2022年4月からの持株会社化を見据え、パナソニックグループは今年10月から新たな体制でのスタートを切った。競争力を高め、社会へのお役立ちを果たしていくためにパナソニックが踏み出した新たな一歩、そしてこれから先に見据える経営の方向性について、グループCEOの楠見に聞いた。
今回、約60年ぶりに経営基本方針を大きく改訂した狙いを改めて教えてください――
当社の経営基本方針とは、パナソニックグループの創業者 松下幸之助が確立した経営理念の根幹である綱領・信条・七精神をはじめとする経営理念と、それを実践していくための基本の考え方のことです。松下幸之助の時代には、これが社内にあまねく徹底されていたのですが、時が過ぎ、また松下幸之助の他界も経て、残念ながら徐々に弱くなってしまっていました。
そして足元の私どもの姿はどうか。短期的な数値目標を自分目線で掲げ、それを達成する、しないという議論に終始していないか。もしそうなら、競争力を高めることはできない――私自身も顧みて、深い反省の念を抱きました。
したがって10月から新体制をスタートするにあたり、私はこの経営基本方針に対する理解を表層的なものに留まらず、グループ全社員一人ひとりがしっかりと実践していくことを改めて徹底しなければならない。そういう思いを持つに至ったのです。当初の経営基本方針には制定した頃の時代背景でこそ真意が通じる表現も多くあり、現在のグループ社員が読んで理解し、実践へつなげてもらうためには、現代の社会環境や社会通念に即した今日的な解釈、現代に通じる指針としてまとめ直すことが不可欠だと考えました。そこで、私自身も編纂メンバーの一員となり、大きな改訂に踏み切ったのです。
中でも私が重視したのは、「誰にも負けない立派な仕事をする」という言葉です。これはかつて当社の会長を務めた高橋荒太郎の言葉ですが、これこそ私どもパナソニックグループが競争力を高めるうえで、今一度思い起こすべきであると考え、改めて引用しました。そして、それを実現するための「自主責任経営」、「社員稼業」と個々人の「自主責任感」の醸成、「衆知を集めた全員経営」とそれに不可欠な「言うべきことが言える」風土、そして「ムダ・滞留・手戻りを撲滅する」――。いずれも、かつての松下にはできていたことかもしれませんが、昔を知らない若手も含め、日頃の議論や課題解決に際し、立ち戻るべきところとして社員一人ひとりが活用し、しっかりと実践につなげていくことができればと考えています。
また、この経営基本方針は、社外の皆様とも共有すべく、当社の企業サイト上に公開しました。パナソニックグループとしてその実践をコミットし、私も含めた社員一人ひとりの行動が、社外の皆様からご覧いただいて、それに恥じないものであり続けることができるよう、努めてまいる所存です。
短期視点ではなく、「10年先を見据えた経営」を打ち出した思いとは――
10月1日に行った会見では、ホールディングス(以下、HD)傘下それぞれの事業が、向き合うべき社会・環境観点での課題を定め、10年先に目指すべき姿からの逆算で経営していく方針を発信しました。
従来、当社は年間の事業計画と3年ごとの中期で経営戦略を構築してきました。短期的な経営数値ももちろん見ていかねばなりませんし、従来3年の時間軸で考えていたことは今まで以上にスピードを上げて手を打っていかねば短期的な競争に打ち勝つことができません。しかし、その目線だけで経営を行っていては、あらゆる活動が現在の延長線上に積み上がってしまい、世の中の変化に対応するために打つべき手が打てないという危機感を強く持っています。実際、過去10年間を振り返れば実に様々な変化が起こっているのは明らかです。
もちろん、各事業責任者には自分の任期中の販売や利益に対する責任は持ってもらわなければなりません。しかし、それ以上に自分の次の人にバトンを渡した後もその事業が隆々と成長できる素地を作ることが最も大事です。仮に事業責任者の任期を5年と仮定すると、それだけでも10年先をしっかり見据えておく必要があるのです。
HDはさらにその先を見据え、例えば創業者が掲げた250年計画の1節である25年のような長期視点で、グループ全体の経営基盤の強化に取り組んでいくべきだと考えています。事業会社の活動は事業会社自身が責任を持って進めていくことが原則ですが、HDもグループの発展に向けて打つべき施策はしっかり見定め、必要に応じて行っていきます。
「2年間、競争力強化に集中する」、その言葉に込めた思いを今回強調されました――
今年5月に、グループの方向性について会見で説明した際、「2年間、競争力強化に集中する」という発信をしました。ただ、その意図は決して「2年間で事業をふるいにかけようとしている」というような話ではありません。まずは全ての事業で徹底的に競争力を高めること。そのためにお役立ちの領域を定め、10年先に描いた姿からの逆算で競争力を高める、この考え方をそれぞれの事業に浸透させることがこの言葉の真意です。
今後は、「重点領域」「コア事業」といった表現もしません。事業の価値は、誰にも負けない立派な仕事をして、お客様にお選びいただく力をたゆまず磨き、お客様や社会にお役立ちし続けることにあると考えています。そういう力がある限り、それぞれがパナソニックらしい事業であり、事業規模にかかわらずグループにとって大事な事業なのです。
投資についても今後、意思決定は事業会社に権限移譲を進め、それぞれが目指す社会と環境へのお役立ちを果たすため、事業会社自らが主体となって推進していくことになります。そして事業会社の範囲を超える場合は、HDとしても判断が必要です。その際も、重点事業か否かで判断するのではなく、ESGの観点も含め、社会へのお役立ちを果たすため、競争力強化に必要なものにしっかりと投資していくということです。
