日々のくらしの中でどうしても生じてしまうのが、ごみ。日本の一般ごみの総排出量は、2019年度で4,274万トン(東京ドーム約115杯分)、1人1日当たりのごみ排出量は918グラム(※1)と言われている。その処理費用は年間で約2兆円とも言われ、地方自治体では財政の大きな負担に。地球環境問題に直結し、SDGsの様々な目標にも大きく関わるごみ処理問題。豊かな社会生活を持続させるため、また資源の有効活用の視点においても一人ひとりが向き合わねばならない。パナソニックがお役立ちできることとは・・・今回は二つの地方自治体との取り組みをそれぞれ紹介する。
生ごみを堆肥に変えて食農循環~宮崎県 新富町との取り組み
生ごみ処理から始まる食農循環プラットフォーム構築
ごみの減量を阻害する要因の一つに食品ロスがある。SDGsにおいては、「2030年世界全体の一人当たりの食料廃棄半減」実現が掲げられているが、日本ではその量は、ここ数年ほぼ横ばい状態が続いており(※2)、さらなる対策が必要な状況だ。しかし、ごみ減量や資源化率の目標を、地方自治体のみの力で達成することは困難――宮崎県児湯郡新富町も、そんな悩みを抱える市町村の一つだった。
一方、パナソニックは1993年から販売している「家庭用生ごみ処理機」を用いて、2020年より地方自治体に向けて新しいソリューション提案を図ろうとしていた。すでに多くの地方自治体で購入助成制度の対象となっている「家庭用生ごみ処理機」を、行政を通じてより広く使ってもらうことで、食品ロスの問題を一緒に解決できるのではないか――プロジェクトを立ち上げたのは、くらしアプライアンス社の田澤と山田だ。アイディアを出し合い、実際に複数の市町村に声をかけることから始めていった。
田澤は言う。「元々私は技術畑で、オーディオ機器の設計開発を担当していましたが、その一方で、新しいビジネスを生み出すことに興味がありました。また、山田は学生時代に植物の研究をしており、食農循環に関する事業で社会に貢献したい気持ちがあった。2人とも、地方自治体にアプローチするのは初めての経験でしたが、ワクワクする気持ちで取り組みました」。
「中でも圧倒的な熱意を感じたのが、新富町でした」山田は語る。2020年の秋、農業系の展示会を訪ねた折に、出展していた新富町のブースで当社から声を掛けたのが最初の出会いだった。後日すぐに電話を頂き、「ごみの発生から処理までをトータルに見ないとごみの減量化は図れない。我々だけでは何もできないので、是非、力を貸してほしい」という熱い想いを聞いた。その姿勢と熱意に胸打たれ、自分たちとしてお役立ちできることがないか改めて考えたという。
新富町の小嶋町長は今回のプロジェクトについて次のように語る。「最初に山田さんから『家庭の生ごみを堆肥化して循環させる』というコンセプトを伺ったときには、ここまで考えるの?と正直驚きました。パナソニックに対しては、家電製品を売って終わりという印象を持っていたので、想像を超えてきましたね」。
目指すは、食品ロス削減と生ごみ減量。具体的な仕組みを創るにあたり、南九州大学と連携し、生ごみ堆肥の信頼性検証などの技術サポートや、コミュニティーファーム整備といった全体のシステム設計、食品ロスに関する住民への啓発活動のサポートも行っていく。さらには新富町の女子サッカーチーム「ヴィアマテラス宮崎」にもアンバサダーとして参画してもらい、チームのYouTubeチャンネル等で使った様子などを発信いただけることになった。
生ごみ処理機をつかった食農循環システム案
【食農循環システム構築にあたり、2021年11月以降、次のような実証実験が予定されている】
- モニターとなった町民宅(第一弾として50世帯)に「家庭用生ごみ処理機」を設置し、処理した乾燥ごみを回収。
- 乾燥ごみを堆肥化し、肥料として新富町内の市民農園やコミュニティーファームに還元。
