パナソニックグループコミュニケーションマガジン
幸せの、チカラに。

2024.11.28
プラズマディスプレイ事業で培った独自技術で環境貢献~真空断熱ガラス「Glavenir(グラベニール)」

シリーズ:

パナソニックグループが推進するPanasonic GREEN IMPACT(PGI)の取り組みの一つ、真空断熱ガラス「Glavenir(グラベニール)」。プラズマディスプレイ(以下、PDP)事業で培った真空ガラスパネル製造技術を応用し、鉛フリー、かつ厚さ約6mmを実現。断熱性能を表すU値(熱貫流率)0.7W/m2・Kは一般的なガラスの約1/8で、薄くて美しい高性能断熱ガラスとして、住宅・建材、ショーケースなど、多方面でグローバルに高評価を得ている。今回は、国内ショーケース事業拡大の第一弾とも言える冷凍ショーケースでの採用と製品化の軌跡を追った。

真空断熱ガラス「Glavenir」とは

日本の平均的な戸建住宅における全ての熱ロス量(※1)のうち、「窓」からの熱ロスは30~40%に及ぶ。窓の断熱性能を上げれば、居住空間やオフィスの室内温度を維持して冷暖房負荷を低減することが可能となり、脱炭素化に貢献できる。 
こうした建物における熱ロスの課題解決や、より断熱性能に優れた業務用冷凍・冷蔵ショーケースのニーズにも応えられる――それが、真空断熱ガラス「Glavenir」だ。

※1 熱ロス量:建物の室内から屋外へ出ていく熱の量。

当グループの真空断熱ガラス事業は、PDPの開発・製造技術を応用するべくスタートした。2017年に主に建築用途として開発されたのが非強化ガラス仕様(フロートガラス仕様)モデルだ。2019年には冷凍・冷蔵ショーケース用途の強化ガラス仕様モデルが誕生。建築用途と冷凍・冷蔵用途では、必要な耐久性に大きな違いがあり、後者は扉の開け閉めがあるため、より高い強度が必要とされる。強化ガラス仕様モデルは、パナソニック株式会社の完全子会社である米国の冷凍・冷蔵ショーケースメーカー「ハスマン社」のコンビニ・スーパー向け冷蔵室用自動ドアに採用。同年4月には、AGC株式会社と共同で欧州の住宅市場向けに生産を開始し、断熱窓のニーズが高い地域で、窓ガラスの改修などの用途向けに展開している。2021年にはエクセルシャノン社の国内最高性能の樹脂サッシにも採用された。

写真:真空断熱ガラス「Glavenir」 主に建築用途の非強化ガラス仕様(フロートガラス仕様)モデル(左)、主に冷凍・冷蔵用途の強化ガラス仕様モデル(右)

業界で唯一非強化ガラス仕様と強化ガラス仕様をラインナップした真空断熱ガラス「Glavenir」。主に建築用途の非強化ガラス仕様(フロートガラス仕様)モデル(左)、主に冷凍・冷蔵用途の強化ガラス仕様モデル(右)

2枚のガラスの間にわずか0.1mmの真空層を挟み込む、真空断熱ガラス(VIG: Vacuum Insulated Glass)の構造を持つGlavenir。通常、ガラスとガラスの間にガス層を設ける構造上、薄型化は困難と言われていた断熱ガラスの領域で、非強化ガラス仕様(フロートガラス仕様)においてわずか6.1mmの薄さを実現している。

図版:Glavenirのガラス構造

Glavenirのガラス構造

Glavenirは単板ガラスのような薄さを実現しながらも、業界最高クラスの断熱性能も誇る。断熱性能を表すU値(熱貫流率)は低いほど高性能と言えるが、厚さ6mmモデルのU値は0.7W/m2・K。さらに強化ガラス仕様となる第二世代では、0.49W/m2・Kへの低減を実現した。

本製品の開発と市場展開の取り組みは、Panasonic GREEN IMPACTにおけるCO2削減貢献量(熱ロス減)においても貢献を果たしている。

また、外観性能として「フラットコンセプト」を掲げ、独自技術により、真空排気孔の封止部レスを実現。

「私は過去、PDPの開発に15年以上関わってきました。実はGlavenirの開発者の8割は、私と同様、PDP事業の関係者です。私たちのノウハウと、尼崎のPDP工場で培った工法や評価設備などがあったから、グループとして初となる断熱ガラス業界への参入が比較的短期間で実現できたと思っています」と語るのは、パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社(以下、PHS)外廻りシステム事業部の清水 丈司(しみず たけし)。PDPの技術をGlavenirに落とし込んだ立役者の一人で、生産性や歩留まりの改善、新工法開発・設備保全など、製造から工法開発の全てを担当している。

