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2024.11.20
パナソニックグループのひと
あらゆる窓や壁、建物を、再生可能エネルギーの源に――「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」実用化に向けた取り組み プロジェクトリーダー・金子 幸広 エンジニア・渡邊 菜々美

シリーズ:

カーボンニュートラルな未来を実現するために不可欠な再生可能エネルギー、その進化を支える技術として注目を浴びる「ペロブスカイト太陽電池」。この技術がもたらす未来やパナソニックグループが保有する強みとは。「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」の社会実装に向けた、プロジェクトリーダーと若手技術者の開発への思いを探る。

カーボンニュートラルな未来を実現する技術

――ペロブスカイト太陽電池は、どのようなインパクトを社会にもたらす技術なのでしょうか。

金子:ペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽電池です。私はその開発と、同技術を社会に普及させるための戦略の立案を担当しています。現在、日本はエネルギー源の大部分を輸入に依存していますが、脱炭素化に向け、これからは独自の再生可能エネルギーをつくり出すことが重要になります。
ペロブスカイト太陽電池は2009年に発明されたばかりの新しい技術です。発電時に温室効果ガスを排出しないこの技術が今後普及していけば、カーボンニュートラルな未来の実現に貢献できると、私は確信しています

渡邊:私は、ペロブスカイト太陽電池の材料開発を担当しています。ペロブスカイト太陽電池は、建築物のデザインと調和し、従来のソーラーパネルでは設置できなかった空間に組み込むことも可能であり、大きな可能性を秘めていると感じています

持続可能なペロブスカイト太陽電池

――ペロブスカイト太陽電池の技術における優位性について、もう少し詳しく教えてください。

金子:現在、メガソーラーや住宅の屋根置き用途で市販されているものは、主に結晶シリコン太陽電池であり、市場の9割を占めています。しかし、このタイプだと、日本が2050年の脱炭素化目標を達成するためには、計算上、毎年東京ドーム1,300個(※1)分の面積相当のメガソーラーを建設しなければなりません。
山が多く、平らな空間が限られている日本。特に都市部では建物の屋上にしか設置できませんから、ソーラーパネルを組み込むのは非常に難しい。ですから今後、再生可能エネルギーをより増やしていくためには、窓や壁などの従来とは異なる空間を使う必要があります。そこで、ガラス基板に直接発電層を形成する「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」が活躍するのです

※1 出典:令和4年2月資源エネルギー庁「第6次エネルギー基本計画について」

渡邊:ペロブスカイト太陽電池とは「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造をもつ化合物を発電層に用いて作られた太陽電池なのですが、太陽光を効率的に吸収して電気に変換するという点では、従来の結晶シリコン太陽電池などの技術に迫るほどの高い効率性を実現できます。液状の材料をガラスの表面に塗布して発電層を形成できるという特長があるため、ガラスと一体化させた太陽電池を作ることができ、建材一体型による都市部の壁面などへの設置も可能になります。また、レーザースクライビングという技術によって透明度を調整できるので、壁だけでなく、窓ガラスなどにも使えます。

写真:ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイト太陽電池。透明度を高め、ガラス窓にも活用できる

金子:また、ペロブスカイト太陽電池は、製造工程を考えても優秀です。現在の結晶シリコン太陽電池では、高純度シリコンを製造する工程で1,000℃以上の高温が必要となるため、製造時に使用するエネルギーが膨大になってしまうのですが、ペロブスカイト太陽電池は必要な温度が100〜200℃程度と低温であるため、製造時に消費されるエネルギーが少ないことも特長の一つです。製造した太陽電池自身の発電によって得られるエネルギー削減効果で、製造時のエネルギーを回収しようとすると、結晶シリコン太陽電池は2~3年かかるのに対し、ペロブスカイト太陽電池では3~4カ月程度で済むのです。(※2)いわば次世代を担う「持続可能な太陽電池」なのです。

※2 出典:T. Ibn-Mohammed et al., Renew. Sustain. Ener. Rev., 80 (2017) 1321-1344

シリコン系と同等の発電効率を持ちながら、自由なデザイン性を実現

――パナソニックグループのペロブスカイト太陽電池の強みは何でしょうか。

金子:当社のガラス型ペロブスカイト太陽電池は、パナソニックグループが培ってきた独自のインクジェット印刷技術を生かして製造するため、どのような基板サイズにも印刷することが可能です。設計の自由度が高く、自由なサイズ、自由なデザインに活用できるため、従来のシリコン系太陽電池では難しかった建物の窓や壁面など、それぞれの個性に合わせ、デザイン性を損なうことなく太陽電池を設置できるのです。
また、われわれは独自の印刷技術と材料技術に磨きをかけることで、2023年に、804cm2のペロブスカイト太陽電池モジュールで18.1%のエネルギー変換効率を達成し、実用サイズ(※3)において世界最高レベルの発電効率を実現しました。これは、市販の従来型シリコン系太陽電池の発電効率とほぼ同等の数字です。

※3 実用サイズ:発電有効面積800cm2以上

渡邊:都市部では平地が少ないため、平地に設置をする太陽電池で発電するにはどうしても限界がありますが、私たちの太陽電池はビルの壁や窓といった縦の面に組み込んで発電をすることができるので、都市部でもより多くの再生可能エネルギーを生み出すことができるようになります。
今までただのガラスを使用していたところに、そのまま太陽電池としての能力を持たせて、発電させることができるようになるのです。

