パナソニックグループは2022年1月に開催された「サステナビリティ説明会」にて、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表した。そこから4月の新体制発足を挟んだ7月13日、「パナソニックグループ 第二回 サステナビリティ説明会」を実施、グループCEOの楠見 雄規(くすみ ゆうき) が、「Panasonic GREEN IMPACT」の取り組みのうち、2024年までの環境行動計画「GREEN IMPACT PLAN 2024(GIP2024)」を新たに示した。また2030年に向けたマイルストーンについてもより具体的な数値目標を掲げた。説明会の後半には、有識者の皆様とグループCTOの小川 立夫(おがわ たつお)によるパネルディスカッションを実施。カーボンニュートラル社会実現に向けた企業の責務と貢献について活発な意見が交わされた。
- 第一部 プレゼンテーション:2024年と2030年に向けたマイルストーン
- 第二部 パネルディスカッション
テーマ:「カーボンニュートラル社会実現に向けた、企業の責務と貢献を考える」
第一部 プレゼンテーション:2024年と2030年に向けたマイルストーン
Panasonic GREEN IMPACTの概要
パナソニックグループでは2022年1月の説明会及び、4月のグループ戦略説明会において、既に「Panasonic GREEN IMPACT」を展開する意義のほか、2030年、2050年に向けた以下の目標を掲げ、社会に発信している。
Panasonic GREEN IMPACT
- 2030年に向けて、全事業会社のCO2排出量(スコープ1、2(※1))の実質ゼロ化
- 2050年に向けて、現時点の全世界のCO2総排出量の「約1%(≒3億トン)」以上の削減インパクト(※2)を目指す
主に以下のCO2排出削減インパクトで、脱炭素化を推進:
- 自社バリューチェーン全体(スコープ3(※1))における削減インパクト(OWN IMPACT)
- 既存事業を通じて社会に与える削減インパクト(CONTRIBUTION IMPACT)
- 新事業・新技術を通じて社会に与える削減インパクト(FUTURE IMPACT)
※1 GHGプロトコル(温室効果ガス(Green House Gas)排出量の算定・報告の基準)による区分。
※2 2019年 エネルギー起源CO2排出量 336億トン(出典:IEA) 3億トンは2020年の排出係数で算出。
2024年:今後3カ年の取り組みの解像度を高めた「GIP2024」
4月以降、各事業会社の中期戦略が策定される中、各社の行動計画が具体化したことで、CO2排出削減に貢献するインパクトに関するロードマップの解像度も向上。今回策定された「GREEN IMPACT PLAN 2024(GIP2024)」では、2024年度までの数値目標として主に以下を掲げた。
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OWN IMPACT
スコープ1、2、3の領域において、
- 自社バリューチェーンにおけるCO2削減量を2024年度 1,634万トン(※3)とする。
- 特に、CO2ゼロ工場を2020年度の7工場から、2024年度 37工場へ拡大。
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CONTRIBUTION IMPACT
社会へのCO2削減貢献量を2024年度 3,830万トンまで引き上げる。
3つのインパクトには直接含まれない領域として、循環型経済、いわゆるCE(サーキュラーエコノミー)の取り組みを強化:
- 工場廃棄物のリサイクル率を2020年度の98.7%から、2024年度 99%以上を常態化する。
- 再生樹脂の使用量(3年計(※4))を2020年度の43,300トンから、2024年度 90,000トンとする。
- CE型事業モデル/製品を2020年度の5事業から、2024年度 13事業へと展開。
※3 CO2削減量の目標は2020年度を起点に差分を表記。
※4 3年の合計は実績が2019~2021年度、目標が2022~2024年度。
2030年:CO2自社排出量実質ゼロ化 & 約1億トンの削減貢献
また、2030年に向けたマイルストーンとしては、前述の「全事業会社のCO2排出量の実質ゼロ化」に加え、スコープ3(※1)の領域においても、(1)OWN IMPACT 3,145万トン、自社バリューチェーン外の領域においても(2)CONTRIBUTION IMPACT 9,300万トンの削減貢献を目処とする。