写真:清水 丈司(しみず たけし)

パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社 外廻りシステム事業部 VIG事業推進部 清水 丈司(しみず たけし)

清水:PDP事業が終了し、高断熱ガラスの開発をスタートした当時は、当然ながら不安もありました。しかしたくさんの叱咤激励を頂き、PDPの開発製造で培われた技術力を知るガラス業界からの期待も受け、製品化することができました。
ガラスの断熱性能を上げるため、これまでもさまざまな技術開発に取り組んできました。真空層を支える柱であるピラーには、非常に強い圧力がかかるため、通常は金属などの高強度な材料が使われます。そこでわれわれ開発チームは、金属よりもはるかに熱伝導率の低い独自の非金属材料とそのマウント工法を開発することで、当社の基本となる断熱技術を確立してきました。
前述した通り、建築用と冷凍・冷蔵ショーケース用の大きな違いは、より高い開閉耐久性が必要となること。30万回以上の開閉試験をクリアするピラーの開発が一番の課題でした。
従来の工法では、量産スピードは高いものの、ピラーの形状が奇麗な円筒形になっておらず、それが原因で材料自身の強度が半分程度になってしまうということが分かりました。強度を高く保つため、奇麗な円筒形状に加工する方式をいくつも試し、最終的に材料特性にマッチした独自の加工・マウント方式を開発しました。

写真:Glavenir

黒いドットに見えるのが高断熱ピラー

清水:強化ガラスの作り方についても、抜本的に見直しました。強化ガラスは、ガラスを高温で加熱した直後に強風を当てて急冷することで作られます。従来の強化方式では、高温で柔らかくなったガラスが搬送ローラー上を通るため、どうしてもガラスに微小なうねりができてしまいます。2枚のガラスの距離が縮んだり広がったりして、場所によりピラーに極端に圧力がかかり、つぶれる可能性があるということも分かってきました。
フラットにできる強化炉を作っているところはないか、自分たちで開発することも視野に入れ、欧州での試作や有名な強化ガラスの会社にも訪問し、ありとあらゆる可能性を探りました。結果、オーストリアにエアー浮上(※2)しながら強化ガラスを作る特別な装置があるということを知り、それを導入し、フラットな強化ガラスを製造することができました。主に太陽電池用に使われていて、日本で初めて導入した装置ですが、諦めずトライし続けたことで技術革新につながったと思います。

※2 エアー浮上:エアホッケーのように空気でガラスを浮かせて搬送する方式。

図版:強化真空断熱ガラスの構造(模式図)

清水はGlavenirの開発を担当すると同時に、現在欧米への製造ライン・設備販売や新工法の開発を推進している。

清水:外観維持を重視し、古い住宅が残る欧州は、55億m2の窓ガラス交換需要が潜在するとも言われています。一方で欧州は、窓に対する省エネの基準が特に厳しい地域でもあります。
欧州では外観を変えることなく昔のままの木のフレームを大事に使い続けることが多く、普通の断熱ガラスだと厚すぎてうまく差し替えできない場合も。しかしGlavenirは薄いため、既存の家屋の窓枠を生かしながら改修することができます。欧米に対しては、今後も製品だけでなくわれわれのビジネスモデルであるライセンス先への生産設備の販売も含めて働きかけていき、ゆくゆくはアジア、日本も含めてグローバルでの市場拡大を図っていきます

写真:清水 丈司(しみず たけし)

共創でスペックを研ぎ澄ます~冷凍ショーケース

「私は入社以来、AV機器や蛍光灯などの工場の生産設備設計を担当してきました。PDPを製造していた時代に、尼崎の3工場のライン設計や立ち上げにも関わりました。10年ほど前に異なる分野の仕事がしたい、と営業の仕事に携わるようになり、VIGの企画を4年ほど担当しています」と語るのは、清水と同じ外廻りシステム事業部で商品企画を担当する井上 龍二(いのうえ たつじ)だ。

井上:私は今でもPDPの工場は世界一の生産システムだったと思っています。しかし、液晶ディスプレイの台頭とPDP他陣営の撤退により事業が衰退し、モノが売れないと皆が幸せにはなれないという現実も目の当たりにしました。どんなにモノづくりの仕組みを追求しても、時代の流れや要求に沿った出口を伴わなければ意味がないという生産技術者としての反省もあり、今度はお客様にモノを売る立場で仕事をしたいと思いました。