CEO就任以来強調している「環境課題の解決」に向けた進捗を教えてください――
競争力の強化に向けて、グループとして重点的に取り組んでいくことの1つが、GX(グリーントランスフォーメーション)です。
まず基本の考え方として、環境対応は事業継続の必要条件と捉えています。これは社会から人財や資本をお預かりして活動している以上、「社会の公器」である企業として当然の活動であり、既に出始めている気候変動の影響を考えると、待ったなしで進めなければなりません。
私どもとしては、スコープ1&2(※GHGプロトコルによる区分)については、それぞれの事業で既にロードマップを策定しており、2030年の全事業会社のCO2排出量実質ゼロという目標をしっかり達成していきます。加えて、スコープ1&2の40倍のCO2を排出するスコープ3の領域まで踏み込んで、お客様や社会のCO2排出を減らす取り組みをさらに加速します。
パナソニックグループの商品は、世界で毎日10億人以上のお客様にご愛用いただいています。その消費電力から試算すれば、これらの商品の排出するCO2は約8,600万トン。これは当社がお客様のくらしに深くかかわらせていただいてきた「証」であり、同時にその削減は私どもの「責務」だと考えています。
もちろん、個々の商品の省エネに積極的に取り組んでまいりますが、それだけでCO2排出量をゼロにすることはできません。そこで当社は、国際電気標準会議(IEC)の規定する「削減貢献量」の領域での貢献、すなわちB2BやB2Gのお客様に対し、CO2排出削減を実現する様々な商品やソリューションの提案を加速していきます。これにより2050年までには自社排出量を上回るCO2の削減貢献実現を目指します。
こうした領域において、当社は広く様々な事業を手掛けています。グループ内の様々な商材を組み合わせたソリューションはもちろん、サプライチェーンマネジメントの効率化による環境負荷の軽減という意味では、先日、正式に私どもの仲間となったBlue Yonderも大きな貢献を果たすことが期待できると考えています。それぞれの事業でこの領域での競争力を徹底的に高め、お客様へのお役立ちを拡大すればするほど、カーボンニュートラルの実現に近づいていく、そのような未来を目指していきたいと考えています。
新たに打ち出したパナソニックグループのDX:「PX」の目指すところは何でしょうか――
この度、強い決意を持って「Panasonic Transformation(PX)」という言葉を掲げました。これはIT基盤を改善するということに留まらず、ITを経営戦略の軸におき、ITによって当社の事業、経営を大きく変えていきたいという思いを込めています。
各事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の支援と、グループ全体のITの底上げは、今の当社にとって喫緊の課題だと考えています。現状、残念ながら旧態依然としている部分も多く、私自身も以前からここのテコ入れは不可欠だと感じていました。
世の中が大きく変化する中、それにあわせて見るべき数字も、仕事のプロセスも柔軟に変えていく必要があります。その意味では環境変化を反映し、アジャイルに進化をしていけるようにするのは当然目指すべき姿です。適切でスピーディーな経営判断をするため、またムダ・滞留・手戻りを徹底的に省き競争力を高めるため、この部分は徹底して取り組んでいきたいと考えています。
今回、「人をつくり、活かす」経営、「DEI」を改めて打ち出した意図を教えてください――
競争力を高めるためには、一人ひとりが「自主責任感」のもと「社員稼業」を実践すること、そして組織として「言うべきことが言える風土」を醸成し、「衆知」を集めることが不可欠です。それはまさに「人をつくり、活かす」ということにほかならないと思います。
当社はかつて、週休二日制の導入などに象徴されるように、「人をつくり、活かす」経営という観点では先進的と評価されていましたが、今は他社から学びを得ているのが正直なところです。競争力を高めるためには、それぞれの事業領域で挑戦する社員一人ひとりが、自らの個性と能力を存分に発揮できる土台をしっかり作り上げることが必要です。
DEI(Diversity:多様性, Equity:公平性 & Inclusion:包括性)推進は、そうした形を早期に実現するための取り組みの一環です。パナソニックグループが社会からお預かりしている貴重な「人財」の力をしっかり引き出し、挑戦、そして成長、活躍できる形にすることはもちろん、もしそこにハードルがあるならば、徹底して排除していかねばなりません。今回、「Equity(公平性)」を強調したのも、挑戦したい、能力を発揮したいと思う「人財」が平等にその機会を得られるようにしたいとの思いからです。
社員一人ひとりが知見を高め、持てる能力を向上し、新しい挑戦ができるようになれば、まだまだグループとして伸びていく余地があると確信しています。動かすのは「人」、つまり社員一人ひとりです。創業者 松下幸之助の言葉に「物をつくる前に、人をつくる」があります。組織を構成する個人が進化し続けられる風土を醸成し、それを原動力に事業が真に強い競争力を身につけることで、社会へ広くお役立ちするパナソニックグループの実現につなげていきます。
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