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2013年12月18日
サステナビリティ / トピックス
エコプロダクツ2013の展示やセミナーは連日人だかりの大盛況。窒化物半導体を光電極として用い、植物並みのエネルギー変換効率を実現した環境技術「人工光合成システム」とは?
パナソニック株式会社は、太陽光のみで二酸化炭素と水から有機物を生成する「人工光合成システム」を、2013年12月12日から14日まで開催されたエコプロダクツ2013で初公開しました。この技術は、二酸化炭素を資源化し、循環型エネルギー社会の実現を大きく前進させるものです。窒化物半導体を光電極として用い、天然ガスの成分であるメタン生成を実現した「人工光合成システム」展示コーナーやセミナーは、連日の大人気となりました。
■人工光合成とは?~未知の領域への挑戦
植物の光合成は、
1. 明反応:太陽光のエネルギーで水を分解して水素イオンと電子と酸素を生成
2. 暗反応:明反応で得られた電子と水素イオンを用いて二酸化炭素からグルコースなどの糖類などを生成
という2つの反応から成り立ちます。これらの反応を人為的に再現した技術が「人工光合成」です。地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素を吸収するとともに、その二酸化炭素から燃料をつくり出す技術として、世界中から多くの注目を集めています。
大学などで取り組まれている研究の多くは、有機錯体(有機物系の配位子に金属の原子が結合した構造を持つ化合物)を用いて植物の光合成のメカニズムを模すというアプローチで進められており、注目すべき成果が報告されています。しかし、有機錯体は特定の波長の光にしか反応しないため、幅広い波長の光で構成される太陽光を十分に活用できないなどの欠点がありました。
一方、パナソニックのR&D本部 先端技術研究所が開発した人工光合成システムは、
・光電極に窒化物半導体を採用。光により励起された電子を二酸化炭素の還元に必要なエネルギー状態にまで一気に高めることに初めて成功。
・還元電極に電子が伝わりやすい金属の触媒を用いることで二酸化炭素の反応を促進。電気的な損失が少ないため、反応速度が高速化されるとともに、金属の種類を変えれば有機物を選択的に生成することが可能。
という特長を持っており、“反応に用いる電極を全て無機材料のみで構成するシンプルかつ高効率なシステム”である、という点が、パナソニックの独自技術なのです。
■開発の軌跡~専門領域の隙間に解あり
先端技術研究所での環境テーマといえば、省エネ技術や、太陽電池・燃料電池といった電気に関連する技術開発が主。しかし、もう一歩踏み込んで「二酸化炭素の増加=化石燃料の消費・枯渇」という観点から取り組もうと考えたプロジェクトメンバーは、今まで着手されていなかった二酸化炭素の還元で化学原料やアルコールなどの世の中に役立つ有機物をつくり出すという新たな目標を掲げました。電気という専門分野外の領域で自らのコア技術を生かしながら新たな技術を創造する挑戦が、2009年スタートしました。
二酸化炭素は、物が燃焼した後に残る非常に安定した物質。そのため、二酸化炭素から炭化水素やアルコールを生成する反応を起こすためには、高いエネルギーが必要となります。太陽光から、いかにして高い反応エネルギーをつくり出すかが、人工光合成の大きな課題でした。
半導体に光を照射すると、光のエネルギーによって半導体内の電子が、その物質固有のエネルギー状態へと高められます。プロジェクトメンバーは、このエネルギー状態の高さに注目し、さまざまな物質に対して、光を吸収した電子のエネルギー状態を、論文などを基に調べ上げていきました。そして、窒化物系の材料を用いれば、二酸化炭素の還元に必要なレベルにまで電子のエネルギーを高められる事を見出しました。こうして光電極に用いる材料選定の方針が決定。LED照明やパワーデバイスの材料として馴染み深い窒化ガリウム(GaN)を光電極として採用しました。
さらに、GaN電極に高効率化を図るための工夫も凝らします。光を電極に照射してエネルギー状態の高い電子をより多く発生させるためにはGaNの不純物濃度を下げればよいのですが、相反してGaN中を電子が移動しにくくなり、せっかく発生させた電子を取り出せなくなってしまいます。そこで、これまで培った半導体技術の知見を生かして、光を吸収して電子を生成する「光吸収層」と、電子が移動しやすい「電子伝導層」から成る積層構造の光電極を発案。サファイア基板上に結晶成長させたn型のGaN層上に、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層を形成します。
加えて、電極の表面には、酸素の発生を促進する触媒として酸化ニッケル(NiO)を配置。この酸化ニッケルは、GaNの劣化防止の役割も果たしてくれます。こうした工夫の末の電極構造により、太陽光から二酸化炭素の反応に必要なエネルギーの電子を効率よく生成することに成功したのです。
業界において光触媒といえば、酸化チタンに代表される酸化物系の粉末触媒が主流であり、一つの材料で長い波長の光にも対応できるように材料組成を設計するのが常識でした。つまり、多くの光触媒の研究者には、窒化物であり比較的波長の短い光にしか応答しないGaNは、研究の対象外。一方、半導体の技術者にとってGaNはなじみ深い物質であるものの、半導体基板をそのまま電解質の溶液に浸すなど常識ではあり得ない発想でした。
