従来品より持ちやすく、効きめ長持ち――そんな虫よけスプレー「サラテクト」が2021年2月にアース製薬株式会社(以下、アース製薬)から発売されました。「感動スプレー」と銘打って市場に登場したこの「サラテクト」のリニューアルした容器は、実はパナソニックがアース製薬と共同で開発に携わったもの。人とくらしに寄り添ったモノづくりを信条とする両社が、お互いの知見を結集して実現した「持って感動、使って感動」の虫よけスプレー。その開発者たちが思いを語ります。
虫よけスプレー「サラテクト」を全面リニューアル
アース製薬の「サラテクト」は1994年に誕生したロングセラー商品です。それまでの虫よけスプレーは「ベタベタする」という声が多かったことから、お肌がサラサラに感じられるパウダーインの虫よけスプレーとして開発したところ、従来にない心地よい使用感が人気となり大ヒット。四半世紀を超えて愛され、現在はミストタイプやジェルタイプなど幅広いラインナップを揃えており、2021年現在では虫よけ剤の売上No. 1(※)の地位を確立しています。
※インテージSRI 虫よけ剤(その他)市場2019年1月〜2020年6月累計販売金額(サラテクトシリーズ計)
感動スプレー「サラテクト」 容器の特長
- 手のひらにフィットする「くびれ形状」で、手のひらをしっかりサポート
- 親指が安定するように「親指スポット」を設計
- 周長を縮めることで手の小さな方でも持ちやすいボトル径を実現
「サラテクト」のさらなる改良に向け、2018年、アース製薬は成分のみならず容器形状も含めた全面リニューアルを決意。「さらに使いやすい容器を」というご要望に、パナソニック プロダクト解析センターがお応えすることとなりました。
アース製薬 松本 明日香氏(以下、松本氏): 「これまでは容器も社内で開発していたのですが、今回成分のリニューアルを進める中で、容器についても改めてお客様の視点に立った使いやすい形状とし、一層愛される製品としてお届けしたいという思いがありました。そこで人間工学に基づいて商品の形状評価をされている実績を知りパナソニックさんにご相談しました。私は研究者として、虫よけ効果が長持ちする成分の開発に取り組むとともに、パナソニックさんから容器形状の提案を受け、量産ラインに沿う形へと精査していく役割も担いました」。
パナソニック プロダクト解析センター 野田 聡(以下、野田): 「私はパナソニックのプロダクト解析センターで、主にUX(ユーザーエクスペリエンス)解析を担当しています。ミッションはユーザビリティの科学的追求。商品を使う時の『使い心地が良い』というお客様のいわば曖昧な気持ち・価値を定量化・分析し、モノづくりに反映していくのが業務の大きな流れです。アース製薬さんの人気商品のリニューアルということで、これは責任重大だなと思いました。ですが松本さんたちの『お客様の視点に立って本当に使いやすいものをお届けしたい』というパッションに、パナソニックのDNAと通じるものを感じ、ありがたくチャレンジさせていただきました」。
プロダクト解析センターでは、パナソニックの幅広い商品の形状評価を手掛ける中で培った人間工学、感性工学といった領域の知見が蓄積されています。今回の案件でポイントとなったのは、電動シェーバーやドライヤーなどの開発を通じて育まれてきた「持ちやすさ」「握り心地」の指標でした。
野田: 「過去の知見をダイレクトに活かせる場合も、そのままでは当てはまらない場合もあります。誰がどんな時に何のために使うのか、なぜそれは『持ちやすい』と言えるのか、その基準はプロダクトごとに変わるところです。そこで我々がまずお尋ねするのが、その商品のメインターゲットです。今回は『子育て中の30代~40代の女性』が、『出かける前のちょっとしたタイミングで、ご自分やお子さんに虫よけスプレーをする』という想定をコアターゲットとしてお聞きしました。外出前というシチュエーションであれば、玄関先で、お子さんが靴を履くのに手間取っているかもしれない。早く出かけなくてはと、焦っているかもしれない・・・そんな時にストレスなくパッと手にできて、シュッとひと吹きできる容器のカタチとは――?そうやって具体的な使用シーンを想定しながら、まずは当時の現行品のスプレー容器の握り心地について検証することからスタートしました」。
プロダクト解析センター内の女性メンバーにも協力を得ながら、持ちやすい形を模索する日々。スプレーに限らず手で持つさまざまな容器について「握り心地」のデータを集積しました。
