【更新】2023年3月31日 一部の動画の掲載を終了しました
2022年4月、パナソニックは持株会社制に移行する。それぞれの事業会社が前線に立って顧客と向き合うにあたり、コーポレートのブランド部門では、あらゆる事業を支えるため「パナソニック」というブランドをいかに強固なものとして守り、育てていけるかがカギとなる。特にこれからの世代を担うミレニアル世代、Z世代と呼ばれる若年層とのコミュニケーションのあり方を模索する中で、同部門は昨年、従業員アンバサダープログラム「Panasonic Young Leaders」を立ち上げた。若手社員がブランドアンバサダーとして、自分自身の名前や言葉でSNSやイベント等で積極的に発信を行うという試みだ。従来になかったブランディング手法によって新しい「パナソニックの顔」が生まれつつある――プログラムの初年度を終えようとする今、主催事務局と、2人のヤングリーダーたちの思いに迫った。
※所属部門は取材時のものです
「パナソニックの人と言えば、誰?」
「今のパナソニックは、就活生の皆さんに選んでもらえるだけの魅力を持っているだろうか。例えば学生さんに『パナソニックの人と言えば、誰?』と聞いた時に、現役社員の名前が、何人も挙がるでしょうか。残念ながらそうはなりません。グローバルの従業員数が約24万人いる企業であるにも関わらず、です。4月の持株会社化を前に従来にないブランディングを実施し、若年層の方たちにもファンになってもらえる、そこで働きたいと思ってもらえる、強いパナソニックを作っていかねばならない――この思いが本プログラム誕生の源にあります」。
こう語るのは、従業員アンバサダープログラム「Panasonic Young Leaders」(以下、「PYL」)事務局長の橘だ。
多様化する現代社会。そしていまだ続くコロナ禍において、リモートワークの常態化など、人々の働き方も急速に変化しつつある。それに伴い、学生が企業を選ぶ基準も大きな変革を迎えている。自らが身をおく会社に、自己成長できる環境が用意されているかどうかは、就活生が企業を選ぶ上での大きなポイントとなるのではないだろうか。
「パナソニックではどんな人生設計が可能なのか。自分はどのように輝けるのか。ここで働くことで、自分の夢は実現するのか・・・学生の皆さんにより具体的なイメージを掴んでいただくためにも、実際にパナソニックで活躍する若手社員が、顔も名前も公表した状態で、社会に貢献しながら自己実現を果たしている姿を見せる。こうした姿が広く知れ渡ることでブランド価値向上にも寄与し、影響力を持った従業員が活躍することで、社内外に活力を与え、若々しくリーダーシップに溢れた企業へと生まれ変わることができる。こうした仮説のもとに、本プログラムを推進していきました。
いくつかの条件を満たす複数の候補の方たちと話をした結果、事業を通じて課題解決を目指す『社会課題解決リーダー』として、前田さん。そして、特定領域での研究開発を極めた『R&Dリーダー』として、横山さんに初年度のヤングリーダーを担っていただくことになりました」。
前田、横山にとってはもちろん、事務局としても初めての取り組み。会社の公式発信の1コンテンツではなく、自らがアカウントをもって情報発信を行うという状況に置いて様々なリスクも想定して取りかからなければならなかった。まずは講師を招いてトレーニングを重ねていき、各自のキャリア・専門性を棚卸しした上で、2カ月かけて、各々がどのような軸を据えて発信に取り組むかを検討していった。日本語・英語でのプレゼンテーションについてもコーチングを受け、SNSの運用やメディア応対についての知見も増やしながら2人は「パナソニックを代表するアンバサダー」として徐々に成長を遂げていった。
PYLトレーニングの様子。
「難航したのが、それぞれの『アピールポイント』を定めることでした。できること、発信したいことをまず洗い出してもらい、あえて絞り込んで、発信に向けたトレーニングを積んでもらいました。事務局がサポートできるのは、この準備段階の部分と、実際のイベントなどの登壇、取材機会などを増やしてあげることくらい。発信がスタートしたのちは、発信のタイミングも内容も、彼らの采配に任せています。
通常、企業のブランディングやマーケティングにおいて、社員がSNS等で何かを発信する場合、発信タイミングや内容について会社側がプランニングやコントロールをする場合が一般的です。しかし今回のプログラムでは、本人たちに任せることで、発言の透明性を高めることを、あえて狙いました」。
