パナソニックグループコミュニケーションマガジン
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2024.09.03
対談:取締役会議長 津賀一宏×社外取締役 澤田道隆氏
取締役会の現状認識とグループのあるべき姿の実現に向けた監督・執行

シリーズ:

  • 企業・経営
  • ESG経営
  • 対談企画

「企業は社会の公器」という基本理念の下、コーポレート・ガバナンスを重要な基盤とし、実効性向上に向けて進化し続けるパナソニックグループの取締役会。パナソニック ホールディングス株式会社 取締役会長の津賀 一宏と社外取締役 澤田 道隆氏が、グループのあるべき姿の実現に向けた取締役会の現状とこれからについて語り合った。

オリジナル記事:パナソニックグループ統合報告書 2024より一部編集して掲載しています。全文はパナソニックグループ統合報告書 2024よりご覧ください。

グループを支える大きな柱となる事業の創出が課題

――過去30年、パナソニックグループの時価総額は低迷し、直近ではPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)1倍割れが継続しています。長期にわたり企業価値向上が実現できていない現状について、どのような課題認識をされていますか。

津賀:グループを支える大きな柱となる事業をつくり出せていないことが課題と認識しています。2012年に社長のバトンを受け取った当時、パナソニックグループは世の中から家電の会社と見られていましたが、実態はデジタルテレビを中心とした会社でした。大きな柱にするためにパネルや半導体に大型投資を実行していましたが、急速なコモディティ化、競争激化により、事業の継続が困難となりました。同様の事態は携帯電話の事業でも起こり、デジタルAV系における主力事業は終息せざるを得ない状況に陥りました。
その当時は社会の変化が大きく、グループに求められる中身も変化していたので、われわれも変わる必要がありました。そこでBtoCからBtoBにシフトし、環境への対応を強化するために、車載や電池の分野で重点的な投資を実行しました。2021年にはブルーヨンダーの買収が完了し、サブスクリプション型の事業を得ることができました。現在の車載電池やサプライチェーンマネジメントソフトウェアの領域は、まだグループを支える柱と呼べる状況にはありませんが、将来の柱になり得る存在であると感じています

澤田:社外取締役に就任する以前はグループに対して、「売上高2,000億円規模の事業が約40個もある中で、どのように経営しているのか」「この巨大企業を全て良い方向に動かすことは容易ではないだろう」というイメージを持っていました。社外取締役に就任し、4年たつ中で、当初のイメージと関連して気になることが二つあります。一つ目は、大きな柱となる世界レベルの成長事業をつくり出せていないことです。これが企業価値の長期低迷につながっている一因と感じています。現在注力している車載電池やサプライチェーンマネジメントソフトウェアなどの事業を、何としてでも大きな柱となる成長事業に育てなければなりません。二つ目は、多種多様な事業の中で弱い事業が強い事業に埋もれてしまい、グループの全体像が見えなくなっていることです。弱い事業により、全体が低位置で平均化され、それが外部の目線ではパナソニックが成長し切れていないという評価につながっていると感じています。また、これらの背景の一つかもしれませんが、「グループの社員の熱量が足りないのでは?」と感じることがあります。社員は総じて真面目であり、優秀でそつがないですが、今後はその能力をベースに、何としても競合に勝つという思いや、世界一になるという熱量を高めてもらいたいです。この企業風土面も飛躍に結び付いていない原因であると感じているので、グループ全体で熱量が伴ったアクションを期待しています。

津賀:今の熱量のご指摘は、当社が多数の事業を抱えていることにも関係しています。
例えば、日本におけるパナソニックの家電シェアは高いですが、商品数も非常に多いので、どの商品に注力しているのかが分からなくなります。それにより、一つひとつの事業で何としても競合に打ち勝つという意識が弱くなることがあります。簡単なことではありませんが、社員の熱量を高める事業の構造や仕組みが必要です。

シナジー創出には異種の掛け算が必要

――パナソニックグループではコングロマリットディスカウントが発生していると、資本市場からよく指摘されます。現在の事業構成やグループ内でのシナジー創出に課題認識があれば、教えてください

津賀:シナジー創出に向けては、われわれが社会から何を求められているのか、しっかりと捉えることが重要です。例えば、生成AIについて社会から求められているのであれば、グループとしてどのような貢献ができるのか具体化していくことで、シナジー創出につながっていきます。その一方で、単純に既存の事業だけを組み合わせてシナジーをつくろうとするのは困難です。社会から求められていることを捉え、未来志向で対応していかなければ、掛け算や足し算が有効なものにはなりません

