2024年6月12日

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中期戦略最終フェーズを迎えた2024年度~パナソニックグループCEO楠見が語る改革断行の決意

グループCEOの楠見は、2022年度に発信した中期戦略の最終年度を迎えるにあたり、5月17日にグループ戦略説明会を開いた。現時点の状況を「危機的」と表現し、収益性改善に向けた改革の断行を表明した楠見。そこに込められた思いとは。

中期戦略のこれまでの振り返り

――発表では、まず中期戦略の最終年度を迎えた当社の立ち位置の説明に当たり、「危機的状況」との厳しい認識を示されています。

5月9日に発表した2023年度決算概要と2024年度の業績見通しの中で社会の皆様へご説明したとおり、中期戦略の中で経営指標として掲げていた三つのうち二つ、ROE(※1)と累積営業利益については現時点で未達の見通しとなっています。また、投資領域を含む多くの事業で目指した収益性に至っておらず、ステークホルダーの皆様のご期待に応えることができていない、まさに危機的状況と言わざるを得ません。

※1 「Return On Equity(自己資本利益率)」の略。投資家が出資した資本に対し、企業がどれだけの利益を上げているかを表す指標。

KGI(※2)のうち累積営業キャッシュフローについては達成の見通しです。この3年注視してきた中で、営業キャッシュフロー重視の経営が定着してきたとの手応えを持っていますし、中には、あるべき姿を目指して改革を行い、収益改善に至った事業もあります。ただ、私が思い描いていたのは、全ての事業がそのような形になることです。市況の影響があったとはいえ、一部の事業で私どもが目指す、競争力のある姿を実現できなかった事実が、KGI未達の形で表れていると、非常に重く受けとめています

※2 「Key Goal Indicator」の略。重要目標達成指標。

ROIC経営の徹底と「WACC+3%ポイント」水準を定めた思い

――経営状況を踏まえ、キャッシュに加えて今回新たに、投下資本収益性(ROIC)(※3)で全ての事業を厳格管理していく方針を発信されました。

今回の発表では、キャッシュ観点に加えてROICによる規律を今後徹底すると申し上げました。これはそれぞれの事業をどういうシナリオで成長させていくか、あるいは再建していくか、締め切りを設けてしっかりと推進するということです。

※3 「Return On Invested Capital(投下資本収益性)」の略。企業が事業活動のために投じた資金を使い、どれだけ利益を生み出したかを示す指標。

目標である「WACC(※4)+3%ポイント」水準についてはルールを定め、未達の事業部は最初の1年で事業会社中心に同水準を超える検討をし、1年経過しても未達が続いていた場合はパナソニック ホールディングス(以下、PHD)も積極的に関与していく仕組みを作って取り組んでいきます。

※4 「Weighted Average Cost of Capital(加重平均資本コスト)」の略。株式調達にかかる株主資本コストと、借入にかかる負債コストとを加重平均したもの。

事業会社、あるいは分社単位で見ればROICでこの水準を超えている状況であっても、事業部単位で見ると必ずしもそうではありません。グループ全体を見る立場としては、ここに危機感を覚えています
基本的には、私どもの経営の単位は事業部だと考えており、それぞれ上場企業くらいの規模があります。そういう目線で事業部長は経営を進めなければなりません。この意図を改めてグループ内に徹底したいと考えています。

――収益構造の変革を進めることによって、「2026年度までに課題事業をゼロにする」とも言及されています。具体的には、どのように実現していくのでしょうか。

今回示した「課題事業」の定義は、「成長性が見込めず、かつROICがWACC以下」の状況にある事業です。ROICがWACCに達していないという状況は、株主の皆様からお借りした資金価値を棄損しているということであり、あってはならない状況です。こうした事業は2026年度までになくします。ただ、課題事業と一口に言っても、現時点で市況影響を受けている事業、競争力の一つであるコスト力の改革が遅れている事業、事業構造そのものが厳しい事業など、要因はさまざまです。同じ業界の競合と比べて事業構造的に劣後する要因がある場合は、非連続な打ち手を急がねばなりませんし、そうでなければ、経営の良し悪しが業績に影響しているわけです。収益が上がらない状況が何に起因するのか、それを明確にし、手を打っていきます。

市場の状況や流通との関係性などで、ROICや成長性とは別の指標で見ていくべき事業もあります。ただし、そうした事業であっても大きな赤字を出し続けることは、株主の皆様からお金をお預かりして進めている事業としてあり得ない姿です。適切な事業規模を適切な収益の中で継続できるかどうかを見極めながら判断していきます。課題に対してスピード感を持って手を打っていくことに関しては、あるべき姿にまだまだなっていない事業もあります。そうした事業では経営体制を思い切って変えるなど、PHDとしてもしっかりと迅速に判断・対応を行っていきます。

