生成AI時代を支えるサーバー冷却技術~70年のポンプ事業が生む革新力

2025年10月29日

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生成AI時代を支えるサーバー冷却技術~70年のポンプ事業が生む革新力

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近年、生成AIの進化は、私たちのくらしや産業に大きな変化をもたらしている。しかし、その裏側では、AIの普及に伴う膨大な電力消費と発熱がデータセンターの運用課題となり、環境負荷の増大にもつながっている。こうした課題に対し、冷却技術の革新は、AI社会の安定稼働と持続可能性を守るために不可欠だ。

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社(以下、パナソニック)は、給湯などヒーティング市場を中心に実績を積み重ねてきた創業70年を誇るポンプ事業の知見を生かし、データセンターサーバーの冷却に特化した冷却液循環ポンプを新たに開発。このポンプは、サーバー冷却システムの中核装置である冷却液分配ユニット(CDU:Coolant Distribution Unit)に組み込まれ、冷却液を効率的に循環させる心臓部として機能する。高効率・小型・長寿命を実現し、ICTインフラの安定稼働と省エネに貢献することで持続可能なデジタル社会の実現に向けた挑戦を続けている

パナソニックのポンプ事業 70年の歴史と実績

パナソニックのポンプ事業は、1955年、ご家庭に水をお届けするホームポンプ(井戸ポンプ)に始まり、1980年以降は戸建て、集合住宅といった一般住宅向けの給湯・暖房機器、浴室機器への組み込み式ポンプとして幅広く採用されてきた。その後も、熱交換、排熱回収といった用途へ展開を広げ、2024年には累計出荷台数5,300万台を突破。国内給湯器市場シェア6割を実現する中、2025年に事業開始70周年を迎えた。

生成AIデータセンターの「熱」課題と最新の冷却技術

コロナ禍を経て、デジタル化が加速する社会で、IoTやAI技術の普及に伴い、データセンターの重要性はますます高まっている。

グラフ:CDU市場台数の予測

一方で、高度、高速、大容量のデータ処理が求められるICT業界では、高度な演算処理ができる半導体の進化に伴い、サーバー内のチップそのものの発熱量が課題となっている。

生成AIデータセンターには大量のサーバーが並んでおり、24時間365日、稼働し続けている。サーバーには複数のラックが積み重ねられ、各ラックに熱を発するCPUやGPUチップが搭載されている。この発熱をより効果的・効率的に冷却するために、従来のエアコンやファンを用いた空冷式から、液体を循環させて冷却を行う液冷式へのニーズが高まっている。高発熱化するAIサーバーに対し、液冷式は冷却効率と省エネの両面で優位性を持つ。

液冷式では、冷却液をサーバーラックの内部に循環させて熱を吸収する。温度の上がった冷却液はサーバー機構外にある冷却システムで冷やされ、CDU(冷却液分配ユニット)のポンプが再度サーバー内へと冷却液を送り込む。

CDUの心臓部に搭載されるポンプは、冷却液を絶え間なく循環させることでサーバーの発熱を効率的に冷却する。この性能がシステム全体の効率と信頼性を左右するため、需要は急速に拡大している。

図版:データサーバー内の冷却方法(液冷式)

データサーバー内の冷却方法(液冷式)

CDUに搭載されているポンプ

CDUに搭載されているポンプ

手掛けるのはパナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部のデバイスビジネスユニット(BU)だ。「われわれは事業部の中で唯一BtoBの生産財としてデバイスを扱っているBU。中でもポンプは、省電力につながるモータのDC(Direct Current)化や小型軽量化にいち早く取り組んだことがお客様に評価され高シェアにつながっています。勝負に出たのは2021年。主力市場であるヒーティング業界に加えて、新たにデータセンター向けの冷却ポンプ市場に参入しました。これは当社にとって大きなチャレンジでした」と語るのは、デバイスビジネスユニット長 中村 浩二(なかむら こうじ)だ。

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイスビジネスユニット ビジネスユニット長 中村 浩二(なかむら こうじ)

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイスビジネスユニット ビジネスユニット長 中村 浩二(なかむら こうじ)

データセンターにおいては、24時間365日の稼働を実現させつつ、いざという時のデータ保護対策も必須となるため、納入されるポンプには、高い信頼性と冗長性(※)が求められる

