において新たな事業を生み出し、『地域とくらしのウェルビーイング』への貢献を目指す活動を推進したいと思いました」。
このタイミングで持田と木村は、個人のウェルビーイングを突き詰めるとどんな未来が見つかるのかという未来思考に基づき、そこからバックキャストするとどんな事業が創出できるのかについて検討を続けた。
木村「ちょうどコロナ禍でスポーツの試合が無観客で行われるようになった時期だったこともあり、最初は『リモート応援している人たちの声を試合会場に届ける』という仕組みを考えていました。そこからまた別の発想を盛り込んでいくうちに、『同じ会場にいる人たちに届けられていない情報をお届けする』という方向に変えていき、『会場にいるファンに向けたオリジナルなコンテンツを音声でお届けする』という形にピボット(方向転換)していきました」。
例えば、片方のチームのファンに向けて、そのチームに所属していた元選手などをゲストに招き、試合の実況と合わせて、そのゲストならではの解説・トークを配信する。もしかすると、選手たちのここだけの裏話や、普段は立ち入ることができないエリアからの実況が聴けるかもしれない……そんなサービスがあれば、ファンはもっと試合会場へ足を運びたくなるだろう。
持田「テレビや動画配信の実況では、片方のチームに肩入れしすぎることはなく、中立の立場で放送されることが多い。でもCHEERPHONEのようなサービスがあれば、どちらか特定のファンに寄った放送も可能です。その方がファンの皆様もより一体となって観戦できる。世の中を見回したときに、このようなことができるサービスがなかったので、自分たちでゼロから創ることにし、それを事業化しようと考えたのです」。
それまで2人には、自らが主導し新サービスを社会実装していく、という経験はなかった。
持田「社内外のさまざまなネットワークを駆使して、CHEERPHONEのコンセプト、事業企画を説明して回りました。B2C、B2Bいずれの要素も持つ新規事業であり、グループ内の各事業の幹部に理解し、応援してもらう必要があったのです。それと同時に、実際の試合で実証実験を重ね、チーム関係者や、観客の皆様のリアルな声を集めていきました」。
木村「音声を聴きながら試合観戦をするという、多くの方々がまだ体験したことのない、新しい文化をご提案していくわけです。そこに需要があるのか、事業として成立し得るのか、私たちも正解を知っているわけではない、そんな状況でした。受容性があるのかどうかを確認するため、利用された方たちにアンケートを取り、リアルな声を基に受容性を確認しながら、改善要望に合わせてどんどん仕様をブラッシュアップしていくことにしました」。
2人は、2021年9月から2022年5月にかけて、WEリーグ(女子サッカープロリーグ)、Jリーグ(男子サッカープロリーグ)、リーグワン(男子ラグビープロリーグ)、ジャパンサイクルリーグ(サイクルロードレースプロリーグ)などのプロスポーツリーグの公式戦やエキシビションにおいて、CHEERPHONEサービス利用者を対象にアンケートを実施。合計14試合で883人から回答を得た。
すると、CHEERPHONE体験前との比較において、リアルタイムに音声配信サービスを聴くことで「スポーツ観戦そのものが楽しくなった」という人が90%、「チームや選手への理解が深まり、より好きになった」という人が93%という結果が明らかになった。
持田「CHEERPHONEには観客の体験価値を高めるとともに、ファンの定着や、もう一度会場に足を運ぶための動機付けとしての効果も期待できることが分かりました。予想以上の高評価を頂いて、これはいける、と確信しましたね」。
アンケートに寄せられた観客の声
持田と木村は、CHEERPHONEの公式サイトにおいて、あえて「顔の見える専任メンバー」として活動の様子を公開しながら広報活動を行っている。
持田「CHEERPHONEはこれまでになかった市場を創っていくサービスです。スポーツが好きかどうかに関わらず、より多くの方に知っていただき、できることなら世界中に共感の輪を広げていただきたいと思っています。私たちはサービスを提供するに留まらず、スポーツ観戦における『新しい文化』としてCHEERPHONEをご提案していきたいと考えています。
幸い、パナソニックグループでスポーツチームを保有していることもあり、活動当初からスポーツ業界を中心にさまざまなイノベーターやリーダーの方々にお話を聞かせていただく機会を得ました。皆様、CHEERPHONEの取り組みに賛同してくださり、快く取材を受けていただきました。その様子は公式サイトの『CHEERTALK』ページにアーカイブしています。こうしたページをきっかけにCHEERPHONEを知り、興味を持っていただければありがたいことです」。
2人の取り組みは着実に実を結び、これまでCHEERPHONEは各スポーツのトップリーグや、多くの競技団体、チームに導入され、実績を重ねてきた。ファンをスタジアムに呼ぶための不可欠なサービスとして、CHEERPHONE活用を推進するチームや競技団体も増えている。
2022年6月には、スマホのGPS機能を活用した視聴エリア制限機能や、限定された視聴者への配信を可能にする機能などをリリース。より使い勝手の良いサービスを目指し、日々アップデートを重ねている。
その1:東京サントリーサンゴリアス VS 埼玉パナソニックワイルドナイツ(ラグビー)
持田「ラグビー界全体のアンバサダーである廣瀬 俊朗(ひろせ としあき)さんには、私たちの取り組みにご賛同いただき、お話させてもらったことがきっかけで、CHEERPHONEの構想初期段階から相談やアドバイスを頂くなど、大変お世話になってきました。現在のような実績も、廣瀬さんとの出会いがあったからこそといえます。今回は、実際の試合でCHEERPHONE音声配信の解説者としてゲスト出演いただきました」。
