欧州で挑む、次世代データセンター冷却――液冷システム事業化の舞台裏

2026年10月28日

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欧州で挑む、次世代データセンター冷却――液冷システム事業化の舞台裏

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【更新】2026年10月30日 一部表現を修正しました。

日々のくらしに欠かせない「空気、水、食」を軸とした事業を展開するパナソニック HVAC & CC株式会社(以下、HVAC & CC)は、生成AIの急速な普及に伴うGPUの高性能化・高密度化により、データセンターの発熱量が増大する中、サーバーに冷却液を循環・分配するCDU(冷却液分配ユニット:Coolant Distribution Unit)と、外気の冷熱を利用して冷却水をつくるフリークーリングチラーを組み合わせた、AIデータセンター向け液冷システムを開発した。従来の空気冷却(空冷)方式に、冷却効率の高い液体冷却(液冷)方式を組み合わせ、省電力化と省スペース化を図る。2026年3月に、CDUとフリークーリングチラー各2機種の受注を欧州市場で開始した本事業。欧州のデータセンター市場における需要や課題、新たに液冷領域への挑戦を決めた背景、今後の展望について、開発・事業化を担ったメンバーに話を聞いた。

急拡大するAI関連市場の需要に対応。プロジェクト開始から約6カ月で事業化

データセンターで従来主流だったのは、空気を使って機器を冷やす空冷方式だ。しかし、生成AIの急速な普及を背景にGPUの高性能化・高密度化が進み、AI向けサーバーではラック当たりの発熱量が数十kWから100kW超に達するようになった。空冷方式だけではその熱を処理しきれないケースが増える中、空気よりも効率よく熱を運べる液体を用いてGPUの熱を吸収・冷却する液冷方式の需要が急速に高まっており、AIデータセンターを支える冷却技術として、今後さらなる普及が見込まれる。

「AIデータセンターでは、ラック密度の急上昇、電力確保と効率規制への対応、短納期での増設といった課題が同時に生じています。こうした状況下で、冷却はもはや付帯設備ではなく、データセンターの安定稼働や運用効率を左右する重要な要素になっています」と語るのは、パナソニックHVACイタリアの副社長で、データセンター事業開発プロジェクトリーダーを務める西村 幸剛(にしむら ゆきたか)だ。

HVAC & CCは2023年、サーバーなどを冷気で冷却する空冷方式の精密空調機であるCCU(Close Control Air-Conditioning Unit)を手掛けるイタリアのTecnair S.p.A(以下、テクネア)を買収し、欧州のデータセンター向け冷却システム事業に参入した。空冷方式に加え、液冷方式への展開について検討を始めたのは、2024年頃だ。テクネアを製造・開発拠点とし、同社が長年築いてきた欧州のデータセンター顧客基盤を足掛かりに、液冷システムの事業化に向けた取り組みを開始した。

パナソニックHVACイタリア、テクネア データセンター事業開発プロジェクトリーダー 副社長 西村 幸剛(にしむら ゆきたか)

パナソニックHVACイタリア、テクネア データセンター事業開発プロジェクトリーダー 副社長 西村 幸剛(にしむら ゆきたか)

世界でAI開発競争が進む中、欧州は大規模なAI市場であると同時に、エネルギー効率や環境関連の規制が厳しい地域でもある。一定規模以上のデータセンターには、エネルギー使用量やPUE(※1)などの報告が義務付けられているほか、冷媒に使われるフッ素系温室効果ガスも規制の対象となる。

西村:「欧州の厳しい条件下で通用する製品仕様であれば、世界でも戦える。その先のグローバル展開を見据えても、ここでチャレンジする意義は大きいと考えました」

こうした厳しい要求に応えながら、開発、認証、量産体制の構築を並行して進め、AIデータセンター市場の急速な変化に短期間で対応。2025年9月のプロジェクト始動からわずか6カ月後の2026年3月に欧州市場での受注開始にこぎ着けた。

※1 データセンター施設全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った指標。数値が1に近いほど、冷却などIT機器以外で使う電力が少ない。

CDUとチラーを統合し、一つの熱管理システムへ

HVAC & CCのAIデータセンター向け液冷システムは、サーバー内に冷却液を循環させて熱を吸収するCDUと、冷却水を用いてその熱を屋外へ逃がすフリークーリングチラーを中心に構成される。

(写真手前)AIデータセンター向け液冷システムのCDU、(写真奥)フリークーリングチラー

(写真手前)AIデータセンター向け液冷システムのCDU、(写真奥)フリークーリングチラー

(左)CDU、(右)フリークーリングチラー

(左)CDU、(右)フリークーリングチラー

本システムの最大の強みは、サーバーから熱を受け取るCDUから、その熱を屋外へ放出するフリークーリングチラーまでを、一社で一貫して設計・製造している点にある。二つの機器を一体設計し、システム全体で水温を最適化することで、個別に設計された機器を組み合わせるだけでは得られない省エネ効果を引き出す。この一体設計には、フリークーリングの独自制御技術が生かされている。