――もう一つ、事業ポートフォリオマネジメントの考え方として、「グループ共通戦略との適合性」「事業の立地・競争力」に新たに加えた「ベストオーナーの視点」について、詳しくお聞かせください。

「ベストオーナー」とは、その事業のステークホルダー、すなわち従業員、お客様、お取引先様や関係会社様にとって、自分たちがオーナーであることがベストである、ということです。私は、ベストオーナーの条件は、経営チームとして「事業の最大課題に手を打てるか」「事業が稼ぐ以上の資金が成長に必要な場合に投資できるか」「経営の良し悪しを判断できるか」だと考えています。PHDのみならず、事業会社や分社も事業部のオーナーですから、事業部に対して自分たちがベストオーナーかという視点でポートフォリオマネジメント上の判断をしていかなければなりません。

ただし、パナソニックグループには経営基本方針があり、それぞれの事業がその基本方針に則って活動すれば必ず良くなるはずです。元会長の髙橋荒太郎は、「誰にも負けない立派な仕事ができているか。その結果としてお客様に選んでいただけているか。利益が出ていない場合は直ちに改革をしないといけない」と口を酸っぱくして言っていました。この30年の停滞が、各事業でそうした考えで経営されていないことに起因するなら、「ここを残してここをやめる」と判断する前に、やるべきことがたくさんあると思うのです。

収益が上がっていない事業は、果たしてPHDや各事業会社がベストオーナーではないから収益が上がらないのか、誰が保有しても事業構造が変わらず収益が上がらないのか――後者であれば、その事業の経営者の経営が悪いということになります。

また、従来はどちらかといえば「赤字事業だから」とカーブアウトするケースが多かったと思いますが、それは従業員のモチベーションを考えても適切ではありません。それぞれの事業が最良のパフォーマンスを発揮している健全な状態だからこそ、未来に向けた健全な事業のポートフォリオマネジメントができるのです。

そもそも事業ポートフォリオマネジメントの目的は、いたずらに事業売却を行うことではありません。赤字になったからではなく、競合に劣後して事業構造が悪くなる前に打つべき手を打つ。その一つの方法として、外部のベストオーナーにお任せする、という考え方があるのです。何もカーブアウトだけが手段ではありません。従業員が安心して自らの力を最大限発揮できる体制でお客様へのお役立ちを拡大する姿を目指しています

成長領域事業のこれから

――成長領域である車載電池・空質空調・サプライチェーンマネジメントソフトウェアの3事業の展望については、どのように捉えているかを改めて教えてください。

車載電池事業
北米市場では電気自動車(EV)よりプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車が再び見直されている中、これまでより需要が伸びるスピードは鈍化してきているものの、EV化が継続して進んでいく世界の情勢に変わりはありません。再生可能エネルギー由来の電力増加、高速充電をはじめとするインフラの充実など、現状の課題が解消されていけば、特に乗用車に近い領域、あるいはラストワンマイルにおける商用車などを中心に、EV化は着実に進んでいきます。

北米事業では、ネバダ工場は収益性が堅調ですが、カンザス工場は立ち上げ段階で投下資本は相応の規模になります。そのカンザス工場は2024年度末から量産開始予定で、2026年度から収益化を見込み、2027年度以降に2桁ROICを目指しています。まずは米国IRA(※5)補助金込みで2桁が目標ですが、それで十分であるとは考えていません。米国IRA補助金無しでも、私どもが目標としているROICの早期達成を目標に掲げて推進していきます。

※5 「Inflation Reduction Act(北米のインフレ抑制法)」の略。

空質空調事業 欧州 Air to Water(A2W)(※6):
中期戦略の策定当初には見通せなかった想定以上の市場成長の鈍化があったのは事実ですが、一方で将来的にしっかりと成長が見込める領域であることは、業界の中でも共通の認識であり、私どももそう確信しています。今危機感を持つべきは、各国でどのような形でシェアを獲得するか。各社が力を入れる中で、私たちとしてはインストーラー様に選んでいただけるための施策をしっかりと行っています。予測ができない需要変動が起きた場合でも収益が上げられるオペレーションをどう研ぎ澄ますかが、今最優先でやらなければいけないことと捉え、アクションを起こしています。