家電の開発やB2Bのソリューションなどを手がける人たちは、実はブランド発信力においても大きなポテンシャルを持っているはず。技術に限らず、財務、調達、経理でも同様だ。「ある業界においてリーダーシップを発揮」できるならば、その業界のインフルエンサーになり、多くのフォロワーやファンを獲得できる可能性があるのだ。
「PYLの発信をスタートしてから半年が経とうとしています。まずはマイクロインフルエンサーと呼ばれるフォロワー数2,000人を目指しています。今後も多くの発信の場で活躍してもらえるようサポートしていきます」。
「実現したい未来」のために。チャンスがあれば手を挙げ続けたい
PYLのいわば第一期生となった前田は、海外向け家電の企画やマーケティングに携わっている。
「私は本業の傍ら、『女性をエンパワメントする新規事業開発』のチームリーダーもさせてもらっています。もともと新規事業の立ち上げに興味があり、社外のプログラムに参加して、一人で検討していたアイデアだったのですが、社内のプログラムに応募しなおし、チームとして推進しています」。
その他にも、有志活動として社内イノベーター養成プログラムを主催。そこにあるのは新規事業に挑戦する社員の母数を増やしたいという熱い思いだった。
「PYLのお話をいただく前から、様々なチャレンジを重ねていました。このお話をいただいたときは、驚くと同時に、今までの取り組みを見てくださり期待してくださっているのだとありがたい気持ちになりました。同時に、会社を代表する責任も感じましたね。SNS発信については不安もありましたが、自分を知ってもらい、対話の起点を提示することで、実現したい未来に共感してもらえる仲間を集めることができればと思い、参画を決めました」。
同じくPYLを務める横山とは、このプログラムで初めて出会った。「横山さんは尊敬する方のひとり。研究職の方なので、通常の業務では出会うことがありませんでした。トレーニング期間には何度もプレゼンテーションの練習をしたのですが、専門分野もまるで違う者同士、どのように語ればより多くの方たちに共感をしていただけるのか、どんな議論に持っていければ望ましい化学反応が生まれるのかなど、いろいろと話し合えたことが財産になっています。言いたいことは頭の中では固まっていても、発表の仕方によって、議論が盛り上がるときと、そうでないときがある。いざ対外のイベントなどに登壇させていただく前に、そういうポイントについても深く学びを得ることができたのは大変良かったと思います」。
PYLとして本格的に活動がスタートして以降、自らの言葉で発信を続けるうちに、自分が今後、どういう姿になりたいか、ということがクリアになったという。
「発信時に気を付けていることの一つは、『過去の自分に語りかける』ようなイメージを持つこと。数年前の私は、『新規事業の立ち上げに興味がある、何か新しいことに挑戦したい、社会のために何かを生み出したい』と思いながらも、模索していました。今、同じ状態にある方の背中を押すことができれば。そして私の目指すビジョンに対して共感してくださる方や、行動するぞという人を増やしたい。事務局の皆さんはそんな私の奮闘を見守りつつ、毎週フォローアップの打ち合わせをしてくださいました。ありがたいですね。
SNSでの発信を通じて新たにコンタクトをくださったり、共感してくださる方とのディスカッションができたり、貴重な出会いも数多く生まれました。特に新規事業は、苦しんでいる人たちにいち早くプロダクトを届けたい。そのために発信を通じて得た仲間やスキル・知識は確実に活きてきます。今後も新しい仲間を増やし、目指したい世界を早く実現したいです」。
橘は前田について次のように語る。「前田さんはこちらが期待していることに、常に120点の返しをしてくれる優れた人。自らを『イノベーター/社内起業家』と表現する通り、いち企業のいち社員には収まらないポテンシャルの持ち主です。『パナソニックに居たから夢が叶えられた』と言ってもらえるよう、その情熱を会社としても今後もサポートしたいと思っています」。
前田は言う。「このプログラムに参加したい、という社員がもっと増えるとよいなと思います。パナソニックは、手を挙げてやりたいと言えば応援してくれる、挑戦できる環境がある会社。まず手を挙げることで、次のチャンスが巡ってくる。やりたいことがあれば、それを表明し続けることが大切ではないかなと思います」。
