2024年10月1日
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寒冷地が多い欧州では、化石燃料を燃焼させるガスボイラーなど、暖房・給湯で多くのエネルギーが消費されている。住宅や建物で消費されるエネルギーは地域全体の約40%、温室効果ガスの排出量は36%に達する。さらに、家庭で消費されるエネルギーの約80%が暖房・冷房・給湯によるものだ(※1)。
※1:出典 Energy saving: EU action to reduce energy consumption
こうした中、EUでは、「環境」「経済」の両立を目指す成長戦略として、2022年に「欧州グリーンディール」が打ち出された。温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに1990年比で55%削減、2050年までに実質ゼロを目指している。2024年3月に改正された「建物のエネルギー性能指令」にも、全ての住宅・建物から排出されるGHGを2050年までに実質ゼロにすることなどが盛り込まれた。
現在、人々の関心が高まってEU全体で導入が進んでいるのが、大気中の熱を集めて温水をつくり出し、住宅に循環させて暖房を行うヒートポンプ式温水給湯暖房機(A2W)だ。化石燃料を用いる機器に比べてCO2排出量を抑えられ、環境負荷が少ない。エネルギーの安全保障を目的に2022年に発表された「リパワーEU」計画では、2022年以降の5年間でA2Wを累計1,000万台導入する目標を掲げる。
今年3月12日から15日まで、イタリア・ミラノで、「Mostra Convegno Expocomfort 2024 暖房・空調設備・再生可能エネルギー展」が開催された。パナソニック株式会社 空質空調社は出展するとともに欧州事業戦略および業務用A2W新製品発表会を開催。自社の革新的な技術と欧州のリーディング企業とのパートナーシップを活用しながら、環境に配慮したHVAC(※2)ソリューションのニーズに応えることを発信した。
※2:暖房(Heating)、換気(Ventilation)、空調(Air Conditioning)
発表会にはパナソニック ホールディングス株式会社 グループCEOの楠見 雄規(くすみ ゆうき)も出席。「世界では、一刻も早く地球温暖化を食い止めるとともに、限りある天然資源の利用を最小限に抑え、循環型経済を実現することが求められています。パリ協定の1.5℃目標(※3)を確実に達成できるよう、CO2 の排出を早急に削減することが不可欠です」と強調した。
※3:2016年11月に発効した同協定で、「地球の平均気温の上昇を産業革命以前から2℃を十分に下回る程度に抑え、1.5℃に抑える努力する」ことを、国際的に合意
こうした地球環境問題の解決への貢献を目指すパナソニックグループの長期環境ビジョンが、「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」だ。楠見は、欧州でのカーボンニュートラルの実現に貢献すべく、環境配慮型製品やシステム、サービスの開発を進めていることを紹介。中でもA2Wソリューションは、その中心的な役割を担う点に言及した。
「われわれは欧州と共に脱炭素化に取り組むことを固く決意しています。今年後半には、英国の自社工場でRE100(※4)の実証を開始。エネルギーを消費する側として再エネソリューションを導入し、化石燃料の消費を最小限に抑制していきます」
※4:純水素型燃料電池と太陽電池を活用した自家発電を活用、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う電力需給運用
欧州におけるA2Wの需要拡大に対しては、「現在、チェコに新棟を建設しています。昨年はスウェーデンの空質空調機器メーカーSystemair AB(以下、システムエア社)の業務用空調事業を買収しました。欧州にしっかりと根を下ろし、地域社会やお客様との協働を通じ、欧州全体が掲げる目標の達成に向けて挑戦を続けます」と話した。
欧州グリーンディールの影響で、集合住宅やライトコマーシャル(中規模ビル)などを中心に、A2Wの導入が増加。ドイツやオランダでは、新築時にガスボイラーの設置が禁止されることがある。一方、集合住宅にA2Wを導入する場合、必要となる能力を確保するため、温水を通す配管や室外機を設置するための大きなスペースが必要になるケースがある。
こうした点を踏まえ、パナソニック株式会社 空質空調社 HVAC欧州事業部長の小松原 宏(こまつばら ひろし)は、欧州における事業戦略を説明。市場で求められる三つのポイントに言及した。「1点目は、需要が伸びている集合住宅・ライトコマーシャルに向けた、より大容量のソリューションの提供。2点目は、暖房や冷房、換気、給湯といった、あらゆる機能を統合するシステムの提案。3点目が、効率的なエネルギー管理の実現です。お客様はガスボイラーからA2Wへの置き換えにより、CO2排出量はもとより、ランニングコストの削減を期待されているためです」