野田: 「センサーを付けたグローブを装着し、形状が異なる複数のサンプルを握った時の手に掛かる圧(把持圧)を計測することで、手のどこに重点的に圧がかかるのが『使い心地』としてベストかを解析しました。感覚だけに頼らず、データに基づいた定量的な解析で、負担なく使用できる形状を追求していきました」。
持ちやすさと、量産に適合する形を両立
野田: 「一般的な虫よけスプレーは、トリガーノズルに人差し指をかけて噴射します。こうした容器では『親指の付け根』と『手のひら』を容器にしっかりとフィットさせることで、持ちやすさが高まることが見えてきました。そのフィット感を実現しながら、トリガーから続くボトル径は、手の小さい方でもつかみやすいサイズでありたい。かつ、見た目のフォルムも『持ちやすそう』に見えるもの・・・日々メンバーが集まっては紙粘土をこねながら、理想の形状を求めて検討を続けました」。
そして2019年、何度かの試作品検討を経たのち、候補は4つにまで絞り込まれます。
松本氏: 「4つの試作品は当社研究部のメンバーも直接触り、その使い心地や生産にあたっての実現性などをテストさせてもらいました。試作品の検討段階で課題となったのは『量産ラインに適合』するかどうかということでした。使い心地の面で最適な形を追求する一方、中身の充填はスムーズにできるか、倒れたりしないか――生産工程で支障がないかという点は、欠かすことができないチェックポイントです。できるだけ効率的に製造できるよう、容器の底には定められた接地面積を確保するようお願いもしました」。
野田: 「小さな手で持ちやすい細さであり、かつ、安定して倒れないだけの接地面積――両立のバランスを取るのは難しいことでしたが、私が心がけたのは『簡単には妥協しない』ということ。評価・解析で見出した持ちやすさのポイントを、いかに商品に反映できるかが大事です。あきらめずに見出したポイントを可能な限り押さえつつ、別の解決策を検討しました。すべての条件を満たすフォルムを追求し、最後はミリ単位の調整を重ねましたね」。
より効きめが長持ちする虫よけの研究
松本氏:
「容器についてはパナソニックさんの提案を反映する一方、私たちは中身である成分のリニューアルにも注力してきました。目指したのは、『朝使って夜まで持続する』虫よけ効果。ディートという、日本でも50年以上長く使用されている実績がある虫よけ成分を採用していますが、処方の研究を重ね、従来品よりディートを肌の上に留まりやすくすることに成功、サッと塗っても肌に残りやすく、より効果が長持ちするよう刷新することができました。当然ながら人の肌に触れるものですので、安全性についても厳密なテストを繰り返しました。
試作した薬剤の効果をテストする際には、実際に人の手に薬剤を塗布して、数時間ごとにその効きめをチェックします。蚊のいる箱に薬剤を塗った手と塗らない手を入れ、蚊が刺しにくるかどうかをテストするのです。もちろん私の腕も実験対象となります(笑)。
さらに、従来の『サラテクト』は無臭としていたのですが、よりさわやかな使い心地となるよう、今回は香りにもこだわり、新たにシャボンの香りを加えました」。
長きにわたり、家電を中心としたモノづくりを通してユーザビリティを追求してきたパナソニック。そして「生命(いのち)と暮らしに寄り添い、地球との共生を実現する。」という経営理念を掲げるアース製薬。このたびの共創により、お客様の「もっとこうだったら」という潜在・顕在ニーズを見える化し、お客様視点でより使い心地の良いプロダクトを市場にお届けすることができました。
松本氏: 「長い歴史のある商品に新たな価値をプラスしたリニューアルを実現できました。人間工学の視点からアドバイスを受けて容器を刷新するという貴重な経験を、今後にも活かしていければと思っています。新しくなった『サラテクト』をお一人でも多くの方に知ってもらいたいですね。まずは手に『持って』持ちやすさを体感してもらい、『使って』ロングキープ処方による効果を実感していただければ嬉しいです。虫よけ剤を使っていただくことが、日常でより当たり前の習慣になってほしい――これが私の目標です。これからも人やくらしにお役に立てる虫よけ剤をお届けするため、研究に真摯に取り組んでいきたいと思います」。
野田: 「アース製薬さんの熱い思いに触れ、『お客様の気持ちを汲み取り、見える形にする』という私たちの使命を改めて見つめなおすことができました。今後は表情解析、音声解析などのノウハウも蓄積していき、人の気持ちを見える化する活動をさらに進化させていきたいと考えています。お客様のニーズにしっかりと寄り添い、くらしのお役立ちに寄与するプロダクトの実現をサポートしていきたいです」。