
2025.02.14
パナソニックグループのひと
環境配慮とコスト最適化の両立で、持続可能な調達の未来を描く:奥村 大輔
シリーズ:

サステナブルなEV電池を実現する
原材料調達のキーパーソン
奥村 大輔
パナソニック エナジー株式会社 モビリティエナジー事業部
調達統括部 技術調達推進部
2003年入社。国際商事本部(当時)でレアメタルの販売業務を担当。その後、中国・上海に5年半駐在し、電池材料や鉄鋼、樹脂などの全社集中契約を経験。帰任後はリチウムイオン電池材料の調達業務に従事。現在は車載用を中心に原材料のコストダウンや取引先の選定、BOM*1のコスト管理に携わっている。
*1: Bill of Materials(部品表)の略。製品の製造に必要な全ての部品や材料のコストを合計したもの
サプライチェーン全体での環境負荷低減に挑む
サステナビリティやESGの重要性が高まる中、調達の役割はここ数年で大きく変化しました。環境配慮や社会的責任を果たすため、持続可能な調達が求められ、これまでのQCD(品質・コスト・納期)に加え、環境負荷低減も仕入れ先の選定における重要な指標の一つとなっています。
車載用リチウムイオン電池のバリューチェーンにおけるCO₂排出量の多くは、電池生産そのものよりも、原材料の採掘や加工、輸送時に発生します。特に電池性能と安全性に関わる正極材と負極材の調達による排出が約半分を占めます。こうした中、パナソニック エナジー株式会社は2030年度のカーボンフットプリント(CFP)*2を 2021 年度比で半減する目標を掲げています。その達成に向けて、自社工場のCO₂排出実質ゼロ化(カーボンニュートラル)に加え、サプライチェーン全体で環境負荷を最小限に抑えるための取り組みを推進しています。

地政学リスクや政策変更など、コントロールできない要因による価格変動にも迅速な対応が必要です。そのため、多様な供給源を確保するだけでなく、お客様との密なコミュニケーションを通じ、より安全で高品質な原材料を確保する方法を共に考え、調達のレジリエンス*3強化にも注力しています。
*2: 商品・サービスの原材料調達から廃棄やリサイクルまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量を CO₂換算で表した数字。
*3: 予期せぬ困難や変化に対して迅速かつ効果的に対応し、持続可能な成長を維持する能力。
現地調達率を高め、サステナブルな調達戦略を加速
車載用リチウムイオン電池の主戦場である米国では、さまざまな取り組みを進めています。2019年からパートナーシップを結ぶ米国の電池リサイクル企業Redwood Materials社は、パナソニック エナジー ノースアメリカの工場から出る電池廃材をリサイクルし、その材料を用いて正極材を製造することで、米国初の正極材リサイクルシステムの構築に挑んでいます。これが実現すれば、工場の所在地である米国での現地調達率を上げる観点でも有効です。ただし、その稼働に向けて重要なのが経済合理性です。各材料のリサイクル率向上はもちろん、従来の正極材と同等の価格に抑えるための協議や交渉を重ねています。

CES 2025のパナソニックブースでは、NMG社が製造する環境負荷の低い黒鉛粉末が展示された。
また、負極材に使用する黒鉛はアジア圏のものが多く、輸送コストや環境負荷の観点でも課題がありました。そこで、水力発電による再生可能エネルギーで黒鉛を製造するカナダのNouveau Monde Graphite(NMG) 社と長期供給契約を結びました。こうしたサステナブルな調達戦略を加速させ、電池生産におけるCFPの低減、低環境負荷のサプライチェーン確立を目指します。
競争が激化する車載用リチウムイオン電池の市場で生き残るためには、品質やコストだけでなく、スピードも重要です。これまでは新材料の導入には評価も含めると数年かかっていましたが、それでは世界情勢の変化についていけません。評価方法やリスク管理などのプロセスを見直し、お客様の理解と協力を得ながら、導入までの期間を短くする取り組みを進めています。
EV電池のサーキュラーエコノミー構築をリードする
車載用リチウムイオン電池のサーキュラーエコノミーの構築に向けて、まずは米国で環境に配慮したサプライチェーンを確立し、その後日本にも横展開していきたいと考えています。取り組みを広げるためには、リサイクル会社や正極材メーカーをつなげて一つの輪を形成する必要があります。技術やコスト面で越えなければいけないハードルは高いのですが、そこに挑戦する必要性を説いて回り、リードするのも調達の重要な役割だと認識しています。
パナソニック エナジー株式会社のミッションは「幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会の実現。」です。「調和」という言葉を自分なりに言い換えると、「環境配慮と経済合理性の両立」だと捉えています。それが実現できなければ、このミッションは達成できません。非常に難しいテーマですが、慎重かつ大胆に改革を進め、脱炭素社会の実現に貢献するEVの普及に向けて覚悟を持って挑戦を続けていきます。

新たなサプライヤー選定のため工場を視察(奥村さんは左から二番目)
記事の内容は公開時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更などにより、最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。
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