
2026年8月5日
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パナソニックグループは2026年5月12日、グループ成長戦略を発表した。「エネルギーの有効活用」と「現場労働力不足の解消」という社会課題の解決に向け、「AIインフラ」と「社会オペレーション」を支える事業への注力を通じ、2032年に向けたお役立ちを加速する方針だ。中でも、生成AIの普及を背景に需要の急拡大が見込まれるデータセンター向けなど、デバイス領域のAIインフラ向け事業は、2028年度までのグループ成長をけん引する重要な役割を担う。
この事業の一翼を担うのが、日々のくらしからモビリティ、社会インフラまで幅広い領域を電池技術で支えるパナソニック エナジー株式会社(以下、パナソニック エナジー)だ。
同社は2026~2028年度の3年間で、データセンター向け蓄電システム事業に3,500億円(北米カンザス拠点の車載電池との共通基盤投資を含む)を投資し、2028年度には売上高を2025年度比で約3倍となる1兆円規模へ拡大させる計画を掲げている。電池メーカーとして培った技術と知見を生かし、安全性の高い電池を核とした電源システムを提供する「データセンター向け電源ソリューションプロバイダ」の実現を目指し、さらなる事業成長を加速させる考えだ。
同社の代表取締役 社長執行役員 CEOの只信一生(ただのぶ かずお/以下、只信)に、本事業を中心にパナソニック エナジーの展望と成長戦略について聞いた。
パナソニックグループの電池事業は、100年以上の歴史の中で、乾電池の自社生産を起点に、産業・民生用および車載用のリチウムイオン電池をはじめとするさまざまな電池へと事業領域を広げてきた。現在、その中核を担うパナソニック エナジーは、「幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会の実現」をミッションに掲げ、AIをはじめとするデジタル社会の進展やEVの普及、環境問題などの社会課題の解決に取り組んでいる。
同社は、データセンターや電動アシスト自転車向けのリチウムイオン電池に加え、蓄電モジュール・蓄電システムを手掛ける「エナジーソリューション事業」、乾電池やリチウム一次/二次電池、ニッケル水素電池を幅広い用途に提供する「エナジーデバイス事業」、車載用リチウムイオン電池を担う「モビリティエナジー事業」を柱に、グローバルで約2万2,200人の従業員と共に事業を展開している。
パナソニック エナジー株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO 只信 一生(ただのぶ かずお)
事業戦略の根幹にあるのが、データセンター向け蓄電システム事業をはじめとする産業・民生事業の収益性と、車載事業の成長性を組み合わせた「両輪の経営」だ。
只信:「2022年のパナソニック エナジー設立当時、私たちはミッション実現のため、車載事業と産業・民生事業の両方に取り組む方針を明確にしました。
車載事業は、車載用リチウムイオン電池を中心にモビリティの電動化を支える重要な事業であり、市場規模も大きく、今後も当社の成長ドライバーであり続けます。一方、産業・民生事業では、生成AIの普及を背景に需要が急拡大するデータセンター向け蓄電システムをはじめとするAIインフラ向け事業を、収益基盤を支えるもう一つの柱へと育てていきたいと考えています。
車載事業と産業・民生事業は、二者択一ではありません。モビリティの電動化や自動運転にも、その基盤となるデータやAIを処理するデータセンターの発展が不可欠です。対象とする市場や時間軸は異なりますが、いずれも“電気エネルギーによってつながる社会”を支える事業という一つの枠組みの中で考えています。こうした考えの下、設立以来、成長と収益のバランスを取りながら企業体質の強化を進め、将来への投資を継続するとともに、社会への価値還元にも取り組んできました」
同社は中期目標として、2028年度に売上高2兆円規模、調整後営業利益3,000億円超の達成を掲げる。そのうち、データセンター向け蓄電システム事業の売上高目標を1兆円規模とし、2025年度比で約3倍への拡大を目指している。
パナソニック エナジーのデータセンター向け蓄電システム事業は、単なる電池製造にとどまらない。顧客の課題に応じて、リチウムイオン電池セルを核に、電源ユニットや制御技術、機構設計を組み合わせた蓄電システムを提供することが事業の本質だ。現在は、停電時のバックアップ電源機能に加え、AIサーバーの急激な電力需要変動に対応し、安定した電力供給を支えるBBU(Battery Backup Unit)を主力製品とし、2028年度に売上高1兆円規模を目指す。同事業では、そのほぼ全てに相当する案件で、開発推進合意・受注を示す「Award」を獲得済みだ。
パナソニック エナジーが手掛けるBBU(Battery Backup Unit)と電池セル
