パナソニックグループコミュニケーションマガジン
幸せの、チカラに。

2024.12.09
Aim Higher
タイの未来を照らす 乾電池リサイクルの挑戦~「やりきる力」で思いをカタチに

シリーズ:

元バレーボール日本代表の福澤 達哉が、挑戦を続ける人にインタビューを行うシリーズ「Aim Higher(エイム・ハイヤー)」。今回は、パナソニック エナジー タイ株式会社(PECTH)で乾電池の製造・販売を指揮する谷本 卓也(たにもと たくや)にインタビュー。
タイで63年間にわたり事業を展開し、地域社会と深い絆を築いてきたPECTH。タイの重要パートナー企業からの相談をきっかけに、タイ社会が直面する環境問題の解決に向けて乾電池回収リサイクルのスキームを2024年3月に立ち上げた。前例がなく数々の困難に直面しながらも、環境問題解決への強い思いと情熱で挑戦を続け、共感の輪を広げてバリューチェーン全体を巻き込んだ取り組みを加速させる谷本の覚悟に迫る。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや)

谷本 卓也(たにもと たくや)

パナソニック エナジー タイ株式会社 マネージングディレクター

1994年に松下電器産業に入社し、翌年から海外トレーニーとしてタイに赴任。帰国後、国内および海外での乾電池事業に携わる。2005年から再びタイに赴任し、電池販売マーケティング責任者を務め、2010年にはAPAC地域の電池販売責任者に就任。2019年からは、PECTH社長および東南アジア地域統括体制(RHQ)として地域全体の事業運営を指揮している。タイを中心に東南アジアでの勤務は18年に及ぶ。

現地の声に寄り添い、環境問題に真正面から向き合う

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

はじめに、パナソニック エナジー タイ株式会社(PECTH)について教えてください。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

PECTHは、1961年に、松下電器が戦後初の海外製造拠点として設立したナショナル タイ株式会社をルーツとし、63年間にわたりタイで事業を展開しています。現在は主にアルカリ・マンガン乾電池を生産し、タイ国内の市場シェアは約80%を占めています。2020年には東南アジア地域統括体制(RHQ)をタイに設置し、APAC地域の電池の製造・販売とマーケティング機能を備えた製販会社として、お客様の声を聞き、現地のニーズに沿った商品を提供しています。

写真:PECTHで製造・販売するアルカリ乾電池と、タイ語で「タン・チャン(象の電池)」という通称で長年親しまれているマンガン乾電池

PECTHで製造・販売するアルカリ乾電池と、タイ語で「タン・チャン(象の電池)」という通称で長年親しまれているマンガン乾電池

写真:在タイの企業で初めて国際認証を取得したカーボンニュートラルマーク付きアルカリ乾電池。環境負荷が少ない紙パッケージも導入

在タイの企業で初めて国際認証を取得したカーボンニュートラルマーク付きアルカリ乾電池。環境負荷が少ない紙パッケージも導入

写真:LEDランタンと電池が入ったお寺寄進セット

自分の将来を照らすという思いを込めてお寺に明かりを寄進する文化があるタイでは、LEDランタンと電池が入ったお寺寄進セットを販売(現在は販売終了)

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

63年間というのはすごいですね。長年タイ社会と向き合ってきたからこそ、見えてくる課題やニーズもありそうです。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

パナソニックグループの創業者・松下幸之助は、経営理念である「産業報国の精神(Contribution to Society)」に基づき、事業を通じてタイ社会に貢献するという思いで同国との関係を築いてきました。その歴史を礎とし、PECTHではサステナブルな未来に向け、「消費者のくらし」「地域社会」「環境」の三つの領域で貢献を図り、さらに50年、100年と続く、タイ社会になくてはならない企業であることを目指しています。特に環境問題はタイでも深刻化しており、その解決に向けた取り組みは、現地で60年以上乾電池を提供してきたメーカーとしての責務だと考えています。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

具体的には、どのような環境取り組みをしているのでしょうか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

PECTHの環境取り組みの柱は三つあります。一つ目は、CO2ゼロ宣言。私たちは2021年度にCO2ゼロ工場を達成するなど、パナソニックグループの東南アジア拠点で初めてCO2ゼロ宣言をしました。二つ目は、カーボンニュートラル(CN)製品の訴求。CNの国際認証であるPAS2060を在タイの企業で初めて取得し、タイ環境省から同国初となるCNマーク付与の許可を得て、CN認証商品を発売しています。三つ目は、乾電池回収リサイクル。使用済み電池を回収し、鉄に変えて乾電池に利用するというサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの構築を推進しています。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや)

