2024年9月20日
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企業の活動の象徴として、また社会と会社、従業員同士を結ぶ「絆」として、経営戦略の中でますますその重要性を増す「ブランド」。資生堂とパナソニックグループという、長きにわたり日本の産業界を担ってきた両社が考える経営の柱としての「ブランド戦略」とは。ブランドを通じて届けたい「価値」とは。(株)資生堂における最高峰ブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」を担う橋本 美月(はしもと みづき)氏と、パナソニック ホールディングス(株)の森井 理博(もりい よしひろ)が、さまざまな角度から熱い議論を交わす。
福澤:株式会社 資生堂のエグゼクティブオフィサー、そして最高峰ブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」チーフブランドオフィサーの橋本美月さんにお越しいただきました。2022年に創業150周年を迎えられた資生堂。その中で資生堂を牽引してこられたクレ・ド・ポー ボーテも40周年を迎えられたということで、誠におめでとうございます。
橋本:ありがとうございます。
福澤:パナソニックグループも2018年に創業100周年を迎え、両社とも100年を超える歴史を持つ企業。最初に、両社がこれまでブランドとどう向き合ってきたのか、伺いたいと思います。まずは森井さん、現在のパナソニックグループにおけるブランドの位置付けや課題について、創業からの歩みを踏まえてお聞かせください。
森井:パナソニックグループは、創業者・松下幸之助が設立した企業であり、コーポレートブランドは経営理念や経営基本方針とひもづけて語ることが基本です。幸之助は、私たちの存在意義や本質的な目的、いわゆるパーパスを「物心一如」という言葉で表現していました。それをグループCEOの楠見が、現代風に訳したのが、「物と心が共に豊かな理想の社会」をつくるということ。ここが基本的に私たちのブランドにおける考え方の1丁目1番地になっています。
幸之助が「物心一如」という考え方を打ち出した当時、日本はまだ物が豊かではなかった。だから水道水のように安価に物を提供できれば、世の中にも広く行き渡る。そういう社会をつくるべきだ、という「水道哲学」を唱えたのです。そして今、確かに日本では、物は行き渡っています。一方、心が幸せなのかといえば、なかなかそうはなっていない。だから、物と心の両方が共に豊かであるということを、私たちはパーパスとして実現しないといけないのです。
もう1つ、現代には環境問題という大変大きな社会課題があります。資生堂さんも当社も製造業ですが、当社の場合、実は工場・商品から出るCO2が年間で1.1億トンもあります。これは小さな国の排出量レベルにも相当する規模。だからブランドを語る以上、「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現の前に「環境問題の解決」を責務と捉えなければならない。私たちは幸之助の考え方を今に引き継いで、ブランドを定義付けているのです。
福澤:続いて橋本さんに伺います。資生堂では、これまでブランドに対してどのような考え方を持って経営を進めてこられたのでしょうか。
橋本:化粧品を事業の中心に据えた初代社長の福原信三の哲学として、3つの言葉が私たちの中でもよく語られます。「商品をしてすべてを語らしめよ」「ものごとはすべてリッチでなければならない」「世界に通用するものづくりを」――これを、入社時の教育から耳にし続けます。スペックだけにこだわらず、化粧品を通じて豊かさを求める、ということがこの言葉に込められています。
資生堂のものづくりにおいて、「価値」という言葉がよく使われます。この言葉には、「品質」はもちろん、その延長線上にある「人々の心の豊かさ」や、化粧品を使うことによって「美しい生活文化を育んでいただきたい」という思いが込められています。資生堂のブランドロゴは、商品の品質を担保する象徴であるとともに、「生活の豊かさ」や「文化」、化粧品を使うことによる「心の豊かさ」など、提供する価値そのものを保証する存在なのです。
1888年、資生堂は日本初の練歯磨を発売しました。当時は粉歯磨が主流で、値段も2~3銭ぐらいだったのですが、資生堂の練歯磨は25銭。非常に高価なものだったのですが、品質が良い、使い心地が良い、見た目にも美しいということで、幅広くお客様に支持された商品でした。こういったところが資生堂のブランドを形作っているのかな、と思います。
福澤:135年も前からすでにブランドを経営の中で大事にしてこられたのですね。森井さん、当社も創業間もない頃から宣伝やブランドを重視してきた印象がありますが、現在はいかがでしょうか。
