先進国を中心に大きな課題となっている「フード(食品)ロス」。世界では毎年、食料生産量のおよそ3分の1に当たる約13億トンの食料が廃棄されています。日本では特に外食産業における食品の廃棄が問題に。こうした状況を受けて、2022年2月、パナソニックと敷島製パン株式会社(以下、Pasco)が共同で、パナソニックの業務用マイクロウェーブコンベクションオーブンとPascoの焼成後冷凍パン・洋菓子を組み合わせた食ソリューションの提供をスタートしました。食品ロス削減に加えて、コロナ禍による人手不足解消にも貢献するこの取り組みについて、両社のキーパーソンが語ります。
外食産業のフードロス問題
農林水産省によると、2017年度の日本の食品ロスは推計612万トン。これは1人が1日でお茶碗1杯分のご飯を捨てている計算になります(※)。このうち半分以上を飲食店やスーパーマーケットなどで生じる「事業系食品ロス」が占めており、年間約328万トン(※)にものぼります。特にベーカリーやカフェなどの飲食店においては、コロナ禍の影響で販売予測が立てにくくなり、従来以上に食品ロスが発生しやすくなっている現状があります。また、人手不足も重なり、テイクアウト用メニューの幅を広げたくても難しいという課題も。業務用の冷凍食材は、こうした課題を解決する有力な手段の1つですが、一方で味や見栄えなどのクオリティーに対する不安の声も聞かれています。
※出典:農林水産省ホームページ 広報誌「aff」2020年10月号 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html
Pascoとのコラボレーションで「食」の課題解決を
パナソニックは、これまでも食を通じた社会課題の解決に取り組んできました。約60年の歴史がある業務用レンジの知見を生かし、今回の業務用マイクロウェーブコンベクションオーブンにおいても調理スピードや味・見栄えのクオリティーはもちろん、オペレーション自体の簡素化も追求。機器にメモリー機能があるため、実際の店舗作業時は番号を押すだけ。作業時間の短縮とスピーディーな提供を実現でき、また加熱プログラムのカスタマイズも可能です。
業務用マイクロウェーブコンベクションオーブン(再加熱用) NE-SCV2
コンベクション、グリル、マイクロウェーブ機能を組み合わせ、調理済の冷凍・冷蔵・常温メニューをスピーディーに加熱。
一方、「超熟」をはじめとする家庭用パンで広く知られているPascoは、冷凍パン生地などの業務用商品も多彩に展開しています。
「2020年に展示会でパナソニックさんのマイクロウェーブコンベクションオーブンを知り、これはいいなと。ぜひご一緒できればと思い、活用策を検討し続けていました」と語るのは、同社の稲本 剛士(いなもと たけし)氏です。
「Pascoは2017年から『焼成後冷凍パン』の市場に参入しており、"パン"と"什器(調理機器)"と"オペレーション"が三位一体となったソリューション提案をしたいと考えていました。もともと冷凍生地については、熟練者でなくてもプロの焼きたての味を実現できる『コンパクトベイク(R)システム』を提供していましたが、焼成後冷凍パンの方では最適な機器を持っていませんでした。それもあり、業界でも実績のあるパナソニックさんのマイクロウェーブコンベクションオーブンに興味を持っていました」。
その後、コロナ禍による市場状況の変化も乗り越えながら、2021年、家電と食材を組み合わせたパナソニックのサブスクリプションサービス「foodable(フーダブル)」の新コースで、Pascoの焼成後冷凍パンを提供するというコラボレーションが実現。これをきっかけに、稲本氏は改めてBtoB向けの協業実現に向けて動き始めます。
「このオーブンはなんといっても、スピーディーにリベイク(再焼成)できる点が最大の魅力。焼成後冷凍パンは通常、自然解凍工程に約2時間かかりますが、このオーブンなら冷凍状態から一気に焼き上げることができます。調理時間も、従来は5~6分かかっていたところが約1分でできる。この速さは画期的です」。
稲本氏からの打診を受けたのは、パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社の寺尾 亮馬(てらお りょうま)。パナソニックとしても業界の課題にお応えするべく、食品メーカーとの協業について検討し始めていた時期と重なったといいます。