空冷方式+液冷方式のシステム構成 イメージ図

空冷方式+液冷方式のシステム構成 イメージ図。液冷方式を導入したデータセンターでも、液体で直接冷やさない機器や室内全体の冷却には、引き続き空冷方式が用いられる。

高い冷却能力と省エネ、信頼性を兼ね備えたCDU

液冷システムの心臓部にあたるのは、冷却液の温度や流量、圧力を制御しながらサーバー内に循環させる役割を担うCDUだ。

CDUの開発担当であるアレッサンドロ・レッターニは、「冷却液は空気よりも多くの熱を吸収できるため、より効率よく熱を運ぶことができます。そのメリットは、冷却に必要な消費電力や設置スペースにも表れます。例えば、800kW分のサーバーを冷却する場合、CDU2台の消費電力は約20kWです。一方、空冷方式では、冷風を送り出す空調機が64台必要となり、消費電力は約35kWに達するほか、より大きな設置スペースが必要になります」と、液冷方式の利点を説明する。

テクネア開発 CDU開発PJリーダー、マネージャー アレッサンドロ・レッターニ

テクネア開発 CDU開発PJリーダー、マネージャー アレッサンドロ・レッターニ

しかし、限られた設置面積で大量の熱を処理しながら、安定した流量・温度制御を実現することは容易ではなかった。

CDU

開発チームはサーバーの熱負荷の変動を再現する専用の試験設備を構築。水回路内で冷却液を流す際の抵抗を抑えつつ、必要な流量を確保するため、パナソニックグループの空調技術チームと連携して開発を進めた。

ここで生かされたのが、パナソニックグループが空調・冷凍分野で培ってきた熱交換器や水回路、インバーター制御、統合制御などの技術と、テクネアがデータセンター向け精密空調で蓄積してきた設計ノウハウだ。パナソニックグループの技術で省エネと精密な冷却液制御を実現し、テクネアの設計ノウハウを生かして、データセンター特有の設置条件や接続方式、信頼性への要求に対応した。

データセンターの安定稼働を支えるため、信頼性の確保も徹底した。ポンプやセンサーなどの主要部品は、一部が故障しても運転を継続できるよう予備を設ける「冗長構成」とした。二系統の電源入力にも対応し、設備や電源の障害によって冷却が止まるリスクを低減。さらに、漏洩検知、圧力・水質の常時監視、異常時の自動遮断機能も標準で備える。データセンターの運用・保守担当者が点検や部品交換をしやすい構造とし、納入後の保守性も重視した。

欧州の外気を生かし、省エネを実現するフリークーリングチラー

CDUの熱交換器を介してサーバー側から施設側の冷却水に移された熱を、屋外へ放出する役割を担うのがフリークーリングチラーだ。最大の特長は、外気温が十分に低い場合、消費電力の大きいコンプレッサーを使わず、外気を利用して冷却水の温度を下げられることにある。外気だけで必要な冷却能力を確保できない場合は、コンプレッサーを使った冷凍サイクルで冷却する。

パナソニックHVACイタリアでフリークーリングチラー開発プロジェクトリーダーを務めるアントニオ・マイモーネは、「冷涼な欧州の気候では、年間の多くの時間でフリークーリングを活用できます。コンプレッサーの運転時間を減らすことで、消費電力と運用コスト、CO2排出量を大幅に削減できます」と説明する。世界のAIデータセンターでは液冷方式の導入が進んでいるが、大きな課題となるのが、コンプレッサーによる電力消費だ。今回のフリークーリングチラーは、その解決に貢献できる点もポイントの一つだ。

パナソニックHVACイタリア開発 フリークーリングチラー開発PJリーダー、プロジェクトリーダー アントニオ・マイモーネ

パナソニックHVACイタリア開発 フリークーリングチラー開発PJリーダー、プロジェクトリーダー アントニオ・マイモーネ

今回は、フリークーリングチラーをAIデータセンター専用に設計した。その背景には、液冷ならではの運転条件がある。空冷方式では、サーバー室へ送り込む冷気をつくるため、冷却水を低温まで冷やす必要がある。一方、液冷では、冷却液を発熱源の近くで循環させ、GPUなどから発生した熱をより高効率で吸収するなど、冷却液を過度に低温にせずとも冷却ができる。そのため、チラーからCDUへ送る冷却水も、比較的高い温度に設定できる。冷却水温度が高いと、寒冷地域では外気との温度差を確保しやすくなり、外気温がある程度高い時期でも外気を利用して熱を屋外へ逃がすことができ、コンプレッサーを使わないフリークーリングをより長期間活用できる。結果として、コンプレッサーの稼働による消費電力の問題を低減できるという仕組みだ。

こうした運転条件を生かし、冷却効率を高めるため、一般空調用のチラーを転用するのではなく、高い冷却水温度での運転とフリークーリングに最適化した専用機を開発した。

フリークーリングチラー

一方、AIデータセンターは24時間365日の連続稼働が前提となる。サーバーの負荷や外気温が変動しても、冷却の効率と安定性を維持しなければならない。

マイモーネ:「最も難しかったのは、冷却負荷が小さい状態から大きい状態に加え、フリークーリングとコンプレッサー間で稼働を切り替える際にも、高い効率と安定性を維持することでした。CDUの開発チームとは設計初期からチラーの冷却水とCDUの冷却液の水温・流量の条件を共有し、システム全体を最適化しました」