- 野菜などの農作物を栽培。まちの緑地化を目指すと共に、収穫につなげ、地元の食卓へ。
小嶋町長は「今回のプロジェクトをご一緒し、スピード感には圧倒されています。皆で一丸となって、持続可能な町をつくるという目標に向かって一歩ずつ取り組んでいきます」と意気込みを語る。
生ごみ処理機の贈呈式は、ヴィアマテラス宮崎の選手も出席し、和やかな雰囲気で行われた。贈呈式に参加した伊藤選手、坂松選手もまた「地元の女子サッカーチームということで、『食農循環アンバサダー』としてお声がけいただけることになり、感謝しています。今後、チームの寮で生ごみ処理機を使っていきます。町内の農家の協力も得て、チーム全員で土づくり・野菜づくりについて学んでいきたいと思います」と、地域活動への参画に意欲を示している。
田澤は「産官学それぞれの事情がある中で、経験や文化の違いによる齟齬が生じることもありました。でも、全員が『新富町で食農循環を実現させる』という同じ目標に向かっているので、同じ意識でプロジェクトを推進できています。生ごみ処理機を使うことで各自治体のごみ処理問題を解決するパッケージをつくり、日本全体の社会問題の解決に繋げていきたい」とこの先を見据える。山田もまた「生ごみは一般的に燃えるごみの約40%を占めるといわれます。その量を減らし、再活用する一連の食農循環活動に地域住民の皆さんにも参画いただくことで、単純にごみの量が削減できたというだけではなく、家庭ごみに対する意識改革、ごみを出さないライフスタイルの実践につなげていければと思います。単にモノを売るだけでは実現できなかった価値創出に向けて今後も取り組んでいきます」と思いを述べる。
住民一人ひとりの意識が非常に重要となるこの取り組み。そこを支援し、まずは生ごみ処理機から、将来的には様々な家電と連携して、オールパナソニックで社会課題に向き合っていきたいというのがプロジェクトメンバー共通の認識だ。実証実験を終えた次の展開にも目が離せない。
高齢者世帯のごみ収集をサポート~和歌山県 橋本市との取り組み
「スマートごみ箱」を使った実証実験をスタート
高齢化とごみの問題も大きな課題だ。2019年時点で高齢者のいる世帯は全世帯の約半分と言われ、高齢者のみの世帯も増加傾向にある。(※3)そうした世帯では、日々のごみ出し自体に課題を抱えるケースも増えており、この傾向は今後数十年にわたり続くと見込まれている。すでに一部の地方自治体では高齢者のごみ出し支援(「ふれあい収集」等)などの取り組みがスタートしているが、高齢化社会に対応した廃棄物処理システムの構築は喫緊の課題だ。(※4)
こうした状況を受け、ごみの減量やリサイクルといった課題とはまた別の視点で、新たな取り組みを進めているのが和歌山県橋本市だ。パナソニックは、無線でインターネットにつながる「スマートごみ箱」を試作。2021年秋から同市と連携・協力し、廃棄物処理システムの構築に向けた実証実験をスタートする。
スマートごみ箱を使った実証実験のイメージ図
家庭から出たごみを保管してもらう「スマートごみ箱」は、いわばくらしと行政サービスを直結させるもの。ごみ箱の開閉と、たまったごみの量を内蔵センサーで検知しデータ化、クラウドに蓄積する。ごみが一定量を越えると、ごみ箱の液晶画面に収集日を通知し、適切なタイミングで効率的にごみ収集を行うことが可能だ。クラウド上に蓄積されたデータを活用して、高齢者のごみ出し支援に関する課題や効果の検証を行う。またごみ箱の開閉をセンシングすることで生活活動の有無が分かるため、プライバシーに配慮した見守りサービスの検討も併せて実施する。まずは10世帯を対象に実証実験を行い、徐々に対象世帯を増やしていく予定だ。この「スマートごみ箱」には、パナソニック独自のクリーンテクノロジー「ナノイーX」発生装置も搭載。ごみ箱庫内の脱臭に貢献する。