※ポンプが故障しても、予備のポンプが稼働して冷却を止めない設計。

中村「今回のプロジェクトでは、お客様のサーバーのサイズに基づいて設定された4U(高さ178mm)規格という限られたスペースのCDUに、3台のポンプが格納されています。そのうちの2台は常に稼働させておき、残りの1台はバックアップ用。万が一の冷却不具合を回避するため、予備のパーツをスタンバイさせておくことはこの業界では常識となっています」

CDU内に設置された3台のポンプのイメージ

CDU内に設置された3台のポンプ。これまでの機器組み込みポンプで培った設計ノウハウを生かし、コンパクトな筐体を実現している

CDUに組み込むポンプは、コンパクトかつ、高効率、長寿命であることも重要だ。加えて、パートナー企業の要望、仕様変更などにも柔軟に対応できるカスタマイズ性も求められる。「いざ量産体制が整った後でも、仕様変更が発生する業界。常に変化していく顧客のニーズにいち早く応えていくことが必要です」と中村は言う。

「そのため、製品を納入する現地販社との密な協力体制が欠かせない」と語るのは、企画マーケティングを担当する山﨑 義之(やまざき よしゆき)だ。

山﨑「市場開拓としては、ICT産業が集積している台湾での取り組みを2021年からスタートしています。現地の販社だけでなくグループ内の他の事業会社とも協力し、密接に連携を図りながら、お客様のニーズにお応えする体制を確立しています。結果、2、3年前には考えられなかったスピードで新製品開発が進んでいます」

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイスビジネスユニット 給水デバイス企画・開発部 山﨑 義之(やまざき よしゆき)

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイスビジネスユニット 給水デバイス企画・開発部 山﨑 義之(やまざき よしゆき)

現地販社のメンバーも、ポンプ事業の躍進は台湾での市場を語る上で特筆すべき事象だと述べる。パナソニックデバイス販売台湾株式会社の営業担当マネージャー Jasper Lee(ジャスパー・リー)は次のように語る。

リー「パナソニックのポンプは、台湾に拠点を置くデータセンター各社にも高い評価を受けています。台湾市場においてもパナソニックブランドは信頼性の高い存在として認知されており、2021年のデーターセンター市場に対するマーケティング活動以降、ポンプの性能と誠実な営業姿勢が評価され、着実に事業実績を伸ばしています。山﨑さんをはじめ、日本のメンバーも頻繁に来てくれて、顔を見ながらやりとりをする機会が増え、台湾メンバーとしてもその熱意にパワーをもらっています。これからも協力して次のジェネレーションを盛り上げていきたいです」

写真左:パナソニックデバイス販売台湾株式会社の営業担当者、 写真向かって右から2人目がジャスパー・リー/写真右:台湾販社での打ち合わせの様子

写真左:パナソニックデバイス販売台湾株式会社の営業担当者、 写真向かって右から2人目がジャスパー・リー/写真右:台湾販社での打ち合わせの様子

冷却液循環ポンプ その技術と強み

サーバー内の熱量に対して、いかに効率良く、どれほどの水量を循環させるか。お客様の求める細かい条件・仕様に対し、日々スピーディーに応えていくのがミッションです」と話すのは、設計・技術担当の岩井 優介(いわい ゆうすけ)だ。

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイスビジネスユニット 給水デバイス企画・開発部 岩井 優介(いわい ゆうすけ)

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイスビジネスユニット 給水デバイス企画・開発部 岩井 優介(いわい ゆうすけ)

岩井「ポンプを搭載したサーバー冷却システムは、今までこの世になかったもの。私たちが給湯業界で実績を積み重ねてきたポンプであっても、データセンター向けとして新たにカスタマイズすることが必要でした。

また、お客様側も、常に試行錯誤しながらデータセンターの設計を進めているため、ポンプに対する要求も次々と変化していきます。そのため開発・製造の速度を上げていかねばなりません。

システムとして求められる高い冷却能力に対応するため、今回のポンプでは流体の流量を増やす必要がありましたが、サーバー本体のサイズには制限があり、ポンプは大きくすることができません。そこで、独自の回路一体成形技術などを駆使し、稼働時の発熱を抑えることで、従来同等サイズで75%もの流量アップを達成することができました」

