2024年10月31日
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パリ五輪での活躍が記憶に新しい日本のバレーボールは、国内外で人気を集め、アジアをはじめ世界から注目されるコンテンツとして市場価値が高まっている。パナソニック スポーツ株式会社はこのビジネスチャンスを的確に捉え、タイで日本のクラブ初となるJAPAN VOLLEYBALL ASIA TOURを2023年から興行するなど、積極的にアジアの市場開拓を推進している。その目的や手応え、将来性について、同社CEOの久保田 剛(くぼた たけし)をはじめ、アジア攻略に挑むメンバーに迫る。
久保田:日本のスポーツビジネスは近年急速に成長しています。企業にとっては市場の成長性、ブランド価値の向上、新規ビジネスモデルの創出、地域活性化と社会貢献、グローバル展開の機会など、その魅力と可能性は多岐にわたります。これまでオリンピック・パラリンピックの公式パートナーをはじめ、スポーツの可能性を信じ、真正面から向き合ってきたパナソニックグループは、70年以上にわたりいくつものスポーツチームを保有してきた歴史があります。誇らしい栄光もあれば、悔しい挫折もあり、スポーツを存続させる難しさも味わってきました。
久保田:企業がスポーツに求める役割は、社内の一体感醸成から始まり、ブランドの広告効果や地域・社会貢献へと、時代と共に広がってきましたが、企業の働き掛けは一貫して支援が中心です。これまでの企業スポーツ体制では、選手獲得などの自己投資は積極的に行う一方で、収益を上げる思考や中長期的な戦略が不足していることが課題でした。これは利益を追求するよりも勝負に重きを置いてきたためです。また、日本においてスポーツは教育の一環として捉えられることが多く、身体と精神の鍛錬を重視し、楽しむよりも規律や忍耐を養う手段として位置付けられてきました。そのため、スポーツをビジネスとして捉える発想が育ちにくく、事業化は難しいとされてきました。
この壁を越えるため、2022年4月1日、スポーツをコンテンツとする専門企業としてパナソニック スポーツ株式会社を設立しました。「スポーツと生きていく。スポーツで生きていく。」というブランドスローガンを掲げ、スポーツの持続的な発展を目指し、ガンバ大阪(サッカー)、埼玉パナソニックワイルドナイツ(ラグビー)、大阪ブルテオン(男子バレーボール)、パナソニック野球部、パナソニック女子陸上競技部の5チームを統合運営するとともに、スポーツ関連の新事業にも取り組んでいます。
その中でもバレーボールは、近年の日本代表の活躍に伴い、予想をはるかに超える盛り上がりを見せている。その人気は国内にとどまらず、2022年に国際バレーボール連盟(FIVB)主催のネーションズリーグがフィリピンで開催されたのをきっかけに、SNSが起点となってアジアに波及。クラブ公式アカウントは、言語の壁を越えて東南アジアを中心に国外のフォロワーが急増している。さらに、バレーボールを題材とした漫画やアニメが海外で人気を博していることも、日本バレーボール人気を後押ししている。
久保田:日本のバレーボールにはファンを魅了する要素が多数あり、世界に広がるコンテンツになる大きな可能性を秘めています。実際に、ネーションズリーグで現地の熱量と盛り上がりを目の当たりにし、このタイミングを逃さず、積極的かつ大胆に仕掛けていかなければいけないという思いはより一層強くなりました。今や日本のバレーボールは、競技レベルも人気も高く、世界が注目する存在になっています。その価値をさらに高め、人気をいっそう盛り上げるためには、国内と並行してアジアでもマーケットを広げていく必要があります。特に、豊富な人口と若年層が多いASEAN(東南アジア諸国連合)は、急速な経済成長を遂げており、その拡張性と将来性を考えると、早期にしっかりと基盤を築き、育てていかなければいけない地域だと言えます。
また、今年度から国内トップリーグがSVリーグという名称になり、2027年までにプロリーグ化、2030年までに世界最高峰のリーグとなることを目指して新たなスタートを切りました。日本代表だけでなく、SVリーグに目を向けてもらうためには、クラブ単位でも現地ファンが反応してくれるよう見える化する必要があります。一番分かりやすいアプローチはアジアで試合をすること。しかし、2022年にアジアで日本バレーボールの人気が出始めた当時は、新リーグ構想に基づく改革を進めている段階で、人的リソースの点からもリーグ主導でアジア戦略を仕掛ける余裕はなく、なかなか手がつけられずにいました。そこで、まずは同じ思いを共有するクラブに声を掛け、自分たちで目に見える形にしてみようと始めたのがJAPAN VOLLEYBALL ASIA TOUR IN THAILAND、通称「Panasonic ENERGY CUP」です。
