
2025.01.31
パナソニック ホールディングス執行役員兼Panasonic Well 本部長インタビュー
Panasonic Wellが挑むファミリーウェルネスの未来
CES 2025のオープニングキーノートでグループCEOの楠見と共に登壇した、パナソニック ホールディングス執行役員でPanasonic Well本部長のヨーキー松岡(松岡 陽子)は、Panasonic Go*1の具体事例として、デジタルファミリーウェルネスサービス「Umi」を米国から開始予定であることを発表した。Panasonic Wellの概要や、「Umi」の具現化に向けた取り組み、今後の展望を松岡に聞いた。
*1: AIを活用したビジネスへの変革を推進する、グローバルな企業成長イニシアティブ(先駆的な取り組み)。

Panasonic Wellの挑戦、ウェルネスとテクノロジーの融合
AI・ロボティクス分野で経験を積み、世界的なIT大手企業の幹部を歴任した松岡*2率いるPanasonic Wellは、「誰もがより幸せに暮らせるような社会を目指し、新しいサービスや技術を生み出すビジネスインキュベーション企業」として、現代の家族の「ウェルネス」にフォーカスしている。
*2: ロボット工学と神経科学における研究成果が認められ、天才賞と呼ばれるマッカーサー賞を受賞。
松岡:私の経歴から、Panasonic WellはAIやテクノロジーばかり作っていると捉えられがち。でも、ウェルネスの実現には何が必要かを理解しているからこそ、「責任あるテクノロジー」と「ヒューマンケア」のインターセクション(交わる部分)であるソリューションを創出できるのです。これこそ、Panasonic Wellの強みです。

ヨーキー松岡とPanasonic Wellのメンバー(CES 2025パナソニックグループの出展ブースにて)
松岡がパナソニックでまず手掛けたのが、次世代ファミリーコンシェルジュサービスのYohanaだ。
松岡:コロナ禍で、人々の働き方や家族との過ごし方が、大きく変わった時期でした。多くの家族を対象に調査を繰り返し、困り事の根底にある課題を深掘りするとともに、どうすればそれらを解決できるか、徹底的に研究したのです。その研究をもとに2021年、米国でYohanaのサービスを開始。献立の提案から誕生日プレゼントのアイデア出しまで、時間を要していた家族の要望に寄り添い、現在では日本にも展開しています。Yohanaチーム(実在する人間)がお客様のタスク(用事)を30万件以上こなし、累積で100万時間以上の時間を創出し、お客様にゆとりを生み出してきました。ただ、Yohanaが創出した時間を、家族とのつながりの強化やセルフケアに活用するためのソリューションは、十分に提供できていなかったのです。
こうした中でもPanasonic Wellは、家族が抱える苦労や課題を、将来はAIで解決できるよう、研究をさらに重ねてきました。また、米国では私を含むサンドイッチ世代*3の親の半数がストレスを、65%が孤独を感じているという調査結果*4の通り、高齢者にとっては家族とのつながりの強化やケアが不可欠という課題もありました。これらを解決するために開発したのがUmi*5です。
*3: 親の介護と子供の養育の両方を同時に行う必要がある世代。
*4: アメリカ合衆国公衆衛局総監による「親のメンタルヘルスとウェルビーイングに関する勧告」(2024年8月)
*5: 日本語の「海」が由来。心が落ち着くだけでなく、広大でリソースが豊富にある点が、健康で幸せになるイメージを想起させることから。

[Umi]家族のウェルネスを支える新たなAIパートナー
松岡:Umiは、家族のウェルネスに必要な行動変容を促す「ファミリーウェルビーイングコーチ」として、アプリの提供からスタートする予定です。多世代家族の多様なニーズとライフスタイルに合わせたウェルネス習慣を身に付けてもらい、家族の健康と幸せをサポートするパートナーと言えます。ウェルネスには運動や栄養、睡眠、ストレス軽減が重要と言われますが、近年は運動と栄養がより注目されています。この点を踏まえ、Umiで使われるAIエージェントは、まずは特に運動・栄養面で、子供の頃から家族全員の行動変容を後押ししていきます。