「私たちが提供するのは、家庭と自治体を繋ぐIoTソリューション。元々自治体でやっているサービスと繋ぐことで、自治体と住民にどのようなベネフィットが生まれるのか、繋がることで生まれる価値を検証し、循環型社会をまわすためのインフラ構築を目指します。」くらしアプライアンス社の岡林は語る。
「コロナの影響で在宅時間が増えるに伴って、家庭ごみが増える傾向にあります。人が分散型にシフトしていったことで、ごみも分散し、これまで通り回収するとパフォーマンスが悪いといった声も聞こえてきています。またレジ袋の有料化により、ご家庭でもごみに対する意識が変わりつつあり、ごみ処理は今や全国的な課題です。一方、橋本市は15年以上前から『生ごみ堆肥化・減量化運動』を推進されており、この問題に取り組んでおられました。また高齢者や障がいのある方、紙おむつ利用世帯など、ごみをごみステーションまで出すことが困難な世帯に対する支援策として『ごみの福祉収集』を実施するなど、充実を図っておられます。今回は様々な課題についてお伺いする中で、この『ごみの福祉収集』について、未来を見据え、どのようなソリューションがマッチするのかを一緒に検討させていただきました」。
岡林と共にプロジェクトに携わる鈴木は語る。「ごみの量をセンシングするというのは、マンションや公共の公園などの集積場ではすでにやられていることなのですが、1軒ごとの家庭ごみにおいては前例がありません。今回の実証実験で橋本市へのお役立ちを実現し、どのような価値が出せるのかが定まってくれば生ごみも可燃ごみも含めた廃棄物処理システムとしてまとめて検討していけるはず。見えてくる課題を基にソリューションとして磨きをかけ、高齢化社会に対応した仕組みの一つとして、他の地方自治体や、B2B向けとしても展開していきたいと考えています」。
ごみの問題でよく言われるのは、第一にはreduce、次にreuseやrecycleといった再資源化の部分。とはいえ、再資源化に切り替えていく中でごみの発生から収集運搬までを結ぶルートが、担い手不足の中でどんどん細っていくことが予測される。ごみ問題の中で、こういった福祉収集・運搬の分野はあまり注目されていない部分ではあるが、循環型社会のインフラ的なところにもお役立ちができると非常にいいのではないか、とメンバーは語る。まだあまり注目されていない分野だからこそ、パナソニックが挑む意味があるのだ。
地域社会の発展と共に
日々のくらしとは切っても切り離せない「ごみ」。今回紹介させていただいた二つの自治体だけでも力を入れているところが少しずつ違うということが感じ取れるだろう。どちらのプロジェクトも、最終的にトータルでソリューション提案ができれば、全自治体の底上げ、質の平準化にも寄与できると、未来の可能性について言及する。長年にわたり人々のくらしに寄り添ってきたパナソニックは、家庭ごみにまつわる課題を地方活性化につながるカギの一つと捉え、地域社会と共に生活に密接に関わりながら課題解決に挑み続ける。
※1 環境省「令和元年度における全国の一般廃棄物(ごみ及びし尿)の排出及び処理状況等の調査結果」(令和3年3月30日)
https://www.env.go.jp/press/109290.html
※2 2017年度(平成29年度) 日本の食品ロス量は612万トン。うち、規格外品、返品、売れ残り、外食産業での食べ残しなど事業系は328万トン。家庭内での食べ残し、手つかずの食品(直接廃棄)、皮の剥きすぎなど(過剰除去)家庭系は284万トンとなっている。
※3 内閣府「令和3年版高齢社会白書(全体版)」より https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/html/zenbun/s1_1_3.html
※4 環境省「高齢者のごみ出し支援制度導入の手引き」(令和3年3月発行) https://www.env.go.jp/recycle/post_50.html