2023年11月17日

環境・サステナビリティ / 特集

サステナビリティ

脱炭素社会実現に挑む パナソニックグループの未来を見据えたGX戦略とは

もはや世界の常識となった脱炭素のムーブメント。昨今では環境への取り組みをビジネスに転換し、未来の成長ドライバーと位置付ける動きが活発化してきた。2023年10月18日、19日に開催された日経ビジネスLIVE主催のオンラインセミナー「エネルギー危機を乗り切る脱炭素経営とは」に登壇したパナソニック株式会社の講演から、現在同社で推進するGX(グリーントランスフォーメーション)戦略をひもとく。

政府も本腰を入れる環境対策と経済効果の両立

日本全体のCO2排出量のうち、企業活動が占める割合は80%以上といわれる。2050年に温室効果ガスの実質ゼロ化、いわゆるカーボンニュートラルを達成するためには、企業の絶え間ないCO2削減努力が不可欠となる。
2020年から本格化したカーボンニュートラルは企業にとって責務となり、脱炭素やサステナビリティを指針の1つに加えることが一般化してきた。加えて世界情勢不安を発端としたエネルギーコストの上昇が影響し、社会全体が化石燃料に依存しないGX(グリーントランスフォーメーション)のビジネスモデルを模索している。2023年10月には岸田首相がグローバル投資家とのラウンドテーブルを開き、年内にGXやESG投資促進に向けた検討会議の設置を明らかにするなど、政府も本腰を入れる。
こうした動きに企業も敏感に反応している。パナソニックグループは2022年1月に長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を策定。2030年までの全事業会社におけるCO2排出量実質ゼロ(スコープ1, 2)を目標に定めた。さらに2050年までに、全世界CO2総排出量の約1%に当たる3億トン以上の削減インパクトを目指す。

「Panasonic GREEN IMPACT」ロゴ

パナソニックグループの長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」

実際にどのような戦略を進めているのか。2023年10月18日、19日に開催されたオンラインセミナー「エネルギー危機を乗り切る脱炭素経営とは」の初日に登壇したパナソニック株式会社(以下、パナソニック)戦略本部 真鍋 馨氏と日経BP総合研究所の神保 重紀氏の講演を基に紹介する。

写真 左から:日経BP総合研究所 神保 重紀氏、パナソニック株式会社 真鍋 馨氏

左から:日経BP総合研究所 神保 重紀氏、パナソニック株式会社 真鍋 馨氏

世界のESG投資残高は4,000兆円以上 企業競争力強化にGXは必要不可欠に

パナソニックだけでグループ全体の約90%のCO2排出量を占めることから、「脱炭素を進めるに当たって非常に大きな責任がある」と真鍋氏は切り出した。
ミッションに「Life tech & ideas 人・社会・地球を健やかにする。」、ビジョンに「人を想う技術と創造力でくらしを支えるベストパートナー」を掲げるパナソニックでは、目指す姿の実現に向けた重点事業を設定。BtoBでは空質空調設備、電材、エネルギーソリューション+水素、ショーケース、CO2冷凍機など、BtoCでは白物家電などとなる。GX戦略の立案を担当する真鍋氏は「これら全ての事業を通じてサステナビリティを実現していきたい」と強調する。その上で、パナソニックがGX戦略に取り組む意義を次のように語った。

写真:真鍋 馨氏

パナソニック株式会社
戦略本部 CGXOチーム 兼 CFOチーム
サステナビリティ戦略リード
真鍋 馨氏

「生活者やBtoBのお客様の環境意識は日に日に高まっています。そのため環境・GXに取り組まない企業は顧客に選ばれなくなる、つまり生き残るのが難しくなると考えています。また、世界のESG投資残高が約4,150兆円にも上るとのデータが示す通り、サステナビリティの領域に膨大な資金が流入してきています。カーボンクレジットのように、CO2を削減した効果が新たな収益になる可能性も見えてきました。こうした背景から、われわれは環境・GXへの投資を長期的な企業競争力強化に向けた大事な要素だと捉えています」(真鍋氏)
同社の事業特性上、エネルギーと資源の両面が重要になってくる。そこでカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを両輪とし、それらの加速に向けた経営制度・仕組みでもしっかりと支えるGX戦略を打ち立てた。

パナソニックのGX戦略では、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの両面を重視

カーボンニュートラルは「電化」「水素」「自然冷媒」を軸に推進していく。電化では欧州を中心に実績のあるヒートポンプによる化石燃料からの電気への置き換え、水素では再生可能エネルギー100%のRE100ソリューション、自然冷媒ではスーパーマーケットなどのショーケースに使われる低環境負荷のCO2冷凍機を例に挙げた。「くらしに密着したインフラを脱炭素に転換することで社会に貢献できると考えています」(真鍋氏)
サーキュラーエコノミーは「新規資源投入量の削減」「長く使うビジネスモデルへの変革」「循環の仕組みを創る」という3つの領域に注力する。新規資源投入量の削減では、2022年に欧州で投入した「MULTISHAPE シリーズ」をピックアップ。1つのボディに5種類のヘッドを装着可能なモジュール式パーソナルケアシステムだ。本体を共有することで充電池やACアダプターの重複のムダをなくせるため、約60%の資源使用量削減に貢献した。日本でもドライヤーやシェーバーなどの美容家電商品をコンパクト化しており、体積比で約27%減を実現した商品もある。

長く使うビジネスモデルへの変革はリユース、リファービッシュ型モデルの事業を強化していく。併せて修理しやすい製品設計も視野に入れる。「古くから日本の文化になじみのある『良いものを長く使う』世界観が根底にあります」と真鍋氏は言う。循環の仕組みについては、2001年から自社リサイクル工場の「パナソニック エコテクノロジーセンター(通称はPETEC)」で再資源化を実現。独自技術で選別・回収したプラスチックを再資源化し、冷蔵庫部品、洗濯機の台枠などに再利用している。

脱炭素・循環経済の加速に向けたパナソニックの「ICP制度」とは?

