次世代のエネルギーソリューション~ミュンヘンで進む「Panasonic HX」

2025年12月3日

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次世代のエネルギーソリューション~ミュンヘンで進む「Panasonic HX」

パナソニックグループは長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、2050年に向けて3億トン以上のCO2削減インパクト実現を目指して取り組んでいる。取り組みの一つである、新事業と新技術の創出を通じて1億トン超のCO2削減に貢献する「FUTURE IMPACT」の一環として、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)は2025年3月から、水素を活用したエネルギーソリューション「Panasonic HX」をドイツ・ミュンヘンの自社オフィスに導入し、再生可能エネルギーによる電力供給の実証を続けている。Panasonic HXの事業展開を通じて、欧州、ひいては世界の脱炭素化への貢献を目指すパナソニックの挑戦について、プロジェクトを統括するキーパーソンに話を聞いた。

欧州で着実に進むエネルギー転換 その現在地

欧州は、気候変動対策と経済成長の両立をいち早く模索してきた。欧州連合(EU)が2019年12月に発表した欧州グリーンディールの下、2050年の温室効果ガス排出の実質ゼロを目標に、エネルギー、運輸、農業などあらゆる分野で社会構造の転換を進めている。

「欧州が特にエネルギー転換の中核として強力に推進しているのが、化石燃料の代替となる水素の活用です」そう語るのは、欧州におけるPanasonic HXプロジェクトを統括する、欧州水素事業推進室 事業開発マネージャーのFlorian Sobek(フロリアン・ソーベック)だ。

写真:Florian Sobek(フロリアン・ソーベック)

パナソニック ヨーロッパ 欧州水素事業推進室 事業開発マネージャー Florian Sobek(フロリアン・ソーベック)

水素は酸素と反応して電気と熱を生み出す。このときCO2を排出しないため、クリーンなエネルギー源として注目されている。さらに、再生可能エネルギー(以下、再エネ)による水電解でつくられるグリーン水素を用いることで、燃料の生成から発電まで、ほとんどCO2を排出しないエネルギーサイクルを実現できる。

「水素の特長は、長期間の貯蔵が可能な点です」とソーベックは説明する。実際、水素を貯蔵し、太陽光発電の出力が低下する冬季などに燃料として用いれば、再エネの変動を補うことができる。

EUの行政執行機関である欧州委員会は、2030年にグリーン水素の域内供給量を年間2,000万トンにするという目標を掲げ、供給網構築のためのプロジェクト推進など、社会実装に向けた取り組みを加速している。

水素と再エネが切り開く次世代のエネルギーソリューション――「Panasonic HX」

Panasonic HXは、グリーン水素を利用して発電する純水素型燃料電池をその中核に据えた、オンサイト発電による分散型エネルギーソリューションだ。純水素型燃料電池に、太陽電池などの再エネと蓄電池を組み合わせ、エネルギーマネジメントシステム(以下、EMS)がこれら三つの電池を連携制御し、電力需要に応じて最適化する。

Panasonic HX その特長と強み

図版:Panasonic HXの全体像
  1. EMSによる連携制御
    純水素型燃料電池とAIベースのEMSを一体化することで、不安定な再エネの利活用を安定化。

  2. 効率的なコージェネレーションシステム
    AIとクラウド技術を活用した高精度のEMS管理により、純水素型燃料電池の発電時に生じる熱を効率的に供給。

  3. 高いエネルギーレジリエンス(※)
    独立したエネルギーシステムとして、天候や需要に影響される系統電力への依存を減らし、高いレジリエンス性を実現。

    ※エネルギー供給が支障をきたした場合に被害を最小限に抑え、迅速に復旧する能力

「Panasonic HXという名称には、環境負荷の少ない水素(H)の本格活用という新たな選択肢を提案し、パートナー企業や行政、ビジネス顧客とのコラボレーション(X)によって、脱炭素社会へのトランスフォーメーション(X)に貢献していくという決意が込められています」とソーベックは説明する。

Panasonic HXは、2022年4月、日本の滋賀県草津拠点の燃料電池工場で初の実証を開始。その後、英国ウェールズ・カーディフの電子レンジ組立工場にも展開し、2024年12月に実証設備を公開した。

写真:Panasonic HX実証拠点。日本・滋賀県草津(左)、英国・ウェールズ・カーディフ(右)

Panasonic HX実証拠点。日本・滋賀県草津(左)、英国・ウェールズ・カーディフ(右)

こうした取り組みを経て、パナソニックは欧州全体での展開を視野に入れている

ソーベック「欧州では、電力ポートフォリオの分散化の重要性が年々高まっています。生成AIの普及に伴ってデータセンターが増え、電力需要が膨らんだ結果、欧州の送電網がひっ迫し、電力の確保がいっそう難しくなっているためです。そうした中で、系統電力以外の電力の選択肢を持つことは、日々の生活や事業活動の安定につながります。

加えて、EUでは気候変動対策に関する規制が強化され、企業は厳しい要件への対応を迫られています。対応が不十分とみなされた場合、罰金などの制裁を受ける可能性もあります。こうした課題に直面する欧州企業にとって、レジリエンス確保と環境負荷低減の両立を可能にするソリューション――それが、Panasonic HXなのです