今後は、獲得した案件を確実に製品出荷へと結び付けるとともに、拡大を続ける需要に応えるため、生産能力の増強と需要変動に柔軟に対応できるサプライチェーンの構築を進める。その一環として、国内と北米で供給体制の整備を加速している。
国内では、車載用ラインを転用し、2026年4月に大阪・住之江拠点で出荷を開始した。さらに、住之江拠点と貝塚拠点で車載用ラインの改造を進め、供給能力の拡充を図っている。
また、電池セルを他のデバイスと組み合わせシステム化したモジュール(BBU)についても、国内の自社拠点や協力会社拠点に順次、ラインを新設し、生産能力を強化していく。
北米では、米国・カンザス拠点にデータセンター向けセル生産ラインを導入し、2028年度の量産開始を予定している。加えて、メキシコではモジュール工場の第2工場・第3工場を新設。第2工場は2026年度第2四半期に量産を開始しており、第3工場は2027年度の量産開始を計画している。
短期間でセルの生産体制を立ち上げられる理由は、パナソニック エナジーが車載用とデータセンター向けの双方で円筒形電池を採用し、共通の生産プラットフォームとして活用しているためだ。車載用とデータセンター向けでは求められる性能こそ異なるものの、その差の多くは材料や内部設計に起因する。一方、電極を巻いてセルを形成する工程や缶への挿入、組み立て、検査といった後工程には共通点が多い。そのため、既存の車載用設備を活用することで、短期間でデータセンター向けの生産体制を構築できる。
只信:「一から新工場を建設するとなると、これほどのスピードで対応することは難しい。円筒形電池の共通プラットフォームを基軸に事業を展開していることは、当社の大きな強みです」
一方、生産能力の拡大と並行して進めているのが、需要変動に柔軟に対応できるサプライチェーンの構築だ。只信はそのカギとして、主要市場である北米での生産能力拡充と、電力制御を行う電源コンポーネントの現地調達強化を挙げる。目指すのは、北米域内で完結するサプライチェーンの実現だ。現地調達の対象には各種回路基板なども含まれるが、その中で大きな割合を占めるのがDC-DCコンバータ(※1)である。データセンターでは、サーバーが必要とする電圧へ電力を変換し、安定的に供給する必要があり、DC-DCコンバータはその変換に使われる。同社はパートナー企業との共同開発を継続しながら、その一部を内製化し、2028年度までに搭載製品を顧客へ提供する計画だ。
※1 電力を変換・制御・供給する構成部品や装置の総称
只信:「電源サプライヤーとの連携を強化し、2028年度には電源コンポーネントの北米現地調達率を50%超まで引き上げることを目標としています」
こうした生産能力の拡充とサプライチェーンの強化に向け、同社は2026年度~2028年度の3年間で総額3,500億円を投資する計画だ。投資額には、北米カンザス拠点における車載電池との共通基盤投資や、顧客との先行開発を支える開発・試作ライン整備が含まれる。見据えるのは、2028年度の目標だけではない。2030年度以降のさらなる需要拡大も見据え、日本・米国・メキシコの各拠点で需要の増減に柔軟に対応できる供給体制の構築を進めていく。
供給体制の整備と並行して進めるのが、次世代の電源ソリューションの提案・開発だ。AIサーバーでは、求められる演算処理の質と量に応じて電力負荷が瞬間的に大きく変動する。そのため、停電時のバックアップだけでなく、電力ピークの抑制や急激な負荷変動の吸収が求められるようになった。さらに、消費電力の増大に伴い、データセンター全体の電力効率向上も重要な課題となっている。
こうした課題に対し、只信は「お客様の進化に対応する電源ソリューションを提案する、データセンター向け電源ソリューションプロバイダを目指している」と語る。
現在の主力製品であるBBUは、停電時のバックアップ電源機能に加え、サーバーの急激な電力需要の変動を吸収し、ピークシェービングによる電力負荷の平準化にも貢献している。
しかし、パナソニック エナジーが目指すお役立ちはそこにとどまらず、新たな電源ソリューションの提案・開発も進めている。その代表例が、BBUよりも短時間で大きな電力を繰り返し出し入れすることに適したスーパーキャパシタを内蔵し、日常的に発生する急激な電力負荷変動を吸収するCBU(Capacitor Backup Unit)と、データセンター全体の電力効率向上に寄与するHVDC(High Voltage Direct Current、高電圧直流給電)対応BBUだ。
CBUでは、パナソニック インダストリー株式会社が開発・製造するスーパーキャパシタを、パナソニック エナジーがモジュール化する。2026年度中に第1世代製品の量産開始を予定しているほか、第2世代製品の開発にも着手する。またHVDC対応BBUについても設計がおおむね完了しており、2026年度中の量産準備完了を目指す。現在のBBUに続く新たな製品群として、顧客に提供できる価値の幅を広げていく考えだ。
これらの製品開発の特徴は、顧客との共創から始まる点にある。
