2024年12月19日
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パナソニックグループは、CO2排出量の削減や循環経済の実現に対する貢献を「Panasonic GREEN IMPACT」と名付け、あらゆる領域でカーボンニュートラル社会の実現に貢献していくことを目指し、環境価値の創出を通じた事業発展に取り組んでいる。2023年1月、パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社(以下、PHS)は、業界初(※)の植物油脂由来の塗料とリサイクル木材を基材に使った床材「サステナブルフロアー™」を開発。本商品を購入することで、お客様が森林保全・環境活動に貢献できる仕組みを構築した。その開発から市場導入までの道のりを追う。
※2023年1月現在、パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社調べ
近年、一般的なフローリング(木質床材)の素材として広く使われている合板の価格は上昇傾向にある。事業スローガン「Green Housing」を掲げ、「ひとにも環境にもいいくらしの実現」に取り組んでいるPHSでは、そうした市況を背景に、持続的に安定供給が可能な新しい床材を創出するべく開発を推進してきた。それが今回紹介する「サステナブルフロアー™」だ。
「床材の安定供給を目指し、2017年頃からチップボードを使ったリサイクル基材の開発に力を入れてきました」と語るのは、PHS 建築システム事業部の吉谷 勇亮(よしがい ゆうすけ)だ。
チップボードは「パーティクルボード」とも呼ばれる木質ボードのこと。木材の小片を接着剤と混合、熱圧成型して作られる。従来、家具などによく使われている素材だが、周辺環境の影響を受けやすく、床材には向いていないといわれていた。
吉谷:そんなチップボードをあえて使用し、「本格的に環境に配慮した床材を開発する」というのが今回のミッションでした。企画が固まったのは、2022年3月の終わりのこと。発売開始まで残り10カ月程度しかなく、前途多難ではありました。
吉谷:すぐに試作を始めましたが、湿気や強度などの外部影響を受けやすいチップボードの特性を克服するのは想像以上に難しく、当初描いていた姿を達成するには大幅に路線変更せざるを得ないのではと焦っていました。
そんな中、吉谷は、ある塗料メーカーで植物油脂由来のバイオマス塗料の見通しが立ちそうだという情報を得た。
吉谷:当社では、床材の最終仕上げの段階でも、化粧材の上に塗料を塗って仕上げる、いわゆる「アフターコート」仕様の商品を主流に扱っています。塗料と親和性の高い製品を生み出せる私たちだからこそ、このバイオマス塗料を軸に、再度、商品の仕様および環境ストーリーを見直していけると確信しました。
「サステナブルフロアー™」の仕上げとなるアフターコートには上述のバイオマス塗料を使うことになり、吉谷たち開発メンバーは、この塗料においてバイオマスマーク(※)の取得を目指すこととなった。床材にバイオマスマークを取得した塗料を使用するのは、業界初の取り組みだ。
※生物由来の資源(バイオマス)を活用し、品質および安全性が関連する法規や基準、規格などに適合している環境商品の目印
吉谷:協働する塗装メーカー様と共に、何度も配合や適合性を検討し、改良を重ねました。PHSとしても、協働する塗料メーカー様としても、石油由来でない塗料を製造するのは初めてのこと。塗料の配合をどのようにしたら狙いの性能が出るのか、品質が安定するのか、製造ラインで問題が生じないかなど、何度も配合や適合性を検討し、改良を重ねました。少しずつ検証を重ね完成に近づけていき、やっと認定マークの許可が下りたときはうれしかったですね。
結果、PHSで生産する一般床材と同様に、サステナブルフロアー™も塗装を3層重ねとし、堅牢(けんろう)性や安全性、耐久性など、床材として求められる性能を実現しています。
お客様が生活する上で直接触れるトップコート。開発と検証を繰り返した結果、ここには傷に強く耐久性が高くて実績のある従来の塗料を使い、下の2層にバイオマス塗料を採用することとなった。
吉谷:「石油由来ではなく植物油脂由来の塗料を実現し、バイオマスマークを取得したことは、床材の商品仕様としては画期的なことと言えます」
開発の過程では、さまざまな困難に遭遇した。
いざ、バイオマス塗料を床材に使ってみたものの、硬化がうまくいかない、PHSの床材に求められる性能の基準になかなか沿わないといった問題が生じた。
また、塗装の3層のうち下の2層にバイオマス塗料を使っているため、3層ごとの塗料の相性、硬度の担保や剥離しないかなどの検証も課題となった。
さらに、実工程で試作する際は通常使用している塗料と混ざってはいけないため、一旦製造ラインを止めて塗料を全て入れ替える必要があった。
吉谷:完成までにラボや製造ラインで何度も試作を重ね、硬化の状態や機能性などで最適な性能の実現を目指し、改良を繰り返しました。
サステナブルフロアー™は、リサイクル材を使った「サステナブルボード」を基材に使っていることも特長だ。住宅の解体廃材や、扱いづらく使い道がなかった未利用材をサステナブルボードの原料として利用することで、森林資源を有効に活用できる道筋を提示している。
サステナブルボードのチップ原料にはいろいろな材料が含まれているため、品質を保つための工夫が必要だ。ボードを作るときに異物を極限まで除去し、表裏面層には細かいチップを使うなど加工の際も気を付けている。
吉谷:廃材ではなく、木材そのものを使えると基材の品質は安定するのですが、環境に配慮した素材を使っていきたいので、木材以外の素材もとことん追求して、時代に合わせて配合を変えていかねばならないと思っています。