技術者としてセルフブランディングに取り組む意義
横山はテクノロジー本部に所属。専門はシミュレーションやAIを用いた材料開発(マテリアルズ・インフォマティクス)で、近年はペロブスカイト太陽電池やリチウムイオン電池の研究開発に携わっている。
「最初にこのお話をいただいたときは、躊躇しました。というのも、自分の目指している方向性や専門性と会社のブランディングはまるで畑が違うのでは、と思ってしまったんですね。TwitterやInstagramもほとんど使ったことがありませんでした。でも調べてみると、研究者や大学教授が、自分の専門分野について積極的にSNS上で発信し、盛んに議論しているんですよね。それは論文で発表されるべきなのでは・・・というタイプの情報がスピーディーに発表されているとか、そんなケースが多々確認できました。技術分野の発信も新しいカタチになってきているのを感じたと同時に、これを機にセルフブランディングを学ぶことで、今を生きる研究者としても成長できるのではないか。そう考えてチャレンジしてみることにしました」。
横山にはプログラムを通して、心に響いた言葉があるという。「研究者や技術者はビジョンを見せるのが一番大事」という言葉だ。ここでいうビジョンとは技術そのものの話ではなく、それによって、自分たちのくらしにどんな変化があるのか。それによってどんな未来が実現するかを伝えるということ。技術の発表は聞き手をわくわくさせてなんぼ。技術者だけの発表の場では意識したことがなかったが、専門家ではない人たちに話をするときには、わかりやすく、聞き手の気持ちに沿って語るということの大切さを感じ、意識するようになったという。
「トレーニングを始めてみると、マーケティングや情報発信を専門とされている前田さんの表現力に感心しきり、大いに刺激を受けました。私の場合、同じ研究職の人たちの前で自分の専門について語る、という経験がほとんどでしたので、専門外の人にわかりやすく説明をする、ということについては素人でした。生活者の視点に寄り添って、どんな未来が待っているかをお伝えすることで、発信が刺さると学びました」。
「SNS投稿をしていくうちに、『発信するにはまずインプットが必要』ということに気づきました。常に新しいインプットをして、それをアウトプットすることで、新しい情報が集まってくる。つまり『発信するということは、情報が集まってくる仕組みの第一歩になっている』ということなのだと実感しました。今後もSNS発信を続けていけるような自分のサイクルを作り、長期的には本業である『社会のエネルギー問題の解決』において役立てるよう、この研修で学んだ発表や情報収集の仕方を通じて、自分の実現したい夢の部分に少しでも近づければいいなと思っています」。
横山も、SNS発信を続ける中で、大学の研究者の方と知り合い、議論を交わす機会に恵まれたり、技術職に興味のある学生から「パナソニックではどんな働き方ができるのか」といった質問を寄せられたりと、新しい交流が芽吹きつつある。
「横山さんは『AI x エネルギー』の研究で大きなゴールを目指している、業界のこれからを担う技術者。ご自身がチャレンジしていることの社会的価値の高さ、技術力の凄さなどを一般のお客様に分かりやすく紹介できれば間違いなくパナソニックはすごいとなる素晴らしいポテンシャルを持っている。引き続きコミュニケーションを磨いていくところでサポートしたい」と橘も語る。
創業から100年を経て――「人を育てる会社」のこれから
橘は曰く「ヤングリーダーの発信をご覧になった方たちから、『あなたを通じて、パナソニックを良いと思った』という反応をいただけることが何よりの手ごたえです。着実な一歩を踏み出せたと実感しています。今後はこのような社員の数をさらに増やし、いつか海外拠点でも展開を試みたいと思います」。
パナソニックという歴史ある企業が、いつの時代の若者にとっても常に魅力ある企業であり続けるために。そして、「パナソニックの人と言えば、誰?」と聞けば、いつの時代の若者たちからも、つど何十人も現役社員の名前が挙がるような会社となっていけるように――。「パナソニックをより個性で溢れた会社にしていきたい。その人が望むキャリア、ワークスタイルをサポートして、いっそうのチカラを発揮できる場所でありたい。それこそが、かつて創業者が語った『人を育てる会社』の現代的解釈ではないかと思っているんです」。 新たな息吹を感じながら、パナソニックは歩みを加速していく。