パナソニック エナジーは、顧客であるハイパースケーラー(※2)と、次世代、次々世代のデータセンターに求められる電源ソリューションについて、構想段階から協議を重ねている。そこで決定したコンセプトやシステムに必要な機能、出力要件を、BBUやCBUの電源設計だけでなく、セルの性能や材料、ケミカル、機構設計、制御アルゴリズムの仕様へと落とし込み、製品投入に先行して開発を進める。
※2 大規模なデータセンターを運営し、クラウドサービスを提供する事業者
只信:「2028年度に売上高1兆円規模の成長を目指していますが、既存製品をそのまま拡大するわけではありません。半導体の進化や、お客様ごとに異なるシステム構成に合わせて、統合的な電源ソリューションを提案・開発しています」
顧客との強固なパイプラインを基盤に、セルから最終システムまでを一体で提案できることを、パナソニック エナジーは自社の強みと位置付ける。
こうした開発体制は、安全性の向上にも生かされている。データセンターでは、ひとたび火災などの事故が発生すると、多くのデジタル資産が失われる可能性がある。そのため、BBUには極めて高い安全性が求められる。パナソニック エナジーは、高品質なセルに加え、セルを常時監視するBMS(Battery Management System)、異常発生時の類焼を防ぐガス対策、熱ストレスを考慮した機構設計を組み合わせることで、システム全体の安全性を高めている。
只信:「負荷が増大すると、熱ストレスなどの影響も大きくなり、安全性の確保はより難しくなります。そのため、材料、機構、アルゴリズムの各面から、お客様の進化のタイミングに合わせた設計が必要です。これまでの実績を通じて信頼を獲得してきたからこそ、次世代、次々世代についても、お客様が外部に開示する前の段階から開発を共に進めています」
その開発を支える拠点として、パナソニック エナジーは2026年9月、大阪・門真にリチウムイオン電池の研究開発拠点「エナジーイノベーションスクエア」を開設し、本格稼働を開始した。同拠点では、セルの材料開発から設計、試作、解析までを一貫して行い、次世代電池の開発スピード向上を図る。こうした開発基盤を生かし、同社は次世代製品に求められる高出力化にも取り組んでいる。
BBUの高出力化に向けては、セルのケミカル技術とシステムの機構設計を一体で進化させることで性能向上を図り、中期的にはセル1本当たり200W超の出力実現を目指している。
2026年9月に本格稼働を開始した、パナソニック エナジーのリチウムイオン電池研究開発拠点「エナジーイノベーションスクエア」。(左)拠点外観、(右)ラボ内の次世代セル試作ライン
パナソニック エナジーは、現在の主力製品であるBBUに加え、CBUやHVDC対応BBUの開発を進め、さらにその先の電源ソリューションも見据えている。
只信は、今後AIの進化に伴って消費電力がさらに増大する中、熱マネジメントも重要なテーマになるとの見方を示す。将来的には、グループ内での技術や知見を組織の枠組みを越えて活用しながら、新たな価値創出にも取り組んでいく考えだ。
パナソニック エナジーの成長構想は、データセンター向け蓄電システム事業で目指す2028年度売上高1兆円規模の、その先へと続く。供給体制については既に2030年度以降を見据えた準備を進めており、顧客との先行協議を通じて将来のさらなる需要拡大を見極めながら、供給体制の強化と次世代製品の開発を並行して進めている。市場環境や顧客の計画には変動要素があるため、現時点で具体的な数値目標は示していないものの、2030年度以降も継続的な成長を視野に入れ、電源ソリューションの創出に挑んでいく。
パナソニック エナジーが今後果たす役割について、只信は次のように語る。
只信:「当社は、クリーンなエネルギーを通じて社会の発展と人々の幸せに貢献することを目指しています。そのため、さまざまなアプリケーションに対し、電池を通じて電気エネルギーを支えていく必要があります。また、AIは今後、水や電気と同じように社会インフラとして定着していくと考えています。それに伴い、データセンターなど大規模なインフラ領域に加え、急速に進化するヒューマノイドをはじめとしたロボティクスが活躍するエッジ領域でも、“止めない”電源へのニーズはさらに高まっていくでしょう。こうした用途では、搭載スペースの制約や安全性への要求などから、当社の円筒形電池との親和性が高い可能性があります。電池メーカーとして提供できるソリューションを見極めながら、貢献できる領域をさらに広げていきます」
パナソニック エナジーは、「未来を変えるエナジーになる。」というビジョンの実現に向け、電池の提供にとどまらず、顧客の課題を先回りして解決する提案・開発力と、急増・変動する需要に応える生産能力、サプライチェーン対応力の強化を進めている。AIが社会や産業の基盤となるほど、その基盤を支える電源の重要性は高まる。顧客との共創を起点とする開発力、セルからシステムまでを一体で設計する技術力、そしてグローバルな供給体制を強みに、AIをはじめとする社会インフラの進化を支えていく。
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