その領域の「常識」や「先入観」に囚われることなく、論理的に現象を真摯に見つめれば見つめるほど、プロジェクトメンバーは、化学や半導体など、それぞれの領域が交わらない隙間にこそ解があると確信。そして、「二酸化炭素の変換に窒化物半導体を光電極として使用する」という発想に至ったのでした。
■コア技術を他分野で生かす
触媒表面の原子レベルの電子状態を考慮することで、二酸化炭素を反応させるには何を制御すればよいか、反応後にどのような生成物ができるかなど、ある程度予想できた---という物理を専門とするプロジェクトメンバーこそのコア技術が、「二酸化炭素を反応させる還元電極には金属触媒を採用」という発想や決断を後押ししてきました。
二酸化炭素の酸素原子側が電極に引き寄せられると、ギ酸の生成が促進される---。一方、二酸化炭素の炭素原子側が電極に引き寄せられると一酸化炭素が生成しやすくなってしまう---。また、電極に水素イオンが吸着すると水素が発生してしまい、ギ酸の生成を阻害してしまう---。このような触媒表面の原子の電子状態による電気化学反応を考慮した結果、ギ酸生成にはインジウム系触媒を採用することにしたのです。
また、論理的な検討と並行して、さまざまな金属触媒を用いて実データの測定も実施。当初は、ギ酸、一酸化炭素に加えてメタンなどの生成も観測された銅を用いて実験を進めていましたが、インジウム系の電極に変更することでギ酸の選択性が向上。世界最高(発表時)となる太陽エネルギー変換効率0.2%(*)を達成しました。この値は、バイオエタノールの原料となる植物のスイッチグラスと同程度になります。
(* この場合の変換効率は太陽光のエネルギーに対する生成されたギ酸を主成分とする有機物の燃焼エネルギーの割合を指す)
二酸化炭素を反応させてできる生成物の種類をコントロールするのは金属触媒。今回のエコプロ2013では、金属触媒に銅系の材料を使い、メタン生成に成功しました。目下は2015年を目標に、植物並みの変換効率で二酸化炭素から炭化水素あるいはアルコールを生成する、金属触媒の開発にも全力を注いでいます。
【関連情報】
▼「人工光合成」「熱発電チューブ」開発リーダー パナソニックのR&D本部・先端技術研究所 山田由佳氏が「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014」のリーダー部門を受賞
http://panasonic.co.jp/news/topics/2013/118576.html
▼[プレスリリース]世界最高の効率0.2%で有機物を生成 窒化物半導体の光電極による人工光合成システムを開発(2012年7月30日発表)
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/2012/07/jn120730-3/jn120730-3.html
▼[動画]パナソニック、植物並みの効率で有機物を生成する「人工光合成システム」を開発(DIGINFO NEWSより)
http://www.youtube.com/watch?v=fioqaGmcC68
【用語の説明】
[1] 太陽エネルギー変換効率
照射された太陽エネルギーを分母に、生成された物質のもつエネルギーを分子にして求めた効率。植物では、一年で成長した重量および炭素の持つ燃焼エネルギーから求められています。
[2] 人工光合成
植物の光合成と同様の反応を人工的に行う技術のこと。植物は太陽光を使って水と空気中の二酸化炭素から酸素と炭水化物を生成しています。これを模して、太陽光を使って水と二酸化炭素から酸素および、ギ酸、炭化水素、アルコールなどの有機物を生成することを指します。
[3] 窒化物半導体
窒化ガリウムに代表される材料で、高い光-電子変換効率を有することから、LED照明などに使われています。また、電気特性の制御にも高い可能性を持つことから、省エネ電子デバイスへの応用に向けた開発も精力的に行われています。
[4] 触媒
触媒とは、特定の化学反応を促進する物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいいます。また、反応を早くするだけでなく、複数の反応が起こりうる状態において、目的とする物質を選択的に得るために触媒が用いられています。
[5] ギ酸
最も簡単な構造のカルボン酸で、工業的に大量に製造されており、防腐剤や抗菌剤として、あるいは香料や染料の化学原料として利用されています。最近はギ酸から高効率に水素を取り出す触媒も開発されており、液体のギ酸でエネルギーを貯蔵し、取り出した水素で発電するギ酸燃料電池も検討されています。
[6] バイオマス
もともとの語源は生物(bio)の量(mass)のことですが、今日では再生可能な、生物由来の有機エネルギーや資源(化石燃料は除く)をいうことが多く、基本的には1年から数十年で再生産できる植物を起源とするものを指します。バイオマスエネルギーは二酸化炭素の発生が少ない自然エネルギーとされ、化石燃料に代わるエネルギー源として開発されています。
[7] 錯体
錯体とは、金属と、配位子と呼ばれる炭素、窒素などからなる非金属の原子が結合した構造を持つ化合物の総称で、金属錯体とも言います。錯体は、その構造に特徴的な性質を示し、特に有機化学の分野では、化学反応を制御または促進させる触媒として非常によく用いられています。
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