森井:今、橋本さんのお話を聞いて「おおっ」、と思ったのですが、資生堂さんも心の豊かさを大事にされていて、幸之助が言っていたことと非常に近しいと感じました。結局、心の豊かさを担保しようと思ったら、価値のある商品を出さないといけない。幸之助は「価値を伴わない商品は作るな」と言っていました。逆に言えば、「価値のある商品を作ったのであれば、ちゃんと世の中に伝えなさい」と。
例えば、当社にはナショナルランプの「三行広告」というのがあります。たった三行の広告なのですが、機能ではなくて、この商品によってお客様の生活にどういう「価値」をもたらすのか、が広告の中に織り込まれているのです。
企業広告というと、今は当たり前にどこもやっていますが、諸説あるものの、このスタイルを始めたのは松下幸之助だとも言われています。物だけじゃなくて、私たちがお客様に提供する「価値」とは何なのか、これを繰り返し語る。今も私たちのブランディングにおいて「価値」が大事、という考え方が息づいています。そういう意味では資生堂さんと非常に共通する部分がありますね。
一方で資生堂さんと違うのは、当社には非常に多くの事業がある。資生堂さんはビューティーの会社、と分かりやすいですが、パナソニックグループは何の会社なのか分かりにくい。ややもするとコングロマリット・ディスカウントにつながってしまう。その中でブランドは、「価値」の先行指標として世の中に提示していく存在にしていきたいと思っています。ブランドに技術や商品・サービスが追い付いてきて、グループ全体が強くなっていく。そういうサイクルが回りだすと一番いい形なのではないかと。価値を先行的に世の中に問うていく、そういう役割をパナソニックブランドが担えればいいなと思っています。
福澤:創業当初からブランドを経営において重視してきた資生堂の中で、特にクレ・ド・ポー ボーテは象徴的な存在だと思います。経営の柱とするために、クレ・ド・ポー ボーテはブランドの世界観をどのように作り上げ、どのような取り組みをされてきたのでしょうか。
橋本:クレ・ド・ポー ボーテは、資生堂グループの中でも、福原信三の言う「リッチ」を希求してきた最高峰ブランドです。商品の品質を下支えする機能、それを支える肌細胞サイエンス、クラフトマンシップ、商品の意匠性。そしてブランドのコミュニケーションに出てきてもらう女優やモデルなどブランドミューズ。それらを通じたマーケティングの表現、コミュニケーション活動、さらにはお店の作り方、店頭における販売員の立ち居振る舞い。そういったことも含めて、全て総合的なブランド体験として規定しています。私たちはいわゆる美容部員、店頭に立つ販売員を「お客様一人ひとりの個性に合ったアドバイスを提供するプロ集団」であるというこだわりをもって「パーソナルビューティースペシャリスト」と命名し、小売店に対しても非常に厳しい条件の下で販売契約をさせていただいています。
そしてグローバルブランドをマネージしていく中で一番難しいのが、地域や担当領域、あるいは時間や世代を超えてクレ・ド・ポー ボーテのブランド価値をしっかり継承していく、この部分ですね。私の着任以降、ブランドブックやデザインコード、デザインのガイドラインなど、今まで明文化されていなかったナレッジを集約し、形式知として皆さんにお伝えできるよう、多層的なブランディングシステムを確立してきました。
ブランドは事業経営の根幹であり、価値の源泉だと思います。そしてその価値には、変えてはいけない永久不変の部分と、時代に沿ってアップデートをしていかなければいけない部分があり、その見極めも非常に重要だと思っています。
昨年、クレ・ド・ポー ボーテは40周年を迎えたのですが、オフィスにブランドミュージアムをつくりました。当社がどうやってブランドのDNAを保持しながら発展・進化してきたのか、ブランドに関わる人たちが視覚的に感じられるような場所になっています。また、オフィスも、ちょうどコロナ禍になる前ぐらいにリノベーション。ブランドの世界観を反映させ、さまざまな観点でブランドを意識・無意識両面で感じられるように設計しています。
もう1つ、海外のメンバーの入れ替わりによって、ブランドの知識が少し薄れつつあるという危機感を覚えたんですね。そこで、昨年末に「ブランド・イマーシブ・ツアー」といって、海外法人のブランド担当に日本に来てもらい、資生堂の汐留本社やグローバルイノベーションセンター、基幹工場である大阪の茨木工場、掛川の企業資料館などを回ってもらいました。しっかりとブランドについて読んで知ってもらう、また実際に見て体験して、自分のものにしてもらう、ということを意識的にやっています。非常に好評でして、これは今後も続けていきたいな、と考えています。
福澤:クレ・ド・ポー ボーテのブランドの世界観を維持・継承するためのシステムの確立に加えて、従業員一人ひとりのブランドリテラシーを高めることも非常に重要だと。
