2024年12月2日
- 企業・経営
- プレスリリース
- 経営方針
- 経営の考え方
変化する世界で、常にお客様に寄り添い、幸せをもたらす企業であり続けることをパーパス(存在意義)に掲げるパナソニックグループ。お客様にAI製品やサービスを信頼して使っていただけるよう、AIの開発や運用、利活用においてもグループ独自のAI倫理原則を策定し、人間を中心にしたレスポンシブルAI(責任あるAI)の実践に取り組んでいる。こうした中、シリコンバレーテック企業の最前線で活躍してきたパナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 PanasonicWELL本部長のYoky 松岡(まつおか)[松岡 陽子(まつおか ようこ)]が、同社 テクノロジー本部 デジタル・AI技術センター 所長の九津見 洋(くつみ ひろし)と対談。生成AIへの期待と課題を交えつつ、これからのパナソニックグループがいかにAIと関わっていくのか、その展望を語った。
※本記事は2024年2月27日に実施したオンラインイベントの内容を記事化したものです。
松岡はAI・ロボティクス分野でさまざまな経験を積み、世界的なIT大手企業の幹部を歴任したキャリアを持つ。米国や日本で次世代ファミリーコンシェルジュサービスを展開するスタートアップ企業Yohanaの創業者 兼 CEOでもある。
松岡「私はもともとプロのテニスプレーヤーを目指して渡米しました。しかし怪我もあり選手の道を断念した後、怪我をした人や、障がいを持つ人を助けるロボットを作りたいと考え、開発に没頭した時期もありました。その後は大学で教鞭を取り、有意義な日々を過ごす一方で、『今、人を助けることができていない』と思い悩むようになったのです。そんな時にシリコンバレーの大手企業から声が掛かったことがきっかけで、『お客様により近づくことができるのなら』とキャリアチェンジに踏み切り、先端研究を行う会社を共同創設しました。その後もさまざまな企業を経ましたが、2019年に『お客様の近く』をより実現できる、現在のパナソニック ホールディングス株式会社に入社。シリコンバレー発のスタートアップとしてYohanaの事業を立ち上げることになりました」
現在もシリコンバレー在住の松岡は、生成AI(学習済みのデータを活用して、新たなデータを生み出せるAI)の最前線について、次のように語った。
松岡「今やシリコンバレーでは、ウェブサイトや新聞記事で生成AIのニュースが出ない日はありません。知人との会話でも、日常的に話題に上ります。コロナ禍以前から、次のトレンドとして生成AIが来るだろうとは意識していました。その後2022年11月にAIアシスタントサービスであるChatGPTが公開された時点から、ある種のブームが始まったと感じています。
このブームはいい意味でも悪い意味でも、世界中で大きなインパクトとなりました。Microsoftの共同創業者であるビル・ゲイツ氏も『世界が変わるほどの感銘を受けたものは二つ。一つめはGUI(Graphical User Interface:1980年代から普及した、マウスやタッチで操作ができるインターフェイス)。二つめは生成AIだ』と言っています。
生成AIは私たちの生活を永遠に変えるもので、GUIよりさらに大きな影響を及ぼすと考えます。私たちは今まさに歴史の中の重大な瞬間に立ち会っていると言えるでしょう。一方で、その変化をどう扱えばよいか、まだ確信を持てない現状があります。安全を確保するための規制をはじめ、生成AIには解決するべき課題がまだまだ多く存在しています。
日本では、シリコンバレーのような生成AIの『波』のようなものを感じることはありません。それは逆に言うと、日本が生成AIをこれから本格的に受け入れれば、その先の世界を変革していける、大きな可能性を秘めているということなのです。
GUIが盛り上がった時のように、ブームのスタート時期には、新しいテクノロジーを誤用する人々も出てきます。ですが今はその混乱が去り、GUIはより私たちの生活になじんできました。生成AIについても、きっと同じことが言えると思いますね。ブームの後に何かが急に変わるということではなく、徐々に人々が使いこなせるようになり、くらしになじんでいく。そうした緩やかな変化となっていくでしょう。
