いまだコロナ下における地域経済の落ち込みは続き、特に観光分野へのダメージは国内だけでなく、全世界で大きな課題となっている。パナソニックはこの状況を改善する地域振興策として、顔認証による非接触・手ぶら決済など、安心・安全なICT活用サービスを提案。大阪の道頓堀商店街において、2021年12月に20日間にわたり、新しい観光・回遊のあり方を検証する実証実験を実施した。2025年の大阪・関西万博も見据えたフィールド実証の結果とこれからを追った。
世界に誇る観光地、道頓堀商店街の復興をサポート
「スマイルスタンプラリー」と称して実施された今回の実証実験には、道頓堀商店街の計17店舗(顔認証決済は12店舗)が参加。パナソニックがアプリを提供し、来訪者が自身のスマートフォンでそのアプリを使用することで、参加店舗での顔認証決済とスタンプラリーが体験できる。また、エリア内の回遊を促す仕掛けとして、商店街の昼・夜や大正時代の様子を写真やCGで再現した「バーチャル商店街」、参加店舗や観光スポットまでのナビゲーションやガイダンスのほかARフォト体験もできる「ARフォトウォーク」、「みんなの投稿」などのデジタルコンテンツも開発。安心・安全なサービスとともに、より深く道頓堀商店街を楽しめる仕組みを展開した。
この実証実験を通じて、来訪者の属性とアプリの利用履歴、顔認証決済やスタンプラリーの履歴を分析し、来訪者の「旅マエ」での興味・関心、「旅ナカ」の行動、「旅アト」の情報発信などの行動傾向を把握。マーケティング施策の立案など、商店街活性化への貢献に対する有用性の検証を行った。
実証実験で提供したサービス、コンテンツの概要
顔認証決済・スタンプラリー(非接触サービス・回遊促進)
非接触で安心・安全な顔認証決済ができる。
「顔認証決済・スタンプラリー」の体験フロー
バーチャル商店街(「旅マエ」の興味喚起)
道頓堀商店街を丸ごとバーチャル化。店舗ごとに店長のメッセージ動画が見られるなど、独自コンテンツも閲覧できる。 ※CG協力:関西大学 なにわ大阪研究センター
ARフォトウォーク(「旅ナカ」の回遊促進)
商店街の18カ所にARフォトスポットを設置。
みんなの投稿(「旅マエ」の参加意欲向上&「旅アト」の情報発信)
Instagramに投稿された道頓堀関連の写真、動画、「ARフォトウォーク」で撮影した写真等を閲覧できる。
パナソニックと観光分野とのつながり
「創業者・松下幸之助は、自身初の米国滞在を経た1954年(昭和29年)に、日本の観光ポテンシャルについて再認識し、経済的にも大きな波及効果があるとして『観光立国』を提唱。その時点でインバウンド政策の重要性について説いていました」。こう語るのは統合型リゾート事業推進本部の尾見。今回の実証実験の推進を担っている。
創業者の想いを受け継ぐ形で、当社は空間演出やモビリティ、顔認証技術を用いたソリューション等で観光分野でのお役立ちを図っている。また日本版IR(Integrated Resort:統合型リゾート)に対するソリューション事業の拡大、新たなビジネスモデルの創造にも取り組んでおり、関西エリアでは2025年の大阪・関西万博を見据え、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現した『スマートツーリズム』に関するプロジェクトを進行中だ。
観光分野へのパナソニックの貢献
「コロナ禍により、日本の観光産業、飲食業界は大きな打撃を受けています。より安心・安全な観光・回遊を可能とするソリューションを開発し、リアルとバーチャルで新たな観光体験を楽しんでいただくため、今回のフィールド実証をさせていただきました」。
実証実験で見えてきた、新しい観光・回遊のあり方
尾見と共に実証実験を推進し、データの収集・分析を進めているのが万博・IR・CRE推進室の連だ。
「顔認証決済については、ご利用された9割の方から『満足』の回答を頂戴しています。評価いただけた点としてはやはり会計が手ぶらでできるということ。そして速いという点。一方、決済時のPINコード入力や、顔とクレジットカードを事前登録していただくことなど、手間を感じる方もおられました。より良いサービスに進化させるために、事前登録などの手間を削減し、いかに参加するための敷居を下げることができるかが今後の課題です」。
また、店舗側からは、決済端末のサイズや画面の視認性、また顔認証利用時に毎回端末画面をお客様のほうに向けなくてはならないのが面倒・・・といったご指摘をいただいた。業務効率を上げるための取り組みは、人手不足解消にも貢献でき、現場のお困りごとのあるところに対応できるはず。POSとの連動などを視野に、小型化や金額を入力しなくても決済ができることで決済時間の短縮にも貢献し、便利な端末の開発を進めていく。
知見をもとに観光地ごとのニーズに沿った最適解を提示
「実証実験をやってみて、大変学びが多かった。これをもとに全国の商店街や観光地への展開も推進していきたい」と連は話す。「今回の実証実験は、エリアキャンペーンの仕立てになったため、認知・体感していただける範囲には限界があったかもしれない。パナソニックはB2C事業も数多くあるので、コンシューマー向けのマーケティングを担当する部門の人達に、イベントのノウハウを共有してもらうなどもっとできることもある」「B2Bの世界もサービスビジネスになってくると、コンシューマー相手に積み上げてきたものが活きてくるはず。連携するともっと良いものになるのではないか」と次への期待感をにじませる。
尾見もまた「この実証実験をきっかけとして、すでにいくつかの地方自治体さんや企業さんからの引き合いを頂戴し、お話を進めているところです。一般のお客様に対して、深く使ってもらう為の仕掛けをもう一段踏み込む必要がある。特に観光目的の方へのアプローチを今後検討していきたい」と話す。観光回遊アプリの展開として、イベント参加を目的化させるために、ツア―パックのお客様にツールとして提供したり、滞在先ホテルなど旅行の工程について考える時間があるところに情報提供するなど、新たな可能性もあるという。
顔認証決済についても実用化に向けて、様々な決済プラットフォームビジネスがある中で、どう差別化して、どういうところをターゲットに汎用的にやっていくかという戦略構築が必須だ。顔認証決済サービスの手数料など、サービスとしてのマネタイズや回遊アプリやクーポンのサービスとの抱き合わせでのマネタイズなど、ビジネス面についても社内の関係部門と共に取り組んでいく。
また、今回のようなアプリやキャンペーンを通じて、人の流れや賑わいの生まれる場所などを狙い通りに創り出せる可能性も見えてきた。今後は、偶然に通りかかったような方たちまで巻き込んで、多くの皆さんが気軽に参加し楽しめる街おこしソリューションとして磨き上げていく。
アフターコロナを見据え、海外への展開についても推進中だ。AR導入や多言語対応はもちろん、IRも睨むと今後は越境Eコマースソリューションも開発を目指す。例えばインバウンドのお客様が、日本を観光して帰国したあとでも、買い忘れたお土産などをネットショッピングできる世界観だ。多くの来場者が見込まれる中で、日本各地の商店街やモールにその仕組みが備わっていれば、より便利、『旅アト』が一層充実するだろう。
関西エリアでは、2025年の大阪・関西万博のほか、統合型リゾート(IR)などの大規模イベントや大型プロジェクトも見込まれる。パナソニックは今後も全世界の旅行者にとって安心・安全に観光を楽しめるソリューションを創出していくことで、地域活性化への貢献を果たしていく。