写真:社外取締役 澤田道隆氏

パナソニック ホールディングス株式会社 社外取締役 澤田 道隆(さわだ みちたか)氏

澤田:シナジーについては、同種のものや時間軸が同じようなものをいくら掛け合わせても創出できないと感じています。同種ではないものを掛け合わせると、これまでにはない新しいものが出てきます。これはシナジー創出の初期段階ですが、往々にして見逃されがちです。そこをしっかりと捉え、膨らませていけば、シナジー創出につながると考えています。また、事業会社の中にいくら優れた技術が複数あっても、それらを掛け合わせた成果は限られたものになります。複数の事業会社を横断することや、社内を飛び越えた外部との異種の掛け算が必要です

津賀:現在は新しい事業を創出する力が弱っていると感じています。以前は本社のR&D部門が中心となり、例えばデジタルテレビ、DVD、携帯電話などの事業領域でグループの柱となるような開発を積極的に行っていました。現在は車載電池にフォーカスしていますが、電池は個別技術の要素が強いので、技術の面ではシナジーは創出しにくいです。そのような事業ではソフトウェア、データといったレイヤーが異なるものを掛け合わせることで、シナジーにつながっていきます。

澤田:シナジーの種を拾っていくには、出口のイメージを持つことが重要です。そのためにはグループが目指す姿を具体化し、皆の目線をそろえる必要があります。グループの共通戦略である地球環境問題の解決、世界中の人々のウェルビーイングの実現という目線では、新しい見え方があるかもしれません。

ホールディングスとしての監督・執行

――事業会社制に移行した背景と、ホールディングスとしての事業会社への監督の存り方を教えてください。

津賀:現在の会社形態に変わったきっかけはいくつかありますが、決定的となったのはブルーヨンダー買収の検討時と認識しています。当社のような製造業にとって、ブルーヨンダーの事業は分かりにくいものであり、複数の経営陣から買収への反対意見が出ました。システムソリューションの強化には、ブルーヨンダーはどうしても必要であるのに、その当時のパナソニックという大きな企業体の中では、システムソリューションに従事する人は賛成でも、直接関係しない人は反対となり、賛否が分かれました。その状況から、当時の会社形態では新しい領域に一気に踏み出すことには限界があると感じました。また、グループ全体として戦っている相手がはっきりしていなかったこともあり、各事業の競争力を強化するために、現在の事業会社制への移行、持株会社の発足に至りました

パナソニック ホールディングス株式会社 取締役会長・取締役会議長 津賀 一宏(つが かずひろ)

澤田:ホールディングスによる事業会社の監督は、自主責任経営を取っていることから、事業会社をシビアに評価していくものと認識しています。現在のホールディングスの取締役会は、社外取締役によって現場視点、将来視点など、多様な視点があり、さまざまな観点から監督できていると言えます。そのため、事業会社が変革できずに5年後も10年後も現在と同じ姿であれば、われわれがしっかりと監督できているとは言えません。社外取締役は日常的に事業会社に接しているわけではないので、議論のポイントを見いだしながら監督することは容易ではありませんが、ホールディングスの社外取締役に求められる必要な能力です。また、事業の経営には世の中の風を味方に付けられていることが重要です。向かい風が吹いたら身を縮めて影響を抑え、追い風が吹いたら一気に飛躍させるといったように、風の見極めや風を利用する能力が大事です。ホールディングスの取締役会にとって、事業会社の社長が風を味方に付けられているかをしっかりと確認するべきであり、特に大型投資を実行する事業会社に対しては、注視していく必要があります。

津賀:2019年に当時のアプライアンス社(現在のくらし事業)の傘下に中国・北東アジア社をつくりました。中国・北東アジア社により、中国事業を底上げすることができ、現在でも成果につながっていますし、今後、風向きが追い風に変わった際は一気に結果に結び付く状況になっています。世の中では常に一方向の風が吹くわけではないので、さまざまな方向の風が吹いている時に将来を見据えてどのような手が打てるのか、その能力は経営者にとって必要です。

澤田:風の先読みを間違えた時と、風に乗り遅れた時のダメージは大きく異なります。風の読み間違いは一時的な損失で済みますが、風の乗り遅れは競合に一気に置いていかれるので、後で追いかけても、なかなか追いつくことができません。それは大事な機会を逃すことに直結します。

取締役会がグループのあるべき姿を描き、その実現のために事業ポートフォリオマネジメントを実行

――事業ポートフォリオマネジメントについて、グループのあるべき姿、大きな方向性を定めていく際に、ホールディングスの取締役会ではどのような議論がなされ、どのような役割を果たされているのでしょうか。