CDUとチラーを個別に開発するのではなく、運転条件や制御方法まで一体で設計することで、冷却に必要な条件を満たしながら冷却水温度を高く保ち、フリークーリングを利用できる時間を最大化した。こうした最適化により、今回開発したフリークーリングチラーは、業界でも優れたエネルギー消費効率(EER)(※2)を実現している。

※2 一定条件下における冷却能力と消費電力の比。数値が大きいほどエネルギー効率が高い。

また、欧州におけるフッ素系温室効果ガス規制の強化を見据え、地球温暖化係数の低い冷媒「R1234ze」を採用した。冷媒の性質が従来とは異なるため、必要な冷却能力と機器のコンパクト化を両立することが課題となったが、熱交換器と冷凍サイクルの設計を工夫して対応した。

欧州を起点に、液冷システムを世界へ

CDUとフリークーリングチラーを一体で開発・製造する価値は、冷却性能や省エネ性にとどまらない。導入後も、故障時の原因究明や対応、保守サービスまでを一貫して担えることが強みだ。

西村:「お客様への提案では、CDUとチラーを一体で提供することで、窓口が一本化され、システム全体の性能に対する責任が明確になることに加え、欧州製造による納期や保守サービス面での安心感も評価いただいています」

(左)フリークーリングチラー熱交換器のろう付け作業、(右)データセンター向け精密空調機の圧力・漏れ検査作業

まずは欧州での事業基盤を作り、その後の展望として、HVAC & CCは液冷システムのグローバル展開を目指す。その実現に向けて取り組むのが、AIデータセンターの大規模化に対応した製品ラインアップの拡充だ。現在は、サーバーラックの列の中や横に設置するIn-Row CDUを開発し、欧州のコロケーション型データセンター(※3)を中心に顧客開拓を進めている。欧州での事業展開を進めた後に、複数のラック列やゾーンをまとめて冷却できるWhite Space・Perimetral CDUを追加し、北米を含むハイパースケーラー(※4)向けにも展開する計画だ。さらにその先には、設備側からフロアや建屋規模の冷却を担う大容量のFacility CDUまで、ラインアップを拡充することも視野に入れる。フリークーリングチラーについても、さらなる大容量化を進める方針だ。

※3 複数の企業にサーバーの設置スペースや電源、通信回線、冷却設備などを提供するデータセンター。
※4 大規模なデータセンターを運営し、クラウドサービスを提供する事業者。

CDUのエネルギー効率をさらに高めるための開発も続く。

レッターニ:「CDUでは、チラーで冷やされて入ってくる冷却水と、熱交換器で冷やしてサーバーへ送り出す冷却液との温度差を、現在の3~4℃から1℃まで縮めることを目指しています。CDUの熱交換性能を高め、チラーから送る冷水の温度をさらに高く設定できれば、チラーの負担を減らすことができます」

チラーの開発では、高度なフリークーリング技術や冷却負荷に応じた運転の最適化、システムを構成する機器同士の連携強化によって、エネルギー効率をさらに高めていく。同時に、より環境負荷の小さい冷媒の採用や、高まる発熱密度に対応しながら水使用量を削減する技術の開発を続けていく。

マイモーネ:「今後のデータセンター冷却では、インテリジェント制御や予測分析の重要性も高まるでしょう。私たちのチラー事業も、単に効率よく熱を取り除くだけでなく、運転状態に応じて自ら制御を最適化し、性能、信頼性、持続可能性を最大限に高められるものへと進化させていきます」

一方、西村は、こうした技術進化を顧客価値につなげていく考えを示す。

西村:「設備導入時の初期投資だけでなく、その後の電気代や保守費用まで含め、顧客の総保有コスト(TCO)(※5)の低減に貢献するパートナーを目指し、今後は納入後の保守サービスまで担うことも検討しています。また、こうした活動を通じて顧客の脱炭素への取り組みも支えていきます」

※5 機器の購入から運転、保守、廃棄までにかかる費用の総額。

レッターニ(写真左)、マイモーネ(写真中央)、西村(写真右)

中期で見据えるのは、欧州で液冷システムの主要プレイヤーとなり、北米、日本、アジアへ事業を広げることだ。その先には、次世代データセンター冷却の分野で、高い技術力をもって世界から信頼されるパートナーになるという目標がある。

長年積み上げてきた冷却技術や設計ノウハウ、事業基盤を、AI時代の新たなニーズに合わせて進化させ、社会課題の解決にもつなげていく。欧州の厳しい要求に応えるために生まれた液冷システムを、世界のデータセンターへ。HVAC & CCの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

レッターニ(写真左)、西村(写真中央)、マイモーネ(写真右)

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パナソニック ホールディングス株式会社
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