「2015年頃から冷凍食材の再加熱用途に着目して商品開発を進めていました。当初は、冷凍パンよりもチルドや常温のパンを加熱するニーズがメインだったのですが、近年は冷凍状態から一気に加熱したいという要望が増えてきました。
今回の商品は、パナソニック独自のコンベクションとマイクロウェーブ技術により、冷凍状態から一気に焼きたてのおいしさを再現できるようになっています。そのため店舗では、来客数を予測し、前もって焼成後冷凍パンを解凍する手間がなくなりますし、それが食品ロスの削減につながります。さらに、準備から調理までを含めたトータルの作業時間も短縮できるので、現場スタッフの負担も減らすことが可能になり、環境貢献と業務効率化が叶います。まさにベストタイミングで、お声がけいただきました」。
今回の共創にあたり、新たに着手したのは新メニューの作成です。Pascoがプロデュースしたレシピに合わせて、専用の焼成プログラム開発が進められました。
「実は当初、焼成後冷凍パンは焼きたてのパンと比べて、味などのクオリティーがかなり劣るのではないかという先入観を持っていました。ところが、稲本さん立ち合いの下、焼成後冷凍パンをリベイクしてみたところ、そのおいしさに感動。初回のテストで十分な出来栄えだったので、本格的に開発を詰めれば、さらにすごいものが提供できると、その場で確信しました」。
食品ロス削減と美味しさの両立
互いの専門分野を生かし、良い所を吸収し合いながらの開発は順調に進み、最終的には11種類のメニューが誕生。オーブン側でも、それぞれのレシピに即した調理プログラムが完成しました。
稲本氏と寺尾は2022年2月、「スーパーマーケット・トレードショー2022」のPascoブースに、共同開発した食ソリューションを出展。プロが集まるこの展示会の現場では実際に試食した際の評価が最重要視されますが、上々の反応が得られたといいます。稲本氏は会場での反響がこれまでとまったく違ったと語ります。
「まずは調理時間。わずか1分で出来上がることへの反応は大きく、さらに試食していただくと、想定以上に多くの『おいしい』という声をいただきました。特にチーズ系のメニューが好評でしたね」。
製パンメーカーと密に仕事をするのは初めてだったという寺尾は、稲本氏のパンに対する知見の深さ、業界知識の深さに驚いたと言います。「Pascoの皆さんは、『どうすればもっと美味しくなるのか、喜んでもらえるのか』、ここにかける情熱がすごい。焼成後冷凍パンのリベイクに対するニーズについても早くから予見しておられ、展示会や営業のシーンにおいても学ばせていただくことばかりです」。
「食」を通じたSDGsへの貢献
コロナ禍の影響もあり、飲食店では廃棄を少なくしたい、スタッフの手間を削減したいというニーズが益々高まっており、寺尾は今回の取り組みに対する反響からも本ソリューションへの期待の高まりを感じています。
「今後は、別の冷凍食材もうまく調理できるように、我々の加熱技術をさらに進化させたいですね。まずは今回のソリューションをより多くのお客様に提案し、貴重な食材を『食べる分だけ使う』ことがより一般的になれば、食品ロス『ゼロ』も夢ではなくなります。これからも様々な食品メーカーとパートナーを組んで、世界の食品ロス削減の一助としたいです」。
今回の協業を経て、既に両社は次を見据えた取り組みを進めています。共同で作成したパンフレットを持って協業内容を他社へ説明。その中で、まずはパナソニック草津拠点内の喫茶店をモデル店舗として、今回のソリューションを提供することになりました。コロナ禍で在宅勤務が増え、出社してもテイクアウトして自席で食事をする従業員は増えています。寺尾は、「大学や企業の食堂等でも抱えている課題は同じだと思うので、草津拠点の喫茶店がうまくいけば、同様の取り組みを展開していきたいですね」と今後の展開に期待を寄せます。
昨今、「食」を取り巻く環境は著しく変化しています。外食産業が抱える課題に限らず、家庭の食卓でも、コロナ禍による外食控えの影響に加え、時短や簡便化へのニーズから、冷凍食品の需要が高まっています。調理機器をはじめとする様々な製品・サービスを通じて「食」と長年向き合ってきたパナソニックは、お客様にとっての「おいしさと簡便性のニーズ」に応えつつ、食品ロス削減に貢献することで、SDGs実現への貢献も果たしていきます。