津賀:これまで事業ポートフォリオマネジメントについて、取締役会で体系的な議論が行えていませんでしたが、楠見の体制になり、体系的に議論できるようになってきました。過去もヘルスケアや半導体など、カーブアウトした事業が成功したケースはあり、今振り返るとそれらの事業にはコアとなる技術や強みがありました。仮に、コアを保有しない構造的に劣後している事業があるとしたら、終息などの何らかの手段を講じていく必要があります。このような覚悟を持ち、取締役会で事業ポートフォリオマネジメントを議論し、意思決定している現在の状況は、過去を知る私からすると大きな進展を感じます

澤田:グループの中にある約40個の事業を複数の軸で分類することは必要ではありますが、盤上に事業を置いて位置付けを確認するだけでは、事業ポートフォリオマネジメントとは言えません。取締役会で今後のグループのあるべき姿をしっかりと描いた上で、その実現に向けて事業ポートフォリオマネジメントでグループを変革していくことが重要です。この考えがなければ、「もうかっていない事業をどうするのか」「ベストオーナーではない事業をどうするのか」というレベルの議論に終始してしまいます。

津賀:われわれがフォーカスしている「くらし」と「環境」でどのようなレイヤーアップを実現していくのか、その絵を描くことが事業ポートフォリオマネジメントの本格的な動きに至るポイントであると認識しています。この議論は今後も継続していきます。

澤田:2023年度は複数回、取締役会で事業ポートフォリオマネジメントの議論をしてきましたが、本当にさまざまな意見が出ました。さまざまな角度から意見を言い合うのは初期段階の議論では良いことであり、取締役会では侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が行えていると言えます。そのような議論を通じて改めて感じたのは、事業ポートフォリオマネジメントは手段であり、目的はパナソニックグループの将来の姿をどうするのかということです。また、議論ばかりして何も得られない机上の空論にならないよう、取締役会がしっかりと時間軸を設定し、実行していく必要があります。

――車載電池、サプライチェーンマネジメントソフトウェアの領域で大型投資を実行しています。ホールディングスとして、大型投資を実行する事業会社をどのように監督されていますか。

津賀:車載電池については、取締役会で活発かつスピード感のある議論をしており、取締役会メンバーの全員が納得している感覚があります。その一方で、空質空調のA2W(Air to Water/ヒートポンプ式温水給湯暖房機)については、取締役会でさらに議論し、監督していく必要があると認識しています。ブルーヨンダーについては議論の機会は多いですが、取締役会としてまだ十分な手触り感を得られていないので、中長期的な成長に向けて、取締役会がしっかりと監督する必要があります。

澤田:車載電池は技術が明快であり、時間軸も見えているので手触り感があります。この事業にはかなりの熱量が伴っているので、空回りしない限りは良い結果につながると思いますが、冷静な目も必要です。それは投資決定から工場稼働までに、相応の年数が必要なビジネスであり、その間にEVに対する世の中の流れが変わる可能性があるからです。そのため慎重に攻めていくことも求められます。また、ブルーヨンダーのようなソフトウェアビジネスは、一般的な製造業とは戦い方が異なります。One Network社の買収により、ブルーヨンダーという大きな枠組みに加えて、顧客に近いところに入り込めるようになるので、両社の掛け算は有効に機能すると考えています。これは私の感覚的なものですが、三つの投資領域に対して、短期的な成果を求めてグループの方向性となるような背負わせ方をすると、限られた時間の中で十分な成果を上げることは難しいかもしれません。短期的には既存事業で成果を積み上げながら、三つの投資領域には少し余裕を持たせて中長期的に取り組ませることをホールディングスとして後押ししていきたいです。

次期中期計画の策定が肝要

――取締役会の実効性をより一層向上させていくには、何が必要でしょうか。

津賀:社外取締役、社外監査役の方には、多数の事業を有するパナソニックグループのことをだいぶ理解いただけるようになりました。この点は取締役会の実効性向上につながっていると感じています。今後、実効性をより一層向上させていくには、取締役会で次期中期計画を十分に議論することが必要と考えています。皆が腹落ちした納得性のある中期計画を取締役会で議論し、策定していきたいです。

澤田:ステークホルダーからのパナソニックグループへの期待は大きいので、グループがその期待の方向に進むことを、取締役会としていかにして導くかが重要と考えています。次期中期計画は表面的なものや机上の空論ではなく、実現性が伴った中身があるものにし、宣言した以上は達成できることをステークホルダーの皆様に見せていきたいです。また、取締役会では単一の議論ではなく、さまざまな観点からの議論が必要であり、取締役会メンバーの構成や人選、議案の設定、議論のファシリテートも重要です。そのようなことを実現してはじめて、ステークホルダーの期待に応える取締役会になったと言えます。

写真:津田(写真左)、社外取締役 澤田氏

記事の内容は公開時のものです。
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