――すごいですね。実用化が待ち遠しいです。

金子:現在は実用化に向けて、神奈川県にあるFujisawaサスティナブル・スマートタウン(FSST)内のモデルハウスに、世界初(※4)のガラス型ペロブスカイト太陽電池をプロトタイプとして組み込み、実証実験を行っています。
「発電するガラス」として実際の条件下で稼働させ、1日ごとのデータを得ながら、発電性能や長期耐久性、安定性などの確認を行いながら、事業化に向けてさらなる技術開発を進めていきます。また、生活に調和するようなデザインの実現という観点でも、この実証実験は重要です。このモデルハウスは、未来に向けた持続可能な生活のショーケースですね。

※4 ガラス建材一体型として、2023年8月31日現在 当社調べ

写真:ペロブスカイト太陽電池の実証実験を行っている、FSST内のモデルハウス

FSSTにあるモデルハウスで実証実験中のペロブスカイト太陽電池。バルコニー部分に利用されている

電力消費の大きい都市に、エネルギーを生み出すシステムを

――着実に前進しているわけですね。お二人のペロブスカイト太陽電池の開発に懸ける思いを聞かせてください。特に、渡邊さんは入社2年目とのことですが……。

渡邊:はい、そうです。今は、小さいサイズで開発した技術を大きいサイズのものでも使えるようにすることと、太陽電池の寿命を延ばし、より長く使えるようにするために、材料の研究開発に取り組んでいます。私たちの開発する技術によって、世界中の多くの人々のくらしをより豊かに、世の中をより良い方向へと変えていくことが、いつか実現できるように頑張りたいと思っています

金子:私は北海道のとても美しい四季を感じられる大自然に囲まれて育ちました。私が幼い頃は夏でもエアコンが必要ないほどの気候だったのですが、今は夏場にはエアコンが欠かせません。地球温暖化は私の大切な故郷の生活にも大きな影響を与えているのです。
北海道の美しく豊かな自然環境の中で幼少期を過ごしたおかげで、私は自然の中で過ごすことが好きです。今でも子どもたちとよく田舎へドライブに行きます。そんなくらしをしている中で、「自然を守るために、仕事を通じて何かできないか」ということは、いつも考えていました。その意味では、ペロブスカイト太陽電池を通してその思いを形にすることができたと感じています。

写真:金子 幸広

パナソニック ホールディングス㈱ GX本部 グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部 部長 金子 幸広

金子:高校時代は、物理学に魅了されました。自然の全ては物理学の下で動いている、物理学によって全てが作られている、その思いが私の技術に対する好奇心の出発点でした。イノベーションと技術は、私たちの日常生活を劇的に変えることができます。世界により良い影響を及ぼせるだけでなく、地球環境を救うこともできる。従来、私たち人類は石炭や天然ガスといった自然界にある化石燃料を消費することで、エネルギーを得てきました。しかし、それは環境汚染や気候変動の原因にもなっています。よりクリーンで再生可能なエネルギーへの移行は不可欠であり、ペロブスカイト太陽電池は持続可能な未来の太陽電池として重要な役割を果たすと信じています

写真:渡邊 菜々美

パナソニック ホールディングス㈱ GX本部 グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部 渡邊 菜々美

――最後に、お二人の技術者としての夢をお聞かせください。

渡邊:私は、地球環境を守っていくとか、持続可能な社会にするということに関して、あまり「頑張る」ことにはしたくないなと、個人的には思っています。テクノロジーの進歩があれば、皆が暮らしやすい社会でありつつ、地球環境も守れる、持続可能な社会にできるということを、実現したいです

金子:私はパナソニックグループで働くことを誇りに思っています。なぜなら、社会に対して非常に大きなインパクトを与えられる可能性があるからです。パナソニックグループは技術によって人々のくらしを豊かにすることと、地球環境にポジティブな影響をもたらすことを目指しています。
私は、再生可能エネルギーは未来を開くことができると信じています。地球温暖化は、私の故郷・北海道だけでなく、世界中に深刻な影響を及ぼしています。世界中が現在のようにひたすらエネルギーを消費し、地球環境を汚染するだけなら、人と地球の両方に悪影響を及ぼし続けるでしょう。次世代へ持続可能な未来を確保するために、そして未来の子どもたちを救うために自分に何ができるでしょうか。自分の住む建物の窓や壁が、ひいては都市や町、村全体が再生可能エネルギーを生み出せるようになる、そんな世界になればいいと思いませんか?
われわれは今まさに、建物に適用できるくらいの大面積なガラス型ペロブスカイト太陽電池も開発しています。私は、自分の技術で世界を変えたい。都市が自ら、エネルギーを生み出せる世界を夢見ています
それが私の望む未来、私がつくりたい未来です

金子 幸広

パナソニック ホールディングス㈱ GX本部 グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部 部長

1980年北海道広島町(現北広島市)生まれ。1999年札幌南高校卒業。
2005年名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了後、松下電器産業(現パナソニック ホールディングス株式会社)半導体社に入社。入社以来、半導体デバイス・材料の開発に従事。業務の傍ら、2012年東京工業大学博士課程修了、博士(工学)取得。2015年11月よりベルギーimecにオンサイトマネージャーとして駐在。
2019年帰国後、ペロブスカイト太陽電池の研究開発を担当。2021年10月より現職。

渡邊 菜々美

パナソニック ホールディングス㈱ GX本部 グリーンイノベーションセンター ペロブスカイトPV開発部

1998年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2017年お茶の水女子大学付属高校卒業。2023年東京工業大大学院物質理工学院材料系修士課程修了後、パナソニック ホールディングス株式会社に入社。入社以来ペロブスカイト太陽電池の材料・デバイス開発を担当。

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