廣瀬氏「このような配信が会場で聴けるようになることで、ラグビーだけでなく、スポーツそのものに関心を持っていただける人をより増やすことができるのではと期待しています。また、マルチチャネルの機能を活用すれば、初心者向けやコアファン向けなどターゲットに合わせた解説を届けることができるので、いろいろな方に聴いていただけるのではないかと思います」。
その2:2022–23Vリーグ パナソニック パンサーズ VS サントリーサンバーズ(バレーボール)
福澤「バレーボール、バスケットボールのような、基本的に屋内で展開されるスポーツは、特にCHEERPHONEとの親和性が高いと感じました。ある程度、限られた空間で試合が展開されるので、もともと選手とファンの方の距離が近いんですよね。そこにCHEERPHONEをプラスすることで、お客様との一体感がより生まれやすくなると思います」。
テレビで試合の解説を担当することも多い福澤は、CHEERPHONEによる解説はそれとは全く違うものになると語る。
福澤「テレビの実況・解説の場合は、両チームに公平な立場で話すことを意識します。また、実況者は視聴者に向けて試合全体の流れを説明するのがメインとなるので、解説者はボールが止まっている間に、一つ前のプレーについて振り返ったり、戦術について説明したりと、どうしても短い時間に情報を詰め込む感じになります。
一方でCHEERPHONEは、観客のターゲットをどこに置くかで、プレーの細かい戦略・戦術や、選手のパーソナリティなど、話す内容の自由度が高くなります。同じ場所で同じものを見ているお客様に対して、まるで隣の人と話すような感覚でお話できる。今回はあえて実況無しでお届けし、一つひとつのプレーについて、より細かい説明ができました。また、観客のコメントや質問もできるだけ取り上げるようにして、『皆で一緒に応援している感覚』を楽しんでいただくようにしました」。
持田「廣瀬さんや福澤さんのように、実際にCHEERPHONEをご利用くださった解説者の方たちの感想もありがたく頂戴し、今後の開発に生かしていきたいと思っています。
初心者ファンと上級者ファン、それぞれに合った実況・解説で配信分けするなど、新しい試みにもチャレンジしています。今後も運営側の方たちのご要望や課題にお応えしながら、CHEERPHONEを柔軟に進化させていきます」。
持田「実はCHEERPHONEは、海外でご要望がある場合にもご使用いただけるように、グローバルマーケットを意識したサービス構成を組んでいます。すでに利用実績があり、2022年12月にタイのプロバスケットボールリーグで海外初の事例としてご利用いただきました。引き続き知見を蓄積していき、『CHEERPHONEが世界中で当たり前のように使われるようになる未来』を目指します」。
CHEERPHONEは、スポーツ以外の分野においてもその活躍の場を広げつつある。
木村「実はスポーツ以外でも、吹田SSTのビジネスツアーのガイダンスシステムとしてもご利用いただいています。CHEERPHONEの強みはリアルタイムに情報や感動を共有できるところ。それを生かせる場として、例えば、能・歌舞伎などの舞台鑑賞が挙げられます。お祭りや花火大会といった地域のイベントでもお役立ちが可能です。今後さらに実績を積んで、各地の文化の継承にも貢献していきたいと思います」。
木村「実は私は、スポーツが大好き、というタイプではないです。その分、どの競技も初心者の目線で楽しめるし、だからこそ気付ける部分もあります。
入社したときから『お客様に直に届けられる喜び』を体感したかった。CHEERPHONEの開発に関わったことで、チーム運営側の方からはもちろん、観客の皆様からも数えきれないくらいのたくさんのメッセージを頂けるようになり、CHEERPHONEが皆様の幸せに貢献できている、文化を少しずつ創っていることを肌で感じています」。
持田「私の原動力は、まずは、スポーツが好き、という気持ちですね。そして、パナソニックグループとして新しい成長事業を生み出したい、という強い気持ちがあります。二股ソケットから歴史が始まり、今日のようにグループとして幅広い事業領域を手掛けられているのは、それだけ新規事業に取り組んできた挑戦の歴史があったからこそだと思います。CHEERPHONEの取り組みを通じて、パナソニックが新しいチャレンジをしていることを世の中にお見せし、パナソニックグループの成長エンジンの一つとなる事業に成長させたいです」。
コロナ禍の影響に加え、若者のスポーツ離れやファンの高齢化で、国内の各スポーツがスタジアムの観客動員を大きな課題としている。持田と木村は引き続き、CHEERPHONEでスポーツやイベントを楽しむ環境をアップデートし、より良い社会の実現、そしてスポーツを通じたウェルビーイングの実現をサポートしていきたいと語る。CHEERPHONEのメンバーは、競技・チーム・選手とファンをつないでいく新しいスポーツ文化の創造と定着に向け、一歩一歩着実にステップを登っている。
パナソニックグループは、今後もCHEERPHONEをはじめとする技術・製品・サービスを通じ、スポーツ観戦の新たな環境や付加価値を提案していく。そして、スポーツ業界の発展や拡大、スポーツ文化の醸成に貢献し続けていく。
記事の内容は発表時のものです。
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