さらに小松原は、自社の強みであるA2Wの商品力を活用してお客様から期待される室内暖房管理・省エネソリューションを提供するための戦略を説明。
その一環が、パナソニックとシステムエア社のコア技術をベースに、性能の向上とサイズの小型化を両立した新製品、業務用A2Wである。2024年に発売予定の同製品は、従来より大幅に性能を高め、20kW、25kW、30kWの3モデルを展開。カスケード接続により300kWまで拡張が可能だ。一方、現行の家庭用A2Wより約30%小型化(※5)しており、限られたスペースにも設置できる。
※5:当社A2W Jシリーズ(16kw)2台に対し、Mシリーズ(30kw)1台を設置する場合の面積。
地球環境にも、より一層配慮。集合住宅やライトコマーシャル向けA2Wには、従来は地球温暖化係数(GWP)が低い冷媒であるHFCR32を使用していたが、本製品はGWPがより低い自然冷媒R290を採用している。
今後、室内空間価値の向上、さらには省エネやランニングコストの削減につながるエネルギーマネジメントの実現に不可欠な、もう一つのパートナーとして挙げたのはINNOVA社(イノーバ社)だ。同社はイタリアの空質空調機器メーカーで、パナソニックは今年2月に資本業務提携契約を締結している。これにより両社は技術開発・生産・販売において包括的な協業を推進。2025年度に向け、IoTを活用した次世代住宅向けソリューションの開発に着手していると発表した。「イノーバ社は10年以上にわたり取引している最高のパートナーであり、欧州での協力関係を拡大することにしました。省エネはもちろん、既存配管の活用で工事も最小限に抑え、あらゆる機能の統合管理・アップデートが可能なソリューションの実現を目指します」と小松原は語る。
発表会では、ミュンヘンを拠点とするエネルギー制御ソリューション企業であるtado°(タド)社との業務提携も発表した。これにより、パナソニックのA2Wとtado°社のスマートサーモスタットを連携させ、室外設置のA2W本体とラジエーターを含む室内機を遠隔制御するソリューションが実現。気象予報やお客様の利用状況に基づく機械学習で、最適な冷暖房運転が可能となる。A2Wの優れたヒートポンプ技術、複数空間における運転制御・エネルギーマネジメントに加え、tado°社が販売する再生可能エネルギー由来の電力の活用で、従来比で約30%のエネルギーコスト削減が期待できる(※6)。
※6:業界における平均的なA2Wを当社高性能A2Wへ置き換え、さらにtado°社の提供する既存の制御機能および、今後両社で開発・提供する技術を組み合わせ、実現を目指すもの
tado°社の共同設立者であるクリスチャン・デイルマン(Christian Deilmann)は、こうした複合ソリューションの独自性に言及。「今回、われわれは室内温度を含む部屋ごとの総合的な運転制御をA2Wで初めて可能にするとともに、A2Wの運転最適化、エネルギー消費量の削減も実現します。パナソニックとのパートナーシップによる成功を心から期待しています」と語る。
当社のA2Wとtado°社のサービスを組み合わせたソリューションの提供は、ドイツ・イタリアの両国で年内開始予定。エネルギー効率のさらなる向上に向け、当社製A2W専用ソフトウェアの共同開発も検討中だ。
グループCEOの楠見は「創業者の松下幸之助は、物と心が共に豊かな理想の社会の実現こそ、企業の真の目的と悟りました。この高い目標を達成すべく、25年を1節とし、それを10節繰り返す『250年計画』を1932年に打ち出したのです。以降、社会課題の解決や社会へのお役立ちのために奔走した先輩らからのバトンは、パナソニックグループの真のパーパス(存在意義)を果たすべく、後世に受け継がれています」と語る。
その上で、「私たちには、この美しい地球を子や孫の世代に引き継ぐ責務があります。カーボンニュートラルを早期に実現できるよう、パナソニックグループはさまざまな事業を展開、関連技術を開発・提供してまいります。私たちの貢献規模は小さいかもしれませんが、エネルギーの需要サイドが行う取り組みを通じ、世界の脱炭素化に大きなインパクトをもたらしたい。その中で、HVAC事業は主導的な役割を果たします」と加えた。
小松原も、「欧州のHVAC事業部門は、持続可能な地球環境だけでなく、人々の健康で快適な生活の実現を目指しています。これらを達成できるよう、お客様の声に真摯に耳を傾け、パートナーと共にタイムリーにお客様価値を創造します。今後もあらゆる取り組みを通じてCO2の削減、ひいてはPanasonic GREEN IMPACTの実現を目指します」と、快適な空間とサステナブルな社会の両立に向けた決意を語った。
記事の内容は発表時のものです。
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