澤井氏は「今後は洗面台周辺のグッズを開発していきたい」と意欲を見せる。一方で「環境に優しい素材を使えばいいというのは企業の満足に過ぎない。手に取っていただくためには機能性やデザインなどのしっかりした付加価値が必須。そのために商品企画力を磨いていきます」と冷静さも忘れない。
「ここ数年で、店舗のバイヤーはサステナブル素材を使った商品にかなり敏感になってきました。ただ、なかなかお客様の購入までには至らないのが現実です。でも現状だけに悩んでいても先はありません。地球環境への貢献を考え、根気強くサステナブル素材商品をアピールしていくことが重要です。こうした商品が棚の全てを占めるまで頑張っていきたい。開発する仲間が増えれば、一気に状況は変わると信じています」(澤井氏)
材料を提供するパナソニックグループにとっても、事業者や消費者に向けた積極的な啓発は不可欠となる。「セルロース関連樹脂を開発する企業にとって、高い製造コストは共通の悩み。その壁を乗り越え、お客様が納得できる市場をどのように形成するかが鍵を握ります。kinariの販売を通じて、日本社会全体が環境貢献の大事さに気付けるように努力していきます」と和田氏は展望を語る。これを受け浜辺氏は「kinariによって、世の中の石油由来プラスチックを減らすことが目標。そのために、成形材料のバイオマス度を高めていくことが私の役目です」と改めて決意を述べた。
プラスチックのルーツといわれるセルロイドは、硝化綿(しょうかめん)に樟脳(しょうのう)を加えた天然素材をベースにしている。あれから150年余りが経ち、天然素材を混ぜ込んだkinariが社会実装に向けて歩み始めたのは興味深い。歴史は繰り返す。セルロイドが20世紀前半の産業を発展させたように、kinariをはじめとする次世代樹脂が21世紀後半をリードする――今回の取材からは、そんな未来図が見えてきた。
(ライター:小口 正貴)
社会課題解決のアイデアバンク「未来コトハジメ」にて、2023年4月6日(木)公開