キーノートで披露したビデオより。Umiが休日の過ごし方を提示し、家族で意見交換。

専門家の意見も交えながら、高齢の親とのコミュニケーションのポイントを提案。
具体的な例を挙げると、UmiのAIは、家族への質問とコミュニケーションを通じて学習したさまざまなデータを活用しながら、一人ひとりにとって最適な目標を設定します。その後も、目標達成に向けて必要な取り組みを、実行可能性も踏まえながら提案してくれるのです。例えば、「今月の目標はこれだけ歩く、にしましょう」というUmiの提案が、お客様の都合で難しい場合、「では代わりに、食事はこうしましょう」と会話しながら、新たな目標を設ける―という具合です。運動と栄養の優先順位は人により異なるため、家族全員に対してこうしたプロセスを、しっかりと踏むことが大切です。
またUmiは1to1のみではなく、子供たちを含む家族全員が楽しく会話できる点も特長です。コミュニケーションを通じて家族のウェルネスをコーディネートし、最終的には行動変容につなげます。アプリが発する声なども工夫しており、強めに言うか優しく勧めるかなど、行動変容を一番促しやすいトーンを深く研究しているのです。そしてアクションを習慣として定着させられるよう、成果を可視化し、閲覧もできるようにしています。
Panasonic Wellのウェルネスエコシステム構築への挑戦

AARP(American Association of Retired Person)CEO マイーシャ・ミンター・ジョーダン氏
キーノートでは、有力なサービス提供企業や団体、研究機関で構成される「Panasonic Well Partner Collective」と併せて、全米で約4,000万人の会員を擁するNPOであるAARP(American Association of Retired Person:全米退職者協会*6)とのパートナーシップを紹介した。同協会のCEOであるマイーシャ・ミンター・ジョーダン氏が登壇し、世界で増加する高齢者とその家族が、健康的で充実した生活を送る上で、テクノロジーが大きな位置付けを占める点を強調。松岡は、こうした技術やサービスをスタートアップから募る「Family Wellness Innovation Challenge」を、AARPとPanasonic Wellが共催した点に言及し、受賞企業を発表した。
*6: 高齢者の生活の質を向上させることを目的としており、健康、経済、社会的な問題に関する情報提供や支援を行っている。
松岡:Umiの開発過程で非常に重視したのが、こうしたビジネスエコシステム*7の構築です。お客様と「Umi」がコミュニケーションを行った後、必要に応じて提供するサービスや、専門家によるアドバイスを行う企業などとのパートナーシップが、代表事例です。
*7: 企業が他の様々な企業や組織と協力して、一つの大きな仕組みを作り、より大きな価値を生み出すこと。

Family Wellness Innovation Challengeの表彰式には、グループCEOの楠見も参加し、グランプリ企業を称えた
「サンドイッチ世代」には、気持ちや時間、そして経済的にも、大きなストレスが掛かっており、米国の家族の半分以上がこの課題に直面しています*8。こうした課題を解決する上で、パートナーシップはとても重要。「Family Wellness Innovation Challenge」はそれを拡大する、有意義な施策です。日本を含め世界中から550以上の応募があり、選考後半は私自身も審査に加わって、直接インタビューも行いました。CESでの発表は、私たちの取り組みに共感いただくパートナーを開拓するためでもあり、実際に多くのお声掛けをいただきました。これを機に、より一層エコシステムを拡大させ、幅広いユースケースに対応できるようにしたいと考えています。
*8: 世界経済フォーラム「40代アメリカ人の半数以上が直面する、親と子の間で挟まれる世代の課題」 2022年4月