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

サーキュラーエコノミーの取り組みは事業化が難しいと言われていますが、どうして乾電池回収リサイクルを始めようと思ったのでしょうか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

私たちが1999年から電池の専売契約を結ぶ重要なパートナー会社に、タイ最大の財閥であるチャロン・ポカパン(CP)グループの中核企業の一つ、CP Allがあります。同社はタイでセブン-イレブンを展開する、流通最大手の企業です。そのCEOから、タイ社会が直面する環境問題解決に向けて何か一緒にできないか、と相談があったのがきっかけです。前例のない新しい取り組みでしたが、タイ経済を引っ張るトップランナーが本気になれば、国家や社会のマインドも変わり、環境取り組みも加速するのではと考えました。また、CP Allが掲げる環境ポリシー「Go Green Project」とパナソニックグループの長期環境ビジョンの方針が一致することもあり、われわれがやらなければ誰がやるのかという思いで2019年に取り組みをスタートしました。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

当時のタイ社会やステークホルダーの反応はどうだったのでしょうか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

環境問題解決に向けた取り組みの重要性は理解いただけるものの、「本当にやるの?」という反応が多かったです。経済合理性やメリット、将来の出口戦略、販売や製造の拡大を優先すべき、などの意見もたくさん頂きました。しかし、60年以上タイで乾電池を販売してきた乾電池メーカーとして、廃棄物処理施設の不足や埋め立て地の減少など、廃棄物処理問題が深刻化している現状を考えると、本当にそれでいいのかと。SDGsの目標にも「つくる責任 つかう責任」がありますが、これまで通り、ただ電池をつくって売るだけではサステナブルな未来は実現できません。このまま何も手を打たなければ、タイの人々の心が離れ、現在ある8割のシェアも将来危うくなると考えています。「企業は社会の公器」という経営理念を持つパナソニックグループの一員である当社だからこそ、絶対にやるべきだと率直な思いを従業員に伝え、PECTH一丸となって取り組みを進めてきました。CP Allをはじめ現地の「自分たちの国を自分たちで何とかしたい」という強い思いが取り組みのベースにあるからこそ、難しい課題に対しても前向きに挑戦していけると感じています。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや)

成功や失敗にとらわれず、とにかく行動に移す

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

現在、実施している乾電池回収リサイクルの流れについて教えてください。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

まず、セブン-イレブンの店頭に設置した電池回収BOXから使用済み乾電池を回収し、PECTHでパナソニック製の電池だけを選別します。その後、回収・選別した電池を製鉄会社に搬送し、電炉で溶解して建材の鉄鋼ビレット(加工用の金属塊)を生成します。この一連の流れを通じ、電池のサーキュラーエコノミーを実現しています。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

前例のないプロジェクトの立ち上げにはさまざまな苦労があったかと思います。回収やリサイクルに関する知見や経験がない中で、どのようにして課題をクリアしていったのでしょうか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

初期段階でまず課題となったのは、どうやって電池を回収するかでした。2022年6月から、31店舗に回収BOXを設置しましたが、最初は誰も電池を入れてくれず、隣に大きなゴミ箱があるのにレシートやゴミ、時にはバナナの皮が入れられていたこともありました。そこで、環境に関心の高い若年層をターゲットにSNSマーケティングを実施しました。環境系動画を配信している有名なインフルエンサーや、SNSのフォロワーが数万人いるマイクロインフルエンサーの大学生に乾電池回収リサイクルへの参加を呼び掛けてもらったり、電池回収BOXのQRコードをスキャンすると家電製品が当たるプロモーションを行ったりした結果、現在では1,065店舗で年間60万本の電池を回収するまでになりました。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

コンビニエンスストアという身近な場所に設置された回収BOXに、乾電池を入れるだけで環境貢献ができるという手軽さも大きなポイントですね。

写真:店頭に置かれた乾電池回収BOX

店頭に置かれた乾電池回収BOX。毎月1BOX当たり平均して80本回収する(2024年12月時点)

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

もう一つ大きな課題となったのは、回収した電池をどう処理するのかという点です。立ち上げ当初は、電池から取り出した二酸化マンガンを肥料にする研究を行い、肥料会社に提案するなど、さまざまな挑戦をしましたが、全てうまくいきませんでした。パ-トナー側のメリットが感じにくく、負担も大きいため、一緒に取り組んでくれる企業を見つけるのも困難でした。そこで、工場の設立・運営の許認可や、環境・安全基準の順守を監督するタイ工業省工場局(DIW)とつながれば、ビジネスとしての可能性が広がるのではと考え、DIW局長のセミナーに何度も足を運び、何とかしてコミュニケーションの機会を持とうと試みました(笑)。それを繰り返すうちに顔を覚えてもらい、乾電池リサイクルの取り組みを紹介する機会を得ることができました。そこから徐々に環境取り組みに対する理解と共感の輪が広がり、同じビジョンを持つ日系リサイクル会社の日高洋行エンタープライズ株式会社と、タイの製鉄会社UMC Metalsが協業してくれることになりました。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