経営制度・仕組みで触れたのが、2023年6月に表明した「インターナルカーボンプライシング(ICP)制度」だ。いわゆる社内炭素価格であり、1トン当たり2万円と算出した。ICPの利点はCO2排出削減効果を投資判断に組み込める点にある。真鍋氏は「CO2削減量の見なしの利益を加えることで投資基準をクリアできる案件が増え、長期視点の競争力につながる開発投資など脱炭素活動が加速する」と説明した。

ICPは企業内部でCO2排出に価格を付け、事業(投資)の判断に活用する制度

今回対象とするのは、製品ライフサイクル全般におけるスコープ3のCO2削減量、および社会へのCO2削減貢献量である。まずは2023年度から家電事業を担当する社内分社「くらしアプライアンス社」で試行導入を開始し、2024年度以降順次拡大していく。

当社CO2排出量の99%を占めるスコープ3と削減貢献量にしっかりとアプローチすることにこだわりました。例えばデマンドレスポンス(DR)対応製品による社会へのCO2削減貢献や、製品ライクサイクルの長寿命化・循環型のビジネスモデル実現につながる取り組みなどを対象に本制度を適用していく予定です」(真鍋氏)

パナソニックが導入を予定するICPの内容

3電池連携 水素本格活用のRE100ソリューション

2022年4月から開始したRE100ソリューションの実証について紹介。本講演のホストである日経BP 総合研究所 主席研究員の神保 重紀氏との質疑応答も行われた。

滋賀県草津市の自社拠点に開設した「H2 KIBOU FIELD」は、自社開発の純水素型燃料電池、太陽電池、蓄電池の「3電池」を高度なEMS(エネルギーマネジメントシステム)によって連携・制御。再生可能エネルギー100%で燃料電池工場の電力を賄う実証を推進。本格的に水素を活用する工場のRE100化は世界初となる。

「日本でも深刻な自然災害が毎年のように起きるなどの社会課題に直面し、レジリエンス(復元力)を強化した分散型社会への移行が求められています。H2 KIBOU FIELDは、あたかも現場にレジリエンスの高い発電所を設置するようなもの。これにより、エネルギーの地産地消を実現しました」(真鍋氏) 

純水素型燃料電池、太陽電池、蓄電池の3種類の電池を利用したパナソニックのRE100ソリューションは天気や災害に影響されずに電力を賄うことが可能

今回は工場を舞台としたが、ビルや商業施設、1,000戸以下のスマートタウンなど、さまざまなユースケースを想定している。2022年11月には独大統領をはじめとする独政府関係者、ビジネス視察団総勢約80人が見学に訪れ、非常に高い関心を示したという。2024年度には英・独のパナソニック拠点で実証を開始する予定だ。

写真:神保 重紀

日経BP 総合研究所
主席研究員
神保 重紀

続けて神保氏は「H2 KIBOU FIELDにおける純水素型燃料電池、太陽電池、蓄電池の3電池連携は相当難しいのでは?」と質問。これに対しては次のように述べた。

安定的に利用するために開発したのがコア技術となるEMSで、エネルギーを使う分だけ創る制御がポイント。実証でのデータが豊富になればなるほど、需給マッチングの精度が高まってきます。現状でも98%まで必要な分だけ創れるようになってきました。このように、エネルギーのムダがないのも魅力です。これを実現できれば、事業化に向けて大きな一歩になります」(真鍋氏)

パナソニックが提供するRE100ソリューションは、「顧客条件に合わせた価値提供」ができることも特徴だという。

太陽電池と蓄電池だけで良いのではないかと一般的には思われていますが、水素の長所はエネルギー密度が非常に高い点にあります。太陽電池だけでそれなりの電力需要を賄おうとすると広大な敷地が必要になりますし、何より出力の不安定さがネックです。そこに純水素型燃料電池を組み合わせることで設置面積が7分の1、イニシャルコストが3分の1ほどになります

純水素燃料電池は家庭用燃料電池コージェネレーションシステム『エネファーム』を応用しているので非常にコンパクト。1台当たりの出力は5キロワットで、草津拠点では99台を連結しています。お客様によっては5キロワット単位でカスタマイズできますし、設置場所に形状で制約がある場合でも柔軟にレイアウトも変えられます。メンテナンス時にも一部の燃料電池を止めつつ連続稼働しながら細かな調整ができますから、結果的に電池寿命も長くできるのではないかと検証しているところです」(真鍋氏)

次世代に向けて、パナソニックのGXは着実に歩みを進める

サステナビリティ時代のビジネスモデル構築は始まったばかりだが、ここで紹介したようにパナソニックは次世代に向けて着々と歩みを進めている。真鍋氏は「10年、20年かけて一歩一歩変革していく長期的な取り組み。さまざまなパートナーと連携を図っていきたい」と展望を語った。これを受け、神保氏は「脱炭素は1社だけでは解決できない大きな課題。今アクションを起こさないと、未来の世代に笑顔で地球を渡すことができません。企業の壁、投資の壁、国の壁を超えて共創していく必要があるので、今後もぜひ取り組みを進化させてほしい」とエールを贈った。

写真 左から:日経BP総合研究所 神保 重紀氏、パナソニック株式会社 真鍋 馨氏

(ライター:小口 正貴)

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