2030年に向けたマイルストーン:全事業会社のCO2排出量実質ゼロ化
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OWN IMPACT 3,145万トン
社会の脱炭素効果とくらし事業領域での「省エネ」を徹底
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CONTRIBUTION IMPACT 9,300万トン
「電化」「エネルギー効果」「水素」の分野を中心に、事業競争力を強化
CO2「自社排出量ゼロ」に向けた取り組み
国内では、主に工場において工程の見直しや省エネ設備の導入等でエネルギー使用量を徹底削減。その上で太陽光パネルや蓄電池、燃料電池の導入、滋賀県草津市の燃料電池工場での「RE100化ソリューション」実証で得られた水素の本格活用ノウハウの横展開などを実施していく。
さらに、インターナルカーボンプライシング(※5)制度の採用により、再エネ導入を後押し。敷地の制限で十分に太陽光パネルが設置できない工場は、敷地外で発電事業者様がパナソニックグループ向けに発電する再エネを調達する契約、すなわち「オフサイトコーポレートPPA(※6)」を活用するなど、グループ全体で再エネの導入・調達を推進。これらの取り組みにより、「全事業会社のCO2排出量実質ゼロ化」を改めてコミットする。
※5 「気候変動への対応はビジネス上のコストや機会になる」という前提を基に、現在・将来の事業活動にもたらす影響に対する意思決定を行えるよう、自主的にCO2の価格付けを行うこと。
※6 Power Purchase Agreement。企業・自治体が保有する施設の屋根や遊休地を発電事業者が借り、無償で発電設備を設置。発電した電気を企業・自治体が使うスキーム。
社会への削減貢献量 達成に向けた動き
社会へのCO2排出削減貢献に向けた取り組みについては、「電化」「エネルギー効率」「水素」の3つに区分。地球温暖化の流れをいち早く止めるため、あらゆる手段を速やかに講じて、より大きな貢献を果たす。
電化:
化石燃料を燃焼させる商品の電化を推進。環境車の普及やガス機器の電化製品への置き換えに貢献するなどにより、2020年度 970万トンだった削減貢献量を、2030年度は7,000万トンに拡大する。
- 環境車向け車載電池は、顧客との関係性強化や10年スパンの投資判断と併せて、性能やコスト、供給面での競争力を強化。2030年度は2020年度比で7倍以上の5,900万トンの削減貢献量を目指す。
- ヒートポンプ式温水暖房機は、需要が増す欧州の「地産地消」に向けたチェコ工場の生産体制強化、厳しい寒さに対応する独自技術・IoT遠隔監視などを強みに、2030年度は1,100万トンのCO2削減に貢献する。
エネルギー効率:
使うエネルギーの最小化に向け、エネルギーを効率よく活用するソリューション開発、商品の省エネに注力。快適性と省エネを両立する空質空調の機器連携制御、照明制御、分散型電源の普及などを進め、2020年度 240万トンの削減貢献量を、2030年度は1,700万トンに拡大する。
- 空質空調 機器関連制御は、空質要素技術の磨き上げ、営業・エンジニアリング基盤構築で競争力を徹底強化。削減貢献量は2020年度 20万トンから、2030年度は400万トンに拡大。
水素:
脱炭素エネルギーの普及に向け、エネファームや純水素型燃料電池の普及を推進。2030年度の削減貢献量は、2020年度比で30倍となる600万トンを見込む。
- 実証実験を開始した「RE100化ソリューション」は、コンサルティングやエンジニアリング、サービス網も拡充する。長期視点では水素社会の実現に向けて、グリーン水素生成などバリューチェーンを拡大して事業を展開する。
パナソニックグループの経営は、地球環境問題の解決とお客様のウェルビーイングにお役立ちする、すなわちESG経営そのものだ。今後もグループの各事業が地球環境問題の解決に対して責務を担い、社会へのお役立ちを果たしていく。そして、その貢献において誰にも負けない競争力を獲得し、持続的に成長していくことを使命とする。
「Panasonic GREEN IMPACT」には、こうした決意の表明だけでなく、本活動が社会にも影響(インパクト)を与え、お客様や他の企業の活動へと広がっていくように、との願いも込められている。
楠見はその思いを次のように語って締めくくった。
「この動きが社会で広く認知されるよう、今後は『CO2削減貢献量』などが企業の価値に結び付くような、グローバルコンセンサスの形成に向けた取り組みにも積極的に参画していく」。