パナソニック データサーバー用ポンプの強み

  1. 高性能・高効率
    磁場解析・流体解析・流動解析などの高度な技術を駆使し、効率的なモータ設計や、ロスなく綺麗に水を流すためのシミュレーションを重ねながら開発。従来と同等サイズながらポンプ性能の75%アップ(40→70 L/min)を実現。部品の精度にこだわり、他社を凌駕する3万時間以上の寿命を達成。システム全体のエネルギー効率向上と冷却システム設計の簡素化に貢献している。

  2. コンパクト
    機器組み込みポンプで培った設計ノウハウを活かし、コンパクトな筐体を実現。スペースの限られたCDU内への格納・柔軟なレイアウトを可能にし、CDUの設計自由度が大きく広がった。

  3. 長寿命
    水中すべり軸受けの採用と最適化された構造設計により、長期にわたる安定稼働とメンテナンス負荷の軽減を実現。データセンター運用における信頼性とコスト最適化を支える。

ポンプの構造
キャンド構造や回路一体成形により、コンパクト・高効率を実現。

ポンプの構造のイメージ
  • キャンド構造
    モータ部がポンプ部へ入り込み一体化したキャンド構造により、コンパクトかつ長寿命を実現。

  • 水中すべり軸受構造
    回転の摺動(しゅうどう)部に水が入ることで潤滑材の役割を果たし、長寿命を実現。

「開発・製造・販売」一体運営の彦根工場

図版:開製販一体運営、彦根一貫のモノづくり

モノづくりは、滋賀県の彦根工場での一貫生産体制で行われている。同工場には「五設一体」という開発・製造・販売を一体で運営する体制が整っており、「マーケットニーズ設計」「商品・品質設計」「設備・金型設計」「工程・管理設計」「工法設計」の五つを並行して開発。品質の安定化を実現すると共に、日々変化していく顧客の要望にも柔軟かつスピーディーに対応することが可能だ。

中村「ポンプの主たる機構部品であるセラミック部品や羽根車を内製化することで、高精度で高品質なモノづくりを実現できています。製造工程に関しても、巻線から回路までを一体成形、その後の完成品組立までを一貫し生産しています。

大部屋活動の様子

大部屋活動の様子

私を含め、ポンプの開発に携わる50人程度の関連メンバーが毎日最大30分、一つの部屋に集まり、開発の進捗状況や変更点などを共有し合い、検討事項があれば即断即決で実行に移すという進め方をしています。私たちはこの取り組みを『大部屋活動』と呼んでいます。同様に台湾販社とも日々連携し、たとえ量産間際で仕様変更などが発生しても、現地のお客様の要求や課題にスピーディーに対応することで、競争力を高めています。

今後もこの五設一体のコンカレント(並行して進める)開発により、業界の動きをタイムリーに追いながら、一層の開発リードタイム短縮を目指していきます」

本工場では、ポンプを含むデバイス事業成長に備えた増産体制の整備を図るため、2027年度末の稼働を目標に、新工場の建設を進めている

山﨑「今後の目標は、AIを活用したソリューションなど、グループ全体で協力して事業が動く際に、私たちのポンプも役立ててもらうこと。そして台湾にとどまらず、海外市場を開拓していきたいですね」

岩井「長年の積み重ねはもちろん財産ではありますが、あえてその延長線ではない分野にもチャレンジしていきたい。技術的な問いに対して、必ず答えが返ってくる。それがパナソニックグループの良いところ。衆知を融合させながら幅広い視野を持ってモノづくりを進めていきたいです」

中村「強みである商品力と開発スピードをさらに磨き上げ、お客様の搭載商品を通じて、ソリューション価値を最大化していくことで、グローバルな環境課題の解決にも貢献していきたい。ポンプ事業のスローガン『いい流れを、つくれ。』を念頭に、2035年には累計出荷台数1億台を目指して、挑戦を続けていきます

左から、岩井、中村、山﨑

冷却技術の進化は、AI社会の発展だけでなく、地球環境の未来にも直結している。パナソニックは、ポンプ事業を通して、ICTインフラの安定稼働と環境負荷低減を両立し、持続可能なデジタル社会の実現に貢献していく。

今後も、従来のヒーティング市場に加え、急速な市場成長が見込まれる冷却市場でのシェア拡大を目指しつつ、中長期的に熱対策、熱搬送が求められるインフラ領域への取り組みを加速する。

記事の内容は発表時のものです。
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