2020年11月13日、パナソニックは2022年4月から持株会社制へと移行するとともに、2021年4月1日付の常務執行役員・楠見雄規のCEO就任を発表した。
なぜパナソニックは今、変わらなくてはならないのか。かつてない大胆な再編に踏み切る真意と、その先に描くパナソニックの未来像とは――。
新たなパナソニックグループ体制へ
パナソニックが生まれ変わる――。約9年トップを務めてきた津賀から、現・常務執行役員の楠見にバトンがわたり、パナソニックグループはホールディングカンパニー体制の下で新たなスタートを切る。個々の事業競争力強化と長期的なグループの成長性確保に向け、会社をより適した形に変え、各事業に出来ることを増やしていくための大きな決断だ。
パナソニックは2019年に示した中期戦略の中で、2030年をターゲットに、あるべき姿を見据えた方針を掲げた。目標は「低収益体質からの脱却」、前の中期計画で積み残した収益性に狙いを定めた形だ。具体的には、事業競争力の強化と経営体質の徹底強化を図る。
現在は中期計画の折り返し地点だが、事業競争力の強化では、各事業で戦略と方向性が明確化し一定の成果が見えてきている。一方、経営体質強化については、直近で新型コロナの感染拡大を機に固定費の削減が進んでおり、今後も手を緩めることなく取り組みを着実に積み重ねていく。
この中期戦略をやり切った先の次のステップとして、パナソニックが各事業の競争力を徹底的に磨き上げる姿を示したのが、今回の新体制だ。
事業の「専鋭化」で、競争力を徹底的に強化
ポイントとなるのは、「専鋭化」。「先鋭化」ではなく「専鋭化」だ。絞り込んだ領域において競争力を徹底して磨き上げる姿を示す造語で、社長の津賀は2019年10月に変革に向けたキーワードとして社員へ示したが、専業メーカーがしのぎを削って強みを発揮する各事業において、理想とする「専鋭化」を体現するのは簡単ではない。
家電・法人向けソリューション・電池など、パナソニックにはさまざまな商品・サービスがあり、その特性ごとに、事業の最適な在り方やお客様への貢献の仕方は異なる。激変する社会においては、市場での高い競争力と現場視点でのスピード感ある経営判断が欠かせない。
今回のホールディングス化の狙いはそこにある。各事業が、向き合う市場ごとにプレゼンスを確立することを命題に、現場へ大胆に権限移譲し、専業メーカーと伍して戦える強い集団に変革する。
4つの事業を「柱」に、グループ全体で持続的な成長へ
グループ再編に踏み切ったもう一つのポイントは、パナソニックが中期戦略を進める中で、「柱」となる事業領域を4つに絞り込み、組織化したことだ。
その4つとは、現在の中期戦略の利益成長の要である「基幹事業」をコアとした、『空間ソリューション事業』、『現場プロセス事業』、『デバイス事業』、『エナジー事業』だ。
中でも、『空間ソリューション事業』は、新体制で『パナソニック(株)』の名称を継承し、幅広く人に向き合って心と体の健やかさを提供する、「パナソニックらしい」価値創出を目指す。具体的には、事業会社内での大胆なシナジー・総合力により、白物家電や中国での家電・住空間における挑戦など複数の事業を担っていく。
一方、『現場プロセス事業』『デバイス事業』『エナジー事業』は、それぞれの事業を専門的に担う事業会社として法人化する。これらの「柱」事業をはじめ、オートモーティブやハウジングなど各事業を担う事業会社が、「パナソニック」ブランドのもとで専鋭化を進めるのが、新体制の全貌だ。
「パナソニック」ブランドがグループを繋ぐ
グループ全体が持続的に成長する姿を実現するため、向き合う領域ごとに競争力を磨き上げ、強い事業の集合体となることを目指す。ここで重要なのが、「パナソニック」ブランド。商品やサービスに冠するブランドではなく、会社としてのブランドを意味する「パナソニック」だ。
ホールディングス化により、事業会社の独立性が高まると、極論すればグループがバラバラになりかねない。「パナソニック」ブランドという共通の価値観により、それぞれの事業会社が「専鋭化」して強みを磨くだけではなく、「パナソニック」グループという集合体としての強みを大いに発揮していくことだろう。