写真:井上 龍二(いのうえ たつじ)

パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社 外廻りシステム事業部 事業・商品企画課 井上 龍二(いのうえ たつじ)

井上:Glavenirの開発当初、パナソニックがガラス商材を作る、というイメージを持つ人はいませんでした。そこから地道に建材や冷凍・冷蔵などの各業界との関係構築に取り組み、今に至ります。
2017年頃から、当時のコールドチェーン事業部門(現:パナソニック株式会社 コールドチェーンソリューションズ社。以下、CCS社)とVIGを採用したショーケースの開発を進めており、私は2020年からその企画を担当しています。Glavenirは高い断熱性能に加え、ガラスの接合部分にも鉛フリーの真空封着材を使用しているため、食品を陳列するショーケースにも安心してお使いいただけるのが特長です。

井上は定期的にコールドチェーン事業の拠点である大泉へ足を運び、商品開発の担当と密に連絡を取りながら製品化に取り組んできた。そして2024年9月、スーパーショーケース「REシリーズ」のラインアップを拡充する形で、業界初となる「VIG省エネ扉搭載冷凍リーチインショーケース」2機種の販売を開始した。

扉部分にGlavenirを採用した冷凍リーチインショーケース

2024年9月に発売開始となった、扉部分にGlavenirを採用した冷凍リーチインショーケース

井上:当初はコンビニ向けの小型冷蔵ショーケースを開発していましたが、なかなか製品化がかないませんでした。より断熱性が求められ、かつ開口部の大きなショーケースに搭載するのが効率的ではと考え、冷凍リーチインショーケースをターゲットに据えました。
いざ開発に取り掛かると、当然ながら、ガラスだけ納品しておしまいという訳にはいかず、ショーケースのドアそのものの開発ごと一緒にやっていこう、ということになり、CCS社の皆さんと検証を進める日々が始まりました。
冷凍・冷蔵ショーケースにはこれまで以上に高い耐久性が求められます。頻繁なドアの開け閉めに耐えながら高い断熱性能を導き出すことが求められ、耐久性と断熱性を同時に実現しなければなりません。いくらGlavenir自体が優れた素材であっても、実際にショーケースに搭載し、問題がないか何度もテストを重ねなければなりませんでした。
今回の製品化で特に苦労したのが、従来とは違う新しい扉の開発でした。試作、実験、検証を繰り返し、6mmモデルの「Glavenir」を庫外側に、他のガラスを庫内側に組み合わせて複層化した独自の扉構造を確立させました。この扉によって、高い断熱性による保冷効率の向上を実現。ガラス面への結露の発生を抑制し、ヒーター通電を減らすことを可能にしました。結果として、前シリーズの冷凍リーチインショーケースと比較して約33%の省エネを実現し、環境面でも大きな貢献が可能となりました
まずは私たちPHS側でGlavenirを搭載した扉の試作品を作り、それをCCS社側でショーケースに取り付けてもらい、製品化に向けての不具合はないか、本当に省エネを実現できるのかについて性能検証をしてもらいました。その際にタッグを組ませてもらったのが、溝口さんです。

溝口:前任者から引き継ぎ、2022年からVIGを搭載したショーケースの商品開発を担当しています。テストの前の計算上では、従来の扉構造と比較して30%程度の省エネになる予想でした。では実際の店舗で稼働させたらどうなるか。店舗でも同様の結果が出せるのか。その検証に時間を要しました。

写真:溝口 仁也(みぞぐち ひとなり)

パナソニック株式会社 コールドチェーンソリューションズ社 コールドチェーン事業部 商品技術部 溝口 仁也(みぞぐち ひとなり)

溝口:冷凍リーチインショーケースでは、庫内の温度が低く、ガラス表面に結露が生じてしまうため、庫外側のガラスに透明なガラス面ヒーターを使用していました。
VIGを使用した扉は断熱性が高く、庫内の冷気を庫外側のガラスに伝えにくいため、ガラス面ヒーター無しでも結露しません。ガラス面ヒーターの削除による熱負荷の低減と、断熱性の高さによる冷却効率の向上によって省エネ性の向上が可能であることがわかりました。
しかし、ショーケースに必要な「霜取り運転」の際に庫内側ガラス表面で水分が白く氷結し、視認性を低下させてしまう課題がありました。
「霜取り運転」とは、ショーケースの庫内にある冷却器に霜が付き、空気の流れを遮ってしまうことで起こる冷却不良を防ぐために、1日に数回、冷却器に付いた霜をヒーターで温めて溶かす動作のことです。
VIG扉は断熱性が高いため、従来の扉と比べて庫内側ガラスの表面温度が低くなります。霜取り運転中は、溶けた霜による水分を含んだ空気が庫内を循環します。真冬に家の中から窓ガラスに向かって息を吹きかけると白く曇る現象と同じように、ガラス表面に結露し、瞬時に凍るという現象が起こりました。ショーケースにとって中の商品が見えないことは致命的です。
いろいろな方法を試し、最終的にたどり着いたのが、庫内側ガラスにガラス面ヒーターを配置し、霜取り運転中だけ通電させる方法です。これによって最低限のヒーター通電時間でガラス面の曇りを防ぐことができました

