2024.10.16
4年目のPanasonic Transformation(PX)~グループ内の連携を加速、変革し続ける企業へ
シリーズ:
DX(デジタルトランスフォーメーション)を核に据えながら、情報システム、オペレーティング・モデル、企業カルチャーを丸ごと大胆に変革し、競争力強化につなげていくグループ全体の取り組み「Panasonic Transformation(PX)」。2021年5月に本格稼働し、4年目にさしかかった本プロジェクトは、グループ内の各事業会社との連携も加速しながら、着実にビジネスのやり方、働き方の変革を進めている。2024年9月、パナソニック ホールディングス株式会社(以下、PHD) 執行役員 グループCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)の玉置 肇(たまおき はじめ)が、その最新動向とこれまでの実績について語った。
取り組み4年目のPX、その全体像
DXも包括したグループ全体の取り組みである「Panasonic Transformation(以下、PX)」。その概要と現在地について、玉置は「4年目に突入し、これまでのさまざまな施策が功を奏してきた」と語る。
玉置:PXは、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」(PGI)と並び、パナソニックグループを再び成長軌道に乗せていくための企業変革の柱です。
玉置:企業価値を上げていくためには、時代とお客様のニーズに沿って事業戦略を柔軟に推進できる状態であることが不可欠です。そのために経営の足元を支える企業カルチャーやマインドセット、働き方に加えて、業務プロセス、意思決定プロセス、組織、ステークホルダーとの関係を積極的に変えていく取り組みがPXです。
玉置:私は2021年からパナソニックグループの一員となり、基盤の刷新を含めて各事業会社のDXを支援し、従来のプロセスやカルチャーの変革に取り組んできました。当初は社内での認知度も低く、事業会社ごとに事情が異なることもあり、従来の仕組みの簡素化がなかなか進まないという課題がありました。
しかし現在、PXは既に情報システム部門の手を離れた全社活動として推進されています。2023年3月には、事業会社や分社の社長、CIOを含む経営幹部を集めた合宿を実施、PXにまつわる「7つの原則」を策定しました。私たちはこれを、経営チームが自ら紡いだ言葉として大切に提示し続けています。
玉置:特に重要なのが、経営者がフルコミットで責任を持つということです。この前提の下、全体像で示しているとおり、標準化・簡素化をはじめとする「業務プロセスの変革」、多様な顧客接点を持つ当社ならではの「データ利活用」、さらにそれらを推進する「人財拡充」を展開し、あらゆるステークホルダーの「幸せの、チカラに。」なることを目指しています。
PXの実践:ビジネスフロー・業務の刷新
玉置:具体的な事例や実績も拡大しています。
まず制度面の改革としては、事業会社などで業務プロセスの変革に責任を持つ「プロセスオーナー」を、2023年10月から任命。同オーナーとして、いかに変革を進めたかを、事業会社社長の評価に反映しています。
マーケティング関連の取り組みとしては、くらし事業においては、実需連動SCM(サプライチェーンマネジメント)の実現に取り組みました。特定の量販店様を対象に、特定商品の実売・在庫データと生産データを交換することで、流通在庫の低減や品切れの撲滅を図っています。対象品番を拡大する中、流通在庫を2割以上削減した一方で、即納率は平均99%をキープしています。また、業務の複雑さ故に多くの人手が必要だった電材事業では、現場ならびに全国に存在する多数の代理店におけるDXを推進。業務効率化により生産性を向上するとともに、誰もがお客様に高付加価値を提供できる現場へと刷新中です。
玉置:製造現場でもPXの成果が出ています。中国では3年間で13拠点に標準ERP(※1)を導入し、間接業務の簡素化、製造ロス削減などを実現しました。今後はさらに導入拠点を拡大し、お客様への価値向上につなげていきます。また、日本やシンガポールにおいては、業務そのものを見直し標準化を行った上で、システムの追加機能を極小化。結果、システムの構築・運用費用の削減を行っています。
調達業務では、グループ全体で商品設計の効率化に寄与する、汎用部品を推奨するシステムの導入や、従業員の間接材購入プロセスの見直しを推進。人事では、国内従業員7万人からの問い合わせをAIチャットボットで無人対応化するなどした結果、大幅な経費削減を実現できています。
※1 Enterprise Resource Planning:企業の経営資源を統合的に管理し、企業全体の最適化を目指す経営手法やシステム
PXの実践:データ利活用