接点がゼロの状態から新たに関係を築き上げたというのは驚きです。思いを形にするためには、成功や失敗にとらわれず、とにかく行動に移すことが大事ということですね。そこから一気に取り組みが加速していったのでしょうか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

それがそう簡単にはいかず……。電炉を用いて使用済み電池を鉄に変えるためには、政府の許認可が必要でした。しかし、タイでは乾電池を電炉溶解したことがない上に、電池は有害物質という先入観もあり、なかなか許認可が下りませんでした。パナソニック製の電池は鉛や水銀を使用しておらず無害であることを証明し、申請から2年かけて粘り強く交渉を続け、2023年12月17日にようやく許認可を取得しました。その後、2024年3月9日から電炉でのリサイクルを開始。PECTH、CP All、UMC Metalsの三社合同で乾電池電炉リサイクル開始セレモニーをした時の喜びはひとしおでしたね。
現時点では、パナソニックの乾電池だけが安全性を認められ、タイ初の乾電池電炉リサイクルをDIWより認可されています。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

環境問題の解決だけでなく、当社の競争優位性にもつながっているんですね。

写真:乾電池電炉リサイクル開始セレモニーの様子

乾電池電炉リサイクル開始セレモニー。CP AllやUMC Metals、タイ・日本の省庁ほか関係機関の幹部らが出席した

環境取り組みは事業価値につながり、競争優位性を高める

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

今後の展望や、さらなる高みを目指して挑戦していきたいことを教えてください。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

取り組み自体は少しずつ軌道に乗ってきましたが、まだ経済合理性は確保できておらず、事業化には至っていません。事業化のカギは産官学連携です。現在、タイで使用される年間約3億本の乾電池全てを対象としたシナリオを検討しており、その実現には、回収コストや他社製電池の選別手法、電池材料へのリサイクル方法、タイ全土に向けた活動の周知など多くの課題があり、さらなる費用や知見が必要になります。タイ政府の費用助成システムの構築やPMUC(競争力プログラム管理ユニット)の資金活用、チュラロンコン大学やキングモンクット大学との共同研究など、産官学連携を強化し、一つ一つ課題をクリアしながら推進していきます。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや)(左)と福澤 達哉(ふくざわ たつや)

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

CP AllとPECTHの強い思いから始まった取り組みが多くの共感を呼び、ついにはタイ政府の重要なプロジェクトの一つにまで成長したのですね。この成功のカギは何でしょうか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

最も重要なのは、「諦めずにやりきる」という強い意志です。2019年にプロジェクトをスタートしてから4年間、さまざまなトライ&エラーを繰り返してここまできました。乾電池回収リサイクルは、一企業だけでは実現できません。パートナーや同業他社を巻き込んだバリューチェーン全体で取り組む必要があり、国や大学などの研究機関とも協力しながら進める国家プロジェクトだと思っています。こうした環境取り組みは、基本的には無形価値、非財務価値ですが、今後は企業の競争力を高める重要な要素となり、財務指標+αの事業価値につながると信じています。

写真:福澤 達哉(ふくざわ たつや) 福澤

取り組みを通じて世の中にどのような価値や幸せを届けていきたいですか。

写真:谷本 卓也(たにもと たくや) 谷本

これからも事業を通じてタイ社会にしっかり貢献していくのはもちろん、未来の子どもたちが安心して暮らせる世の中にしていくことがPECTHの使命だと考えています。従業員にもその意義をしっかりと伝え、製造・販売だけでなく回収・リサイクルまで、つくる側の責任を全うする会社にしていきたいです。
環境問題は決して他人ごとではなく、パナソニックグループ全体で取り組まなければいけない喫緊の課題です。乾電池回収リサイクルは、そこに真正面から向き合って取り組んできました。サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの事例が一つできたことで、従業員一人ひとりが環境や社会に対する責任に目を向け、マインドが変わるきっかけになってくれればうれしいです。

Interviewer & Writer

福澤 達哉(ふくざわ たつや)

元バレーボール日本代表。2008年に北京オリンピックに出場。2009年にパナソニック パンサーズに入団。国内タイトル3冠を3‍度達成するなどチームの優勝に貢献。2015~2016年にブラジル、2019~2021年にフランスリーグでプレーするなど海外にも活躍の場を広げる。2021年8月、現役引退。現在、パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株)で広報を担当している。

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