第二部 パネルディスカッション
テーマ:「カーボンニュートラル社会実現に向けた、企業の責務と貢献を考える」
説明会の後半、第二部では、有識者の方々にご登壇いただき、グループCTOの小川も交えながら「企業のカーボンニュートラルの取り組みに向けた期待」「カーボンニュートラルへの貢献を評価するモノサシとしての『削減貢献量』」の2テーマで議論が展開された。
カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素に対する企業の取り組みが適切に評価される仕組みが求められている。企業やそのサプライチェーンからのCO2排出量を測定する基準は整いつつあるが、企業が社会のCO2の削減にどのぐらい貢献できているのか、これを測る「削減貢献量」が可視化されるようになること、さらにその指標がグローバルで共有されていくことが望まれる。
伊藤(元)氏は、「気候変動問題に対して今求められるのは『市場をどう活用するか』ということ」と語る。
「市場のメカニズムは、指標や数字がないと動かない。今、企業努力を形にする高度かつ有効なモノサシが必要。パナソニックグループだけではなく、日本の企業全体でそれに同意して、一緒につくっていく必要がある。
日本の企業はルール変更や社会変化に対して受け身にならず、自らがルール形成にどう関与していくのかを考えることが大切。企業としてバリューを形成し、将来的にそれが収益にどう結びついていくのかを見据えながらルールをつくっていくことが非常に重要」。
これを受けて、木原氏は政府の姿勢を述べた。「政府としては、脱炭素と経済成長の両方を実現することを念頭に置いている。そのためには、クリーンエネルギーを中心とした経済社会産業構造に転換する必要があり、社会システムやインフラを抜本的に変えるべく5つの政策を打ち出している。
その一つ、2022年4月から試行的にスタートしたGXリーグは、脱炭素化に向けた挑戦を行い、国際技術競争に勝てる企業群を生み出すことを狙って産官学、金融のプラットフォームとして立ち上げた。ここでまずは排出量取引の取り組みを透明性高く運用し、その活動によって資本市場・労働市場・消費市場からGX企業が評価される、そういう環境をつくろうとしている。
リーグ内ではルールづくりについて議論する場も提供している。『削減貢献量』の指標化含め、日本企業の皆様が国際ルール形成を発信し世界の中でリーダーシップを示せるよう、政策サイドからも最大限バックアップしたい」。
小野塚氏は、「金融の世界でも日本企業のアピールが求められる」と強調。
「水素、電気自動車、パワー半導体などの日本企業の技術に対する評価は、金融の世界でも高まっている。今世界に3,900兆円もあるサステナブル投資、サステナブル金融の資金を日本に呼び込むためにも、金融サイドが理解しやすく、グローバルで横比較を可能とする共通言語となる指標・コンセンサスが不可欠。
投資マネーは自由に世界を動き回るので、日本だけでなく、海外の投資家の理解・認知を高める働きかけを企業側が積極的に行う必要がある。ここをクリアできれば『削減貢献量』は金融界でも脱炭素に貢献する技術の価値を評価するモノサシになりうる」。
有識者からの期待の声を受け、グループCTOの小川は次のように語っている。「削減貢献量については、電機業界としても、どういう方式が実際に公平な評価につながっていくのか、活発に意見交換している。我々としてもGXリーグにも積極的に参加し、削減貢献量をいわば『GREEN IMPACT』のイニシアチブとして、賛同いただける企業の皆様と集い、国際標準化に向けて推進していきたい。
適切なモノサシができることで、良い活動をしている企業が金融界から認められ、グローバルでグリーンボンド(※7)やカーボンクレジット、ひいては非財務のESG評価にもつながるような仕組みができればと思う。その中で、パナソニックグループの事業活動もより活性化させたいと決意を新たにしている」。
今後は、政府、学術界、そして金融界、さらには向き合うお客様、異なる産業業界の皆様とも一緒に、「GREEN IMPACT」を進めていくことを目指すパナソニックグループ。そのイニシアチブを、削減貢献量という業界の枠を越えた共通の切り口から進めていくことができれば、産業の発展とともに、地球環境という人類共通の課題に対して大きな貢献を果たすことができるに違いない。
※7 企業や地方自治体等が、グリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券。
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