森井さんも日頃から従業員一人ひとりがブランドを意識することが大事だと言っていますが、今のお話を聞いていかがでしょうか。
森井:当社として参考にしないといけないこともありますし、非常に共感する部分もあります。例えば、「販売員の立ち居振る舞いそのものも、ブランドを構成する要素である」というお話は、なるほど、と思って伺っていました。結局、ブランドが語っていることを意識できているか否かは、お客様にどんな価値を提供しているのかを、自分で考えてできているかということだと思うんですよね。
先ほど申し上げたように、地球環境問題の解決に責務として取り組む。その結果として、お客様にウェルビーイング、「幸せ」を提供する。これが私たちのブランドの二本柱なんですが、それを頭で理解するだけでなく、自分の仕事の中で本当に涵養(かんよう)(※)できているのか、取り込んでいるのか。これは、書類を読めばできるというものではなくて、自分が本当にそう思って実行していかないと実現できないですよね。
「全ての要素がブランドを構成する」というお話に、非常にインスパイアされました。ぜひ参考にさせていただきます。
※涵養:自然に染み込むように、養成すること。無理のないようだんだんに養い作ること。
福澤:ここまでブランドの考え方や、ブランド価値を高めるための取り組みについて伺いましたが、クレ・ド・ポー ボーテがブランドを通じて実現したい世界、届けたい「幸せ」とはなんでしょうか。
橋本:クレ・ド・ポー ボーテというブランドの名前は、フランス語で「美しい肌への鍵」という意味なんです。この「鍵」というブランド自身が持つ意味を踏まえて、ブランドのミッションを「UNLOCK THE POWER OF YOUR RADIANCE(鍵はあき、輝きが解き放たれる)」としています。そして私たちは「RADIANCE」を、一人ひとりのお客様の中に秘められているご自身の魅力、内なる力という意味で定義しています。クレ・ド・ポー ボーテは、そういったお客様が本来持っている魅力を引き出すお手伝いをするブランドだということですね。
その上で、単なる化粧品ブランドとしての存在を超えて、肌を美しくするのみならず、その輝く肌から生まれる自信によりお客様自身の自己実現をサポートし、そのような輝いた存在が世の中に増えていくことで社会全体までも輝かしいものにしたいというビジョン(for skin, for self and for society)を置いています。
2019年からそういったブランドの理念というのをベースに、女性の地位向上を基本にしたいろいろな活動をしています。まず、「Power of Radiance Awards」という女性・少女たちの教育支援活動への顕彰制度。特に女性の教育や地位向上に貢献した女性を表彰し、助成金を授与することで、彼らの活動をサポートしています。2020年からは、ユニセフとのグローバルパートナーシップにより、ジェンダー平等の分野における活動支援も行っています。「UNLOCK THE POWER of GIRLS」という取り組みなのですが、2020年から22年の第一期は、約790万人の少女たちの雇用とエンパワーメントを支援しました。2023年から第2期として新たに3年間の契約を更改したのですが、この活動は息長く続けていきたいと思っています。
こうした活動を進めていく中で、非常に学びになっているのが社内、インターナルコミュニケーションです。会社の中、社員に対して、こういったことを自分たちのブランドがやっている、という理解・共感を醸成しておかないと、なんとなく「会社がいいことやっている」で終わってしまって、活動としての根を失ってしまうんですね。なので、例えば、ブランドのメンバーやユニセフの支援先の人たちとの関係づくりなど、結構根気よくやっています。私たちの活動が支援先の人々にどういう良い影響を与えているのか、リモートでつないで知ってもらうことで、社員の活動への理解とエンゲージメントを高めて実体性を持った活動にしています。
さらに、店頭でも一定の期間、「クレ・ド・ポー ボーテはユニセフを通じて女性を支援しています」というコミュニケーションを行っています。これにより、お客様にもブランドに対して応援する気持ちがより芽生えてきていると感じています。もう1つの反響として、店頭に立つ販売員もブランドに対して、「こんなにいい活動をしているブランドに携わっている」と非常に誇りを持ってくれるようになりました。これは、そうなってほしいとは思っていたのですが、副次的な効果として大変喜ばしいですね。
資生堂グループのミッションである「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の中でも、それぞれの個別事業単体ごとに、「社会的価値」と「経済的価値」の両方の創出が求められています。この活動は、「社会的価値」のドライブというミッションは達成できていると考えています。