当初は広く知られたAIの専門家たちが、脅威を感じて会社を辞める、といったことも起きました。しかし徐々に『生成AIは人類を滅ぼす技術ではなく、あくまでもツールである』という考え方が広まりました。それをどのようにうまく使いこなすかは、私たち人間にかかっています。今では『生成AIを使いこなせる人材になること』が目指すべき方向として定着しつつありますが、盛り上がりがすっかり落ち着いたということではありません。むしろ、期待感にあふれている印象です」
一方、九津見は幼少の頃から工作が好きで、大学では移動ロボットの制作やロボットの自律移動システムの研究を行っていた。人々のくらしを身近に支える製品を作りたいという思いで、現在のパナソニック ホールディングス株式会社に入社した。
九津見「元々ソフトウェア開発に携わっていた私は、AIの専門家ではありませんでした。しかし7年ほど前から、人とAIとの関わり合い方について知見を深めてきました。Yokyさんと同様に『お客様へのお役立ちにつながる』AI活用にこだわり、活動を展開しています。
ChatGPTが登場した時は、ものすごいものが出てきたなと思いました。しかしいまだに負の側面についてもさまざまな意見が出ています。企業が自分たちのビジネスに取り込んで、安心してお客様にお届けできるものとして使いこなすには、関連技術の成熟含め、まだまだ時間がかかるのではないでしょうか。ただ、間違いなく大きなポテンシャルを秘めているだけに、深掘りしていく価値があると感じます。
シリコンバレーの大企業が開発している基盤モデルなどがフラッグシップとして世に出され、周辺テクノロジーがたくさん生まれたことで、AIは大きな成長分野となっています。一方で、実用化に当たっては、ファインチューニング(事前学習済のAIにデータを追加で学習させ、新たな知識を蓄える技術)などの工夫によって、その信頼性、安心感を高めていくことが必要です」
松岡「私たち人間側が、どのように使いこなしていくべきかが問われる時代になりますね。パナソニックグループとしても、このブームをいかに見定め、どんな人たちとどのように関わり研究開発をしていくのかがポイントになってくると思います」
AI技術の進化は人々の生活に影響を与え、世界を大きく変える力になり得る一方で、進展のスピードが速すぎるのではとの懸念も聞こえる。このままでは、世界中の消費者がAI技術に対する十分な見識を持たないまま誤用したり、望ましくない結果が伴う可能性すらある。従って、企業がAIに責任を持ってアプローチし、それを活用するためには、ガイドラインの確立が重要となる。
パナソニックグループでは、幅広い事業領域において、くらしの課題を解決する革新的な製品やサービスを生み出すため、人工知能技術の研究開発・社会実装に取り組んでいる。その大前提として、パナソニックグループにおけるAIが、お客様に幸せをもたらし、社会を持続的に発展させることができるように、AIの利活用の倫理的指針となるAI倫理原則を定め、公表している。
松岡「パナソニックグループの考える『責任あるAI』の三つの原則『For Humans, By Humans, With Humans』。その根幹にあるヒューマンセントリック、つまり人間を中心に据えたヒューマン・イン・ザ・ループ(human in the loop:AIを活用するループの中には必ず人間の存在とその判断が介在すること)は、私自身がロボットの開発に没頭していた時期から、ずっと思い続けてきたことでもあります」
「For Humans」とは、AIは人間のためにあるということを絶対に忘れない、ということだ。松岡はこれまでも、「世界をAIの実験台に使うようなことは絶対にしてはいけません。『By Humans』は、AIには人間が介入する必要があるということ。そして『With Humans』は、AIを使用する人が、AIを正しく理解している必要があるということです。AI本位で考えて人間を軽視する人ではいけませんし、一方でAIに無知な人でもいけません」と語っている。
九津見「生成AIのブームが来る前から、パナソニックグループではレスポンシブルAIについて議論をスタートしていました。私たちのAIの使い方により、お客様に不利益が生じるようなことがあってはなりません。全てのお客様、関係者の皆さんに安心できるものをお届けするのが私たちの使命です。ポイントとなるのは『透明性』です。AIにどのような情報を学習させたのか、プロセスをクリアにしながら、どこかに課題が潜んでいないかをモニタリングしています」