ミュンヘン拠点で挑む――蓄電池を使わない発電システム

パナソニックは、3拠点目となる実証をドイツ・ミュンヘンの「Panasonic Campus Munich」で2025年3月に開始した。

今回は、製造工場ではなく初めてオフィス施設を対象とし、ショウルームとラボを兼ね備えたカスタマーエクスペリエンスセンター(CXC)棟の電力を100%再エネで賄うことを目指している

写真:Panasonic Campus Munich外観

Panasonic Campus Munich

写真:CXC棟内観

CXC棟

既設の太陽電池(総発電容量190kW)のうち60kWを活用しつつ、新たに敷地内に約203m2の実証設備を導入。パナソニックの純水素型燃料電池の最新機種である10kWモデル「PH3」5台による計50kWをEMSで統合し、再エネの変動に応じた燃料電池のリアルタイム制御を欧州特有の気象条件下で実証している。

純水素型燃料電池「PH3」は、従来モデルと比べて約2倍の最大出力を実現。1kW単位での出力調整が可能になった。コンパクト性や静音性にも優れており、都市部やオフィス空間での利用に適している。本実証では、ドイツおよびオーストリアで製造されたグリーン水素を燃料として使用し、40ft(約12.2m)の水素タンクトレーラーから供給を受ける。

写真:ミュンヘン拠点に導入された純水素型燃料電池「PH3」

純水素型燃料電池「PH3」

燃料電池を統合するEMSは、電力需要と現地の気象予報データに基づく太陽光発電量予測とを組み合わせて燃料電池の出力を制御することで、需給バランスを最適化している。

写真:ミュンヘン拠点屋上の太陽電池(左)、EMSによる制御を表示したモニター画面(右)

「CXC棟には、日ごろから多くのB2B顧客が訪れます。欧州随一の工業国であり、2020年という欧州内でも早い時期に水素戦略を策定した環境先進国ドイツで、顧客にPanasonic HXで生み出された電力を体感していただけることに、大きな意義を感じています」と、ソーベックは実証の手ごたえを語る。

ソーベックによると、他拠点の実証との違いは、蓄電池を使用していない点にある。

ソーベック「蓄電池は余剰電力のピークシフトや電力変動への応答に優れていますが、ミュンヘン拠点は太陽光発電量が小さく、CXC棟の電力需要の変動も少ないため、蓄電池の導入は不要と判断しました。その結果、初期コストを抑え、限られた敷地への設置が可能になりました」

燃料電池設備の導入で最も大きなハードルとなったのは、複数の許認可プロセスを関係機関と調整しながら進める必要があった点だとソーベックは語る。

ソーベック「燃料電池本体に加え、グリーン水素の貯蔵設備や系統連系など周辺インフラに関わる設計・アセスメントを一つずつクリアしていくプロセスは、潜在顧客が必ず直面する課題です。施主の立場で実運用まで行うことで、こうした課題の実像と、その解決の道筋を自ら検証することができたのは、今回のプロジェクトで得られた最も大きな手応えです。

同時に、プロジェクト全体をゼロから構築する過程で、顧客の企画段階からの支援やスペックイン活動など、当社がバリューチェーン上で強化すべき領域も明確になりました。これらの知見は、今後の欧州展開でも確実に生きると考えています

水素ソリューションは、エネルギー転換実現の「不可欠なピース」

Panasonic HXは、パナソニックグループの長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の取り組みの柱の一つであり、新事業と新技術の創出を通じて1億トン超のCO2削減に貢献する「FUTURE IMPACT」を具現化する事業として、ビジョン実現のカギを握っている。

「水素の活用に関して、社会では非常に多くの活発な議論がなされています。しかし、実際にエネルギーシステムに組み込んで稼働している例は、それほど多くはありません」と、ソーベックは一連の実証の意義を強調する。

写真:ミュンヘン拠点のPanasonic HX実証設備

複数の自社拠点での実証を経て、今後は、Panasonic HXを核に、顧客のRE100(「Renewable Energy 100%」の略)実現支援や、欧州の気候変動対策に資する新たなビジネス創出に挑んでいく。

ソーベック「電力需給がひっ迫しているデータセンターへの導入や、病院・大学など公的機関との連携を視野に入れています。既に、英国グレーター・マンチェスター合同行政機構および現地機関とのパートナーシップの下、Panasonic HXの導入計画が進行しているほか、欧州各地で共創プロジェクトが動き始めています

写真:CXC棟内の純水素型燃料電池の展示の前に立つソーベック

ソーベックは、Panasonic HXの今後について、さらに長期的なビジョンを描いている。

ソーベック「欧州でグリーン水素供給網をはじめとするインフラ整備が進めば、グリーン水素のコストは低下し、燃料電池の普及を後押しするでしょう。いずれは、現在の太陽光発電のように、燃料電池がクリーンエネルギーの現実的な選択肢となるはずです。燃料電池を核とする水素ソリューションが、社会の不可欠なピースとして持続可能な生活に貢献する――ミュンヘンでの取り組みは、その未来への確かな布石なのです

ウェルビーイングとサステナビリティが両立する社会を目指すパナソニックグループは、水素を本格活用した再エネの導入という新たな選択肢の提案を通じて、来るべき水素社会およびカーボンニュートラルの実現に向けた貢献を続けていく。

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