※6 ヒートポンプ式温水給湯暖房機

サプライチェーンマネジメントソフトウェア
この領域についてはBlue Yonderを中心に取り組んでいますが、2022年度に招聘したCEOのダンカンによる改革を継続的に推進していきます。具体的な成果の一つとして、昨年、Native SaaS(※7)プロダクトの第一弾をリリースしています。
現在、Blue Yonderを含むサプライチェーンマネジメント事業は、将来の上場に向けた準備を検討しています。その時期は未定ですが、上場時点でしっかりと資本市場から企業価値を評価いただけるよう、競争力を得るための投資を行っていきます。

※7 はじめからSaaSでの利活用を想定して設計されたクラウドサービス。SaaSは「Software as a Service」の略。サービス提供者側で稼働しているソフトウェアを、ネットワークを経由してクライアントが利用できるサービスのこと。

危機感を持ち、自主責任感の下、業務を遂行する

――グループ体質強化の取り組みの一つである、パナソニックグループ独自の人的資本経営の考え方について教えて下さい。

最近、人的資本経営を重視するというお話をいろいろな機会にするのですが、端的に言えば、「人」にきちんと投資をして、「人」のポテンシャルを発揮するための施策を打つことだと考えています。人的資本経営の考え方で言えば、社会からお預かりしている「人財」のポテンシャルを120%も150%も発揮していただく、そして正味付加価値、つまりお客様にとっての価値を生み出す仕事に集中してもらい、その結果として財務的な指標も上がってくる。これが目指す姿です。

今のパナソニックグループは、まだその段階までは達していないと言わざるを得ません。仕事のやり方が変わり、「この仕事は何人でやるのが適正なのか」にまで踏み込んで初めて、社会からお預かりしている「人財」が、本当にお客様や社会にとって価値を生み出している状態になると考えています。

今注力している点は、社員一人ひとりの意識改革です。特に「経営」と「人」の結節点であるミドルマネジメント層が「人財は経営の重要な資本」であることを深く理解し、人財マネジメントに対する考え方を変えていかねばなりません。ミドルマネジメントの行動が変わることで、社員一人ひとりの行動変容につながると私は考えています。

また先程来、経営指標や課題事業に対する考え方にフォーカスしてお話しましたが、根本的な課題が何かと言えば「危機感」に尽きると感じています。かつての松下電器は、私が入社した時代も含め、競合に負けていることがあれば、それに対して大きな危機感を持っていました。特に経営責任者は人とお金を預かっているので、危機感の欠如があってはなりません。

本来、私たちの経営の基本の考え方は、一人ひとりが任務を遂行するためにより良き方法や手段を生み出し、積極果敢に挑戦して、より大きな成果を得る責任があるというものです。かつて、当社の電子レンジ事業を立ち上げた小川守正が言及したとおり、社員一人ひとりが自主責任感(自主責任経営)を持って仕事をしなければなりません。これがその当時からある松下電器の基本の考え方です。事業を預かる責任者は、それぞれの事業の経営者として危機感を持ってしっかりと取り組んでいるか、事業全体を見ることができているか、を常に意識する必要があると考えています。

未来にわたり「豊かなくらし」を続けるため、地球環境問題の解決に企業として貢献していく

――最後に、今回の戦略の内容と長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の取り組みとの関連性についてお聞かせください。

写真:グループCEO 楠見

未来にわたって「豊かなくらし」を続ける上で、もしくはサステナブルな企業活動を産業全体が続ける上で、最優先で取り組まないといけないのが地球環境問題です。当社がお役立ちを果たせるところは積極的に手を打ち、そして事業を成長させていく――そのような思いで取り組んでいます。

環境分野は、本来各企業が義務として責任を果たさなければいけないものですが、そこには当社がお役立ちできることがあると考えています。地球環境問題の解決に貢献することそのものが目的ではなく、産業全体として未来に向けて活動する上で、避けては通れない社会課題であるという意識を持っています。自社の責務を果たすことにおいては、より効率的であることが競争力になりますので、そこでは手を緩めません。一方、CONTRIBUTION IMPACTFUTURE IMPACTは、他社が環境面の課題をクリアすることへのお手伝いをする領域です。そこは、収益を伴う事業機会としてやっていきます。

「地球環境問題の解決に貢献することだけが目的」の企業になりたいわけではありません。未来にわたり「豊かなくらし」を実現することに軸に置きながら、その大前提である地球環境問題と向き合い、対処すべき課題を解決することで企業としてお役立ちを果たす。これこそが地球環境問題への事業を通じたパナソニックグループの取り組みなのです。

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