2024年12月19日
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京都大学COI(Center of Innovation)において、京都大学生存圏研究所 篠原真毅教授とパナソニック株式会社(以下、パナソニック)が共同で研究開発を進めてきたマイクロ波電力伝送システムについて、プロトタイプシステムの開発が完了し、試験用サンプルの提供を開始します。
開発したシステムは、920 MHz帯のマイクロ波(電波)を活用し、長距離でのワイヤレス電力伝送を行うことが可能で、電池交換や電源ケーブルが不要でいつでもどこでも電源供給をすることのできる技術です。この920 MHz帯のマイクロ波電力伝送技術は、2022年に電波法施行規則等に関する省令が改正される見込みとなっており、免許を取得することで、屋内の一般環境下で利用することができます。現段階では送電できる電力が小さいため、受電機器はセンサをはじめとする小電力で動作する機器に限定されますが、離れた場所に設置された送電機から常に電力を供給することができるため、電池切れの心配や電源コードの煩わしさの無い空間を提供することができます。
今回、パナソニックは、920 MHz帯の電波を活用した送電機と受電機からなるマイクロ波電力伝送システム Enesphere(エネスフィア)を開発し、サンプル提供を開始するとともに、様々な用途・シーンでの試験的活用を進めていきます。
パナソニックが開発したマイクロ波電力伝送システム Enesphere
IoT(Internet of Things)の普及により、センサなどの電子機器が増加することで、定期的な電池交換、充電作業や電源ケーブルによる配線施工が大きな負担になっています。この負担を低減する手段として、電源を無線化する技術が求められています。特に、少子高齢化により、見守り・健康管理用のバイタルセンサの需要が増しています。これらのセンサは、長時間にわたり人の情報をセンシングするため、電池交換や充電作業を行うことが困難となっています。また、産業分野においても、工場やオフィスなどの効率化や生産性向上を狙い、様々なIoT機器を活用したデータ収集・管理システムが導入されています。ここでは、多数のセンサを様々な場所に設置するため、電池交換や電源ケーブルの引き回しが課題となっています。これらの問題を解決するため、京都大学とパナソニックは共同研究を進め、マイクロ波を活用した長距離ワイヤレス電力伝送技術による電池交換や電源ケーブルが不要なセンサシステムの開発に取り組んできました。
マイクロ波による電力伝送技術は、長距離でのワイヤレス送電が可能ですが、送電できる電力には制限があります。その理由は、人体や、他の通信機器への影響を配慮したもので、電波法により規制されています。今回予定されている省令改正により、マイクロ波帯の電波を活用した電力伝送技術が使用できるようになりますが、出力電力には制限があり、特に920 MHz帯については、送電機からの出力電力は1ワット以下に制限されています。そのため、この制限内において、いかに電力を効率的に伝送し、広い範囲にある受電機器へ電力を送ることができるかが、研究開発のポイントとなります。この研究開発課題に対し、京都大学とパナソニックは、高効率に電力を送電、受電する小型アンテナ技術、受電したマイクロ波電力を高効率に安定して直流へ変換する回路技術の開発に取り組んできました。これにより、1ワット以下の出力電力においても、数メートル先のセンサなどの機器を動作させることができます。また、一般的なアンテナは、人に近づけた場合、人体に電磁波が吸収されてしまうことにより、受電効率が低下してしまいます。開発した受電機のアンテナは、この問題を解決し、人が身に着けた状態でも高効率に動作するため、見守り・健康管理用のバイタルセンサへの適用が期待されます。また、送電機は広い範囲へ電波を放射するため、一つの送電機から複数の受電機へ一括で送電することができます。これらにより、開発したマイクロ波電力伝送システムは、先に述べた見守り・健康管理用のバイタルセンサや工場やオフィスなどに多数設置されるIoTセンサへの電源供給手段として活用することができます。
マイクロ波電力伝送システムのコンセプト
今回、パナソニックは、京都大学と開発した技術を組み込んだプロトタイプシステムを製作しました。このシステムは、1ワット出力の送電機と、カードタイプ、人体装着タイプ、液晶表示タイプ、基板タイプなどの様々な形態の受電機から構成されおり、準備が整い次第、サンプル提供を開始する予定です。このシステムを活用し、様々な用途・シーンでの試験的活用を進めていきたいと考えています。
(左)送電機、(右)各種受電機
マイクロ波電力伝送システムEnesphereのサンプル提供を開始し、様々な場面における試験的活用を通して、本技術を本格的な実用化へと進めていきます。これにより、センサをはじめとするIoT機器の普及拡大を後押しし、少子高齢化問題の解決や、工場やオフィスなどの効率化、生産性向上に貢献します。さらには、今回の取り組みをスタートとして、次のステップの法制度化も見据えながら、送電電力や送電範囲を拡大していく研究開発を推進し、今後の普及が見込まれる多くの電子機器に対して、意識することなく電源が供給されている世界を目指していきたいと考えています。
本研究成果の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「活力ある生涯のためのLast 5xイノベーション拠点」の事業・研究プロジェクトによって得られました。
研究開発してきたマイクロ波電力伝送技術について、サンプルをご提供し、実際に使って頂ける段階になりました。供給電力や送電範囲に制限がある状況ではありますが、できるだけ多くの方々に試用して頂き、ご要望に対して改善を加えていくことで、様々な場面での電源問題を解決できるソリューションへと成長させていきたいと考えています。(パナソニック 谷 博之)
以上
記事の内容は発表時のものです。
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