松岡「特に私たちは家電製品など、お客様の家の中に入れていただける製品を幅広く取り扱っているので、皆様が安心できる基準を確立していかねばなりません。『勢い』は大切ですが、スピードばかり重視してしまうと、『責任ある』の部分が抜け落ちてしまいかねません。そこで、お客様の立場に立ちながら、慎重にポリシーづくりと開発に取り組んでいます」
九津見は、こうした「責任あるAI」の実践に言及する一方で、新たなAI技術を社内で「実証実験」的にトライアルする事例も紹介した。それが、2023年に国内で評価・活用を開始し、現在は一部の海外地域を除いて展開している、AIアシスタントサービス「PX-AI」である。パナソニックグループは、ITシステム面の変革にとどまらない経営基盤強化のための重要戦略として取り組むDXを「Panasonic Transformation(PX)」と呼ぶ。PX-AIはその重点施策の一つで、より高度なAI利用機会提供による生産性の向上など、業務プロセスの改善も見込んでいる。
九津見「社員自身が『PX-AI』をどんどん使って、生成AIがどういうものなのかを肌身で感じてもらいながら、業務効率アップにつなげられればと考えています。ただ、例えばAIにプログラムを書かせても、人間自身がスキルを持っていないと、AIの出す答えが正しいかを判断できません。それだけに、『現時点でここまでできるのはすごいけど、まだおかしい部分がある』と修正しながら活用し、その間に技術も進化するという状態が大切。つまり使い手のスキルと教養が求められるのです」
松岡「これまでに述べた通り、AIの出した答えがそのまま使えると思っては駄目で、技術者の責任で品質を担保しないといけません。あくまでも主役は技術者、つまり『人』なんです。すなわち、AIをツールとして利用する知識とノウハウを持てるかどうかがカギとなります。テクノロジーが『できる部分』と『できない部分』を見極め、『できない部分』にいかに人間が関与するか、その交差する部分が面白いと思っています。AIが『できない部分』は人間が真摯(しんし)に創る。この姿勢が大切ですね。
そして今後は、LLM(Large Language Models:大量のデータとディープラーニング技術で構築された大規模言語モデル)も大きく進化することが予測されます。ベース部分の統合・集約は繰り返される一方で、日本では日本語のLLMの開発が確実に進むでしょう。パナソニックグループの人たちには、LLMを活用したアプリケーション部分の開発に、積極的にチャレンジしてほしいです。失敗ありきで、メンタリティーを強く持っていく。転んだとしても前に進む。そうすることで勝者になることができるはずです」
九津見「必要十分なパフォーマンスを備えながらも、小規模でチューニングなどの費用・工数が掛からず、かつ省電力な『エッジAI』(端末に直接搭載するAI)を、多くのプロダクトへスピーディーに実装していきたいですね。パナソニックグループは多くの事業領域で、さまざまなお客様に向き合っている企業です。こうした私たちにとって、高性能でお客様に喜ばれるものを迅速に展開するためには、基盤となるAIモデルを確立し、ファインチューニングした上でエッジAIへと応用することが有効な手法と考えています」
松岡「今のAIは、BtoB分野では使いやすいですよね。でも私としては、ご家庭、ご家族に寄り添うAIを目指したい。これはものすごく難しいことですが、パナソニックグループならできると信じているのです。生成AIのみならず、全てのカテゴリーのAIの活用で、リーダーシップをとれる会社になればいいなと思っています」
パナソニックグループは今後も、人間を中心とした責任あるAIの実践により「一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」のお役立ち拡大に取り組み、AIのリーディングカンパニーとして、研究開発を推進していく。
記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。