2024年12月19日
- 技術・研究開発
- プレスリリース
- くらし
- テクノロジー
- 地域・まち
2020年7月9日
技術・研究開発 / トピックス
パナソニック株式会社(以下、パナソニック)は、一般財団法人ファインセラミックスセンター(以下、JFCC)および名古屋大学未来材料・システム研究所(以下、名古屋大学)と共同で、透過電子顕微鏡法と機械学習を用いて、バルク型および薄膜型の全固体電池内部のリチウムイオンの動きをナノメートルスケールでリアルタイム観察する技術を開発しました。
本技術によってリチウムイオン移動抵抗の可視化が可能になり、正極物質内部の結晶粒界の影響で、リチウムイオンが複雑な拡散過程をともなって充放電していることが解明されました。これにより、高性能な全固体電池の設計指針が明確になり、今後の全固体電池の開発に大きく貢献します。
本成果は、2020年5月27日(水)掲載の米国科学雑誌「ACS Energy Letters」の電子版と2020年6月4日(木)掲載の英国科学雑誌「Nature Communications」の電子版に掲載されました。なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(JP 17H02792)の支援を受けて行われました。
図1 バルク型全固体電池内部のリチウムイオンのリアルタイム観察(a)走査透過電子顕微鏡像と高速充電中のリチウム分布の変化。黒破線および白破線は結晶粒界を示している。
(b)高速充電後のリチウム分布の緩和 (c) 低速充電後のリチウム分布。アメリカ化学会より許可を得て、一部改変し、転載(2020)(*a)。
1. 背景
全固体リチウムイオン電池(*1)は、高安全性と高エネルギー密度を両立できる可能性を有しており、次世代二次電池の候補の一つとして、世界的に活発な研究開発が進められています。しかしながら、全固体電池は電池内部のリチウムイオン伝導抵抗が高く、大電流動作において克服しなければならない課題を有しています。
この課題を解決するためには、全固体電池の充放電メカニズムと特性劣化要因を明確化し、材料・デバイス設計にフィードバックする必要があります。特に、リチウムイオンが電池内部でどのように動いているかを理解することは、電池の高性能化において極めて重要になります。
全固体リチウムイオン電池には、IoT機器などを用途とする小型の薄膜型全固体電池(*2)と車載などを用途とする大容量のバルク型全固体電池(*3)があり、2018年9月に、パナソニック、JFCCおよび名古屋大学は共同で、薄膜型全固体電池内部のリチウムイオンの動きを可視化するオペランド透過電子顕微鏡解析技術(*4,5)を開発しました。
2. 研究開発の成果
今回、薄膜型全固体電池のオペランド透過電子顕微鏡解析技術を、大容量用途のバルク型全固体電池に応用した新たな解析技術を開発しました。あわせて、1画像あたり従来では15分程度の時間を要していた画像撮影時間を30秒程度まで大幅に短縮し、リチウムイオンのリアルタイム観察技術の開発にも成功しました。本成果により、薄膜型・バルク型2種類の全固体電池内部を流れるリチウムイオンの動きをナノメートルスケールの空間分解能でリアルタイム観察し、リチウムイオン伝導における抵抗の原因を明らかにしました。
<開発技術のポイント>
(1)透過電子顕微鏡の改良と分析試料形状の最適化
透過電子顕微鏡は観察できる試料サイズに制限があるため、顕微鏡内部で実サイズのバルク型全固体電池を駆動させることはこれまで非常に困難でした。今回、透過電子顕微鏡の試料ホルダーを独自改良し、さらに、分析試料形状の最適化を行うことで、バルク型全固体電池を透過電子顕微鏡内部に作り込むことに成功しました。これにより、バルク型全固体電池の精密なオペランド透過電子顕微鏡解析技術を実現しました。
(2)機械学習の適用
リチウムイオンは非常に軽い元素であるため、通常の透過電子顕微鏡の観察法ではリチウムイオンの存在を示す明瞭なコントラストを得ることができず、リアルタイム観察は非常に困難でした。本開発では、リチウムの検出が可能な電子エネルギー損失分光法(*6)に、画像の超解像化とノイズ除去が可能なスパースコーディングと呼ばれる機械学習(*7)を適用することにより、高速かつ低ノイズでのリチウムイオン分布の観察に成功しました。
図2 薄膜型全固体電池内部のリチウムイオンのリアルタイム観察(a)走査透過電子顕微鏡像。
(b)高速に取得したノイズの大きい低解像度のリチウム分布。
(c)bにスペクトルフィッティングを適用し、ノイズを低減したリチウム分布。
(d)cにスパースコーディングを更に適用し、超解像とノイズ除去を行ったリチウム分布。掲載論文(*b)より、一部改変して転載。
3. 今後の予定
本技術の確立により、解析結果を様々な全固体リチウムイオン電池の材料・デバイス開発にフィードバックさせることが可能となります。これにより、内部抵抗の低い電池の設計が可能となり、より高性能な全固体電池を実現します。
4. 掲載論文
*a著者:Yuki Nomura, Kazuo Yamamoto, Tsukasa Hirayama, Emiko Igaki, and Koh Saitoh
タイトル:Visualization of lithium transfer resistance in secondary particle cathodes of bulk-type solid-state batteries
雑誌:ACS Energy Letters 5, 2098–2105 (2020)
*b著者:Yuki Nomura, Kazuo Yamamoto, Mikiya Fujii, Tsukasa Hirayama, Emiko Igaki, and Koh Saitoh
タイトル:Dynamic imaging of lithium in solid-state batteries by operando electron energy-loss spectroscopy with sparse coding
雑誌:Nature Communications 11, 2824 (2020)
<用語説明>
*1 全固体リチウムイオン電池
正極、固体電解質、負極材料のすべてが固体セラミックスで構成される二次電池。
*2 薄膜型全固体電池
主にスパッタ法などの真空プロセスによって作製される電極層厚さが0.1~数µm程度の小型の全固体電池。IoTなどの軽量かつ小型な用途での使用が想定されている。
*3 バルク型全固体電池
塗工法などの簡便なプロセスによって作製される電極層厚さが数10~数100µm程度の大型の全固体電池。車載などの大容量な用途での使用が想定されている。
*4 透過電子顕微鏡
高いエネルギーで加速した電子を試料に照射し、散乱した透過電子を検出することで試料の拡大像を得る顕微鏡。ナノメートルスケールの局所領域の原子構造評価や組成分析を行うことができる。
*5 オペランド解析技術
デバイスを駆動させながら動的に分析・解析を行う技術。電池の充放電時の挙動を、より実際に近い条件下で観察することができる。
*6 電子エネルギー損失分光法
電子が試料内部を透過する際に失ったエネルギーを計測し、材料中の元素や電子状態を分析する手法。リチウムのような軽元素を検出するのに有効な解析技術。
*7 機械学習
データを学習し、データの分類や予測をおこなうコンピューターアルゴリズム。本研究では、画像の特徴を学習するスパースコーディング技術を用いた。
<関連情報>
・一般財団法人ファインセラミックスセンター
https://www.jfcc.or.jp/
・名古屋大学未来材料・システム研究所
https://www.imass.nagoya-u.ac.jp/
・[パナソニック トピックス] 次世代電池内部のリチウムイオンの動きを充放電中に可視化する技術を開発(2018年9月3日)
https://news.panasonic.com/jp/topics/162180.html
記事の内容は発表時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。