2024年11月18日
- 企業・経営
- トピックス
1916年に創業者・松下幸之助が改良ソケットの実用新案を出願して以来、パナソニック ホールディングス株式会社は国内外で知財活動を推進し、現在も10万件以上の知財を保有している。この膨大な知財を活用する同社知財部門は、近年「無形資産のつなぎ手」として、社会課題解決の促進にも尽力している。先行きが不透明な現代、パナソニックグループの知財部門は何を目指し、実際にどのような活動を行っているのか。知財部門として掲げたパーパス、そして未来に向けた展望について知的財産部 部長 德田 佳昭(とくだ よしあき)に聞いた。
――パナソニックグループは2022年4月に事業会社制となり、経営体制が大きく変わりました。その中で、知財部門はどのような役割を担っていくのでしょうか?
德田:私たち知財部門の役割は、ひと言で言うと「無形資産のつなぎ手」です。7つある事業会社それぞれが独立して経営を推進する一方で、各事業で生まれる無形資産はグループ共有のもの。知財部門では、その資産をいかにグループ全体で生かすのかを考え、仕組みづくりから取り組んでいます。
――知財の扱い方や扱う範囲に関しても、すでに変化が起きているそうですね。
德田:近年は知財部門の取り扱う資産が、特許や商標だけでなく、データなどにまで広がり、その専門領域が多様かつ高度になってきています。また取り扱う地域も、中国だけでなくインドや東南アジアも加わり広域になってきました。パナソニックグループとしても、バラバラに動いて領域を広げつつも、狙う方向は常に同じになるように、「(領域を)拡げつつ、(方向性を)集約する」という2つのことを成立させなくてはいけません。まさに今、知財部門としての専門性を深め、多様なケースに広く対応することが求められています。
――今年、知財部門ではパーパスが打ち出されました。どのような経緯で策定されたのでしょうか?
德田:昨年秋に30・40代のメンバーを中心に中期計画の検討をしてもらった際に、「自分たちの存在意義を示す旗印が欲しい」と、自主的に発案されたのが今回のパーパスでした。その背景には、「社会課題がますます複雑になっていく中で、これからの企業に求められるのは、社会課題の解決に取り組み、チャレンジしていく姿勢を持つことだ」という考えがあったようです。その話を聞き、まさにこれからの「拡げつつ、集約する」という動きにフィットする内容だと感じましたね。
――ボトムアップ型で決められたのですね。「無形資産を巡らし、価値に変えて、世界を幸せにする」という一文には、どのような思いが込められているのでしょうか?
德田:3つのポイントがあります。まず、知財部門の活動の対象物を特許権や意匠権、商標権などのいわゆる知的財産権だけではなく「無形資産」として、対象をデータなどにまで範囲を広げていること。次に「巡らせる」というキーワード。無形資産は、私たちが社会で経済活動をしていく上で欠かせない血液のようなものですから、必要なときに、必要な量を、必要な場所に行き渡らせ、足りなければ外から取り入れることをイメージしています。そして最終的に狙うのが、「世界を幸せにする」ということ。会社の一員として事業貢献を目指すだけでなく、社会課題をトリガーに世の中の課題を解決しようとする姿勢も欠かせないと考えています。
――企業活動において、今までは知財の保護を重視する考え方が一般的でしたが、その点も変化していくのでしょうか?
德田:全てが変わるわけではありませんが、近年は私たちだけで事業を展開できるものが少なくなり、社外のいろいろな人たちと新たな事業や産業をつくり出す必要が出てきました。その際に必要なのが、活用を超えた「巡らせる」という観点なのです。そのような観点から、既存業務においても「将来の社会課題解決を見据えた活動」としていく挑戦のマインドが必要だと考えています。
――パナソニックグループが手がける、知財を起点としたさまざまなオープンイノベーション活動の中で、注目すべき事例はありますか?
德田:シンガポールの知財運用会社を活用した知財マッチング活動でしょうか。7年ほど前からスタートし、パナソニックグループの無形資産の提供や技術導入の仕組み化に向けて議論し、数多くの現地研究機関やスタートアップとつながっていきました。私たちがマッチングのプラットフォームとして機能できたことで多くのノウハウや人脈が蓄積されていき、今では新規事業の創出にもつながっています。
――パナソニックグループ内では「無形資産のインデックス化」の取り組みにも力を入れているそうですね。
德田:この取り組みは、技術部門の人数や拠点が多く、事業会社を横断して技術を活用することが難しい環境であるパナソニックグループ内で「ニーズとシーズをつなぎたい」という思いから始まりました。実際に、マーケットインで新商品を開発する際は、商品企画や事業企画から自社にどのような技術があるか見えづらいことが課題として挙げられていましたし、技術者も自分の取り組みが社会のニーズにマッチしているか分かりづらい状況でした。それらの課題を解決するため、営業や企画担当者などの技術部門以外の人にも分かりやすい言葉で技術情報をインデックス化し、技術や知財に詳しい人や担当者の履歴情報、技術資料などを検索できるシステムをつくりたいと考えたのです。立ち上げからまだ1年なので、検索精度向上のためのアップデートはまだまだ必要ですが、非常に有用なツールになると確信しています。
――インデックスに人の情報を含み、実際に担当者に聞くことができるのは面白いですね。
德田:誰が、いつ、どんな発明をしたのかという特許情報をもとに、技術者同士で知識を共有し合うことや、営業や企画担当者が技術者に相談したり仲介することが容易になれば、無形資産の情報としての活用も進むでしょう。将来的には、蓄積した検索ログから社内の技術ニーズを見える化し、研究開発のロードマップにも生かしていきたいです。
――現在は、環境価値創出に向けた仕組みづくりにも取り組んでいるそうですね。
德田:環境課題を解決するためには、社会の仕組みを根本から変え、従来とは異なるインフラや新しい技術を導入していくことが必要不可欠で、さまざまなレイヤーの企業が協力し、無形資産を持ち寄ることも求められます。さらに新たなイノベーションの創出を加速するためには、持ち寄った無形資産を評価し、何らかのインセンティブを与える仕組みまで必要です。価値の算定は非常に難しいですが、算定方法を標準化できれば、無形資産の持ち寄りを持続的に誘発することができるでしょう。
最終的な目標は、私たちの無形資産を呼び水にいろいろな企業が集まり、さまざまな事業が成立し、環境や人のくらしに還元しながら収益に直結していくことです。また、脱炭素に貢献する新たなイノベーションを加速させるために、二酸化炭素の削減貢献を評価する仕組みをつくりたいとも考えています。
――世界有数の保有特許件数を誇るパナソニックグループが無形資産を巡らせていくために、今後どのような視点が必要だと考えていますか?
德田:これからのパナソニックグループに求められるのは、リデザインの視点です。知財から無形資産へリデザインし、私たちの活動自体もリデザインしていく。そこから、社内での開発方法や社会の仕組みまでリデザインしていくことにつなげていけたら楽しいですよね。
――最後に、知財部門が目指す「ありたい姿」について教えてください。
德田:私たち知財部門の役割は、「無形資産でつなぐ」こと。これからも、社会課題に取り組むスタートアップやベンチャー企業も含め、社内外に無形資産を通じたいろいろなつながりを創出していきたいです。
記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。