本大会は昨年から開催しているが、日本のクラブがアジアで大会を開催するのは初めて。前例がない中、企画の立ち上げから開催まで一つひとつ手探りで進める必要があった。この新たな挑戦を全面的に支援したのが、大会名にもなっているパナソニック エナジー株式会社だ。現地の文化や国民性をよく知る会社のバックアップは大きな助けとなった。また、チームのことを誰も知らない地で興行するよりも、パナソニックグループが60年以上にわたり現地に根を張って事業を展開しているタイで興行する方が、そこで働く従業員や現地の人たちにとっても分かりやすく、安心して応援してもらえるメリットもある。
パナソニック エナジー株式会社 CEOの只信 一生(ただのぶ かずお)は、スポーツが持つ力とその価値について、次のように語る。
只信:今回のパナソニック エナジーカップを通じて最も元気をもらったのは、従業員たちです。現地で大会サポートに当たったパナソニック エナジー タイ株式会社では、「大阪ブルテオンを応援しよう!」と、組織の枠を超えて自発的に従業員が集まり、チアチームやダンスチームが結成されました。そこでのつながりをきっかけに、異なる組織が一つの目標に向かって話し合うようになり、会社の風土が変わっただけでなく、従業員からの提案も増え、工程改善や収益向上につながるなど、実業にも良い影響がありました。スポーツがハブとなり、さまざまな職種が有機的につながり始めています。
私たちの会社は、日々激変する市場の中で大きな課題と向き合っています。変化のスピードが早いため、チームとしてのタフネスさやその状況を楽しむ風土、何が起きても迅速に対応できる組織能力が求められます。その組織能力が常態化されたブレない組織をつくっていく上で、スポーツは大きなきっかけを与えてくれます。スポーツの力を活用することで、組織全体の思いを一つにまとめ、自由で活発な活動を促進しながら、企業全体が一体となって新しい価値を生み出し続けることができると考えています。こうした取り組みを続けることで、従業員をはじめ全てのステークホルダーが当社に対して誇りと愛着を持っていただけるようになると、企業価値の向上にもつながるはず。対価的な話ではなく、事業を進める上での根本的な力が強くなっているのを実感しています。何か別の栄養素をもらったような感じですね(笑)。
今回、開催地に選んだタイは親日国であり、バレーボールの人気も高く、リーグ最多のフォロワー数を誇る大阪ブルテオンのインスタグラムでは、日本に次いでフォロワーが多い(9月時点)。そのため、大会やイベントがコンテンツとして受け入れられやすい土壌があると、マーケティング担当の山岡 早紀子(やまおか さきこ)は分析する。
山岡:大阪ブルテオンは、アジア戦略における重点地域をタイ、フィリピン、インドネシアに設定しており、現在は、海外ファンとの接点を増やすことに注力しています。クラブに興味・関心を持ってもらえるように、海外に向けてもSNSでの情報発信を積極的に行い、ホームページも多言語対応(英語、フランス語、スペイン語、タイ語、インドネシア語)を進めています。最初は日本代表や人気選手がきっかけとなることが多いのですが、一度でも大阪ブルテオンと接点を持てば、クラブのファンになってもらえる可能性が高まります。今大会は海外ファンと直接交流できる絶好の機会であり、試合観戦だけでなく、付加価値のあるファンアクティビティプランの提供や、日本のSVリーグ応援ツアーなどのインバウンド企画も準備しました。参加したファンのロイヤルティも高まり、記憶に残るイベントになったのではと感じています。今後は、ファンになってくれたお客様とつながり続け、長期的に応援してもらう仕組みを作ることが重要です。今はまだトライ&エラーの段階ですが、最終的には事業として収益化し、自走できるようにしなければいけません。そのためには、ホームゲームに来てグッズを購入してもらい、ファンになってもらうなどのカスタマージャーニーをいくつか設計し、どこでマネタイズするのかを常に意識して取り組む必要があります。海外のお客様でもグッズを購入できるECサイトの構築なども視野に入れながら、マーケットを広げていきたいと考えています。
バレーボール界が大きな変革期を迎える中、パナソニック スポーツ株式会社が先導し、他クラブをはじめ周囲を巻き込みながら開催したアジアツアーは、わずか二年で黒字化。アジア進出の大きな足掛かりをつくった。今大会を通して得た課題や手応え、アジア戦略の先に見据える未来について、久保田は次のように答えた。