福澤:商品だけではなく、社会課題と向き合うことで、そのブランドが持つ世界観を社内、世の中に広げていくことが非常に大事だと感じました。
最後に、森井さん。パナソニックグループの存在意義である「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現に向けて、ブランドが果たす役割とは何でしょうか。
森井:今日、パナソニックブランドには2つのテーマがあると申し上げました。1つは地球環境問題。CO2をたくさん排出している製造業である限り、これを元の状態に戻さないといけない。世間ではカーボンニュートラルと言われますが、この責務をきちんと果たしていく。もう1つがウェルビーイング、「幸せ」と申し上げましたが、私たちには「幸せの、チカラに。」というブランドスローガンがあります。当社には7つの事業会社があり、それぞれ事業を展開していますが、この言葉はグループの総意として目指すべきお客様に対しての約束事です。具体的に、どういう「幸せの、チカラに。」なるのかは、各事業で決めてもらう。グループとしては、いろいろな形でお客様の「幸せの、チカラに。」なっていく、これがパナソニックブランドとして約束をしていることなんです。
また、地球環境問題の解決に向けて、パナソニックグループが目指す環境ビジョンとして「Panasonic GREEN IMPACT」という言葉を使っているのですが、これにもちょっと意味があって。IMPACTという英語の中には「ACT(行動する)」という言葉が含まれています。つまり言うだけではなくて、実際に行動で示す、ということを私たちとしてはコミットしているんです。「幸せの、チカラに。」も、お客様のどういう「幸せ」のチカラになるのかを、きちんと約束していきましょうと。2つともお客様との関係性においてコミットしていくという意思が込められています。
当社には、幸之助の言葉にある「社会の公器」というDNAが非常に息づいていて、先ほど、資生堂さんも「経済的価値」と「社会的価値」二軸での価値創出が重要だとおっしゃっていましたが、私たちもそういう考え方を持っています。「経済的利益」を追うだけが企業ではない。地球環境問題という社会課題を解決し、お客様の「幸せの、チカラに。」なる。これは、まさに「社会的役割」を果たすということ。そして、報酬はそのお役立ちの結果だというのが私たちのDNAであり、大切にしている価値観、行動規範です。「経済的価値」と「社会的価値」、この両方が大事だというお話は当社にも通じるところだと思います。
福澤:私たち従業員がブランドを大切にするということは、企業価値の向上、競争力強化はもちろん、ブランドへの共感の輪を社会全体に広げていくために非常に大事だ、ということが本当によく分かりました。橋本さん、森井さん、本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
※本対談は、感染症対策を行った上で実施しています。
橋本 美月(はしもと みづき)氏
株式会社 資生堂 エグゼクティブオフィサー
クレ・ド・ポー ボーテ チーフブランドオフィサー
1997年、(株)資生堂入社。入社時より国際事業部に配属され、入社3年目にヨーロッパ地域本社に異動、パリ駐在を経験。帰国後は国際事業部勤務を経て、2012年4月、資生堂シンガポール取締役社長に就任。2015年、クレ・ド・ポー ボーテ グローバルブランドユニットに帰任、2022年1月より現職。
森井 理博(もりい よしひろ)
パナソニック ホールディングス株式会社
ブランド戦略・コミュニケーション戦略担当 執行役員
電通で約25年勤務、あきんどスシローやPeach Aviation、PwCコンサルティングの幹部を歴任。2020年2月にパナソニック(株)ブランドコミュニケーション本部(当時)副本部長として入社。同年10月、同社 ブランド戦略本部長。2021年4月、同社 執行役員。2022年4月から現職。事業構想大学院大学の客員教授も務める。
福澤 達哉(ふくざわ たつや)
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
コーポレート広報センター
元バレーボール日本代表。2008年には北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団し、国内タイトル3冠を3度達成するなどチームの優勝に貢献。2015-2016年にブラジル、2019-2021年にフランスリーグでプレーするなど海外でも活躍した。2021年8月、現役引退。
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