図版:標準扉の下部断面とVIG省エネ扉の下部断面

「Glavenir」を庫外側に設置し、ガラスの曇り防止のための霜取り用のヒーターは庫内側のガラス面に設置

溝口:性能測定には、フィールドテストも含めて1年以上の期間を費やしました。これは、通常のショーケースの商品開発の期間よりもかなり長い期間です。ショーケースの扉の技術革新は、これまでなかなか手掛けることができない領域でしたが、今回の経験で先行開発の要素を増やしていくことで、大きな貢献ができると感じました。そういったことを今後も意識しながら開発していきたいと思います。

写真:井上(左)と溝口(右)

納入する店舗ごとの要望に細やかに対応するため、実際に製品を前にして会話することは欠かせない

Glavenirのこれから~新たな展開と挑戦

Glavenirの今後の展開について、3人は次のように語る。

清水:自分たちで判断・実行できる部分も多く、その上地球環境に貢献するモノづくりに携わることができて光栄に思っています。もともとプラス思考で、上司も仲間も前向きなメンバーが多いので、これだと思った技術に対しては、今後も諦めない心で取り組んでいきたいと考えています。
生産技術に関わることの醍醐味(だいごみ)は、自分のアイディアや思いが具現化できることだと思います。「日に新た」、というか自分の成長を実感できたようなときが嬉しいですね。若い技術者の方たちも、課題に深く向き合い、自分事として関わっていくと、モノづくりの本質に触れることができると思います。その経験が積み重なることで、チカラのある技術者になっていけると思います。
トリプルガラスとしての市場規模は、欧州で4,500万m2/年、北米で1,000万m2/年あるのに対し、日本は20万m2/年。まずは、大きな市場である欧州で、街で目にする窓ガラスが全てGlavenirになればいいなと思い描いています。今後もコモディティ化しないビジネスモデルや商品の性能を、作り方を含めて開発し、諦めない心で市場の拡大を狙っていきます

井上:市場の大きな欧米。それを攻略するためには、国内で実績を上げないと認めてもらえないと思っています。ショーケースをもっと広めたい、身近に誰もがスーパーに行ったらVIGが搭載されたショーケースがあちこちに設置されている、それくらい認知されるよう、国内にどんどん供給したいと思っています。
真空断熱ガラスは高いというイメージを持っている人が多いと思うんです。事実かもしれませんが、それだけが採用の壁ではないというのもだいぶ分かってきました。お客様のニーズに合わせながら、価格を受け入れてもらえるような提案を営業として突き詰めていきたいと思います。
カーボンニュートラルの実現が求められている中、Glavenirの需要は国内外で今後ますます拡大していくと考えています。引き続き建材業界、コールドチェーン業界などで国内外問わず協業・共創の可能性を探り、独自の高断熱デバイスを供給していくことで、サステナブルな社会の実現に貢献できればと思います

溝口:私も井上さんと同じく、創業者の言葉で言うところの「お客様起点で考える」を大切にしています。私の立場からすると、自社の営業部門の皆様も、ある意味、お客様と言えます。彼らに喜んでもらえるものを開発することが、その先におられる実際のB2Bのお客様、そして一般のお客様の喜びにつながり、総じて地球環境への貢献につながります
冷凍・冷蔵ショーケースについては、コンビニ向けだけでなく、スーパー向けのモデル開発にも関わるようになり、より多様なお客様の声に触れられることが自らの財産になっていると感じています。今後も市場に喜んでもらえるモノづくりをしていきます。

パナソニックグループでは、長きにわたり幅広い事業で培った技術を生かし、今後も環境への負荷を低減するマテリアルやデバイスの開発を加速させ、グローバル規模でさまざまな市場に展開し、環境保全へのお役立ちを広げていく。

Related Links

記事の内容は公開時のものです。
商品の販売終了や、組織の変更等により、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

Share:

  • Facebook
  • X
  • LinkedIn

More from this series

Recommended articles