Anthropic社 共同創始者・社長 ダニエラ・アモデイ氏
キーノートでは、Panasonic Goの推進に当たりAIパートナーとの協働が不可欠となる中、「AIは安全で、理解可能であり、人間の価値観と深く整合しているように設計されるべき」とのパナソニックグループと同じ考え方を持つ、米国Anthropic社との戦略的提携を、グループCEOの楠見が発表した。これを受けて松岡は、Umiに同社のAIアシスタント「Claude」を搭載する点を説明。同社の共同創始者であり社長であるダニエラ・アモデイ氏も登壇し、Claudeは長年にわたり、顧客のカスタマーサービスから意思決定に至るビジネスのあらゆる面で、価値を付加してきたことを紹介。高い信頼性と安全性で、パナソニックグループのビジネス全体の成果や創造性に貢献していく意志を表明した。
松岡:Anthropicはエシックス(倫理観)、プライバシー、レスポンシビリティ(責任)をとても重視しながら成長してきた企業で、開発するLLMもしくは大規模言語モデルは米国で高評価を獲得しています。ウェルネスを入り口に、全ての人々の健康で幸せな生活を支援することを目指すUmiは、Anthropic社のAI倫理に基づく革新なしには成り立たないと考えています。そしてAnthropicのAIは、例えば、家族のカレンダー管理やチャットの展開がとても得意なので、Umiと通院日程を相談してAIで入力管理した上で、実際に病院に行くための車を手配するというサービス展開が可能です。このようにしてサービスの幅を広げることで、さまざまなパートナーとのさらなるコラボレーションも期待できます。
UmiとPanasonic Wellの未来戦略
松岡:今回のCESで、Umiのデモを披露できたことは、大きな意味があったと感じています。今後のUmiのキーワードの一つ目が「ワン・ストップ」です。家族が抱えるウェルネスの問題を解決するために、いろいろなところに相談するのではなく、Umiが家族全員のことを熟知し、ここに相談すれば良い提案をしてもらえるという存在になりたいのです。

CES 2025展示ブースでは、多くの来場者が画面デモを操作しながら、熱心に説明員の話に耳を傾けていた

Partner Collectiveのパネル展示の前では、企業が賛同の意を表し、Panasonic Wellに相談の声をかけるシーンも多く見られた
二つ目が、パートナーの拡充による、エコシステムの強化です。相手先のAI倫理の考え方やお客様のニーズを基準にパートナーを選定するとともに、将来的には提供サービスが重複しても、より多くの企業に加わっていただきたいと考えています。さまざまなパートナーが後ろに控えるからこそ、より多くのお客様のお困り事やお悩みに対して、最適な対応が可能になると考えています。
Umiはまず米国でサービスを開始予定ですが、他の国や地域にも展開できるよう、こうしたエコシステムをグローバルで構築する状態を目指します。そしてパナソニックグループほど、お客様とのタッチポイントを家庭の中に持つ企業は他になく、これを上手に活用することが大切です。Umiを展開する私たちと事業部、双方からのアプローチで、きちんと連携できるようにしていきたいですね。
一方でPanasonic Wellとしては、ウェルネスを通して世界中のお客様を健康で幸せにできる企業であるとともに、AIを活用したビジネスへの変革を推進するPanasonic Goを、スピードボートのようにけん引する立場でありたいと考えています。自社としても新たなAIや高度な技術を活用し、顧客に必要とされる プロダクトやビジネスの創出、パートナーや事業会社などが参画するAIプラットフォームの構築を、どんどん進めていきたいと考えています。
併せて、パナソニックグループ全体のAI化への貢献も意識しています。パナソニック ホールディングスなどでAIを担当する部門とのチームワークはもとより、グループの社員一人ひとりが、自身の業務や開発する製品・サービスに、進化の著しいAIを導入できるよう、多くの刺激を発信し、けん引していきます。

パナソニックグループは、Panasonic Goを通じて「2035年までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア事業、ソリューション事業をグループの売り上げ全体の約30%規模に拡大する」ことを目指しています。その到達は、Panasonic WellやBlue Yonderだけでは不可能で、あらゆる事業部門、グループ全体でAIの収益を創出する必要があります。Panasonic Wellとしては、今申し上げた切り口で、その達成に貢献したい。それが実現すれば、パナソニックグループ全体が「AI技術のリーダー」となれる日が、来るかも知れません。
松岡のリーダーシップの下、Panasonic WellはAIや先進技術を駆使した革新的なソリューションを提供し続け、家族のウェルネスを支援していく。併せて、パナソニックグループの事業全体でのAI活用にも貢献し、Panasonic Goのけん引役を果たしていく。
記事の内容は公開時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。
More from this series
シリーズ記事
Recommended articles
おすすめ記事