吉谷:サステナブルボードはチップを原料に作られていますので、使用後は再びチップに戻して再活用できるものだと思い込んでいました。しかし、開発を推進している途中段階で、実際には再利用が困難だということが分かったのです。
サステナブルフロアー™の基材では、吸湿・乾燥による影響を抑えるためにサステナブルボードの表裏面を防湿層でカバーしている。その素材が分別の妨げになり、リサイクルが困難であることが判明した。しかし、床材の品質を考えると、防湿層の仕組みは変えられない。
吉谷:絶体絶命のそのときに、ヒントを見いだすことができたのが群馬県での取り組みでした。
私はもともとPHSの床材工場がある群馬県に3年ほど働いていた経験があり、地産地消や恩返しという意味も込め、自治体様と何か一緒にできることがないかと思ったのです。実際に調べたところ、群馬県は全国に先駆けて森林保全のためのさまざまな制度を作り、企業とも取り組んでいることが分かりました。すぐに群馬県庁の担当の方に電話をかけ、コンセプトとやりたいことを伝えました。
この一本の電話がきっかけで、群馬県とPHSは、県有林の整備や保全を行う「県有林整備パートナー事業実施協定」を結ぶこととなる。
群馬県との協定は、地球温暖化防止などの森林の機能向上を図ることを目的に、県有林の整備や保全を県と一緒にPHSが行うというものだ。お客様がサステナブルフロアー™を購入すれば企業とタッグを組む形で環境に貢献できる仕組みをそこに組み合わせた。
具体的には、お客様がサステナブルフロアー™を1坪(3.3㎡)購入すると、その金額の一部が両手のひらサイズ相当面積(240㎠)の森林保全・整備活動に割り当てられるという仕組み。また、基材としてリサイクル材を使ったサステナブルボードを利用しているため、1坪当たり約38kgの炭素(CO2換算)(※)を貯蔵することにもなる。
※林野庁「建築物に利用した木材の炭素貯蔵量の表示ガイドライン」(令和3年10月1日付3林政産第85号林野庁長官通知)にのっとり、「サステナブルフロアー™」1坪当たりの使用木材に貯蔵している炭素(CO2換算)を算出
もう一つ完成までに苦労したのが「溝」だ。実は床材には疑似目地ともいわれるような細い溝が入っている。そこで問題になったのがサステナブルボードの基板に使っているチップだった。溝を入れることで中のチップが見えてしまうため、「見た目が悪いのでは」「溝に着色してみては」など、数ミリの溝の取り扱いについて何度も議論が交わされた。
吉谷:市場へのヒアリングも実施し、最終的には環境訴求をしている床材ということで、あえてチップを見せることにしました。実際に見ていただけるようになったことで、お客様に直接、環境に配慮した材料を使っていることをお伝えできるという効果も生まれています。
今回、群馬県と協働で森林整備・保全に取り組む協定を結ぶことになったが、県の担当者は、群馬にパナソニック工場が幾つかあるのは知っていても、床材の工場があるということまでは知らなかったという。
吉谷:今回の協定を結んだことで、PHSの取り組みについて群馬県の方たちに大変興味を持っていただけました。最近では工場見学や展示会の共同出展を実施させていただくなど、新しい広がりを見せています。
2023年2月に開催された東京での展示会「ウッドコレクション 2023」においては、群馬県のブースにサステナブルフロアー™を出展させていただき、群馬県産材を使った試作品も展示し、多くの反響を頂きました。
日本の森林は十分な手入れがされず放置されているところが多く残されている。林業従事者の高齢化や費用の面など、問題は深刻だ。
吉谷:実は日本の森林の貯蓄量というのは右肩上がりなのです。ただ森林が多ければいいということではなく、適切に管理をしなければ森林は育っていかない。森を守る、というと木を植える「植林」というイメージがあると思うのですが、今回、群馬県と協定を結んだのは、「育樹」という森林を適切に管理する仕組みです。
今回、サステナブルフロアー™開発メンバーは、企業がボランティアや寄付をするのではなく、お客様が企業と一緒に環境貢献できる、意識をしていただくきっかけになるための仕組みを開発した。
吉谷:サステナブルフロアー™を購入いただくことで「ぐんま つむぎの森」の育樹が行われます。この育樹活動が、森林が適切に育つことにつながっていくのです。
吉谷:「ぐんま つむぎの森」は、「人と森林との関係が、今後も紡がれていくように」という当社の願いも込められた名称となっています。
商品を購入いただくことで環境貢献ができるこの仕組みを、床材だけでなく他の商品にも展開できないかと考えています。パナソニックグループとしてお客様にいい商品を届けるだけでなく、環境問題解決のサポートとなる取り組みなど、グローバル企業としての使命もあると考えています。
吉谷:サステナブルフロアー™を発売するに当たって、社内外を問わず本当に多くの方にご助力・ご協力いただきました。
環境配慮が特長という、業界ではまだ珍しい商品のため、なかなか既存の市場ですぐに受け入れていただくことは難しいとは思っています。ただ、十年後にはこのような商品が当たり前になっている可能性もあります。そのための一歩として、今回の開発が先駆的な位置付けになってくれるとうれしいです。
PHS群馬工場にあるプロユーザー向けショウルーム「テクニカルプラザ」や群馬県の高崎ショウルームにおいて、今回ご紹介したサステナブルフロアー™を展示しています。今後も本取り組みを広く発信し、持続可能な社会の実現に向け、さらに貢献していきます。
記事の内容は発表時のものです。
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