【更新】2021年10月29日 一部本文の表現を修正
脱炭素社会の実現に向け、世界各国で様々な取り組みが加速している。「世界共通の目標達成に向け、パナソニックでも最優先で取り組むべき事項だ」とグループCEOの楠見も5月の記者会見の場で、地球環境問題に対する積極的な姿勢を示した。様々な分野で事業を通じた環境負荷軽減に取り組む中、今回はその代表例とも言える欧州市場向けのヒートポンプ式温水暖房機(以下、Air to Water:A2W)について迫った。
環境に配慮し、お財布にもやさしいソリューション
欧州市場における空調事業強化に向け、2018年10月より欧州にて生産を開始した、ヒートポンプ式温水暖房機「Aquarea」。大気中の熱を集めて熱交換するため、化石燃料を用いた従来の燃焼系の暖房機器に比べCO2排出量を抑えることができ、環境に配慮した暖房システムだ。屋外の温度に関わらず、例え寒冷地でも理想的な室温、またお湯を提供できるよう、多様な製品ラインナップを揃えており、どんな場所でも自宅で最適に暮らせる幅広い選択肢を用意している。新築住宅のみならず既築住宅における化石燃料を活用した燃焼系の暖房機器への置き換えも可能なことから、再生可能エネルギーの活用促進にも貢献しており、欧州市場で需要が伸びている。また、従来の電気暖房と比較して、エネルギーコストの削減が可能。一定の初期投資は必要だが、ランニングコストは安く、初期コストの回収期間も短くなり、特に石油のボイラーや電気ヒーターと比較した場合の節約が見込めることからコスト面でも非常に優れた商品といえるだろう。
地域特性に着目し日本の技術を活用
2008年から欧州A2W市場へ参入したこの商品は、当初マレーシアにあるエアコンなど空調機器の製造を手掛ける工場から欧州に輸出していたものを、地産地消により、リードタイムを短縮したり、欧州の空調関連を手掛ける販売会社との連携を強化することで市場ニーズの変化を捉え、迅速な対応を行うなど、これまでも様々な取り組みを進めてきた。実はこのパナソニックのヒートポンプソリューションは、元々日本国内向けに家庭用給湯設備として開発されたもの。大気中の熱を集め、ヒートポンプ技術で温水をつくり出し、効率よくお湯を沸かす給湯機として2002年から「エコキュート」として日本国内で販売されている。高効率のヒートポンプ方式で、電気の使用量が電気エネルギーのみの場合に比べて約3分の1で済み、そのためCO2の排出量を大幅に削減することが可能で、環境に配慮した商品として知られている。
一方、これまでも温水を家庭用暖房にも利用することが多かった欧州では、ラジエーターや床下暖房などの温水暖房機器が多くの住宅に設置されている。この温水暖房に着目し、既存の暖房設備に追加可能なシステムとして、日本で培ったヒートポンプにより温水をつくり出す技術を活用し、二酸化炭素の排出が多いボイラーから環境に配慮したA2Wへの置き換えを進めたのだ。
環境意識の高い欧州市場に挑むパナソニックのA2W
欧州は、パナソニックの中でもAV機器の売上比率が高い地域として知られている。現在も多くの人がが「パナソニックはAV家電のブランド」だと認識している。特に、テクニクスは欧州で非常に高い人気を誇ったブランドであり、復活時には現地で大いに喜ばれた。
そんな中、環境保護や気候変動対策への関心が非常に高い欧州の消費者は、メーカーの環境問題への姿勢や、製品が環境に与える負荷などを常に意識して製品を選択している。欧州各国の政府もまた、高いCO2削減目標を掲げ、化石燃料の使用量が少ない高効率な家庭用暖房システムの導入を促している。こうした状況を踏まえ、パナソニックは欧州市場において独自の最先端冷暖房ソリューションを展開。数十年にわたって蓄積した知見を駆使して開発した、より環境に配慮したソリューションを通じて、各国の高いCO2削減目標達成への寄与を目指しているのだ。
特にフランスは、欧州の中でもA2Wの最大市場であり、パナソニックにとってもフランスの存在感は最も大きい。その主な要因はA2Wに対する補助金交付だ。欧州各国でA2Wに対する補助金が交付されているが、フランスの補助金制度は非常に充実しているため、需要増加の後押しとなっているという。環境配慮の観点から石油など化石燃料を用いた暖房システムが減少していくことを考慮すると、今後ますますこの動きは加速することが予測される。今、パナソニックが欧州で挑戦しようとしているのは、AV機器に加え、新たな柱をつくりあげていくことだ。その中でA2Wを中心とした、空質空調事業は間違いなく大きな存在となるだろう。
欧州の気候に対応し、かつ環境負荷をさらに小さく
現在、ヒートポンプ式温水暖房機「Aquarea」は、欧州に特化したシリーズとして各国で販売している。「Aquarea」シリーズに使用されている冷凍サイクルでは、外気温が-20°Cの極寒時でも暖房能力が下がらないため、スカンジナビア諸国や北欧諸国のような寒冷地でも使用可能だという。ヒートポンプ技術と、ポリウレタンフォームと比べて最大19倍の断熱効果を持つパナソニックの高機能真空断熱材「U-Vacua」を組み合わせることで、従来のボイラーを使った暖房システムと比べて、消費エネルギー1単位あたり最大5倍の熱をつくることができるのだ。
さらにこの「Aquarea」シリーズは、温暖な季節がある地域では冷房機器としての使用も可能だ。また外出先からでもスマートフォンやタブレット、PCで運転設定をコントロールすることができるほか、システムの運転状態を遠隔でモニタリングすることも可能で、万一のトラブル発生時にもスピーディに対応できる体制を整えている。化石燃料を燃やす従来の設備から、暖房システムはここまでの進化を遂げたのだ。
世の中が大きな変革を迎える中、パナソニックもまた2022年4月に持株会社制へと移行し、今後新たな一歩を踏み出すことになる。社会課題に正面から向き合い、現在と未来に対する不安の払拭に貢献することが求められる中、地球環境問題は最優先で取り組んでいくべき課題。次世代を担う子どもたち、その先まで豊かな「社会生活」を持続させるためには、このグローバルでの社会課題を避けて通ることはできない。快適かつ環境に配慮したくらしを提供するA2Wはまさに次世代をつくりあげていく要の事業といえるだろう。
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