玉置:B2Cの領域では、多様なお客様接点を強みに、商品購入前、購入時、購入後全てにおいて「つながり続ける」価値を拡大していきます。現在、日本以外に海外でもシステム構築すべく進めています。
玉置:B2B領域である電材事業は、各現場にAIを実装し、データを蓄積して活用する事業モデルの構築を目論んでいます。営業領域のDXとしては、プロセスの見直しと顧客・件名データベースの構築・共有を推進し、AIを活用したお客様対応業務の高度化も進めます。ものづくり領域のDXとしては、熟練者が持つ現場ノウハウの可視化・共有を進め、SCMのDXとしては、サプライチェーンの管理基準の統一・可視化などを通じ、有事でも電設資材の供給を途切れさせない製品供給力と、調達BCP(※2)の進化を実現しています。
※2 Business Continuity Planning:事業継続計画
玉置:また社内においては、経営層による経営ダッシュボードを用いた意思決定を実践しているほか、データ活用について啓発を図ることで、現場でのデータ分析ツール(データ分析標準基盤)の利用者が拡大しています。
PXの実践:人材の拡充・育成
玉置:人材育成の領域においては、人事部門と連携し、変革を推進する人材を公募。自ら手をあげて登録された社員には「PXアンバサダー」として、現場の課題解決の支援などを行ってもらっています。現在、グループ全体で56人が活躍中です。
さらに、「現場PXコンテスト」と称してグループ内のPX事例を広く公募し、この9月に約550件もの応募の中から優秀事例を表彰しました。このように、社員一人ひとりがPXを自分事として捉え、自ら進んで取り組んでいく潮流が生まれつつあります。
玉置:第1回コンテストの優勝チームはパナソニック インフォメーションシステムズ株式会社の社員たちで、その取り組みは、現場が自前でデータ分析を行えるよう、技術サポートや教育サービス、分析テンプレートの提供を行う「DIYA(ダイヤ:Do-It-Yourself Analytics)」の事例でした。グループ内への展開のほか、社外のお客様への提案も開始しています。
第2位はパナソニック株式会社 エレクトリックワークス社のチームで、お客様からの問い合わせ対応にSNSを導入した事例でした。スムーズな受け付けや迅速な対応を実現した本プロジェクトは、入社3年目の社員がリードしています。若いチカラが発揮されている事例としても、うれしさを感じました。ご紹介し切れませんが、その他にも非常に良い取り組みがたくさん生まれています。グループCEO楠見も自らが審査に参加するなど、グループ全体としての取り組みの盛り上がりを見せました。
2023年4月からは、国内約9万人の社員を対象にAIアシスタントサービス「PX-AI」の提供を開始。現在では、グローバルの一部を除く約18万人に提供範囲を拡大しています。また、各事業会社の社内情報を反映したRAG(※3)の構築・試行も実施。さらに、生成AIを搭載する商品・サービスの開発や、PHDの技術部門とも連携した業務への活用の促進など、生成AIの利活用の領域拡大を図っていきます。
※3 Retrieval-Augmented Generation:大規模言語モデルによるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術
情報システムの変革、そしてPX2.0に向けて
玉置:パナソニックグループのIT基盤は、自社の事業に関わるデータだけでなく、IoT家電をはじめとする他社との共創商品・サービスまでも支える、非常に重要な位置付けにあります。こうした点を踏まえ、クラウドの活用などを通じ、導入スピードとコストを従来よりも20%以上削減しながら、グループ共通プラットフォームの刷新を展開していきます。
玉置:また、経営とIT部門の距離を近づけるため、事業会社とCIOフォーラムを毎月開催し、「経営×IT」の議論の場を定着させています。
ITプロフェッショナル人材の育成、ワークスタイル変革など、プロジェクトが開始してから丸3年取り組み続けてきた改革が徐々に根を下ろしつつあります。
2021年にPXをスタートさせた時点では、PX ZERO、続いてPX1.0と、徐々に足元を固めていきました。そして今年はPX2.0元年。デジタルをさらに積極的に用いながら、ビジネスモデル、仕事のやり方をどんどん変えていきたいと思います。
玉置:パナソニックグループは多くの事業体の集積企業であり、仕組みや制度の変革を全社で一気に実現するのは難しくはありますが、私たちは変化を恐れません。
今後も組織の隅々に変革を働きかけていき、「変化すること」の重要性を浸透させていく。そのDNAを後々の世代にまでつなげていくのが、われわれのゴールの一つだと思っています。変革のマグマを組織に行き渡らせる。この一心で今後も取り組みを推進していきます。
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