久保田:昨年、まずは一歩踏み出してみようとスタートしたアジアツアーも、今年はチケットの売れ行きが倍増し、初日で完売しました。大会後には、ASEANの他の国々から「私たちの国でも開催してほしい」という声も寄せられ、バレーボールへの関心が私たちの予想以上に大きいことを改めて実感しています。こうした要望に丁寧に応えながらネットワークを広げ、他のスポーツにも展開し、日本を中心に新しいスポーツの形をつくっていければ、アジアのみならず世界中の人々に夢と元気を与えることができると考えています。
久保田:アジア戦略を実行する上で忘れてはいけないのが、現地の方々にとっても新たに何か得るものがあり、「来てくれて良かった」と感じてもらうことです。お金を生み出すことばかり考えていては、長続きはしません。今大会も、日本のトップチーム同士の試合を見せるだけなく、タイのクラブとも試合を行い、応援文化を育て、タイリーグ全体のレベルを上げていくことも目的の一つとしました。こうした活動をインドネシアやフィリピンなどの近隣諸国にも広げていくことで、アジア全体のレベル向上につながれば、将来的にアジアマーケットの価値が高まり、バレーボールでアジアが世界の中心になる可能性もあると考えています。そうなれば、SVリーグが目指す世界最高峰リーグも夢ではなく、目標として掲げることができます。
今後、リーグの価値を最大化するためには、欧州のサッカーや米国のメジャースポーツのように、試合の放映権も重要なポイントになります。そこから得られる大きな収入を基に、さらなる投資が可能となり、ビジネスがうまく回り始めます。これが実現して初めて、マーケットとして成立するのです。日本のバレーボール界も同様の成功を求めるのであれば、SVリーグの価値を高め、アジアや世界の人々がお金を払ってでも見たいと思ってもらえることが必要です。そのために、マーケットを積極的に広げて、目に見える形でファンを増やし、放映権やスポンサーがセットできるだけのニーズがあることを証明しなければなりません。
SVリーグの発展・拡大には、クラブの価値、さらには業界の価値を高めていくことが重要であり、より多くのステークホルダーと手を組んで積極的にアクションを起こす必要がある。
大阪ブルテオンは、お客様やパートナー企業に向けて、同クラブのミッションである「ALWAYS TO THE TOP, ALL WAYS TOGETHER」に込められた理念や大切にしている思いを伝える場として、9月22日に初めて新体制発表会を開催した。
久保田:競技面だけでなく事業面でもバレーボール界をリードし、世界一のクラブを目指すという目標を多くの方々に伝えるだけでなく、皆さまの考えや課題にも耳を傾け、「ALL WAYS TOGETHER」という言葉の通り、共に歩む仲間を増やしていきたいと考えています。私たちの掲げる世界観や思いを理解し、共感してもらえれば、長くファンとしてつながっていただけるはずです。アジア戦略においても、国や文化を超えてつながるために、現地の方々の意見も取り入れながら、しっかりとした道筋を設定していきたいと考えています。長年バレーボール界をけん引してきた大阪ブルテオンがフロントランナーとして走り、大胆な仕掛けをして成功を収めるロールモデルになれば、バレーボール界全体のマインドも大きく変わり、変革のスピードも上がると期待しています。
クラブが収益を上げつつ競技の世界で戦うためには、短期・中長期両方の視点が必要だ。勝利でクラブの価値と存在感を高めることは重要だが、それだけでは結果に左右され、成績が低迷すると投資ができなくなり、やがて衰退してしまう。短期的な視点で目の前の結果を追い求め過ぎると視野が狭くなり、他の重要な要素を見落とす可能性がある。その点、パナソニック スポーツ株式会社が存在することで、スポーツ界全体を俯瞰で捉え、各業界の比較から見えてくる課題や強みを生かしながら、クラブ単体ではなかなか手が付けられない挑戦に対して中長期的な視点で戦略を構築し、積極的な投資が可能となる。
久保田は、パナソニック スポーツ株式会社が描くスポーツの未来をこう語る。
久保田:スポーツビジネスは、魅力的で価値のあるコンテンツの提供が成功のカギとなります。今回のアジアツアーのように、新しい事業を積極的に取り込み、スピード感のある投資によってスポーツコンテンツを成長させ、スポーツビジネスの新しいモデルを構築していきたいと考えています。これからも、チームの事業化を軸に、さらなるグローバル展開を視野に入れながら、スポーツを中心とした街づくりや教育支援、パナソニックグループが保有する技術との連携など、さまざまな取り組みでスポーツの価値を中長期的に高め、スポーツが自立した存在としていつまでも輝ける未来を目指していきます。
記事の内容は発表時のものです。
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